“石角友香” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '18 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/18 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Wed, 17 Jul 2019 08:24:01 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.8 雨ニモマケズ、風ニモマケズ、灼熱の太陽ニモマケズ…  http://fujirockexpress.net/18/p_10468 Tue, 07 Aug 2018 03:00:19 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=10468 「おかえり!」と声をかけると「ただいま!」と戻ってくる。今では恒例となった、前夜祭はレッド・マーキーで行われるオーディエンスの記念撮影。満面に笑みを浮かべたフジロッカーズが堰を切ったように、ステージ前に雪崩れ込んでくると、それを粋な選曲で受け入れてくれるのがDJ Mamezukaだ。そして、その光景をステージから楽しそうに撮影しているのがスタッフの面々。オーディエンス同様にスタッフもこの瞬間を待ちわびていたのがよくわかる。彼らの顔も嬉しそうだ。

 今年は「おかえり!」に続いて、「ニイハオ」、「アンニョンハセヨ」、「オラ」「ハロー」「アロ」…と、たまたま覚えていた中国語や韓国語にスペイン語なんぞも交えて呼びかけてみた。言うまでもないだろう、ここ数年、飛躍的に増えているのが、遠路はるばる海外からやって来る人々。正確な数はわからないが、一説には、台湾からは500人近い人々が来ているんだそうな。しかも、多くが「ラインナップ」に引き寄せられたのではなく、フジロック・フェスティヴァルそのものに魅せられているという。それを証明してくれたのが6月に台湾で開催されたフジロッカーズ・バー、フジロックを愛する人たちが集まるパーティだった。

「フジロックが体現しているものを形にしたかった」

 と、これを企画してくれたのは、過去10年ほど、毎回家族でフジロックにやって来る人物だ。台北の華山1914と呼ばれる公園の一角にDJ用のテントを設置。そこから数々のDJが音楽を流し、時には生演奏も楽しむことができる2日間のイヴェントだった。踊っている人もいれば、芝生の上でのんびりと時を過ごす人もいる。大切なのは人々が繋がり、互いをリスペクトしながら、時間と空間を共有すること。フジロックをキーワードに、そんな動きが海外でも生まれていることがどれほど嬉しかったか。

 また、2001年の出演から17年を経て、苗場に戻ってきたアイルランドのバンド、ホットハウス・フラワーズのメンバーとの会話でも同じようなことを感じることになる。

「クリーンなフェスといっても、ルールやマナーを守らなければいけないってことより、互いが互いをリスペクトして、気遣う姿勢がそんな結果に結びついてんじゃないかな。それがすごいと思うんだ」

 そう話してくれたものだ。山に囲まれ、川が流れるという自然の素晴らしさが、そうさせるのかもしれない。また、長年にわたって環境問題やリサイクルを訴え続けるiPledgeや主催者、fujirockers.orgによるキャンペーンも後押しているんだろう。が、なによりも会場の主役となる観客が動かなければ、それが形になることはない。その結果が「世界で最もクリーン・フェスティヴァル」というイメージに結びついているのだ。

 もちろん、すべてがバラ色なわけはない。昨年のエキスプレスではこのゴミの問題を取り上げなければならなかったし、今年はスリや置き引きといった都会の犯罪が流れ込んでいるという話しも伝わっていた。それでも大きな事故や事件も起きることなく今年のフェスティヴァルが幕を閉じたのは奇跡ではなかっただろうか。

 特に気がかりだったのは台風だった。全国を灼熱の太陽が照りつけ、史上最高気温を記録していた開催前、接近中の台風が下手をすると苗場を直撃するのではないかという憶測も流れていた。1997年の第一回からフジロックに関わっている仲間が想起していたのはあの時の惨状だ。どれほどの人が覚えているかわからないが、あの時、台風が上陸したのは遙か西だったと記憶している。が、それでも本部からステージの上までもが野戦病院のようになっていた。そんな経験を踏まえて、フェイスブックといったSNSを通じて、充分な装備を訴え、開催期間中も台風情報を発信しながら、注意を呼びかけていたのだが、それがどこまで届いただろうか。

 雨がひどくなり始めた土曜夜から、スタッフが更新作業を進める本部テントも強風と雨の影響を受け始めていた。キャンプ場でテントを張っている人たちは大丈夫だろうか? この風雨に耐えられる丈夫なテント、ペグを使っているだろうか… 予定されていた取材が大切なのは言うまでもない。が、あの時、僕らはもっと臨機応変に対応しなければいけなかったのではないだろうか。おそらく、フェスティヴァル慣れしている多くの人々が準備万端で挑んでいたからだろう、21年前の悲劇は繰り返されることはなかった。が、それでもキャンプ場の3割ほどのテントが全半壊し、急遽用意されたプリンス・ホテルの一角に避難したのは約250人。もっと彼らに寄り添うべきではなかったのか… もっともっと必要とされている情報を発信すべきではなかったか? 反省すべきことは、今年もいっぱいあったように思う。

 それでも振り返ると、楽しいことばかりが思い出される。エキスプレスに登場したオーディエンスのひとりが口にしていたように、すでに「ホーム」のようになったのがフジロック。ここに来れば、必ず会うことができる仲間もいれば、何年ぶりかに懐かしい顔をみつけて昔話に花を咲かせることもある。子供を連れて遊びに来ている昔のスタッフや友人もいたし、ずいぶん昔、子供に連れられてここにやって来たおかぁさんとも再会。「夢は3世代でここに来ること」という、彼女の夢が現実になるのは、そう遠くはないだろう。

 ラインナップがどうのこうの… 文句を言うのも、おそらく、楽しみのひとつで、毎年のこと。でも、通りすがりに目にしたアーティストの演奏に聞き惚れたってことも少なくはなかっただろう。有名無名を問わず、ジャンルなんぞ「どこ吹く風」で世界中からミュージシャンからオーディエンスが集まってくるフジロックは、苗場での20回目で成人期に突入したのかもしれないとも思う。

「大きく育った木を根っこから掘り起こして、植え替えても根は張らないよ」

 その昔、フジロックが始まった頃、グラストンバリー・フェスティヴァルの主催者、マイケル・イーヴィス氏にそれを伝えると、そんな言葉をかけられたのを思い出す。おそらく、それは彼からフジロックへのアドバイスだったんだろう。今のフジロックを彼に体験させてみたいものだ。フジロックは苗場にしっかりと根を下ろし、根を張り、確実に成長を続けているのがわかるはずだ。それは年々と整備充実されている施設や、今回の台風への主催者の対応を見れば、一目瞭然だろう。

 1970年に始まったあのフェスティヴァルも、もう少しで50周年。面白いのは… 10数年前だったか、彼の大好きなヴァン・モリソンが上機嫌で演奏した後、「喜んでくれたよ、ステージで笑ってたからね」と話してくれたんだが、実は、同じようなことが今年のフジロックでも起きていた。「ボブ・ディランやドノヴァンが歌っていることへのロマンティックなアプローチ」がグラストを始めるきっかけと、彼が語っていたんだが、そのディランがステージを終えて、にっこりと笑って幸せそうに会場を離れたんだそうな。日頃は、にこりともしないらしいんだが、この日は上機嫌だったと、あの時、ステージにいたスタッフから聞いている。

 さて、雨ニモマケズ、風ニモマケズ、灼熱の太陽ニモマケズ、今年のフジロックを体験されたみなさん、いかがでしたか? 実際には足を運ぶことができず、自宅でモニタを見ていた方、あるいは、初めて実現したYouTubeのストリーミングでライヴを見ていたみなさんもいたかと思います。でも、この現場にあるのは、モニタからはけっして伝わらない「幸せ」。それを体験しにやって来ませんか?一度はまると抜けられませんよ。

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 苗場で20回目という節目もあって、今年は幾度もスタッフが苗場入りして、数多くのレポートを、このエキスプレスの根っこである、fujirockers.orgにアップしてきました。フジロックという「祭り」の魅力は、そこでもみつかると思います。お時間があれば、そちらもぜひチェックしていただければと思います。また、例年、主要部隊が会場入りするのは、開催前の火曜日ですが、今年はその遙か前から、準備期間を含めて取材活動をしてくれたスタッフもいました。ありがとう。あの灼熱と雨と嵐の中、熱中症と向き合いながら、一方で、ずぶ濡れになりながら、会場の内外を走り回ってレポートを続けてくれたのは以下のスタッフとなります。まだまだ未熟でいたらない点があることは否定できませんが、彼らを叱咤激励していただければ幸いです。記述に情報等の間違いがあれば、それを修正し、ご報告いたします。ただ、彼らが残した記録はアーカイヴとして、これからもずっと残していきます。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/18/)
写真家:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、安江正実、アリモトシンヤ、粂井健太、岡部智子、MITCH IKEDA、MASAHIRO SAITO、木場ヨシヒト、Yumiya Saiki、高津大地、Yusuke Baba(Beyond the Lenz)、白井絢香、HARA MASAMI、陳彦伶、上村理穂、つちもり

ライター:阿部光平、あたそ、石角友香、イケダノブユキ、梶原綾乃、長谷川円香、三浦孝文、若林修平、卜部里枝、近藤英梨子、平井ナタリア恵美(Paula)、増田ダイスケ、松原充生子、Masaya Morita、Masako Yoshioka

■英語版(http://fujirockexpress.net/18e/)
Laura Cooper, Sean Scanlan, Patrick St. Michel, Park Baker, Jonathan Cooper, Dave Frazier, James Mallion

フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、関根教史、小幡朋子、町田涼、藤原大和

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、酒田富紗葉(デザイン)、坂上大介、迫勇一

スペシャルサンクス:本梅あさみ、坂本泉、土橋崇志、本人(@biftech)、熊沢泉、藤井大輔、Taio Konishi、三ツ石哲也、丸山亮平

プロデューサー:花房浩一

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serpentwithfeet http://fujirockexpress.net/18/p_1644 Sun, 29 Jul 2018 14:40:12 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1644 サーペントウィズフィートことジョシア・ワイズの存在を知ったのはくるりの岸田繁の2016年のツイートだった。“blisters”のエレクトロにクラシックの要素が混ざった旋律はもちろん、その頃はまだクィアというワードを知らなかったものの、女性以上にエレガンスや美にこだわりがありそうな強烈なキャラクターにも惹かれた。その後、程なくビョークの“Bllising Me”のリミックスにボーカルとしフィーチャーされたあたりから認知を広げ、今年6月に待望のデビュー・アルバム『soil』をリリース。共同プロデュースにアデルやU2を手がける売れっ子ポール・エプワースを迎えて、サウンドクラウド上にアップされていた頃の曲より随分ポピュラーな印象にはなった。しかし、その歌声は無二だ。

背景には顔が明確ではないが、夫婦に見える絵画がずっと映し出されてる。そこにすっと、迷彩柄をフリルのようにも見えるデザインに消化したセットアップと、キャップ、白いソックスに赤いローファー、手には赤いタッセルのようなものを持って登場。彼ひとりきりのステージだ。1曲目はアルバム『soil』同様、“whisper”。インディR&Bともオペラとも取れるボーカリゼーションや、モデルのような振る舞いがエレガントだ。ハンドマイクで歌う時は、ローの効いたトラップにも似たトラックだが、ピアノのナンバーはピアノのみの弾き語りで、メリハリをつける。

ピアノ曲はクラシック素人なりの感覚だが、ドビュッシーに教会音楽的な旋律が加わった感じだろうか。バッハやヘンデルなどのバロック調ではない、温かみのある神聖さ。ミニマルなピアノの上を低音からファルセットまで自在に歌う姿に、聖歌隊で培われた彼のバックボーンが見て取れる。コブシ回しはR&Bのそれだが、澄んだ歌声だけにうますぎる人の嫌味な感じがない。ピアノの弾き語りはずっと聴いていたいほど、フジロック3日目も終盤という、疲れを忘れさせてくれた。静かに家で音楽を聴くとか、イヤホンで音楽に没頭している時のようなパーソナルな空間が、ライブ、しかもフェスなのに実感できたからだ。

ブリープ音とヘヴィなビートの上を囁きから、エモーショナルな歌まで声の表現力の豊かさでさらにフロアを沸かせた“mourning song”は、ビョークの音楽性に似たものも。そしてラストは再びピアノに向かい、不穏に動くコード進行がどこかレディオヘッドの“Pyramid Song”が一瞬頭をよぎった“bless ur heart”をピアノの弾き語りで披露。安易な表現に聞こえるかもしれないが、それは祈りだ。徹頭徹尾、美意識の塊のような彼は、覚えたての日本語も「オゲンキデスカ?」というワードを選んでいた。彼のキャラクターを知る人が教えたのか、彼自身が見つけたのかはわからない。でも、あまりにも似合っていて、それも含めてトータルにサーペントウィズフィートの世界がすっかりレッドマーキーを染め上げていた。

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ANDERSON .PAAK & THE FREE NATIONALS http://fujirockexpress.net/18/p_1605 Sun, 29 Jul 2018 08:11:20 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1605 ケンドリック・ラマーとN.E.R.Dが3日のうち2日のヘッドライナーであることは今年のフジロックを象徴する出来事だが、彼、アンダーソン・パークがグリーンステージに登場したことも並列して語るべき今年らしいイシューだろう。前述の2組に比肩する今年のアメリカ音楽シーンにおける最重要アーティストであり、もちろんその核はヒップホップである。実際、ケンドリックに請われて映画『ブラックパンサー』のサントラにも参加している。
定刻にフリーナショナルズのメンバーが登場し、キーボーディストのロンがショーのスタートを告げると、ラスタカラーのセットアップに赤いビーニー、ミラーのサングラスのアンダーソンがお立ち台に登り、とびきりの笑顔を見せる。ものこの時点で最高にチャーミングな彼のキャラクターにグリーンステージのオーディエンスはKO。人気、実力を確実なものにしたアルバム『マリブ』から“Come Down”を投下し、圧倒的な身体能力でステージ狭しと踊りながらラップし、煽る。ヒップホップを軸にしながらラガ風のテイストも加えた曲を生バンドで表現するダイナミズム。続いて彼をフックアップしてくれたDr.ドレーにちなんだ“Dr. Dre break”で、さらにブチ上がる。
最近ようやく音源が配信された“Bubblin”では、曲の途中で前方のドラムセットに飛び乗り、待ってました!のラップしながらの超絶ドラミングで、思わず絶叫してしまった。歌いながらドラムを叩くのは別に珍しいことじゃないが、なんだろう?この全身ビートの塊のような表現を生で見る感動は。生バンドでもあり、もはやジャンルはどうでもよくなって来た。
シンセリフとピアノが印象的な“Season / Carry Me”はブレイクの多い曲だが、それがバンドで表現されるスリル。この曲では後半、ドラムを叩きながら、一瞬椅子から立ち上がり一回転してまたドラムを叩くという「え?」と目が点になる場面もあった。彼が敬愛するプリンスが歌いながらギターでそんなことできるの?的な神業に似ているかもしれない。『マリブ』からの曲が続き、ファンキーなギターとベースラインが冴え、ピアノリフが親しみやすい“Put Me Thru”では、ソウルフルなボーカルが堪能できた。ヒップホップ・マナーやリリックの世界観を知らなくても楽しめる、それがアンダーソン・パークの強みだと感じる。
キーボードのロンのソロを挟んで、後半はムーディでダウンテンポな“Room in here”、インディーR&B以降のエレクトロニックな要素とピアノが生きるソウルが融合した“Til It’s Over”と、一つのステージで様々な音楽性を楽しめて、飽きさせることが全くない。
終盤はシュアな4分キックとクセになるコーラスのメロディラインをもつ“Am I Wrong”がスムーズにオーディエンスを踊らせる。ラストはシンセポップ的なニュアンスにタフなビートと重低音が融合した“Lite Weight”。この曲を聴きながら、アンダーソン・パークという人はケンドリック・ラマー、プリンス、ロバート・グラスパーからちょっとダフト・パンク的なところまで、異なる音楽性の接合面なんじゃないかと感じた。もちろん、彼は彼でオリジナルなのは当然なのだが、今やこの複雑で多岐にわたるビートやアンサンブルも、アンダーソンというアーティストのセンスとスキルとキャラクターにかかれば、何も難しいことはない。最高に楽しめるエンタテイメント・ショーだった。ああ、単独公演も観たくなって来た!

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Suchmos http://fujirockexpress.net/18/p_1606 Sun, 29 Jul 2018 07:14:19 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1606 結論として初のグリーンステージに臨んだSuchmosのスタンスは完全にこの日のための勝負だった。ニュー・ミニ・アルバム『THE ASHTRAY』でも大半をスタジアムがイメージできるビッグなロックチューンが占め、メロウな曲は徹底して幸せなソウルネスを感じる曲という、“STAY TUNE”で世の中が湧いた2年前とは違う。それはYONCEの顔つきしかり、五分刈りに近い硬派なヘアスタイルや富士山の浮世絵モチーフのアロハシャツといういでたちしかり。新曲が大半を占め、この日初めて披露された新曲も含み、しかも1曲が展開を持ち長尺という、フェスのトレンドとはある種逆行した曲の構成にも明らかだったのだ。

グリーンステージの黒バックに白抜きのロゴはさすがに気持ちがアガる。その中を悠然とメンバーが登場。TAIKINGのブルージーなフレーズが印象的なオーセンティックなロックナンバーで、まだツアーぐらいでしか披露していない“In The Zoo”でライブはスタート。オーディエンスはキョトンとしている。社会に飼われたような生き方はどうなんだ?という、これまでもSuchmosが“GAGA”や“Alright”で扱って来たテーマに近いが、何しろ重心の低いロックに皆、ただ聴き入る。さらにまた新曲“BROOKLYN”。「グリーンステージに来ちゃったよ」というYONCEの一言は言葉の軽快さに比べてその感慨は格別だろう。HSUもオーディエンスと山々を見渡している。オアシス的なアンセム感にザ・ミュージックの“People”も想起させるのはここがグリーンステージだからだろうか。ハードなギターを掻き鳴らすTAIKINGは最後はステージにそのビンテージのストラトを置いて、スチールギターのように弾いて弾いて弾きまくる。そうして見える部分だけでなく6人の音が緩急の効いたバランスで明らかに存在している。2年前のホワイトステージとはもう違うバンドといっていい、身についたタフさが明確に伝わる。

イントロも大幅にアレンジに変更が施された“WIPER”はそれでも「やっと知ってる曲が来た」とばかりにオーディエンスが揺れ始める。高音でちょっと声がしゃがれている感じもあるが、ハードボイルドな今日のSuchmosにYONCEのこの声は悪くない。ビートルズの“Come together”に繋いでいき、再びオリジナルのメインテーマに戻ってくる構成もすっかりライブで定着した印象。そしてもう1曲Suchmosのヒーローたちへのリスペクトが曲の構成に含まれている“FACE”。表情の変わらないOK(Dr)のアップがビジョンに抜かれるが、スネアのビート感はシュアで最高だ。タイトなビートとTAIHEIのジャズとソウルの要素を携えたローズピアノのフレーズ。レアグルーヴや新世代ジャズのエッセンスを飲み込んで消化した彼ららしいアレンジだ。そこからボブ・マーリィへの敬愛の念を表す“Get Up,Stand Up”を一節入れて、“FACE”のサビへ繋ぐ。アンサンブルの厚みもグリーンに似合う。

ルーキーアゴーゴーから出演し、ホワイトステージにも立ち、いま、グリーンステージに立っている。グリーンステージに立っている自分たちの憧れのアーティストがどんな気分でいるのか?不思議だったが、今、わかったとYONCEは言う。「素晴らしい気持ちです。ありがとう、木々たちよ」と、立った人間ならではのコメントを発した。そこからさらに初披露の“YOU BLUE I”という、青臭いままでいる自分を認めながら、開き直るでもなく、音楽に最初に感じた気持ちのまま、今自分は音楽を作っている、そんな素が覗く。少し民族的なムードもある曲調はいつか音源でしっかり聴いてみたい。

短く「We Love Football」と曲振りをして“VOLT-AGE”へ。緊張感を高めるTAIKINGのギターリフとボトムを支えるHSUのベースが肝の曲だが、6曲演奏してきて時間的にも、今日彼らがやろうとしていることがわかった気がした。踊れるレアグルーヴ曲は外し、徹底してフジロック、ひいてはそこで得た感動や先人への感謝を盛り上げるのではなく、この地にしっかり根差そうとするような曲ばかり選んで来たのだ。想像だが、ここでヘッドライナーを張れる日が来たら、2時間のセットでベスト・オヴ・ベストな選曲で臨むんじゃないだろうか。それぐらい、Suchmosにとってフジロックは今や1回出演できたら目標達成、ではなくなったのだろう。

ラストに彼らのライフスタイルを表現した“Life Easy”が大きなグルーヴで演奏されたのだが、その前にYONCEは「幸せってなんだろうね?わかんないけど、笑ってたいよね。生きてたいよね。愛し愛されてたいよね。これからも音楽とフジロックとSuchmosをよろしく。音楽だけが頼りだから、俺は」言語化されたそれが、この日のステージがこういうセットリストや演奏になった理由の全てだろう。この日のことをずっと覚えておいて、またこの地で6人に会いたい。

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THE FEVER 333 http://fujirockexpress.net/18/p_1629 Sun, 29 Jul 2018 03:38:48 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1629 最高!クレイジー!で終わらせたいところだが、そうもいかないのでこのチャーミングな3ピースのLOVE満載なフジロック初出演かつ日本初ライブを振り返ろう。

サウンドチェックの後、ただでさえ強風の中、楽器セットの前に白い幕が張られ、オープニングSEにのせ黒装束に黒頭巾の男が登場し、立ち尽くす。SEが止まると、黒頭巾をかなぐり捨て、男は実はボーカルのジェイソンとわかる。そこからは阿鼻叫喚(!?)、トライアスロンもかくやなステージが展開。ジェイソンもギターのスティーヴィンもステージを駆け回り、モニターは転倒するわ、先ほどの幕を立てていたポールを撤去するわでスタッフもその狂騒についていくのに必死だ。ドラムのアリックも椅子の上に立って煽りまくる。

サウンドはロックとパンクとヒップホップが融合された、大雑把に言えばレッチリ的なミクスチャー感と、ポリティカルなメッセージの部分ではレイジに通じる部分もある。が、もっと底抜けに目の前にいるオーディエンスをサウンドとアクトと、今できる最大限のヒューマンパワーで、見ず知らずの人と人を繋ごうとする意志がちょっとどんなバンドとも比べ物にならないほど強い。

2曲目でモッシュピットに突撃したかと思えば、4曲めで早くもパンイチになるボーカリストなんて、いくら急に雨が降ってきたからって見たことない。でも、モッシュピットでオーディエンスにもみくちゃにされていようと、裸でステージ上をスライディングしようと歌やラップはブレないのだ。同期を用いているので、楽器隊は手を離してパフォーマンスできる部分もあるが、それでもクランチなカッティングも、カッチカチにタイトなスネアも止まることはないのだ。

しかもヒューマン・ビート・ボックスも達者なジェイソンは、身体能力の高さの中に音楽的な身体能力も備えているのだろう。見ていて笑うしかないカオティックなステージだが、音楽性が担保されているから、どんどん後方にも人が集まってくる。曲の良さがホワイトの橋の前にも届いているのだろう。さらにこのバンドの人間性の素晴らしさ。中盤に自分たちのスタッフはもちろん、日本サイドのステージスタッフも呼んで、オーディエンスの前で感謝の言葉を述べ、握手を交わしている。このあたりから完全に3人のファンになってしまった。国も言語も違うけれど、僕たちは喜びをシェアできる、そんな意味のことをジェイソンが言うと、説得力が違う。

約1時間のライブは後半になっても全力のパフォーマンスが続き、ジェイソンとスティーヴィンが中継車(機材車?)の屋根に登って演奏する場面も。苗場の森を背景にしたパンイチの男二人。自然に溶け込みすぎている。冗談じゃない。本気の人間の表現ってこんなに愛らしくてかっこいいんだ。もしかしたらディランを見に来たのかな?と思しき世代のオーディエンスも軽くヘドバンさせてしまう、おそるべき全人類への共通言語を持つバンドに午前中から勇気をもらってしまった。来年3月には来日するらしいが、この熱量は初来日にして初フジロックだったからかもしれない。最高!

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D.A.N. http://fujirockexpress.net/18/p_1637 Sat, 28 Jul 2018 11:55:52 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1637 2年ぶり2度目のフジロック出演となる今回。約一週間前に2ndアルバム『Sonatine』をリリースしたばかりというタイミングだが、リリース日にもライブを行うなど、バンドの筋力が相当上がっている中でのフジロック出演は最高のタイミングに思えた。時にこの新作のインスパイア源の一つが北野武監督の同名映画だと知った。その上で聴くと個人的な感覚だが、生も死も紙一重という諦観と、同時に海の美しさや夏の気だるさも相まり、人間の思考と行動の甘美な不条理……そこまでハードボイルドではないとしても共振するセンスだなと感じた。

肝心のライブである。最近、メンバー3人だけで構成しているだけに、過去曲も大幅にアレンジが変更され、櫻木大悟(Gt/Vo/Syn)がギターを持つことはほぼなくなり、ボーカルとシンセに注力していることがまず一つ。そしてシグネーチャー的に登場するシンセのサウンドも変わった。同期はありつつ、リズム隊もメロディ楽器的なアレンジと演奏をそもそも携えたD.A.N.は、ますます生演奏で未踏の領域に踏み出しているのだ。

長めのオーバーチュアでメインテーマが出てくるまで“Zidane”と思えないアレンジだが、冒頭からフロアは完全に麻薬的なまでにD.A.N.のグルーヴにはまってしまったようだ。そのままシームレスに市川仁也の振り子のようなベースがボトムの太さと洗練を同時に感知させる新曲“Sundance”へ。少し不穏なムードもある曲で、しかも歌詞は「空回るエモーション 安心できないで くれ」と、“Chance”以降、少しハードボイルドになったD.A.N.の歌詞表現の中でも、「共感地獄」的なものを揶揄しているように聴こえた。もちろん長くミニマルにじっくり攻めてくる展開ありきなのだが。

もはや“SSWB”はキラーチューンといったリアクションで、「ヤバい!」「良すぎる!」から言葉にならない叫びまで、D.A.N.に骨抜きにされた声が各所で上がる。ただ、明確にこれまでと質感の異なるビートやヘヴィなサウンドで驚かせた“Pendulum”の、どこかNINE INCH NAILSのインダストリアル感と従来のメロウネスが交配したようなアグレッシヴさが新しく、今のD.A.N.を刻み込む。

また、市川の3拍子のベースと、同じリズムではない川上輝のドラムが、ラテン・リズムの換骨奪胎と言えそうな“Replica”も、3人が何度も最高のタイミングを探りながら作り出した新しい構成なのだと思う。しかし思考からじゃなく、ライブの現場で体験するそれにオーディエンスは自分の乗りやすい拍を見つけて、各々揺れている。もともと、酩酊グルーヴで自由に乗れるバンドではあるけれど、さらにオーディエンスもタフになった印象だ。前方にいる誰もがその場を立ち去らない。フェスでは珍しいことなのだ。

2年前は映像も効果的に使っていたが、今回はシンプルな色彩、効果的なムービングライト程度で、演奏の牽引力が相当高いことも明らかになった。ラストに演奏した“Chance”も、去年の夏ごろからライブでプレイするようになってすっかりキラーチューンに。妥協なきアンサンブルの追求でバンドとしてニュートラルにどんな世代の音楽好きにも聴いて欲しい。日に日にレベルを上げるD.A.N.。もう彼らの音楽がなかった頃には戻れない。それは個人的にも音楽史的にも、だ。

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SUPERORGANISM http://fujirockexpress.net/18/p_1638 Sat, 28 Jul 2018 08:11:32 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1638 裏に被りがなかったせいか、この最新のD.I.Y集団の本領を見届けたいのか、開演10分前にはすでにレッドマーキーは前へ進むも後退するも牛歩のごとき混みよう。しかも太陽が出ている時のレッドマーキーはサウナ状態だ。
そこに身長140センチ台と思しきフロントウーマンのOrono(Vo)を筆頭に多国籍なバックグラウンドをもつメンバーが登場。映像担当がいるだけに、曲ごとにMVでもおなじみのスペイシーだったり8bitのチープなゲーム感、猫の顔写真が大量に世界旅行するような、いわゆるクソコラっぽいビジュアルが投影されて、メンバーはどちらかというとシルエットとして動きがつかめる状態だ。

楽曲の構築センスはいわばヴェイパーウェイヴを通過して、ローや生楽器の部分はタフにリビルドした感じのゆるいエレクトロニックが基本だ。そこにシリアスな問題提起とか、バックボーンの違いからくる煩悶などは感じられず、どちらかといえば、Orono以外は無意識的に国境や言葉の壁を飛び越えて、ちょっと変なもの、可愛いもの、笑えるもの、つまりそれがあれば世の中の位相をちょっと変えられる、明るい武器を持っている感じなのだ。
あまりの混雑に遠目で映像を追いかけるのがやっとだったが、そんな中、Oronoのカタコトの日本語と英語が混ざった煽りはなかなかにパワフル。でもコール&レスポンスは「SUPER!」とOronoがいえば、オーディエンスが「ORGANISM!」と返すシンプルなもの。強い女の子とナードな男性陣、ダンサーも兼ねているコーラス隊と、言葉で表現するとちょっとFlaming Lipsを思わせる部分もなきにしもあらずだ。ただ、10年代ももう終わろうかという今、奇天烈なアイデアをセンスと価値観でつながれた遠くの知り合いから立ち上がったこのバンドは、根っからのデジタルネイティヴなのだろう。パソコンやゲームなどに対するビジュアルや音楽表現がどこかもうレトロなのだ。
生まれた時からすでに20世紀に描かれていた未来は古いものになっていた彼らにとって、様々な20世紀的なガジェットはキッチュという概念ですらないのかもしれない。古い価値観が崩れてしまった今、あらゆるモノやコトを並列してエディットされた音楽と映像が、どこかいい意味で間抜けな印象になるのが面白い。
それにしてもOronoは怒りからなのか、単に退屈な毎日を変えたいのか、何度も4レターワーズを発しながら、レッドマーキーをコントロールしていた。観客も様々な世代が見ていたのだが、父親に肩車された幼稚園生ぐらいの女の子がスマホで動画を撮っていたのが、このバンドが面白がられている理由の象徴的な場面に見えた。肩車の少女は、10代になったら何をするだろう?

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シャムキャッツ http://fujirockexpress.net/18/p_1642 Sat, 28 Jul 2018 06:43:56 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1642 小雨が降ったり日が差したりの2日目。10時20分スタートという早い時間にも関わらず、レッドマーキーにはフジロック初出演のシャムキャッツを待ち望んでいたファンが集まってきた。照明のないステージに出てきた4人は並んで軽くお辞儀すると、歓待の声がそこここで上がる。「いいね!声出して行こう!」という夏目知幸(Vo / Gt)は気合十分だ。

菅原慎一(Gt/ Vo)の輝度の高いギターが鳴るだけで、今年の猛暑が一旦リセットされ、ここから私たちの夏休みが始まるような高揚感に包まれる。夏になると誰かに会いたくなるし、遊びに行くと帰りたくないーー“AFTER HOURS”はなんてフジロックの朝にふさわしい曲だろう。
続く曲もちょっとした躊躇をフラットにして、外に出てみようーー自然とそんな気持ちにさせてくれる“Travel Agency”。夏目の甘さと誠実さがちょうど半々でブレンドされたような声質が、静かな説得力を持ってここにいるみんなの夏をさらに鮮やかなものにしてくれているようだ。夏目の作詞家としての表現は、ままならない日常を過ごす私たちに、例えば“Travel Agency”の一節のように「恋人に触れるように 暗闇に手を伸ばせ」なんてグッとくる描写がある。新しい日々に踏み出すことは勇気はいるけれど、踏み出した先にある温かな気持ちが滲むように聴き手の心に投影される。太陽のような愛というより雲間から差す光のような愛かも知れない。

今まさにフジロックにいる心境に重なるオーディエンスも多いと思うのだが、夏目が「今の気持ちの歌です」と、披露したのは新曲“カリフラワー”。このままがいいということは、裏返せばその刹那が素晴らしく美しいということでもあり、その宝石のような瞬間を少しの悲しさとともに感じさせる。シンプルでいて全ての楽器の一音一音が重要な意味を持ち、最高の出音で届けられる演奏にオーディエンスもビビッドに反応。特に男子たちが甘酸っぱい気持ちに釘付けになっているように見えた。

菅原がボーカルを担当した“Four O’clock Flower”は、彼の繊細なファルセットが情景をより明確にしてくれた。ちなみに菅原のエレキと夏目のアコギを交換しての演奏だったのだが、プレーヤーが違うだけで名器と思しきストラトの音色が違う表情を見せるのも面白かった。

リバーヴィーなギターサウンドがこの上ない夏を運んできたライブの終盤はアッパーな“MODELS”、そしてエンディングでドラムセットに全員近づき息を合わせて大きな波のような音の壁を作り出した“渚”が、聴き手それぞれのこれから来るべき夏の嵐(!?)を祝福するようだった。去り際、「愛してます!」と大きな声で言い放った夏目。この言葉が似合うアクト・オヴ・ジ・イヤーだと個人的には思う。情熱と洗練を見事に同居させたシャムキャッツの今だった。

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The Birthday http://fujirockexpress.net/18/p_1600 Sat, 28 Jul 2018 05:53:42 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1600 フジロックには通算7度目の出演となるThe Birthday。約3分の1は出演していることになるのだが、なぜかこれまで見逃していた。頻繁に出演してくれているのでどこか安心していたのかも知れない。2008年には出演キャンセルになった忌野清志郎のバンドの代打を務め、グリーンステージのトリを任され、同年のホワイトとグリーンの両方に出演。日本のロックバンドの中でも開催当時からあるフジロック的なものの精神的支柱の一つであることは確かだ。今更thee michelle gun elephantの話を持ち出すのもなんだが、1998年の豊洲開催で、エリア指定のないスタンディング・ライブの自由と混沌を体験し、それが90年代以降のフェス原体験になっている自分などにとっては、まだ何が安全でどこからが危険なのか、誰に教えてもらえるわけでもなく、経験を蓄積していった覚えがある。フジロックという従来にないロックフェスを続けていきたいオーディエンス全員の経験や知見が積み重なり、現在に至っているのだと思う。

昔語りはその辺りにして、天候は意外にも好転。少し暑いぐらいの12時30分、悠然とメンバーは現れた。チバユウスケ(Vo / Gt)の風貌が誰かに似ていると思ったら、最近のアレックス・ターナー。70年代のヨーロッパ映画に出てきそうだ。ミラーのサングラス越しにグリーンステージからオーディエンスと風景を一望しているような彼は、アカペラで「とんでもない歌が 鳴り響く予感がする」と歌い、“くそったれの世界”でライブはスタート。これはThe Birthday流の“What’s a Wonderful World”だと思う。世界がどんなでも個々の愛に勝るものはない、とは歌わないけれど、存外チバユウスケというアーティストはずっと愛を比喩的に歌ってきたアーティストだからだ。

フジイケンジのヴィンテージでしかも研ぎ澄まされたギターサウンド、選び抜いたリフはクラシックのソリストの演奏に感嘆するのと意味は近い。同じギターでもこういう音が鳴らない演奏者の方が多いだろう。献身的にボトムを支えるクハラカズユキの確かなドラミングも、曲に入り込み曲を活かすベースを肉体と心全部を使って弾くようなヒライハルキ。フロントはチバだが、今のThe Birthdayは太い4本柱が各々の仕事を完全に担う、全員が主役のバンドだ。

4曲一気に演奏し、サングラスを外したチバ、ジャケットを脱いだフジイ。さらに物語性と混沌の色が濃いハードボイルドな“24時”や“Red Eye”を濃厚に表現していく。そしてチバが「(苗場で)20周年だね。20年前、俺、二十歳だっけ?……あれ?30か(笑)」と、笑わせにきたわけでもなく、フジロックでの経験の多さを感じさせる一言がつい口をついて出た感じだ。自分の言葉に「そんなもんか」という表情を浮かべながら、新曲“THE ANSWER”を演奏し始める。疾走感がありつつ、変拍子も取り込んだオルタナティヴなビート感、短い散文のような歌詞が、より聴き手にイメージの余白を与える。(余談だがPILの『フラワーズ・オヴ・ロマンス』めいたジャケットのアートワークが最高だ)。

ハードボイルドでセクシーなロックバンドというイメージも、詩的な表現でリスナーの背中を押す側面の両面があるThe Birthdayだが、今また深い表現を4ピースで突き詰めようとしているように見える。佇まいのカドは取れたけれど、やりたい音楽はまだ尽きない。生きている者がやることはそれだろう。そんなチバユウスケの内なる声が聴こえるような1時間だった。

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エレファントカシマシ http://fujirockexpress.net/18/p_1611 Sat, 28 Jul 2018 00:17:00 +0000 http://fujirockexpress.net/18/?p=1611 「緊張しています」——いつも以上に鋭い形相で登場した宮本浩次(Vo/Gt)が最初に発した言葉に嘘はなかったのではないか。デビュー30周年を迎えて、過去最大にライブの動員は増え、通算23作目となる新作『Wake Up』は多彩だが、頭の2曲を聴いて、その生身の人間の感覚をモダンなエンジニアリングで仕上げた音像にも、今でもまだ更新されているグルーヴに度肝を抜かれ、その本気度に笑いながら涙が出たほどなのだ。エレカシというか宮本という人はコアで内面に向かうソリッドな作風と、プロデューサーの意見も取り入れ、ポップシーンでの評価にチャレンジするような作品も作ってきたアーティストだ。時々、地上波でも見られるようなピュアすぎて何かのバランスがちょっと変な面白い人なだけではない。

国民的とまでは言わないけれど、紅白に出演できるようなヒット曲もあり、しかしシンプルなロックをやっているというのがポピュラーなイメージだろう。そのエレファントカシマシがフジロックにこれまで出演していないというのは、少々不思議ではあったが、50を過ぎたバンドがキャリア史上さらにアグレッシヴな作品を世に送り出している今のタイミングで正解だったんじゃないだろうか。

緊張しているといいつつ、新作の中からファンクネスも感じられるメロディにも新しさを感じる“Easy Go”をイヤモニの調子が納得いかないのかイライラした調子で、指示を出しながら鬼の形相で歌う宮本。目をひん剥いて「この勝負には負けられねえ」といった熱量で、今度はハンドマイクで“奴隷天国”をステージの左右ギリギリまで歩いていき、なんだかんだ言って何かお前は自分の怒りに対して行動したのか?と問う歌詞は、歌ではあるけれど、今の日本を鑑みるに刺さらない人の方が少ないんじゃないかと思えた。以前ならそれは宮本節であり、笑って見ていられた。でもまだ傍観者なのか?そんな自分の内なる声も重なって感情が揺り動かされる。さらに疾走するビートが瑞々しい“RAINBOW”までの3曲は、どこか宮本の顔つきが恐ろしく若返っていたように思う。絶対勝たなければいけない。そんな表情だ。

突然孤独に落っこちる、それが俺、嘘じゃないという意味の歌詞を受けて、両手を広げ空を仰ぐ宮本は力を集めているようだった。それぐらい切実に見えた。

「憧れのフジロックのステージに立ててありがとう。みんないい顔してるぜ。本当に憧れてたフジロック」と、何度も憧れや光栄という言葉を発していた宮本。しかし最初の3曲の形相は和らぎ、「聴いてください“悲しみの果て”」と歌い出したこの曲では、この場にいる全員がこの曲を深呼吸するように堪能している空気になり、“旅立ちの朝”は初めて聴く人もいるかもしれないが、「知っているいい曲が増えていく」ように、皆いい表情をしている。

再び“ガストロンジャー”で、世の中も自分もどうなんだ?という戦後日本を2018年の夏に再度俯瞰し、自他共に嘘を糾弾していくうちに、それでも大事なのは自分自身なんだとばかりにシャツの胸をはだけ「胸を張れ!」と心臓を叩きながら歌う。激烈だが自然な表現に見える。宮本は「エブリバディ!」と呼びかけるが、それは歌の間のありがちな表現ではない。本心からEverybodyへ歌っているのだ。その流れでの“so many people”、デビュー曲の“ファイティングマン”が持つ、お前のその力が必要なんだというメッセージは、今、この全身全霊、タガが外れたように見える男の本気だ。戦うことの理由は人ぞれぞれだろう。エレファントカシマシというバンドは、そこを限定しない。でも人として当然の本能に燃料をくべるのだ。周囲のファンやオーディエンス以外、スタッフの男性の顔を見ても皆、清々しい表情を浮かべている。栄養というか力がみなぎってきている。

さらに渾身の力を込めて“おはよう こんにちは”を絞り出すように歌い、ラストは夕焼けが西の空を真っ赤に染める中、まっすぐにニュートラルな調子で“今宵の月のように”で、そこここで歌声が上がるなか、今、見せ得るフジロックでの50分をやり遂げて見せた。フジロック仕様だという石森敏行(Gt)はランニングに革の短パンにビーチサンダルというある種、宮本以上の存在感を衣装で表していたが、ランニングを宮本にズダズタにされたりして、相変わらずこの相棒は最高に愛されている。

積年の思いを果たした宮本。光栄だというフジロックに対してじゃないと思うのだが、観客に向かって最後「お尻出してプッ!」と言い放って去って行った。楽しかったということなのか、やっぱり彼の真意はわからない。でも最高に愛すべきバンドだ。こういう言い方は他のバンドにはしたくないし、好きでもないが「日本にエレファントカシマシあり」、そこは他国の音楽好きにもアピールしたい。エレファントカシマシというバンドはとてもオリジナルだから。確実に苗場20回目のフジロックに深い痕跡を残したことは間違いないだろう。

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