“平川啓子” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '19 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/19 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Mon, 02 Sep 2019 02:34:33 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.10 過去最悪のどしゃ降りという試練を乗り越え、まるでなにもなかったかのように弾けていたフジロッカーに乾杯。間違いなく、これまでで最も素晴らしかったと絶賛のフジロックを作ったのはあなたたちです http://fujirockexpress.net/19/p_8672 Thu, 01 Aug 2019 01:33:33 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=8672  台風に襲われて、修羅場のようになった1997年のフジロックを、まさか2年連続で思い起こすことになろうとは、想像だにしなかった。例年なら、梅雨も明けてからっとした空気に包まれるのが開幕の頃。現地入りした火曜日も、ほとんど雨の気配は感じられなかったし、そろそろ梅雨明けと思っていた。実際、その頃の予想では、フジロック開催時の週末はわずかな雨を伴うが、おおむね好天だろうと囁かれていたものだ。が、台風発生のニュースが飛び込んでくる。当然のように、脳裏に浮かんだのは昨年の惨状。風で吹き飛ばされたテントの数々や横殴りの雨…。 コンピュータ機器が重要な役割を果たす、我々の作業場となっているテントも補強しなければいけないし、キャンパー達にはテントの再点検も呼びかけなければいけない。そんなことを頭の片隅に感じながら幕開けした前夜祭で、DJ Mamezukaのターンテーブルから飛び出してきたのは、1997年、台風に見舞われたフジロックで強烈なインパクトを残した電気グルーヴの“富士山”だった。

 わざわざその意味を説明する必要もないだろう、全身全霊でこれを受け止めていたオーディエンスがそれを雄弁に物語っている。とりわけ、今年は特別なんだろうが、例年、ここで目の当たりにするのが弾けんばかりの笑顔の数々。間違いなく、これこそがこの会場で働くスタッフの宝物だ。だからこそ、それを目にしようと多くの関係者がこのステージ脇に集まってくる。今回は、総合プロデューサーの大将こと、日高正博氏もここで、ニコニコしながら、オーディエンスを見守っていた。そんな彼らの表情を記念写真という形で記録し始めてすでに10余年。それをポストカードという形で販売し始めたのが数年前と思うんだが、今年からは無料で配布することにした。どれほどの人がそれを手にしてくれたのか定かではないが、ささやかなお土産として受け取っていただければ幸いだ。

 限られた時間しかないステージで多くを語るのは難しい。が、今年なによりも伝えたかったのは14年ぶりに苗場に戻ってきたイタリアのバンド、バンダ・バソッティが、世界で初めて“フジロック”というタイトルで発表した歌のことだった。

「ようこそ、フジロックへ。君たちが目の当たりにしているのは紛れもない現実で、ここにいるのは戦争とは無縁の人たち。僕らは一人ぼっちじゃない。残酷な世界は僕らを潰しにかかるだろう。でも、誰にも僕らを止めることはできない…」

 すでに今年のフジロックへの出演が決まっていた昨年暮れ、この歌を書いてくれたバンドの要のひとり、ギター&ヴォーカルのアンジェロ”シガロ”コンティが他界。どこかで彼がフジロックを愛する人たちに残してくれた遺産にも思えるのがこの歌だ。「Welcom To Fuji Rock」という英語のフレーズが出てくるが、歌詞のオリジナルはイタリア語。今回、こちらのリクエストに応える形で、バンド側が「フジロッカーズ限定盤」としてプレスしてくれたイタリア盤シングルの日本での販売に向けて出来上がった歌詞対訳を見ると、彼がフジロックに、そして、その向こうに何を見ていたのかがくっきりと浮き上がる。

 その歌で「まるで流れる川」のように山に戻ってくると描かれている人々にここ数年著しく増えたのが、様々な人種や国籍。フジロック好きが集まってくる飲み会のようなフジロッカーズ・バーが台湾でも開催されているのは昨年お伝えした通りで、フジロッカーズ・ラウンジのそばにあるグラフィティ・ボードには香港関係の書き込みも多かった。また、お隣の韓国から東南アジアの国々にオーストラリア…と、会場では様々な国の言葉が飛び交っていた。彼らがコミュニケーションに戸惑うことはないんだろうかという危惧をよそに、僕らの共通言語、音楽がそれを全てカバーしてくれているようにも感じたものだ。

 耳にしたくなくてもメディアで伝えられるぎくしゃくした国際情勢がここでは嘘のように思えていた。世界中で分断を謳う偏狭なナショナリズムや人種差別の嵐が吹き荒れているというのに、ここで目撃したのはそれとは真逆の世界。誰もが互いを個人として尊重し、いたわり、繋がろうとする。その結果、単純な言葉では描ききれない平和がもたらされていた。この平和を愛し、形にすること、あるいは平和について語ることって政治的? 人種差別に反対し、繋がることが政治的なら、もっと政治的になってもいいじゃないかとも思う。ここ数年、きわめてちっぽけな世界で囁かれている「音楽(あるいは、フジロック)に政治を持ち込むな」という発想がどれほどの矛盾を抱えているか、言うまでもないだろう。音楽であれ、アートであれ、自由。それを規制をしようとすることがどれほど政治的なのかを理解できないとしたら、あまりに貧しい知性の持ち主でしかないだろう。

 誰もが政治や経済、社会とは切っても切れない存在としてこの世界を生きている。だからこそ、背を向けるのではなく、向き合うことが必要とされるのだ。そうすることで自らの未来を描くことができる。「The Future Is Unwritten」と語ったジョー・ストラマーが、その言葉の向こうに込めたのがそれなんだろう。音楽やアートはそういったことを気づかせてくれる貴重な宝物であり、そんな宝物で溢れているのがフジロック・フェスティヴァルなのだ。

 実を言えば、今年NGOヴィレッジに生まれた「うちなーヴィレッジ」の発端も音楽だった。きっかけは10年ほど前に辺野古への新たな米軍基地建設計画を巡って、沖縄で繰り広げられていたピース・ミュージック・フェスタの仲間たち。「フジロックは沖縄に関して何もやってくれないの」というつぶやきをきっかけに昨年からなにかが動き始めていた。それを快く受け入れてくれたのが、フジロックのルーツと言ってもいいだろう、アトミック・カフェ・フェスティヴァルのスタッフ達。それが沖縄県知事を担ぎ出す流れを生んでいる。

 が、そんなことよりなにより、今年を振り返った時、真っ先に語られるのはどしゃ降りの雨だろう。過去10年連続で台湾からフジロックに通っている友人が「10年で最悪の雨」と語っていたんだが、それどころか、1997年の第1回目から振り返っても、これほどひどい雨はなかった。特に土曜日の午後から日曜日早朝にかけて、まるでバケツをひっくり返したような雨がひっきりなしに降っている。ときおり雨脚が緩やかになって「ひょっとして止んでくれるかも…」とかすかに期待するのだが、それをあざ笑うかのように、さらに激しい雨が、これでもかと言わんばかりに我々を殴りつけていた。

 そんななかを走り回って取材を続けていたスタッフからも「カメラ、死んじゃいました」とか、「テント水没です」なんて話が飛び込んでくる。その一方、どしゃ降りの下、大騒ぎでライヴを楽しんでいるオーディエンスがいた。この日のヘッドライナー、SIAが姿を見せたグリーンステージや他界したアート・ネヴィルのことを思い出さざるを得なかっただろう、フィールドオヴヘヴンのジョージ・ポーター・ジュニア・アンド・フレンズからエゴ・ラッピン…。どれほど防水加工されたコートやジャケットにポンチョだろうが、太刀打ちできないほどの雨だというのに、それを跳ね返すほどの熱気が生まれていた。それは比較的小さなステージでも同じこと。苗場食堂では目の前にいるはずの観客が見えないほどに激しい雨が降っていたと教えてくれたのがコージー大内。また、ピラミッド・ガーデンでは滝のような雨を浴びながら、リアム・オ・メンリィがプリンスをカバーした「パープル・レイン」に感動していた仲間がいた。おそらく、生きているうちに幾度も体験できない奇跡のライヴとして、これが彼らの脳裏に刻み込まれ、語り継がれていくはずだ。

 各ステージでヘッドライナーが演奏を始める頃、会場内の裏導線には規制が入り、最重要車両を除いて、奥地に入るのは不可能となっていた。憔悴しきったスタッフの送迎もかなわない状態となっていたが、彼らには雨をしのぐことのできる場所がある。それより観客の安全を最優先すべきと動いていたのが主催者であり、スタッフだ。会場内を流れる川が増水し、かなり早い段階でボードウォークの一部を閉鎖。過去に例を見ない豪雨の影響で会場に繋がる国道17号線に規制が入ったという情報が流れ、各ステージでの最終ライヴが終わった後、グリーンステージから奥が閉鎖されている。でも、毎年積み上げてきた教訓、特に昨年の経験が生かされていたんだろう、その頃にはテント泊に不安を感じる人々のために地元やプリンス・ホテルが一部を休憩所として確保。彼らを誘導し、キャンプ場の安全を確保し続けたキャンプよろず相談所のスタッフに賞賛の言葉を贈りたい。加えて、悲惨な目にあった仲間たちに救いの手をさしのべようとした人たちがいっぱいいたことも忘れてはいけない。

 主催者、地元の人々、スタッフのみならず、会場にやって来るフジロッカーに与えられたのが、これでもか、これでもかと思えるほどの試練の数々。でも、ほとんどの人たちがそれを乗り越えた後、まるでご褒美のように幸福な時間がもたらされる。夜が明けて、お日様が顔を出す頃、会場に溢れていたのは、まるでなにもなかったかのように満面に笑みを浮かべて最後の一日を謳歌する人々。メディアやSNSが「最悪な一点」をあたかも全体であるかのように吹聴し、尾ひれをつけて拡大していった一方で、この現場にいる人たちが至福のフェスティヴァル体験を語り始めていた。申し訳ないが、それはこの場所で同じ時間と空間を共有しなければわからない。モニターでライヴを見ても、全身に降り注ぐ興奮を感じることはできないし、このエキスプレスをチェックしていても、語り尽くせない幸せを体験することはできない。だからこそ、ここにおいでと呼びかけ続けているのだ。

「これまでで最高のフジロックだった。なによりもこのフェスティヴァルがために、ここに多くの人たちがやって来てるってのがよくわかるんだよ。バンドとか、ライヴとか…。それよりなにより、ここにいることに大きな意味がある」

 全てが終わりかけ、夜空に浮かんでいた三日月が、しらけてきた空に姿を消しかけた頃、今年、「I Am A Fujirocker」というTシャツをデザインしてくれたDJでミュージシャンのギャズ・メイオールが、そんな言葉を口にしていた。しかも、同じような言葉がいろいろな人たちから届けられるのだ。あれほど過酷な時間を過ごしたというのに、多くの参加者が「素晴らしいフジロックだった」あるいは、「過去最高!」と今年を語り始めたのはなぜだろう。もちろん、問題がなかったわけではない。あふれかえるゴミやはた迷惑なキャンプ・チェアーや地面に広げられたシートに、置き去りにされるテントなど、解決しなければいけない問題は山積している。が、規則でがんじがらめにしたところで、思考を停止させるだけで本質的な問題は残されたままとなる。じゃ、どうすればいいんだろう。と、そんなことを考えながら、今年のエキスプレスを締めくくることになる。

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 フジロック史上最悪のどしゃ降りのなか、一方で、熱中症も心配された灼熱の下、開催期間中のみならず、その前から最後の最後まで様々な場所に出没し、会場中を駆け巡って取材をしてくれたのは以下の仲間たち。手前味噌ではあるかもしれませんが、いろいろな圧力や問題に立ち向かいながら、公式にサポートされた独立メディアとして、私たちのフジロックを伝え続けてくれたことを褒めてあげたいと思います。もちろん、完成形はまだまだ。もっともっと学ばなければいけないだろうし、数々の試練も乗り越えなければいけないだろうと思います。間違いもあるかもしれません。もし、そういったことが見受けられたら、ぜひご指摘ください。真摯に対応いたします。

 日本のリクエストに応えてバンダ・バソッティが作ったくれた「フジロック (c/w) レヴォリューション・ロック」の限定盤7インチ・シングルはこちらのサイト、fujirockers-store.com、および、フジロッカーズ・バーで販売を続けます。会場で入手できなかった方で、アナログ好きな方はぜひチェックしてくださいませ。

なお、今年、動いてくれたスタッフは以下の通りです。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/19/
写真家:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、MITCH IKEDA、アリモトシンヤ、安江正実、粂井健太、Yusuke Baba(Beyond the Lenz)、白井絢香、リン、HARA MASAMI(HAMA)、おみそ、森空
ライター:丸山亮平、阿部光平、イケダノブユキ、近藤英梨子、石角友香、東いずみ、あたそ、梶原綾乃、長谷川円香、坂本泉、阿部仁知、三浦孝文、若林修平

■英語版(http://fujirockexpress.net/19e/
Laura Cooper, Sean Scanlan, Park Baker, Jonathan Cooper, Sean Mallion, Laurier Tiernan

フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、関根教史、小幡朋子、町田涼、藤原大和

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、坂上大介(デザイン)、迫勇一

スペシャルサンクス:岡部智子、熊沢泉、三ツ石哲也、志賀 崇伸、Masako Yoshioka、MASAHIRO SAITO、増田ダイスケ、Riho Kamimura、タカギユウスケ、永田夏来、Masaya Morita、suguta、つちもり、Taio Konishi、Hiromi Chibahara、そして、観客を守るために奔走してくれた全スタッフ、試練を乗り越えてフェスティヴァルの素晴らしさを伝えてくれた観客のみなさん。

プロデューサー:花房浩一

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平沢進+会人(EJIN) http://fujirockexpress.net/19/p_1760 Sun, 28 Jul 2019 16:05:48 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1760 全国の平沢進ファン…いや、馬の骨(=ファンの通称名)の方々、ついにである。さぞ待ったことだろう。フジロック最終日、ついに私たちは、この瞬間を迎える。そう、平沢進師匠が、今日、フジロックに出演する。

思えば、師匠がTwitterを始め「間違えてないか?私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない。」とつぶやいたあの衝撃から約10年。気がつけば、リアルタイムのP-MODEL好きから、解散後に掘り当てたニッチな音楽オタク、「けいおん!」や、その他アニメ・ボーカロイドなどに精通したオタク、イラストや作曲などを得意とするアマチュアクリエイターまで、あらゆる人たちがその不思議な魅力に心酔。気づけばここ数年で、馬の骨を名乗る人口は遥かに増加していた。ヒラサワ・ウイルスはいま、パンデミック状態にある。今日のために初めて苗場の地を踏んだ者、泣く泣く在宅での応援を選んだ者もいる。すべての想いを受け止めたエネルギーは、強大なサーフ・エレクトロンとどう対峙するのか?

白い烏天狗のような面をした「会人」と呼ばれる2人(2匹?)を両サイドに従え、真っ黒な衣装を身にまとった白髪の紳士・平沢が登場。その手前にはレーザーハープと呼ばれるものが弦をキラキラと光らせていて、後ろにはテスラコイルが置かれている。その異質な空間にて、まず鳴らされたのは“town-0 phase-5”。湧き上がる歓声&合唱、湧き上がる感情。ただ呆然と立ち尽くしていたが、ここで実感する。ここ苗場で、平沢進が歌っているのだ!

低音の厚み豊かに組み立てられた“フル・ヘッ・ヘッ・ヘッ”や、冒頭の声真似が楽しい“聖馬蹄形惑星の大詐欺師”、シンセサイザーの荘厳な響きがこだまする“Adios”など、彼の音楽は想像以上にダンサブルなアレンジがされており、ここレッドマーキーの雰囲気と相まってテンションは上がるばかり。平沢の無機質な歌声と「高らかに宣言する」ような歌い方は生で聴くとより刺激的である。

“夢見る機械”に突入すると、テスラコイルに変化が。楽曲のタイミングよく発せられる細い電流とその音は、見事に曲の1部であり、演出としても成り立っていた。セリフと歌詞が混ざったような曲であることから、ミュージカルのようにも感じた。

背景に「救済の技法」ジャケットの赤い長方形が映し出されると、“AURORA”、続いては“白虎野”と人気曲を次々にドロップ。“白虎野”では、あのコラージュ・チックなイントロが平沢の弾くハープから鳴らされる。そのしなやかな手先の動きは美しく、惚れ惚れする。彼の指先ひとつで、大地は揺らぎ、海は割れるのではないか?あなたは教祖、いや神なのか?

アンコールには“回路OFF回路ON”を、会場の皆で手を挙げ、合唱しながらフィナーレ。あっという間の13曲、しばらく思考が停止するような驚きと衝撃に満ちた時間だった。初登場にしてメインステージのトリを飾るそのキャリアの長さと貫禄、さすがである。

私たちは、有難いものを見せていただいた。彼を1ミリも知らない観客でも、その強烈なインパクトは頭にこびりついて離れないだろう。ああ、入信必至の大パフォーマンス!これからも大好きだ。ありがとう。

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CHON http://fujirockexpress.net/19/p_1761 Sun, 28 Jul 2019 15:58:57 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1761 CHONはギターはバカテク、ドラムはひたすら変拍子をたたき続けるというバンドである。テクニカル&変拍子というとプログレッシブロックなんだけど、彼らはレッドマーキーを埋め尽くした人たちから歓声が上がっていたように、おじさんにだけ受けるようなバンドではない。テクニックを誇示する音楽をやると昔は叩かれることがあったのだけどCHONはそうでもない。レッドマーキーにいたお客さんの男女比率の開きはそんなに大きくないし、年齢層もそんなに高くない。

なぜCHONはこんなに受け入れられるのだろうか。

仮説1 曲が短い

今回60分の持ち時間で16曲である。1曲あたり約3.75分であり、プログレやフュージョンみたいに10分以上延々と演奏することはない。サクサクと演奏が進み、次々と曲が変わっていく。集中力を要求されるような音楽でなく気軽に聴けるのだ。

仮説2 いきなりテクニック

曲によるけれども、CHONの曲はイントロからいきなりバカテクを披露することが多い。マリオ・カマレナとエリック・ハンセルのツイン・ギターがいきなりタッピング奏法を繰り広げる曲もある。昔はイントロ~歌~ギターソロでようやくテクニック炸裂ということがあるけど、CHONは曲が始まって秒でテクニックである。このもどかしさがないのがよい。テクニカルなのはギターだけでなく、変拍子を自在に操るドラマー、ネーザン・カマレナも、6弦ベースを使いギタリストのようなタッピング奏法を披露するベーシスト、エザヤ・カマレナもすごい。

仮説3 メタル要素がない

メンバーの姿をみていると特筆することもない普段着を着ている。統一した衣装もないし革ジャンとかも着てない。髪型も基本的には普通。音楽的にもディストーションがすごくかかっているわけでもなく、さわやかな感じがする。メタル要素がない。もちろんメタルが悪いわけではないけど、イメージが限定されないので今までにないお客さんを獲得しやすいのではないだろうか。

ライヴは“Bubble Dream”で始まり、“Dew”や“Story”、“Book”など定番曲を披露する。ヴォーカル入りの曲は“Can’t Wait”だけでエリック・ハンセルが歌う。ラストは定番曲“Perfect Pillow”で大歓声が上がる。レッドマーキーを満員にした人たちは彼らのテクニックに聴き入っていたし、ゆったりと体を揺らしていた。さらにメンバーが去ったあとでスクリーンに来年の来日公演の日程が映しだされるとさらに歓声が上がった。

来日ツアー日程

大阪
2020/2/3 (Mon) Umeda CLUB QUATTRO

名古屋
2020/2/4 (Tue) Nagoya CLUB QUATTRO

東京
2020/2/5 (Wed) Shibuya CLUB QUATTRO

セットリスト

Bubble Dream
Story
Fall
Splash
If
Puddle
Dew
Book
Peace Intro
Deadend
Petal
Rosewood
Pitch Dark
Waterslide
Can’t Wait
Perfect Pillow

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PHONY PPL http://fujirockexpress.net/19/p_1762 Sun, 28 Jul 2019 13:55:57 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1762 突然、広いステージを駆け抜けるチャリ。開始時刻はまだなのに、ステージにチャリが現れるたびに戸惑いながらも大きな歓声が上がる。ポーズを決めるバリ・ベース(Bass)にエイシャ・グラント(key)、マット“マフュー”バイアス(Dr.)。
マフューの「Make some noise!!」を合図に、背後のスクリーンの彼らの満月のようなマークが映し出され、エルビー・スリー(Vo.)とイライジャ・ローク(Gt.)。

まず演奏されたのは、“End of the niGht.”だった。ひとつひとつの音が重い。まるでのしかかるようなベースとドラムの低音に合わせ、ステージ上を自由に飛んだり跳ねたりするエルビー。マック・ミラーやプリンセス・ノキアなどの人気ラッパーたちのバックバンドに起用され、演奏力の高さに定評があるとは耳にしていたけれど、本当に想像以上。落ち着きがあり、ピアノの音を重点に置いた静かな印象を受ける音源とは全く異なり、ライブはアグレッシブそのもの。ステージからの図太いサウンドにこちらも熱くなる。

軽快なメロディーにギターのスクラッチが心地よい“Take a Chance.”と跳ねるようピアノのサウンドがロマンチックな演出をする“Either Way.”。演奏はもちろんだったけれど、演奏中にも、観客たちからは何度も何度も歓声が上がる。
確かに、PHONY PPLの5人は全編を通じて見ているこちら側を圧倒する、演奏をしていた。しかし、あのときのレッドマーキーの歓声は、まるでどこかもっと広いスタジアムにいるのかと勘違いしそうになるほど、すさまじいものだった。一体感があり、PHONY PLLを含めてその場にいた全員が楽しんでいたように思う。ライブは、アーティストだけではなく、観客がいなければ成り立たない。目の前の演奏に何十人、何百人が表情や態度、声などで反応を示し、そこに呼応するように更なる素晴らしい演奏をする。
観客たち一人ひとりの熱狂的な反応も含めて、あのときのPHONY PPLのショーが作られたんじゃないだろうか。

“something about your love.”や“Baby Meet My Lover.”では、手を広げ、ステージの端から端までを飛んだり跳ねたりするエルビー。各パートの凄まじいテクニックを披露するソロパートには思わずうなりながら大きな声を上げてしまう。バリの分厚いベースサウンドにマフューの破裂音のようなドラムの音、時に前に出て華やかなギターリフを聞かせるイライジャ。エイシャのセクシーなキーボードの音にもうっとりしてしまう。このバンドは、全員が主役なのだろうと思った。

エイシャとエルビー以外のメンバーが一度ステージからはけ、ムーディーなピアノの音に、ボイスパーカッション。そして、バリとマフューが愉快なダンスを披露する。「ドラムのマフューが踊っているのに、なぜドラムの音が聞こえるのだろう?」と思えば、イライジャが叩いていた。この5人は、本当に仲がよく、いつ何時だって心から楽しそうな演奏を見せてくれる。
そして、クラップ&ハンズの巻き起こった“Why iii Love the Moon.”は、ロマンチックで少しビター。繊細なピアノのサウンドが、月の光のようにキラキラときらめく。
「フジロック最高!」と言い、最後の“Before You Get a Boyfriend.”では、大合唱も起こり、手を左右に振る観客たち。最後の最後まで、熱気が尽きることはなかった。

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TENDRE http://fujirockexpress.net/19/p_1763 Sun, 28 Jul 2019 13:06:46 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1763 晴れたら晴れたでレッドマーキー内の気温は上がる。先日の渋谷WWW Xを含むツアーが追加公演も完売したTENDREこと河原太朗のプロジェクトの潜在的な人気は高いようで、続々と人が集まってきた。サウンドチェックでも熱演し、「まだだよー」と笑わせるお茶目な側面に、いわゆるおしゃれでクールな人物を想像していた人は驚いたかもしれない。

AAAMYYY(Key/Syn/Tempalay)、松浦大樹(Dr)、小西遼(Sax)、高木祥太(Ba/無礼メン)という辣腕や今のシーンで注目されるメンバーが結集した今のサポートは、もはやサポートの域を超えて、バンドとして機能している。特に最近参加し始めた高木の重低音の効いた迫力のあるベースはバンドをぐっと引き締めている。1曲目の“DRAMA”から、ライブ全体の背景を作るようないいプレイをしている。そしてクールとかチルなイメージを持っていた人はさらなる河原の本当の姿(!?)に驚く。「フジローック!」の絶叫、やたらとテンションが高い。

「いい風吹いてきた〜」と、ハープのSEに乗せてバレエの腕の振り付けのような動きを見せ、フロアにいる人たちの気持ちの壁を演奏以外でもどんどん壊していく。さらに“SIGN“では自らギターを手にし、リズム隊に近づいて、激しくコードカッティングする場面も。
自分自身のテンションの高さもあるが、メンバーとフロアに「暑くない?」と素で聞く様子も、ライブのムードを親密にしていく。

“DOCUMENT”ではAAAMYYYもハンドマイクで歌い、彼女の真っすぐで少女っぽさの残る声と、河原の落ち着くバリトンボイスが重なると、卓越したアンサンブルの中に人懐こい側面が加わるのが面白い。二人とも声が誠実というか、上手く聴かせること以上に、余白の多い歌詞を伝える表現が魅力的だ。

メロウなエレピとストンと腹落ちする平熱感のある河原の声がいい“GIVE”は、疲れて眠っている人も包み込む。割とシビアな現実を歌うオーセンティックなアレンジの楽曲だが、疲れている時に聴いたら、すぐTENDREに恋に落ちるんじゃないか?と思える懐の深い曲なのだ。これもライブで相当仕上がっている。さらにラジオ・プレイなどでも人気の高い“hanashi”が演奏されると、拍手と歓声が起こる。アウトロでは歌詞をアレンジして「話したいな、フジロックで遊びたいな!もっと遊びたい!」と、ジャズファンクなブリッジ部分で煽り、フロアは手を挙げたりジャンプする人も現れた。彼らの音楽性では意外だが、今のTENDREには取り澄ましたライブはもう過去のもののように思える。

「これまでルーキーにはampelで出演し、TENDREでは去年アヴァロンにたくさん人が集まってくれてエモかったんですが、今もエモいです。でもやっぱり頂点を目指したいんです」と、「TENDRE気に入ったなって人はついてきてください」と、力強くさらに大きなステージで帰還したい旨を伝えた。

ジャズファンクや人力ハウスのダンスミュージックとしての骨太さを持ちつつ、20年代のポップスとして定着しそうなTENDRE。ぜひこのメンバーでさらに大きなステージに戻ってきてほしいと切に願う。

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STELLA DONNELLY http://fujirockexpress.net/19/p_1764 Sun, 28 Jul 2019 10:17:59 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1764 開始10分前から、大勢の人が詰めかけるレッドマーキー。サウンドチェック中のバンドから、聞き覚えのあるフレーズが飛び出すだけで歓声があがり、注目度の高さが伺える。オーストラリアはパース出身のシンガーソングライター、ステラ・ドネリーの待望の初来日ステージだ。

ABBAの“Dancing Queen”が流れる中、踊りながら登場したステラ。幼少期の自らの写真が大写しとなったスクリーンをバックに、「元気ですか!」といきなり日本語で会場を沸かせると、1曲目“Grey”が始まる。ハイフレットにカポタストをつけ、シンプルに爪弾くその姿は、ジェフ・バックリィやエリオット・スミスといった往年の名シンガーソングライターを彷彿とさせる。歌心溢れる甘美なメロディに、どことなく憂いが混ざるあの感じだ。

“You Owe Me”、“Beware of the Dogs”、“Mosquito”と続く弾き語りパートでは、表情豊かな歌声でシンガーとしての実力を存分に発揮するステラだが、その姿はどこまでも愛らしくキュート。オーストラリアでYouTube配信を観ているという父親に、「ハーイ!ダッド!」と声をかけたり(そう考えるとすごい時代だ)、ギターを弾く仕草や、ふとした表情などすべてが愛おしい。レッドマーキー中が彼女に夢中になり、一曲ごとに大歓声が湧き上がる。それを見て照れたように笑うステラもまたかわいい…。

続く“Old Man”でいよいよバンドが登場。ドラムやベースを加えたビートに、奔放に動き回るステラはさらに愛らしさを増しているが、「あなたは私が怖いの、おじいさん? それとも、私がしようとしていることを恐れているの?」と刺激的な言葉が飛び出すこの曲。男性社会に対する痛烈な言葉で、#MeToo時代のアイコンとなった彼女だが、いたずらに分断を煽るのではなく、どこまでもキュートにポップに表現するからこそ、垣根を越えて誰からも愛されるのだろう。僕も少し考え込んでしまう。

そんな彼女の魅力がいっぱいに詰まったのが“Die”だろう。キーボードのジャックとともに、コミカルな振り付けを披露するポップソングに、会場はキュンキュンしっぱなしだが、「死にたくない!」を連呼する姿は、Chvrchesのローレン・メイベリーとも似た、意志の強さを感じさせる。決してかわいいだけではないのだ。そして圧巻は、真に迫る歌声が胸に刺さる“Boys will be boys”。「男の子なんだからしょうがない」と諦めにも似た皮肉を込めたこの曲を、会場中が見守る。僕は、わけもわからずウルっとなってしまう。

最後は「一緒に踊ろう!」と、キャッチーなダンスナンバー“Tricks”でレッドマーキーを朗らかな気持ちで包み込んだステラ・ドネリー。しかし、それ以上に大切な何かも、残していったように思える。自然体で愛らしい彼女の表現を観ていると、シリアスな社会問題も自分事として入ってくる。これこそが、無知と偏見の荒野を切り開くポップミュージックの精神を体現した、ステラ・ドネリーのパワーなのだ。

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ドミコ http://fujirockexpress.net/19/p_1765 Sun, 28 Jul 2019 10:02:11 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1765 2年前、2017年の苗場食堂に出演したときのドミコは機材トラブルに見舞われてしまい、少々時間が押してからのスタートだった。彼らのサウンドの要とも言えるループマシンの調子が悪かったのだろう。決して万全ではない体勢のなかの出演となってしまい、悔しそうな姿を覚えている。そして、2019年のレッドマーキー。ついこの間には、“What’s up summer”が配信されたことから察せるように、気合いが入らないわけがなかったし、絶対にいいライブをしてくれるのだろうという予感はしていた。
本編では、いつもの気の抜けるMCも一切なし。緊張感を持ちながらも攻めの姿勢を一切崩さず、最後の最後まで駆け抜けるようなライブは、リベンジ戦としてはパーフェクトだったように思う。

中央に置かれたギターアンプの上、「Domico」のネオンが光り、背後のスクリーンには、“What’s up summer”のジャケットと同じロゴがパッと浮かび上がる。King Crimsonの“Easy Money”がかかると、ドミコの2人が定位置にスタンバイ。1曲目は、“ペーパーロールスター”だ。長谷川啓太(Ds,Cho)の突き抜けるようなハイハットの音に、さかした ひかる(Vo,G)のしゃがれたギターが気持ちよく、初めから一切手を抜くこともなく全力で急発進をしていく。観客たちへの掴みはバッチリだった。全身でリズムを取りながらのさかしたのソロパートには声もあがり、観客たちは自然とハンドクラップを鳴らしている。
これは個人的な考えではあるけれど、いいライブというのは1曲目でどれだけたくさんの観客を圧倒し、魅了できるか、というのがひとつの要因としてあげられると思っている。この日のドミコの最初の音を瞬間、「ああ、今日は絶対にいいライブを見ることができるんだろう」と、ワクワクにも似た期待を持ってステージを眺めていた。

さかしたがループマシンに触れると、おなじみのイントロが流れる。次の曲は“くじらの巣”だった。浮遊感のあるような力の抜ける声でありながら、身振り手振りを交えながらも力強く歌っている。
そして、“わからない”、“まどろまない”と、目も耳も身体も、少しも休む暇がない。曲の合間には音を作るためのセッションの時間があるのだけれど、その間のサウンドですら、2~3つに重なるギターのメロディに重いドラム。なんだか、音を通じて「もっと楽しめ!」と軽く挑発されているかのよう。この瞬間も、次はどんなことをしているんだろう?と心が躍る。

ギターの音色が心地よい“深海旅行にて”のあとは、爆発音のような長谷川のドラミングに首を振り、歪ませたギターを弾き鳴らすさかした。間髪を入れないでの“What‘s up summer”には、思わず声が上がる。
最後はビビットなギターリフが印象的な“こんなのおかしくない?”を演奏し、あっさりとステージを後にするドミコの2人。まさに圧巻!骨抜きにされてしまった!音の止んだレッドマーキーからは、ドミコを称賛する声がところどころから聞くことができた。

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スカート http://fujirockexpress.net/19/p_1766 Sun, 28 Jul 2019 06:56:48 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1766 昨夜の豪雨が嘘のように青空が覗き、すでにレッドマーキーの屋根は熱されている。丁寧なサウンドチェックを行う10時10分頃には随分人が集まり始めた。

トレードマークの白シャツを着た澤部渡(Gt/Vo)も、メンバーの佐久間裕太(Dr)、佐藤優介(Key/カメラ=万年筆)、岩崎なおみ(Ba)も、どこか大学の音楽サークルのような、ポップ・ミュージック同好会的なムードを醸し出す。おこがましいが友人を応援するような気持ちもなくはない。(パーカッションのシマダボーイはケレン味のあるたたずまいだが)。

名曲しかないスカートが朝一のレッドマーキーに選んだオープナーは「何もなくてもきみがいるなら歩いていける」と歌う“君がいるなら”だ。冒頭はアッパーな選曲で、シンガー&ギタリストとしても抜群のセンスを持つ澤部のライブ・アーティストの側面がぐっと前にでる。なんたって良い音のテレキャスターを、切れ味鋭くカッティングする様子は、“セブンスター”の間奏でウィルコ・ジョンソンを思い出させたぐらいなのだから。頭3曲の力演に「カッケー!」と小さく叫んでしまった。自分でも驚くが、バンドのアンサンブルがそう言わせる。

アコースティックギターに持ち替えた澤部は「いやー、ありがとうございます。こんなに集まってくれて。みんな早起きだね。昨日、大雨で大変だったでしょ?今は晴れてるけど。フジロックは2回目で、今回はレッドマーキーに出させてもらって(話の途中)、うわー、人増えてきた!こりゃ歌うしかないね!」とドラマーの佐久間に同意を求める。聴かせるタイプの曲をまとめたブロックでは、午前のレッドマーキーとは思えないぐらい、オレンジの照明が似合い夕焼け感が立ち上がる新作のタイトルチューン“トワイライト”が丹念に演奏され、いい意味で日常的に自分がいる街のことを思い出した。それも悪くない。明らかに澤部のメロディやコード進行のパワーだと思う。

40分のセットでも様々な景色を見せてくれるスカートの曲の多彩さ。おなじみのペパーミントグリーンのリッケンバッカーに持ち替えての“CALL”ではオルタナティヴなギターバンドの趣きをベースの岩崎の重いサウンドとともに作り出した。

「早いもんで我々の演奏はあと2曲なんですが、みんな見たいものたくさんあるでしょ?」と澤部が言うと、佐久間が「ジェイムス・ブレイクも見たいし、クルアンビンも見たいし」と、完全に我々と同じ心境を話す。終盤はグルーヴィに“ストーリー”、そしてイントロで大歓声が上がった“静かな夜がいい”で、フジロック最終日を楽しみ尽くそうとするオーディエンスを祝うように、タイトな演奏を決めた。

「まだ今日は始まったばかりです!」――フジロックを愛してやまないフロントマンの素直な言葉に、みんなの今日も動き出したのだった。

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DEATH CAB FOR CUTIE http://fujirockexpress.net/19/p_1733 Sat, 27 Jul 2019 14:15:06 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1733 今やUSインディーロックシーンを代表するバンドとなったデス・キャブ・フォー・キューティー。それまでずっとバンドのギター/キーボード兼プロデュースを行ってきたクリス・ウォラが2014年9月のライブを最後に脱退し、バンドに衝撃が走った。その後、2015年にそれまでサポートメンバーだったデイヴ・デッパー(Gt./Key.)とザック・レイ (Key./Gt.)がバンドに正式加入を果たした。そして、今年5人体制としては初のアルバム『Thank You For Today』をリリースし、7年ぶりの来日ライブを初のフジロックで飾ることとなった。

これまでずっと彼らの活動を観てきたファンの中には、正直辛さや複雑・不安な気持ちを抱えている人もいると思う。なぜなら「新しいデスキャブは大丈夫!」という確信が持てずにいるから─。それならばライブで確認すればいい。いや、確認したい!ホワイト・ステージには、豪雨にも関わらず新生デス・キャブ・フォー・キューティーを自分の目で確認するために多くのファンが集まった。

豪雨と川の水位上昇に伴い15分早い21時45分(※)に開始となったライブは、新作から緩やかでリズミカルなナンバー“I Dreamt We Spoke Again”、そして前作『金継ぎ』から“The Ghosts of Beverly Drive”という“クリス脱退以降”の2曲でスタートした。旧作から疾走感溢れる“Long Division”、ミドルテンポのセミ・バラード“Title and Registration”と続き、再び新作からミニマルだが壮大な広がりのある“Gold Rush”、さらに旧作からギターポップな“Crooked Teeth”と、この辺から彼らの“現在位置”が少しずつ見え始め、次の展開でこの日のライブにおけるひとつのキーポイントを迎えた。ベンが弾くピアノの旋律と歌が美しい“What Sara Said”と、同じベンの弾き語りによる“I Will Follow You Into the Dark”だ。クリスのアンビエントなアレンジなしのこのセクションで、ベンは存分に自分たちのグッド・メロディな歌を見事なまでにエモーショナルに歌い上げていたのだ。この姿にある確信が芽生え始める。そして、その“確信”はラスト2曲“Soul Meets Body”と“Transatlanticism”で確固たるものになった。

「デスキャブは大丈夫だ!」

その確信に起因しているのは、その神がかったセットリストだったというのはありつつも、それよりも重要となったファクトは「彼らが自分たちの信じる音楽を堂々と鳴らしていた」と言うこと。音の後方にアンビエントな空気が存在するクリス在籍時の曲と、クリアでパキッとした音感のあるクリス脱退以降の曲の共存。そして彼らの楽曲の根幹にある良いメロディ。どちらも最高にエモーショナルにプレイされていたのだ。この事実が、僕らを最高に興奮させてくれたし、何より「これがデスキャブだ!」という確信をくれた。しかし、おそらく彼らはまだまだ満足していないだろう。「まだできるはずだ!もっとやれるはずだ!」。新しいプロデューサー、リッチ・コスティにもらったこのマインドによって、彼らはもっと成長していくに違いない。

(※)豪雨と川の水位上昇に伴い、22:00〜23:30から21:45〜23:00に変更となった

<セットリスト>
01 I Dreamt We Spoke Again
02 The Ghosts of Beverly Drive
03 Long Division
04 Title and Registration
05 Gold Rush
06 Crooked Teeth
07 No Sunlight
08 What Sarah Said
09 I Will Follow You Into the Dark
10 I Will Possess Your Heart
11 Black Sun
12 Northern Lights
13 Cath…
14 Soul Meets Body
15 Transatlanticism

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AMERICAN FOOTBALL http://fujirockexpress.net/19/p_1734 Sat, 27 Jul 2019 13:27:13 +0000 http://fujirockexpress.net/19/?p=1734 日が暮れて周辺の森は漆黒の闇に包まれ、昼間とはまた違った表情を見せるホワイトステージ。雨が、しとしとと地面を濡らす中、たくさんの人たちがステージ上を見つめていた。目線の先に彼らが思い描いていたのは、エモ・シーンのレジェンドと称されるアメリカ・イリノイ州出身のAMERICAN FOOTBALLだ。

1999年にセルフタイトルのデビューアルバムをリリースするも、わずかな活動期間で解散したAMERICAN FOOTBALL。だが、その魅力は世界中でじわりじわりと伝わっていき、ついにはポリヴァイナル・レコーズ史上最高のセールスを記録。待望の再結成を2014年に果たし、2016年には17年ぶりのアルバム(セカンド・アルバム)を、今年3月にはサード・アルバムを発表するなどめざましく活動している。

暗転したステージに“シルエット”のイントロが流れる。鉄琴の柔らかな音に合わせ、ステージ上に置かれた8機のスタンド照明が、一つひとつ、不規則な順番でチカチカと点灯する(1機につき2つのライトがついているので厳密には計16個のライト)。バンドの音が一斉に鳴り出したとき、ステージ上にメンバーたちのシルエットが浮かび上がった。なんとも粋な演出に、のっけから心をくすぐられる。変則的なリズムを支えるドラムにベース、透明感のあるメロディーを奏でるクリーントーンのギターや鉄琴に、繊細で美しいヴォーカルが重なる。なんとも心の落ち着く、幻想的な世界観が広がっていた。

光を反射してキラキラと輝く雨はまるで星のようで、音楽とともに優しく降り注ぐ。降りしきる雨さえも、彼らのステージに彩りを添える演出となってしまう。まあ、マイクの声がかき消されてしまうほどに、地面を叩きつける土砂降りの雨が降った時は、そんなことは言っていられなかったのだけれど…。だが、そんな悪天候の中でも微動だにせず、ステージを見つめるたくさんのオーディエンスたちの姿がそこにはあって、なんだかうるっときてしまった。

ラストに披露した“ネバー・メント”では、親交のある岸野一(malegoat/The Firewood Project)も参加してタンバリンを打ち鳴らす。メンバーと岸野が笑顔を交わす姿がなんとも微笑ましかった。

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