“あたそ” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '21 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/21 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Tue, 02 Aug 2022 05:24:20 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.18 誰もが真剣に向き合い、決断を迫られた「コロナ禍のフジロック」 http://fujirockexpress.net/21/p_5816 Tue, 31 Aug 2021 08:53:35 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=5816  いつも通りなら、エキスプレスの締めくくりとなるこの原稿の巻頭を飾るのは、すべての演奏が終了した会場最大のグリーン・ステージ前で、満面の笑みを浮かべるオーディエンスの写真となるはずだった。が、今年は撮影さえもしていない。例年ならば、この時間帯、巨大なスピーカーから放たれる名曲、ジョン・レノンの「Power To The People」でみんなが踊り狂うことになるのだが、それが聞こえてくることもなかった。それに代わったのはMC、スマイリー原島氏の挨拶と締めの一言「Power To The People」だけ。オーディエンスの興奮に水を差すのは承知の上で、現場が最後の最後に彼らに対して「ゆっくり静かにフェスティヴァルの幕を閉じるようにお願いしよう」と判断したからだ。

 コロナ禍でのフェスティヴァル開催という、きわめて特殊な状況の下、例年とは全く趣を異にする光景が、始まる前から様々な場所で見え隠れしていた。越後湯沢駅に向かう新幹線から会場へのシャトル・バスでも同様で、いつもなら、嬉々とした表情を浮かべて仲間とはしゃいでいるはずなのに、誰もが言葉少なに見える。彼らが互いに適度な距離を開けて整然と列に並び、苗場を目指しているのだ。今回のフジロックを開催するに当たって、参加するお客さんから、全スタッフ、関係者に伝えられていたのが感染防止ガイドライン。それを彼らが徹底して守ろうとしているのが見て取れる。

 フジロッカーにとってはおなじみの、オアシス・エリアのど真ん中に姿を見せるはずのやぐらは見当たらず、それを囲んで、地元生まれの「苗場音頭」を大音響でながしながら、みんなが輪を描いて踊る光景もなかった。それが今年のフジロック開催前夜。過去10年以上にわたって続けられてきたというのに、レッド・マーキーで、「おかえり!」と声をかけて、「ただいま」と応えるみんなの記念撮影をすることも、もちろん、なかった。本来ならば、フジロックを愛する人達が待ちに待った時間の到来に、彼らの興奮が一気に爆発するのが前夜祭の開かれる木曜日の夜。しかも、前年の開催が延期されての2年ぶりだというのに、きわめて静かな幕開けとなっていた。

 公式に「前夜祭はない」と発表されてはいたものの、唯一それを感じさせてくれたのは、直前までやるのかやらないのか全く知らされなかった花火ぐらいかもしれない。例年なら、ここで大歓声がわき起こり、否応なしに「祭り」の始まりを感じさせてくれるのだが、そんな反応は一切なかった。最初の一発が打ち上げられたとき、わずかに驚きの声が聞こえ、涙を流す人がいたという話も耳に入っている。が、誰もが夜空を飾る花火をなにやら厳かに見上げていたように思う。拍手はあったかもしれないが、シ〜ンと静まりかえった会場で、花火の音と光だけが響くという、どこかで「特殊なフジロック」を象徴するかのような光景が目の前に広がっていた。おそらく、誰もがここまでたどり着くのが簡単ではなかったことを察していたのではないだろうか。


Photo by 安江正実

 当初、ライブハウスなどからクラスターが発生したことも影響したんだろう、感染拡大を誘発する場所として、ライヴ・エンタテインメントの場所がやり玉に挙げられ、そういったものが知らない間に「不要不急」を象徴するものであるかのように語られ始めていた。数多くのライブハウスが閉店を余儀なくされ、ミュージシャンや演劇人が作品の発表の場を奪われたのみならず、照明や音響の技術者が職を失っていた。さらには大規模なコンサートからフェスティヴァルが次々と延期やキャンセルの憂き目にあう。もちろん、感染拡大は阻止しなければいけない。が、同時に、音楽のみならず文化とは生きることに必要不可欠な要素であり、それを否定することはできない。その集大成としてフェスティヴァルという文化が存在する。とりわけ、それが日本で生まれ、成長していくきっかけとなったフジロックを根絶やしてはいけないという思いが主催者、関係者、そして、フジロッカーにはあったということだろう。

 それだけではなかった。昨年、フジロックが延期を発表した頃、町内から「なんとか開催できないか」という打診があったという噂を耳にしている。その理由はフジロックで生まれる経済効果であり、それが断たれることが地元に計り知れない影響を与えることになる。それが二年も続けば壊滅的な打撃を受ける可能性も否定できない。だからこそ、地元と主催者が開催に向けた方法を模索し始めるのだ。その結果として、可能な限り徹底的な感染予防策を築き上げ、観客には不自由きわまりないがんじがらめの感染予防ガイドラインを提示することになる。しかも、本来のキャパシティのほぼ25%程度にまで規模を縮小。結果として1日の最大動員数は1.4万人弱と、一般的なスポーツ競技で日本武道館をほぼ満杯にした程度にとどまることになる。

 これで採算が取れるんだろうか? しかも、感染問題に絡んで参加に不安を感じている人達や体調がすぐれない人達へのチケット払い戻しにも対応している。加えて、チケット購入者にコンタクトをして、希望者には抗原検査キットを発送し、大多数の人たちがそれに応えていた。が、それでもまだ不安だと、目指したのは100%。必要とされる膨大な数の抗原検査キットを集めるのに東奔西走したという話が伝わっている。さらに、会場内の救護テントに加え、バックヤードには数多くの医療関係者や民間救急搬送車3台を待機。また、会場入りする前に全スタッフがPCR検査を受け、陰性であることを証明してからでないと、苗場入りできない取り決めをしていた。加えて、長期滞在するスタッフは定期的に抗原検査を繰り返す。さらに、すでに会場入りしていても、自宅の家族で濃厚接触者が報告されると速効で会場を追われ、陰性であることを証明することなく現場復帰はできなくなっていた。ちなみに、観客のみならずスタッフも全員が毎日検温チェックを受けないと、会場に入ることもできないことになっている。どこかの新聞が「厳戒態勢」という言葉を使っていたのだが、まさしくその通りだろう。


Photo by 粂井 健太

 下手をすると、今年は最もフジロックらしくないフェスティヴァルになるかもしれないという危惧があった。どこかで自由と自主性が魅力となっていたフジロックだというのに、感染対策に絡んで「がんじがらめ」のルールを守らなければいけない。しかも、コロナ禍での開催ということもあり、海外からのアーティストは皆無。会場を演出するUKチームの来日もできなかった。なにやら、フェスティヴァルと言うよりも、緑に囲まれた野外コンサートでしかないかもしれない。さらには、場内でのアルコール販売が禁止され、中心部から離れた場所にごくわずかに用意された喫煙所を除いて全面禁煙となっていた。1997年にフジロックが始まった頃から、毎回出店していた、オアシス・エリアの顔のような存在となっていたバーやお店の数々が出店をキャンセル。すでに「ここに来れば顔を合わせることができる」友人や仲間たちが参加を断念するにいたるのだ。

 誰もが苦渋の決断と選択を迫られていた。特に大都市を中心に新型コロナウイルス感染者が急増し始めると、「なんとか開催してほしい」という声と同じように、「中止すべき」という声も多くなっていった。出演を予定していたアーティストやパフォーマーに対しても、様々な声が寄せられ、参加しようとしていた個人も揺れ動いていた。その結果がなにであれ、ひとりひとりが真剣にフジロックに向き合い、判断したことに敬意を表したい。来てくれたみなさんにも、今年は来るのをやめたみなさんにも、ありがとう。中止すべきだと主張した人にも、開催すべきだと声を上げた人達にも、出演してくれたアーティストにも、出演辞退をした人達にも、ありがとう。そういった反響に感じるのは、多くの人たちにとってフジロックが大きな存在になっていること。だからこそ、真剣に向き合って、彼らが導き出した判断に最大限の敬意を表したいと思う。

 会場では感染予防ガイダンスを守ろうとするオーディエンスに圧倒されることになる。少なくとも、喫煙所やフード・テントを除いて、マスクをしていない人にはお目にかからなかった。しかも、ここで食事をしていて気付くのだ。ほとんど会話が耳に入ることはなかった。「黙食をお願いします」と書かれている注意書きを守ろうとしているのが、痛いようにわかるのだ。久々に仲間と会って握手をしたり、抱き合いたい気持ちがあっても、それを躊躇して肘や拳で挨拶。マスク越しに語り合う人はいても、大声で話す人にはお目にかからなかった。また、水分補給などでマスクを外すときも、周辺に人がいないことを確認してそうしているのが見て取れた。

 ふつうならグリーン・ステージ外にMCを置くことはなかったのだが、今回は全ステージにMCを配し、演奏が始まる前に必ずオーディエンスに呼びかけていたことがある。

「必ず鼻を隠すようにマスクをして、声は出さないでください。安全な距離を保つために地面に記されたマークを確認してください。ステージ前では水分補給用のペット・ボトルなどを除いて、飲食物を持ち込まないでください」

 MCにはそのマニュアルが渡され、毎回オーディエンスに訴えかけるように義務づけられていた。そうして飛沫や接触による感染を防ごうとしているのは言うまでもない。

 そのおかげで目撃するのは、おそらく、フェスティヴァルやライヴでは前代未聞の光景だっだ。どれほどライヴが白熱しても、ほとんど歓声が聞こえることはなく、聞こえてくるのは拍手や手拍子のみ。それでも、その想いがステージ上に伝播するんだろう。加えて、悩み抜いてここに来る決断をしたアーティストの想いがそこに重なって、誰もがとてつもない熱を感じさせるパフォーマンスを見せていた。それは数えるほどのオーディエンスしか目に入らなかったちっぽけなステージであろうと、幾分の違いもなかった。今年は、会場入りを断念した数多くの人達がYouTubeでそれを目撃することになるのだが、演奏の素晴らしさを支えていたのはこの場で生まれた、えもいわれぬエネルギーのたまものではなかっただろうか。


Photo by MITCH IKEDA


Photo by Eriko Kondo

 今年は、珍しく、チーフ・プロデューサーの日高大将が二度、グリーン・ステージに立っている。昔からフジロックを支えた二人の仲間が他界したことを告げたのが初日、そして、最後、日曜日のトリを務めた電気グルーヴの前。そこで彼がオーディエンスから感じたのは「なんとかしてフジロックを支えようとする人々の熱気だった」という。それが端的に表れていたのは彼らが感染防止ガイダンスを守り続けたことのみならず、まるで1999年の苗場で起きた奇跡の再現でもあった。すべてが幕を閉じた後、会場にはほとんどゴミが落ちていなかったという。ゴミ・ゼロ・ナビゲーションを訴えて、活動しているiPledge(アイプレッジ)が毎日、会場に落ちたゴミを拾い集めているのだが、各所に設置された収集箱を除いてほとんど仕事がなかったという嬉しい話も届いている。

 フェスティヴァルが終わった8月24日に発表された主催者からの公式声明によると、その時点で「会期中の会場においてひとりの陽性者も確認されていないこと」が伝えられている。もちろん、それで完結してはいない。「今後も、時間経過と共に情報収集に努め、その結果をあらためて皆様へご報告し、未来のフェスティヴァルにおける感染防止対策の改善につなげてまいります。」と続いている。また、振り返るには早すぎるかもしれないが、完璧を目指したすべての関係者、地元のみなさん、そして、全国から会場にやって来ることができた方々や来られなかった方々にも、批判した方々にも、ここまでたどり着けたことを感謝したいと思う。

 台風に襲われて惨憺たる状況を経験した1997年開催の第一回目から、その存続が問われる大きな試練となったのが苗場に場所を移して最初の1999年。「ロック・フェスティヴァルは危険だ」という偏見に対して、互いを思いやり、愛し合うことを行動で示すことによって、会場どころか、苗場の町からお世話になったホテルや民宿でゴミひとつ落ちていない「奇跡」を形にしていた。これが「地元と共にフェスティヴァルを育てる」という流れを生み出している。それ以降、同じように台風や記録的な豪雨といった幾多の試練を乗り越えて成長してきたとは言え、今回直面したのは前代未聞のウイルスによる危機だった。前述のように、まだまだ結論を導くには早すぎるのは十分承知の上で、関わるすべての人達が可能な限りの知恵と努力で「奇跡」を目指した今年は、フジロックの歴史を語る上で無視できない1年となったことは言うまでもないだろう。

 どこかで様々な意見や考え方の違いが音楽界で分断を引き起こしているという声も耳に入る。が、フェスティヴァルを愛する人達が、多様性を認めるのは当然であり、互いを尊敬し、受け入れて、そこからよりよい選択肢へと自らを導いていくべきだと思う。その上で、今回の経験を糧に、来年を目指したいと思うのだ。このウイルスによる影響がいつまで続くのか、誰にも予測はできないかもしれない。いつか、そんな心配をすることもなく、苗場でみんなとまみえることがある日を願って、今年のエキスプレスの幕を閉じたいと思う。

 なお、ガイダンスに則り、感染を防ぎながら取材をしなければいけないという難しい状況のなかで、動いてくれたスタッフに最大限の賛辞を贈りたい。マスクやフェイス・シールドの用意はもちろん、安全な距離を保ちながらの取材は簡単ではなかったはず。また、独自に用意周到な感染対策を生み出してラウンジを運営したスタッフにも頭が下がる。心の底から、ありがとう。

 今年動いてくれたスタッフは、以下の通りです。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/21/
フォトグラファー:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、MITCH IKEDA、アリモトシンヤ、安江正実、粂井健太、白井絢香、HARA MASAMI、おみそ、suguta、シガタカノブ、佐藤哲郎
ライター:丸山亮平、阿部光平、石角友香、あたそ、梶原綾乃、阿部仁知、近藤英梨子、イケダノブユキ、三浦孝文、東いずみ

■英語版(http://fujirockexpress.net/21e/
Laurier Tiernan, Jonathan Cooper, Nina Cataldo

フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、obacchi、藤原大和

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、坂上大介(デザイン)、迫勇一

スペシャルサンクス:三ツ石哲也、若林修平、守田 昌哉、Park Baker、そして、観客を守るために奔走してくれた全スタッフ、試練を乗り越えてフェスティヴァルの素晴らしさを伝えてくれた観客のみなさん。

プロデューサー:花房浩一

──────────────────

fujirockers.orgとは1997年のフジロック公式サイトから独立した、フジロックを愛する人々のコミュニティ・サイト。主催者から公式サポートを得ているが、独自取材で国内外のフェスティヴァルからその文化に関わる情報を発信。開催期間中は独自の視点で会場から全方位取材で速報を届けるフジロック・エキスプレスを運営。
http://fujirockers.org/
MerdekaTogel

]]>
King Gnu http://fujirockexpress.net/21/p_827 Fri, 27 Aug 2021 15:01:45 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=827 ライブ終了後、とにかく興奮していた自分がいる。なんだか、物凄いものを目撃してしまった。どうしても眠りにつけない夜とか人との会話とか、なんでもいいけど、ふと思い返してみたり、後の世に語られるライブというのはいくつもあるが、この日のGREEN STAGEのヘッドライナーを飾ったKing Gnuのライブは、まさにその場に立ち会った人全員の記憶に強く印象を残す、とにかく言葉では言い尽くせないほど凄まじいライブであった。

メンバーが登場し、まず初めに鳴らされたのは“開会式”。青いライトに、合計15か所から遠慮なく吹き出る炎に、その炎をかき消すかの如くステージ上に広がるスモーク。あのー、これ、予算っていくら降りたんでしょうか?今までヘッドライナーを務めてきた世界に名をはせる伝説的なバンドに引けを取らないカオティックな空間には、思わず笑いそうになる。裏方の方々も、こんな馬鹿みたいに派手なステージを作るのめちゃくちゃ楽しかっただろうな、なんて妄想も膨らむ。
演奏だって、このぶっ飛んだ演出に負けていない。こんなはっ倒されそうになるくらいの音圧を出せるバンドが国内にはいるのかと驚くほどの重い音。けれど、うるささ・やかましさは一切なく、大きな音がひとつの個体となって全身に響くあの瞬間は、たまらなく気持ちがよかった。

“飛行艇”では、すでに温まっている観客が手を左右に振り、常田大希(Gt.Vo.)と井口理(Vo.Key.)の声がコントラストとなって美しく響く。
やりたい放題のステージなのに、“千両役者”ではまばゆいグリーンのレーザーが更に会場を盛り上げていく。King Gnuといえば、フロントマンの2人の顔がパッと思い浮かぶ方も多いかもしれない。けれど、ライブを見てよくわかるのは、リズム隊である新井和輝(Ba.)と勢喜遊(Drs.Sampler)の2人が大きな柱となって、このバンドをしっかりと支えているということ。もちろん、個々の演奏技術はものすごく高い。そこにも十分驚かされるのだが、他のメンバーの音を邪魔せず最大限に生かす形で、音源とは異なる野太いリアルなバンドサウンドに変化させていく。すごい。ドラムとベースでこんなことまでできるのか。全体を通じて各々の音を聴いていると、この2人がいるからこそ、フロントマンは安心して背中を任せることができるのだなと、納得ができる。

1stアルバムから“Vinyl”、2ndから“sorrows”と徐々に会場を温め、次に披露されたのはKing Gnuの名や才能を世に広めるきっかけとなった“白日”。井口に向かってまっすぐと伸びる何重もの白いスポットライト。安定した美しい高音がどこまでも心地よい。この声を聴いているだけで、心を掴まれ、その場から動けなくなりそうになる。
次は、彼らの最新曲である“泡”。身体の芯にまで鳴る重い低音が、やわらかい膜のように身体を包み込む。「泡」というタイトルに、じっくりと聴かせるスローなテンポ。まるで水のなかに飛び込んだような感覚を持つ。音源とはまた異なる印象、そしてライブでしか味わえない感覚を抱くワンシーンでもあった。

メンバーそれぞれが笑顔で楽しそうに演奏する姿が印象に残る“Hitman”に、“The Hole”で披露された一寸も狂うことのない井口の正確な高音にはいつもため息が出る。ときに振り絞るように、ときに軽やかに伸びていくこの歌声は、つくづく唯一無二だなと思い知らされる。
途中、井口がMCにて、今の状況や自分の置かれる立場、他のアーティストのライブを見ても正しさがわからないままステージに立っているという心境、それから「すごくおこがましいかもしれないけど、少しでも明日を笑顔で生きられる力になれたらいいなと、そういう思いで立てたらいいなという気持ちで今日ここに立っています」というリアルな気持ちを涙声になりながら、正直に話す。さまざまな情報が飛び交い、何が本当に正しいのか、どのような行動を取れば間違いがないのか、今の状況下ではわからない。King Gnuに限った話でも、フジロックに出演しているアーティストだけの話でもないが、それぞれが想いを背負って決断をする。さまざまな思いを抱える井口の、ひとりの人間としての本音を聞くことができた。

ライトがサイレンのようにステージを照らし、井口とメガホンを片手に持つ常田が堂々とステージを練り歩いた“Slumberland”、重厚感のある低音が底にまで響き、原曲とは異なる印象を持つ“Tokyo Randez-Vous”。常田のギターソロがばっちりと決まり、終わりに向けて加速していく“傘”と、ただステージを見ているだけでも、新しい気づきや発見が多くある。家で聴いているだけではもったいない。King Gnuのライブを何度も何度も見てしまう理由がよくわかる。

フジロックの2日目の終わりがすぐそばに近づくなか、“Player X”に“Flash!!!”と、強弱をつけながらも身体の残ったエネルギーを出し切るような2曲が続く。しっとり聴かせたあとの駆け抜けるような疾走感がたまらなく気持ちがいい。観客たちも目の前の音楽に圧倒されながらも、手をあげ、手を叩き、ジャンプをし、ステージに呼応する形で楽しんでいるようだった。

「自分の身近な人たちの幸せをひとりひとりが考えた先に、きっとコロナに打ち勝てる時代がくると思うんだよね」「それぞれが周りの奴を守るために生きていこうぜ」という常田のMCのあと、アンコールで演奏されたのは、“三文小説”、“Teenager Forever”、そして「4年前のROOKIE A GO-GOでも最後にやった曲です」という“サマーレインダイバー”。
King Gnuにとって4年という長いようで短い年月の間に、どんなことがあったのだろう。当時から一線を画していたが、場外のあの小さなステージから一気にGREEN STAGEのヘッドライナーへと登り詰めた、その年月の長さと彼らの成長を感じさせる1曲でもあった。途中のMCでもあったが、このバンドにとってフジロックは、大切で特別なフェスであることは間違いないはずだ。

本当に、とんでもないものを見てしまった。気合いと緊張、フジロックへの思い、ヘッドライナーへの責任、さまざまな熱量を感じさせるライブは、息をつく暇すら与えない。ライブとしては当然のこと、ひとつの体験として、ショーとして、自分の理解や感覚を超えたものを見せされると、人は頭が真っ白になってしまう。ライブレポートとしては正しくないのかもしれないが、いくら言葉にしてもまったく語り尽くせる気がしない。
見事にヘッドライナーという大役を果たしたKing Gnuは、これからどこへ向かい、どんな未来を見せてくれるのだろうか。日本の音楽の未来、そのものに対して、更に希望を持てるような90分間であった。

]]>
MISIA http://fujirockexpress.net/21/p_835 Wed, 25 Aug 2021 23:00:02 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=835 バックバンドのメンバーたちが位置につき、トランペットにトロンボーン、サックスの管楽器のメロディーが気持ちのよい演奏に観客たちのクラップ&ハンズ。このステージの主役が出てくるのを、今か今かと待っている。ド派手にスモークが焚かれ、ライトブルーの衣装を身に纏ったMISIAがステージに登場すると、温かな拍手が送られる。

2019年のWHITE STAGEでも、初登場でありながら素晴らしい演奏を見せてくれた。さて、今年の1曲目はなんだろう?と思いながら、ステージを眺めていると、歌われたのはなんと“君が代”だった。オリンピック開会式で歌った姿が記憶に新しいが、まさかフジロックで聴けると思っていなかった。もちろん、凄まじい声量で力強く歌われる国歌には鳥肌が立つ。ちなみに、フジロックで“君が代”を歌ったのは、忌野清志郎に次いで2人目である。

“Welcome One”は今年リリースされたばかりの一曲。女性ダンサー2人が左右で踊り、視覚的にも楽しめる。名曲“陽のあたる場所”では、目の前にいる観客たちの反応を楽しむべく、ステージを歩き、手を振りながらも相変わらずの歌唱力を保ち続けるMISIA。アーティストやバンドの価値は歌の上手さだけでは決まらないけれど、MISIAは上手い・下手すら超越している。この人、身体すべてが声帯なんじゃないか?改めて言う必要もないかもしれないが、日本中を魅了した声は伊達じゃない。それだけで説得力があるのだ。

“Smile”、“Over The Rainbow”とカバーが続くと、ゆっくりと“Everything”のイントロが流れる。会場にいた方、配信を見ていた方のなかにも、期待していた方は多いのではないだろうか。もう何度も聴いてきた1曲ではあるけれど、実際のMISIAの声量をリアルに感じると、彼女の持つ歌のパワーに圧倒される。

ピアノの音が丁寧に切なく響く“アイノカタチ”に、恐らく今年のフジロックでもっとも高い高音をポップに響かせた“好いとっと”。“Can’t take my eyes off you”のカバーも嬉しい。思わず、身体を揺らし、ステージを見入ってしまう。それから、題名通り、レインボーの照明が眩い”SUPER RAINBOW”でも圧巻の歌声には、思わずうっとりとしてしまう。

バンドメンバー紹介のあとは、最後の曲の前に「言いたいことはこれだけ」という前置きのあと、咆哮の如く叫ばれた「コロナのバカヤロー!!!」という声。MISIAといえば、素晴らしい声域に声量であるが、普通に叫ぶだけでもこんなに馬鹿でっけえ声が出るのか……。どうやら、ホワイトステージ辺りにまで声が届いていたらしく、こんなMCひとつを取っても改めて素晴らしいシンガーだということを思い知る。

それから、“歌を歌おう”を力いっぱい歌い、ステージを去っていくMISIA。この曲は、8月21日から行われた24時間テレビのために作られ、その日にリリースされた最新曲である。「歌を歌おう」「涙はこれで終わりにしよう」という前向きな歌詞は、今の時代の希望となる歌であるように感じられた。しっとりとしたバラード調は最後にはちょうどいい。

昨日リリースされたばかりの超最新シングルから誰しもが知っているであろう名曲、カバーまで、少しでもMISIAを知っている人であれば十二分に楽しめるド直球のステージになった。

]]>
クロワッサンサーカス http://fujirockexpress.net/21/p_933 Sun, 22 Aug 2021 12:23:48 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=933 定刻になり、ハットをかぶった5人のメンバーが登場する。コントラバス、ギター、トロンボーン、ドラムが位置につくと、メンバーひとりが韓国伝統音楽の太鼓を持ち、頭の白いリボンを回しながらステージを走り回る。
クロワッサンサーカスはただのサーカス団ではない。音楽にあわせて芸を行うため、一度で二度美味しいというか、音楽が好きである人こそ、楽しむことができるんじゃないかと思う。

メンバーが続々と出てきて、前方に位置する4人が台の上へと乗り、ダンスをしながら倒立を行う。時には身体が平行になるよう腕で支えたり、連なる障害物の上に乗って倒立をしつつポーズを取る、バランス感覚や重力はどうなっているのだろう。「おお!」という言葉が出せない分、大きな拍手が送られる。夢中になって彼らの芸を見かける子どもたちの表情もかわいらしい。

ちょっと間抜けで愉快な音楽に合わせてスティックで小さな傘を自由自在に操ったり、わざと失敗してみたり。ひとつの短い劇を見ているようでふふっと笑いそうになる。
お次は、ポールダンス。ゆっくりとしたメロディーのなか、ステージの端に立つポールに女性が昇り、自由に動いていく。時に上って降り、片腕や片足、到底人間には不可能であろうポーズで自身を支える。男性と2人でお互いに支え合い、ポーズを取る姿には人体の身体の仕組みを感じてしまう。正直に言ってしまえば、どのような仕組みになっているのか、まったく理解ができなかった。

そのあとは、横に置かれた円柱の上に置かれた板に立ち、足元ではバランスを取りながらのジャグリングが披露される。時には膝をついたり、逆立ちをしたりと自由自在にパフォーマンスを行う姿は目が離せなかった。

突然降り出した大雨のせいで、本来1時間あったステージが残念ながら30分程度で終わってしまう。苗場の天気は変わりやすい。仕方のないことではあるけれど、後ろ髪引かれる思いで雨宿りをする。「また来年、会いましょう!」という言葉通り、当たり前の日常を取り戻したフジロックで彼らの作り出すお洒落でノンバーバルなサーカスを満足のいくまで見たい。

]]>
LEARNERS http://fujirockexpress.net/21/p_932 Sun, 22 Aug 2021 11:42:55 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=932 穏やかなPyramid Gardenに登場するLEARNERS。まずは、“WATER THE FLOWERS”、“LET ME IN”と軽快ないリズムに沙羅マリー(Vo)のキュートな歌声にダンスが会場の空気を徐々に温めていく。
LEARNERSは、やっぱり最強のパーティーバンドだ。ライブはいつだって飛び跳ねながら楽しみたい。ポジティブ全開のライブは、どんなときに見ても楽しませてくれる。

1日目に出演したドレスコーズのギタリストでもある堀口チエ(Gt)のギターソロが気持ちいい“GO AWAY DON‘T BOTHER ME“は、音に身を任せて踊りたい。それから、堀口がボーカルを務め、沙羅との掛け合いが楽しい“GOTTA LOT”に、ムーディーな雰囲気がたまらない”FOOLS FALLIN LOVE“。声は出せないが、観客が手をあげ、その場でジャンプをしたり、クラップ&ハンズで反応を返したりと、それぞれの楽しさを体現しているように見えた。

“TEENAGERKIKS” では、浜田将充(Ba)がまっすぐに歌い、ベースを置きざりにし、マイクひとつで「手えあげろ!!!」とシャウトをする。ボーカルが曲によってり、さまざまな表情を見せてくれるのも、LEARNERSの魅力のひとつなのだろうな、と思う。堀口のうねるギターソロもたまらなかったし、会場に飛ぶシャボン玉がグッと雰囲気を引き立てている。
サポートメンバーのトランペットがアクセントとなる“WHIPER BLUES”、シリアスな雰囲気のなか力いっぱいに沙羅が歌いあげる“シャンブルの恋”。夜の曲ではあるけれど、ゆったりとした午後のPyramid Gardenの雰囲気にはぴったりの“WALKING AFTER MIDNIGHT”と、今日という特別な一日を飾る曲が続く。名曲“恋はヒートウェーブ”のカバーもうれしい。

「今日くらいはお疲れ様って思ってもいいよね」という言葉のあとにはトランペットの音が気持ちよく響く、アイリッシュ調の“つきかけ”。夏の終わりを感じさせる“SHAMPOO PLANET”に、終わりに相応しく、祈りを込めて“ALLELUJAH”がゆっくりと歌われた。

全18曲。LEARNERSはいつも充実感を与えてくれる。どこまでも楽しさが突き抜けたピースフルなライブであった。

]]>
THE SPELLBOUND http://fujirockexpress.net/21/p_873 Sun, 22 Aug 2021 09:32:05 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=873 静かにステージに現れ、まずは、“なにもかも”が演奏される。背後の液晶には、まっすぐに赤いラインが引かれ、4つのスポットライトがそれぞれのメンバーに当てられる。最初の一音を聴いただけで、思わずぶわっと鳥肌が立つ。
そうだ、今日はフジロックの2日目。ヘッドライナーが終わり、本来ならばこれからが本番という時間帯である。人だって最も多い夜だ。日常から離れ、ビールのカップを片手に持ちながら、容赦のない低音に身を任せて朝まで踊り狂う。2年ぶりだし、いつもとは少し異なる2021年のフジロックではあったが、そうそう。これだ。深夜のRED MARQUEEはこうでなくちゃ。空気を揺らす爆音に低音、この空間にいるだけですり減っていた体力も精神力も戻っていく。
“名前を呼んで”へは個性のぶつかり合う福田洋子(Dr)と大井一彌(Dr)のドラムに小林祐介(Vo/Gt)のシャウト。走り出したくなるサウンドは、演出の効果もあってか、RED MARQUEEの空間そのものが更に広がる感覚というか、ひとつの大きな楽器のなかに入り込んだような感覚になる。

次に演奏されたのは、“はじまり”。観客を置いてけぼりにしてしまいそうなほどの圧倒のライブですっかり忘れてしまいそうにはなるが、実はこのバンドは、中野雅之(Programming)と小林祐介による2020年に始動したばかりのまだ新しいバンドだ。更に言えば、この日は2度目のライブとなる。この曲は、3カ月連続配信リリースの1曲目。まさに新たな物事がはじまっていくことを表現した曲なのだろう。
左右から攻め込むような強烈なツインドラムに、優しく伸びる小林の声。時折聴ける、裏声も気持ちいい。歪んだギターや奥行きを出す重なったシンセサイザーの音が惹き込まれ、思わず身体も自然と揺れる。広がり続ける空間にミラーボールが回り、まるで小さな宇宙に浮かんでいるよう。彼らのライブだけではなくて、これからの未来に対する「はじまり」を体現しているかのようでもあった。

クラップ&ハンズも起こり、波のように襲い掛かるドラミングに負けじと中野と小林が各々の音をかき鳴らす“YUME”のあとには、BOOM BOOM SATELLITESの“BACK ON MY FEET”の演奏が始まる。福田のあのスネアの音に注がれる中野のスタインバーガーのベース音が加わり、ぶつかり合うような激しいサウンドがたまらなく心地いい。
先日のLIQUID ROOMの公演でも披露されていた。だから、予想はできていたけれど、やっぱりフジロックの会場で聴けるのはうれしい。中野さんがまたバンドをやってくれるだなんて思っていなかったし。もちろん、同じバンドではないのだけれど、こうして再び聞くことができるのも嘘みたいだ。THE SPELLBOUNDには、THE NOVEMBERSの小林とDATS/yahyelの大井という下の世代が加入している。全体を通じて、特にこの曲を聴いていると、中野が2人を大いに信頼し、さまざまなバトンを渡そうとしているのがわかる。

ラストの“Flower”のあと、ステージからはけることなくそのままアンコールとして“おやすみ”がはじまる。夜も更け、2日目の最後に相応しい、ゆったりとした1曲。大きな音に優しく包まれ、子守歌のようでもあった。

メンバーのそれぞれが第一線で活躍しているのだから当然ではあるのだが、2回目のライブにして向かうところ敵なしというか。この音楽だけで、どこにでも行けるような、何にでもなれるような気持ちを抱いてしまう。RED MARQUEEの夜には、必ずとんでもないアーティストがいて、毎度のように腰を抜かすのだが、それはいつもと違う2021年のフジロックでも同じだったな。メンバー全員がステージを去るまで、観客たちからは惜しみのない大きな拍手が送られた。

]]>
秋山黄色 http://fujirockexpress.net/21/p_858 Sun, 22 Aug 2021 04:22:40 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=858 早いものでフジロックも最終日。“Opening”が流れると、トップバッターを務める秋山黄色が、テレキャスターを片手にステージの中央へと駆けていく。

1曲目は、“Caffeine”。思っていた以上に暑苦しいバンドサウンドというか、きちんとロックど真ん中であることが感じられる。のちのMCでも語られることになるが、以前からフジロックへの出演を目標の一つにしていた秋山。一音一音に感情が込められ、かき鳴らされるギターの音。もちろん、WHITE STAGEには初見の人はいたとは思うが、掴みは完璧!J-POPらしさを含んだ親しみやすさにサビの裏声も爽やかに響く。
「フジロック!!よろしくお願いします!!」という気合いばっちりの挨拶のあとの“アイデンティティ”では、クリアな声にキャッチーなギターのフレーズが耳に残る。音源を聴くとシンセを活用したデジタルな音にクールな印象を抱くが、ライブで聴くこの曲は秋山の感情がまず押し出されるというか、時折聴けるシャウトやなりふり構わずギターをかき鳴らす彼の姿には、クールな印象なんてほど遠く、力強くエネルギッシュないで立ちであった。そのがむしゃらな様子が何より熱くてかっこよくて、彼の音楽への姿勢を示すようであった。

「いまだに実感がわかないままここに立てています」というファンへの感謝を口にし、ギターサウンドが印象的であり、会場全体を大きく揺らした“Bottoms call”に、シンセやパッドとともに変化していくリズムが楽しめる“ホットバニラ・ホットケーキ”。

「フジロックが開催できて本当にうれしいです」「音楽に費やしたお金や時間、僕はかなり早い段階で就活だって諦めていたし、僕には音楽しかないんです。ライブに行く時間とか楽しい気持ちとか、ストラップをかけた瞬間とか、そういう思い出を必要なかったなんて言えません」「音楽はなくならないし続くし、俺が続けるし、来年もフジロックにまた出ます!」と、音楽が好きで好きでたまらなかった栃木出身のひとりの少年が、フジロックのWHITE STAGEに立つまでの過程を勝手に想像し、勝手にこちらまで泣きそうになってしまう。音楽だけではなくて、言葉のひとつをとっても人の心を動かしてしまう力があるのだろう。

クラップ&ハンズが起き、ステージの前方に乗り出してギターを弾く秋山の姿が強く記憶に残る“とうこうのはて”では「皆さんのおかげで借金は少し減りました」という嬉しい報告には笑いそうになる。
最後の“やさぐれカイドー”に前には、「本当は言いたくないんだけど…」と前置きをしたあと、秋山の豆知識として、この曲を3~4年前のROOKIE A GO-GOのオーディションに送り、音源審査に落とされたことを話してくれた。つまり、この曲はセンスを持ち合わせていなかった当時のフジロックへの怒りと皮肉が込められた曲でもあるのだろう。ある意味で復讐の1曲なのだ。四つ打ちのドラムに雄々しいコーラス、地面を蹴りつけ、感情の赴くままにギターをかき鳴らし、時にはステージに倒れ込んで、この日までにため込んださまざまな喜怒哀楽・エネルギーをこの場所にすべて置いていく。

初登場にしてはできすぎたくらいのステージだったように思う。来年こそは、ビールを片手に自由に楽しめるいつものフジロックのなか、アグレッシブに歌い、感情をむき出してギターを弾く秋山黄色が見てみたい。

]]>
野田 洋次郎(RADWIMPS) http://fujirockexpress.net/21/p_928 Sat, 21 Aug 2021 12:35:44 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=928 日が落ち切り、ステージ上のキャンドルがきれいに揺れるピラミッドガーデンには、たくさんの人が演奏を待っている。
1日目のヘッドライナーを終え、充実した90分間のステージを見事に走り切ったRADWIMPS。そのフロントマンである、野田洋次郎のアコースティックライブが始まろうとしていた。

ステージの前方はほとんど座り、まったりとした雰囲気のなか野田が登場すると、パラパラとした拍手も起こる。「ゆるく楽しんでいってください」という声とともに、ピアノの音で演奏がはじめられたのは、“おあいこ”だった。この曲は、野田がハナレグミに楽曲提供をした一曲である。セルフカバーという形で、ハナレグミの永積崇とはまた異なる声の質でゆっくりと会話を楽しむように歌われる歌詞が、身体の芯にまで静かに染み渡る。

次に演奏されたのは、1日目にも演奏された“トレモロ”。「満天の空に君の声が 響いてもいいようなきれいな夜」という歌詞でこの曲は始まる。この日の天気はあいにく曇りで、決して「満天」とは言えなかったけれど、徐々に深くなっていく夜にはぴったり。バンドサウンドで激しくアグレッシブに奏でられた昨日の様子と対比できるのもうれしい。ピアノの繊細な音と野田の声のみというシンプルな構成で聴けば、また新たな表情を見せてくれるようでもあった。

ハナレグミの“光と影”、1日目出場した手嶌葵の“テルーの唄”とカバーが続く。「何歌おうかな?自分の曲がいい?カバーがいい?」と、お客さんにリスエストを聞く野田。MCをじっくりと聞いてみると、どうやらセットリストもきちんと決められている訳ではなく、その場で、ほとんどが思いつきみたいな形で演奏がされるらしい。これにはちょっと驚いたのだが、野田自身の人間性というか音楽性というか、まったりとした空間のなか、普段のライブでは味わえない新たな表情がうかがえるような気がした。

THE BLUE HARTSの“1000のバイオリン”に玉置浩二の“メロディー”。フジロックの意味や意義を加味しているとは思うが、野田がどんな音楽に影響を受けたのかが想像できる。どこかで耳にしたことのあるような名曲がピアノやアコースティックギターの柔らかな音に乗せられ、リラックスしたまま聴き入ってしまう。

それから、熱のこもったピアノと美しい高い歌声が印象的な“そっけない”、「今日、急遽やりたくなったんだよね!」と観客たちのクラップ&ハンズに合わせてロマンチックに歌われたFishmansの“いかれたbaby”。ラストは、セルフカバーという形で“週刊少年ジャンプ”が歌われる。

昨日とは打って変わって、まったりと、のんびりとした雰囲気。野田自身もPyramid Gardenの雰囲気が好きだと途中のMCで述べていたし、肩の力を抜き、終始リラックスしながらの演奏だったように思う。RADWIMPSや野田洋次郎のさまざまな表情を垣間見ることのできた1時間のステージであった。

]]>
AJICO http://fujirockexpress.net/21/p_849 Sat, 21 Aug 2021 08:50:10 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=849 フジロックの出演者にAJICOの名前を見たとき、ひどく興奮したのを覚えている。AJICOと言えば、浅井健一(Gt&Vo)とUA(Vo)を中心に結成され、2001年に活動を休止している。その後、2021年には活動を再開し、新しい音源をリリースした。だからもちろん、ちょっと期待していた部分もあったのだけれど。
AJICOは活動の時期が短いこともあり、20年の年月を経て再結成をしてから、もしくは今回のフジロックで初めてライブを見るという方も多かったのではないだろうか。WHITE STAGEには、そんな彼らの姿を一目見ようと、多くの人が集まっている。

SEのないまま、浅井健一、TOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)、それからサポートメンバーの鈴木正人(Key)がステージに現れ、それぞれの位置につく。まずは、キーボードの爽やかなサウンドが心地いい“ぺピン”。曲が鳴らされ、登場するUAは腰の位置に長いロープがあしらわれた白地のドレスを身に纏い、髪は蛍光色のカラフルなゴムで結わいている。腰についた長いロープをぶんぶん振り回し、少し踊りながらステージを歩くUA。正直、こんなドレスUAくらいしか着こなせないだろうな……なんて思ってしまう。

TOKIEと椎野のどっしりとしたサウンドにベンジーのお馴染みのグレッチのサウンド、中央にはUAがいて、もうそれだけで絵になる。豪華オールスターみたいな人たちが組んだバンドなので、当たり前ではあるが。“ぺピン”は2001年にリリースされた曲なのに、UAもベンジーも不思議なくらい歌声が年を取らない。場の空気を支配するようなUAの声に、セクシーなベンジーの声。もうこれだけでも十分すぎるくらいのライブになっている。

ベンジーの歌声に身を任せて聴き入ったTHE SHERBETSの“Black Jenny”のあとは、2001年にリリースされた『深緑』から、“波動”、“美しいこと”と、ファンにはたまらない曲が続く。やっぱり、大自然のなかで、しかも苗場で聴くUAの歌声は特別だな、と思い知らされる。どこまでも響き、表現力が豊かな歌声は聴いているだけで清らかな気持ちになれる気がする。
それから、“悲しみジョニー”に”水色”。UAとBLANKEY JET CITYの曲が演奏される。先ほどの“Black Jenny”も同じく、AJICOの曲だけではなくて、ベンジーとUA、それぞれの曲をセルフカバーという形でAJICOのバンドで聴けることが嬉しい。ソロのときとは異なった新たな表情が見せてくれたのではないだろうか。

今年発売された最新アルバムからは、キーボードサウンドがアクセントとなる“地平線 Ma”と、メランコリックなベースが響く“接続”。全身で浴びるすべての音が心地よく、身体を揺らしながら、聴き入ってしまう。
簡単なメンバー紹介を終えたあとは、“Lake”と“深緑”と、ベンジーとUAの掛け合いのような歌が心地よい。メンバーがステージを去っていくメンバーには、大きな拍手が送られた。いや~贅沢すぎた。思い返す度に、ライブの魅力で胸が溢れ出そうになる。メンバーそれぞれが第一線で活躍し続けているからこそ、バンドとしての魅力を十分に引き出した充実の時間だった。

]]>
カネコアヤノ http://fujirockexpress.net/21/p_850 Sat, 21 Aug 2021 07:37:09 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=850 会場のBGMが止み、正午ぴったりのWHITE STAGEにメンバーとともにカネコアヤノが颯爽とステージの中央に歩いていく。

まずは、“抱擁”。晴れた苗場の空気に相応しく、ゆったりと演奏が始まる。優しくロマンチックなメロディーにカネコの力強い歌声が、まっすぐどこまでも伸びていく。ああ、この声を聴くために、ここまで来た価値はあったよな。彼女の歌声は、実際に目の前で聴き、その姿に圧倒されることに大きな意味があるのだと思う。小さな体のどこにそんな大きなパワーを持ち合わせているのだろう。カネコの声が、会場の遠くにまで伸び、観客それぞれの胸に飛び込んでくるようだった。

フジロックでの彼女の姿といえば、18年の木道亭でのライブの様子が懐かしく思い出される。木々に囲まれたステージの中でかき鳴らされるアコースティックギターの音、芯のある歌声。小さなステージには大勢の人が集まり、この日のちょっとした話題になったのも記憶に新しい。それから、大晦日に行われたKEEP ON FUJIROCKIN‘Ⅱも忘れてはならない。配信ライブのみになってしまったのは残念ではあったが、コメント欄を見ていると、彼女のパンキッシュないで立ちに魅了された人が多くいたように思う。
カネコアヤノの魅力ってなんだろう?そんなものたくさんあるのだが、やっぱりライブでの勇ましい姿なんじゃないかと思う。

カネコが身体をのけ反らせながら発せられる美しい裏声を聴くことのできた“花ひらくまで”、なんでもない瞬間を繊細に歌う“ごあいさつ”、爽やかなメロディーが印象に残る“セゾン”と、こちらを圧倒するには十分だった。カネコの曲といえば、誰しもが経験するような有り余る日常が中心にあるのだと思う。そこに林弘敏(Gt)、本村拓磨(Ba、ゆうらん船)、Bob(Dr、HAPPY)の3人が加わりバンドサウンドになることによって、その小さな世界が広がりを見せる。当たり前だった日常に、少し異なった視点が加わる。かわいいとか女の子がとか、それだけじゃなくて、目の前の演奏に飲み込まれそうになるほどかっこいいのだ。

ゆっくりと始められた“祝日”でカネコのシャウトに気持ちがぐっと惹き込まれ、“爛漫”ではギターを身体全身かき鳴らすカネコの姿が印象に残っている。観客も身体を揺らすとか、手をあげるとか、何かアクションをする暇もなく、ただただ目の前のステージで繰り広げられる光景を固唾を呑んで眺める。全身を使い、音楽ひとつで勝負するカネコの姿を、瞬きとか余計な動きで見過ごしてしまうのがもったいない。

最後には、“アーケード”が演奏される。本村とBobの骨のある大きなサウンドに負けぬよう大声で歌われる「すべてのことに 理由がほしい」という歌詞に、いつもながらやられてしまう。林のギターソロも心地いく響く。手の取れるくらいすぐ近くの日常を歌うカネコ。その当たり前を、己の魂の削り取るように、全身で体現するその姿は圧巻であった。
「ありがとうございました!!!」と深いお辞儀を2度繰り返し、ステージを早々と去っていくカネコ。MCは一切なく、音楽一本のみで挑んだ姿が潔く、どこまでもかっこいい。やっぱり、カネコアヤノは勇ましくってかっこいいのだ。彼女の力強い歌声と柔らかなメロディーに包まれ、終了後もしばらく余韻に浸っていたいお昼のWHITE STAGEとなった。

]]>