“梶原綾乃” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '21 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/21 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Tue, 02 Aug 2022 05:24:20 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.18 誰もが真剣に向き合い、決断を迫られた「コロナ禍のフジロック」 http://fujirockexpress.net/21/p_5816 Tue, 31 Aug 2021 08:53:35 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=5816  いつも通りなら、エキスプレスの締めくくりとなるこの原稿の巻頭を飾るのは、すべての演奏が終了した会場最大のグリーン・ステージ前で、満面の笑みを浮かべるオーディエンスの写真となるはずだった。が、今年は撮影さえもしていない。例年ならば、この時間帯、巨大なスピーカーから放たれる名曲、ジョン・レノンの「Power To The People」でみんなが踊り狂うことになるのだが、それが聞こえてくることもなかった。それに代わったのはMC、スマイリー原島氏の挨拶と締めの一言「Power To The People」だけ。オーディエンスの興奮に水を差すのは承知の上で、現場が最後の最後に彼らに対して「ゆっくり静かにフェスティヴァルの幕を閉じるようにお願いしよう」と判断したからだ。

 コロナ禍でのフェスティヴァル開催という、きわめて特殊な状況の下、例年とは全く趣を異にする光景が、始まる前から様々な場所で見え隠れしていた。越後湯沢駅に向かう新幹線から会場へのシャトル・バスでも同様で、いつもなら、嬉々とした表情を浮かべて仲間とはしゃいでいるはずなのに、誰もが言葉少なに見える。彼らが互いに適度な距離を開けて整然と列に並び、苗場を目指しているのだ。今回のフジロックを開催するに当たって、参加するお客さんから、全スタッフ、関係者に伝えられていたのが感染防止ガイドライン。それを彼らが徹底して守ろうとしているのが見て取れる。

 フジロッカーにとってはおなじみの、オアシス・エリアのど真ん中に姿を見せるはずのやぐらは見当たらず、それを囲んで、地元生まれの「苗場音頭」を大音響でながしながら、みんなが輪を描いて踊る光景もなかった。それが今年のフジロック開催前夜。過去10年以上にわたって続けられてきたというのに、レッド・マーキーで、「おかえり!」と声をかけて、「ただいま」と応えるみんなの記念撮影をすることも、もちろん、なかった。本来ならば、フジロックを愛する人達が待ちに待った時間の到来に、彼らの興奮が一気に爆発するのが前夜祭の開かれる木曜日の夜。しかも、前年の開催が延期されての2年ぶりだというのに、きわめて静かな幕開けとなっていた。

 公式に「前夜祭はない」と発表されてはいたものの、唯一それを感じさせてくれたのは、直前までやるのかやらないのか全く知らされなかった花火ぐらいかもしれない。例年なら、ここで大歓声がわき起こり、否応なしに「祭り」の始まりを感じさせてくれるのだが、そんな反応は一切なかった。最初の一発が打ち上げられたとき、わずかに驚きの声が聞こえ、涙を流す人がいたという話も耳に入っている。が、誰もが夜空を飾る花火をなにやら厳かに見上げていたように思う。拍手はあったかもしれないが、シ〜ンと静まりかえった会場で、花火の音と光だけが響くという、どこかで「特殊なフジロック」を象徴するかのような光景が目の前に広がっていた。おそらく、誰もがここまでたどり着くのが簡単ではなかったことを察していたのではないだろうか。


Photo by 安江正実

 当初、ライブハウスなどからクラスターが発生したことも影響したんだろう、感染拡大を誘発する場所として、ライヴ・エンタテインメントの場所がやり玉に挙げられ、そういったものが知らない間に「不要不急」を象徴するものであるかのように語られ始めていた。数多くのライブハウスが閉店を余儀なくされ、ミュージシャンや演劇人が作品の発表の場を奪われたのみならず、照明や音響の技術者が職を失っていた。さらには大規模なコンサートからフェスティヴァルが次々と延期やキャンセルの憂き目にあう。もちろん、感染拡大は阻止しなければいけない。が、同時に、音楽のみならず文化とは生きることに必要不可欠な要素であり、それを否定することはできない。その集大成としてフェスティヴァルという文化が存在する。とりわけ、それが日本で生まれ、成長していくきっかけとなったフジロックを根絶やしてはいけないという思いが主催者、関係者、そして、フジロッカーにはあったということだろう。

 それだけではなかった。昨年、フジロックが延期を発表した頃、町内から「なんとか開催できないか」という打診があったという噂を耳にしている。その理由はフジロックで生まれる経済効果であり、それが断たれることが地元に計り知れない影響を与えることになる。それが二年も続けば壊滅的な打撃を受ける可能性も否定できない。だからこそ、地元と主催者が開催に向けた方法を模索し始めるのだ。その結果として、可能な限り徹底的な感染予防策を築き上げ、観客には不自由きわまりないがんじがらめの感染予防ガイドラインを提示することになる。しかも、本来のキャパシティのほぼ25%程度にまで規模を縮小。結果として1日の最大動員数は1.4万人弱と、一般的なスポーツ競技で日本武道館をほぼ満杯にした程度にとどまることになる。

 これで採算が取れるんだろうか? しかも、感染問題に絡んで参加に不安を感じている人達や体調がすぐれない人達へのチケット払い戻しにも対応している。加えて、チケット購入者にコンタクトをして、希望者には抗原検査キットを発送し、大多数の人たちがそれに応えていた。が、それでもまだ不安だと、目指したのは100%。必要とされる膨大な数の抗原検査キットを集めるのに東奔西走したという話が伝わっている。さらに、会場内の救護テントに加え、バックヤードには数多くの医療関係者や民間救急搬送車3台を待機。また、会場入りする前に全スタッフがPCR検査を受け、陰性であることを証明してからでないと、苗場入りできない取り決めをしていた。加えて、長期滞在するスタッフは定期的に抗原検査を繰り返す。さらに、すでに会場入りしていても、自宅の家族で濃厚接触者が報告されると速効で会場を追われ、陰性であることを証明することなく現場復帰はできなくなっていた。ちなみに、観客のみならずスタッフも全員が毎日検温チェックを受けないと、会場に入ることもできないことになっている。どこかの新聞が「厳戒態勢」という言葉を使っていたのだが、まさしくその通りだろう。


Photo by 粂井 健太

 下手をすると、今年は最もフジロックらしくないフェスティヴァルになるかもしれないという危惧があった。どこかで自由と自主性が魅力となっていたフジロックだというのに、感染対策に絡んで「がんじがらめ」のルールを守らなければいけない。しかも、コロナ禍での開催ということもあり、海外からのアーティストは皆無。会場を演出するUKチームの来日もできなかった。なにやら、フェスティヴァルと言うよりも、緑に囲まれた野外コンサートでしかないかもしれない。さらには、場内でのアルコール販売が禁止され、中心部から離れた場所にごくわずかに用意された喫煙所を除いて全面禁煙となっていた。1997年にフジロックが始まった頃から、毎回出店していた、オアシス・エリアの顔のような存在となっていたバーやお店の数々が出店をキャンセル。すでに「ここに来れば顔を合わせることができる」友人や仲間たちが参加を断念するにいたるのだ。

 誰もが苦渋の決断と選択を迫られていた。特に大都市を中心に新型コロナウイルス感染者が急増し始めると、「なんとか開催してほしい」という声と同じように、「中止すべき」という声も多くなっていった。出演を予定していたアーティストやパフォーマーに対しても、様々な声が寄せられ、参加しようとしていた個人も揺れ動いていた。その結果がなにであれ、ひとりひとりが真剣にフジロックに向き合い、判断したことに敬意を表したい。来てくれたみなさんにも、今年は来るのをやめたみなさんにも、ありがとう。中止すべきだと主張した人にも、開催すべきだと声を上げた人達にも、出演してくれたアーティストにも、出演辞退をした人達にも、ありがとう。そういった反響に感じるのは、多くの人たちにとってフジロックが大きな存在になっていること。だからこそ、真剣に向き合って、彼らが導き出した判断に最大限の敬意を表したいと思う。

 会場では感染予防ガイダンスを守ろうとするオーディエンスに圧倒されることになる。少なくとも、喫煙所やフード・テントを除いて、マスクをしていない人にはお目にかからなかった。しかも、ここで食事をしていて気付くのだ。ほとんど会話が耳に入ることはなかった。「黙食をお願いします」と書かれている注意書きを守ろうとしているのが、痛いようにわかるのだ。久々に仲間と会って握手をしたり、抱き合いたい気持ちがあっても、それを躊躇して肘や拳で挨拶。マスク越しに語り合う人はいても、大声で話す人にはお目にかからなかった。また、水分補給などでマスクを外すときも、周辺に人がいないことを確認してそうしているのが見て取れた。

 ふつうならグリーン・ステージ外にMCを置くことはなかったのだが、今回は全ステージにMCを配し、演奏が始まる前に必ずオーディエンスに呼びかけていたことがある。

「必ず鼻を隠すようにマスクをして、声は出さないでください。安全な距離を保つために地面に記されたマークを確認してください。ステージ前では水分補給用のペット・ボトルなどを除いて、飲食物を持ち込まないでください」

 MCにはそのマニュアルが渡され、毎回オーディエンスに訴えかけるように義務づけられていた。そうして飛沫や接触による感染を防ごうとしているのは言うまでもない。

 そのおかげで目撃するのは、おそらく、フェスティヴァルやライヴでは前代未聞の光景だっだ。どれほどライヴが白熱しても、ほとんど歓声が聞こえることはなく、聞こえてくるのは拍手や手拍子のみ。それでも、その想いがステージ上に伝播するんだろう。加えて、悩み抜いてここに来る決断をしたアーティストの想いがそこに重なって、誰もがとてつもない熱を感じさせるパフォーマンスを見せていた。それは数えるほどのオーディエンスしか目に入らなかったちっぽけなステージであろうと、幾分の違いもなかった。今年は、会場入りを断念した数多くの人達がYouTubeでそれを目撃することになるのだが、演奏の素晴らしさを支えていたのはこの場で生まれた、えもいわれぬエネルギーのたまものではなかっただろうか。


Photo by MITCH IKEDA


Photo by Eriko Kondo

 今年は、珍しく、チーフ・プロデューサーの日高大将が二度、グリーン・ステージに立っている。昔からフジロックを支えた二人の仲間が他界したことを告げたのが初日、そして、最後、日曜日のトリを務めた電気グルーヴの前。そこで彼がオーディエンスから感じたのは「なんとかしてフジロックを支えようとする人々の熱気だった」という。それが端的に表れていたのは彼らが感染防止ガイダンスを守り続けたことのみならず、まるで1999年の苗場で起きた奇跡の再現でもあった。すべてが幕を閉じた後、会場にはほとんどゴミが落ちていなかったという。ゴミ・ゼロ・ナビゲーションを訴えて、活動しているiPledge(アイプレッジ)が毎日、会場に落ちたゴミを拾い集めているのだが、各所に設置された収集箱を除いてほとんど仕事がなかったという嬉しい話も届いている。

 フェスティヴァルが終わった8月24日に発表された主催者からの公式声明によると、その時点で「会期中の会場においてひとりの陽性者も確認されていないこと」が伝えられている。もちろん、それで完結してはいない。「今後も、時間経過と共に情報収集に努め、その結果をあらためて皆様へご報告し、未来のフェスティヴァルにおける感染防止対策の改善につなげてまいります。」と続いている。また、振り返るには早すぎるかもしれないが、完璧を目指したすべての関係者、地元のみなさん、そして、全国から会場にやって来ることができた方々や来られなかった方々にも、批判した方々にも、ここまでたどり着けたことを感謝したいと思う。

 台風に襲われて惨憺たる状況を経験した1997年開催の第一回目から、その存続が問われる大きな試練となったのが苗場に場所を移して最初の1999年。「ロック・フェスティヴァルは危険だ」という偏見に対して、互いを思いやり、愛し合うことを行動で示すことによって、会場どころか、苗場の町からお世話になったホテルや民宿でゴミひとつ落ちていない「奇跡」を形にしていた。これが「地元と共にフェスティヴァルを育てる」という流れを生み出している。それ以降、同じように台風や記録的な豪雨といった幾多の試練を乗り越えて成長してきたとは言え、今回直面したのは前代未聞のウイルスによる危機だった。前述のように、まだまだ結論を導くには早すぎるのは十分承知の上で、関わるすべての人達が可能な限りの知恵と努力で「奇跡」を目指した今年は、フジロックの歴史を語る上で無視できない1年となったことは言うまでもないだろう。

 どこかで様々な意見や考え方の違いが音楽界で分断を引き起こしているという声も耳に入る。が、フェスティヴァルを愛する人達が、多様性を認めるのは当然であり、互いを尊敬し、受け入れて、そこからよりよい選択肢へと自らを導いていくべきだと思う。その上で、今回の経験を糧に、来年を目指したいと思うのだ。このウイルスによる影響がいつまで続くのか、誰にも予測はできないかもしれない。いつか、そんな心配をすることもなく、苗場でみんなとまみえることがある日を願って、今年のエキスプレスの幕を閉じたいと思う。

 なお、ガイダンスに則り、感染を防ぎながら取材をしなければいけないという難しい状況のなかで、動いてくれたスタッフに最大限の賛辞を贈りたい。マスクやフェイス・シールドの用意はもちろん、安全な距離を保ちながらの取材は簡単ではなかったはず。また、独自に用意周到な感染対策を生み出してラウンジを運営したスタッフにも頭が下がる。心の底から、ありがとう。

 今年動いてくれたスタッフは、以下の通りです。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/21/
フォトグラファー:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、MITCH IKEDA、アリモトシンヤ、安江正実、粂井健太、白井絢香、HARA MASAMI、おみそ、suguta、シガタカノブ、佐藤哲郎
ライター:丸山亮平、阿部光平、石角友香、あたそ、梶原綾乃、阿部仁知、近藤英梨子、イケダノブユキ、三浦孝文、東いずみ

■英語版(http://fujirockexpress.net/21e/
Laurier Tiernan, Jonathan Cooper, Nina Cataldo

フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、obacchi、藤原大和

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、坂上大介(デザイン)、迫勇一

スペシャルサンクス:三ツ石哲也、若林修平、守田 昌哉、Park Baker、そして、観客を守るために奔走してくれた全スタッフ、試練を乗り越えてフェスティヴァルの素晴らしさを伝えてくれた観客のみなさん。

プロデューサー:花房浩一

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fujirockers.orgとは1997年のフジロック公式サイトから独立した、フジロックを愛する人々のコミュニティ・サイト。主催者から公式サポートを得ているが、独自取材で国内外のフェスティヴァルからその文化に関わる情報を発信。開催期間中は独自の視点で会場から全方位取材で速報を届けるフジロック・エキスプレスを運営。
http://fujirockers.org/
MerdekaTogel

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millennium parade http://fujirockexpress.net/21/p_839 Fri, 27 Aug 2021 15:00:25 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=839 ミュージシャン、映像ディレクター、CGクリエイター、デザイナー、イラストレーター……属している肩書やバンドの垣根を超えたビッグ・プロジェクト、それがmillennium paradeだ。いまや国民的なロックバンドに化けたKing Gnuや、PVをはじめ多方面で活躍するクリエイティブレーベルPERIMETRONなどのコミュニティから構築されている彼らは、もはやひとつの生き物であり、城であり、国家であると思う。

彼らを初めて聴いたとき、本当に驚いた。限りなくアンダーグラウンドなのに、オーバーグラウンドの線も見え隠れしている。それに国内よりも、圧倒的に世界に顔を向けているのだ。ふと思い出したのは『Vulnicura』のビョークだろうか。あの悲しみに満ちたストリングスと、全容が掴みきれない音の厚み、どことなく背筋がヒヤッとする気味悪さ……それらに通ずるものを持ち合わせているように感じた。間違いなく、フジロックでトリを飾るタイプのグループだし、とくに今年のトリにはふさわしいと思った。

ホワイトステージ中央には、巨大でのっぺらぼうな鬼のモニュメントが配置されていて、これに映像を投影していくようだ。火野正平扮する琵琶法師の独特な語りから始まるオープニングムービーが始まると、メンバーたちが登場。下手・上手にそれぞれ石若駿(Dr)と勢喜遊(Dr)、加えて下手側からMELRAW(Sax/Gt/Fl/Vocoder)、江崎文武(Key)、新井和輝(Ba)。中央奥にermhoi(Vo)、森洸大(Vo/Agitator/Artdirector/Designer)、佐々木集(Vo/Agitator/Creative director)のヴォーカル&コーラス隊が並ぶ。そしてステージ前方中央、まるでコックピットのような位置に構えるのは常田大希(Producer/Music)……といった感じだろうか。
音源未発表曲“NEHAN”のセッションが始まると、“Fly with me”のブラスが高らかに鳴らされる。「FUCK YEAH FUJI」と表示されたVJのはっちゃけ具合も最高だが、ゲスト登場したHIMIが森・佐々木とともにステージ上を自在に歩き回りながらパフォーマンスする様子もまたクールだった。舞台中央ののっぺらぼうなモニュメントには、同曲PVのキャラクター・Eugeneが投影されていて、映像とのリンクにも目が話せない。

続いて、子鬼たちが画面に現れ、“Bon Dance”へ。線香花火がチカチカと映し出され、百鬼夜行的な世界が繰り広げられていく。ermhoiの歌声は、原曲のころんとした印象よりもスタッカートをきかせていて力強い。石若&勢喜のタイトなWドラムや、メロディを裏から支えるサックスがアレンジに厚みをもたらしている。

そして、のっぺらぼうの顔が膨張したようなエフェクトからの、“Veil”。エレクトロな世界観をどうライヴで再現するのかが気になっていたが、手数多めの繊細なWドラムから、MELRAWの血通ったコーラスなど、ずいぶん肉体的な演奏だったので驚いた。“WWW”(音源未発表曲)では、のっぺらぼうの顔に歌舞伎の隈取りのような模様が出演。やがて、曲に合わせて口を動かしだしたのもクールな演出だった。ラップとジャズが交差するような、楽曲のダイナミックなパワーに酔いしれた。

“Stay!!!”は、原曲のCharaに代わりermhoiがメインボーカルに。曲の世界観はそのままに、完全に彼女のものにしていた。“Philip”に関しても、森がメインを担い、常田のヴォコーダーヴォイスと掛け合うように歌い上げていた。そしてKing Gnuの“Slumberland”、ミレパにおいてはパリッとしたサックスとともに鳴らされ、この夜をいっそうムーディに演出していた。“Trepanation”では、PVのあのキャラクターが映し出され、ワン・ツーとカウントが入り、楽曲へ。映像とリンクする生演奏の息遣いを感じながら、原曲とはまた違う儚げなアレンジが印象的だった。

途中、ゲストでKing Gnuの井口理が登場し、“Fireworks and Flying Sparks”へ。井口の神秘的なファルセットと、常田のハスキーボイスのコントラストに、魑魅魍魎的な映像も相まって、よりカオティックな深みへとズブズブハマっていく。そして極めつけは、やっぱり“FAMILIA”だろうか。暗闇の中に一筋のスポットライトが井口を照らし出す。その歌声は暗闇を手探りで進むような、不安さと切実な祈り。ホワイトステージらしくビリビリとした地鳴りがすると、あの殺気迫る常田との掛け合いが始まっていった。生と死と愛。壮大なサウンドスケープでもって表現されたレクイエムに、震えが止まらなかった。

そして、軽快なドラミングが響き渡ると、モニュメントの中央に「竜とそばかすの姫」のBelleが登場し、そのまま同曲のメインテーマ“U”へ。映画の世界観と現実とがうまく組み合わさった演出に、会場は大いに盛り上がった。やがてサイバーパンクな映像と、ermhoiの退屈を吐き出すような歌い方が退廃的な“2992”、最後は「Thank you FUJIROCK!」と、“call me”(音源未発表曲)とともにエンディングムービーへ突入し、幕は閉じた。

MCなし、怒涛の18曲。蓋を開けてみるととってもゴージャス。毎曲スペシャルゲストが満載のヒップホップグループのようなスタイルで、次々と新しい要素が投げかけられる、かなり濃密な1時間半だった。1秒たりとも目が話せないクリエイティビティの集合知を浴びた観客たちは、ただただ圧倒された様子だった。あらゆるセンスと想像力を身に纏い、この世のものからあの世のものまで味方に付けて練り歩く。そんなmillennium paradeの百鬼夜行に、怖がらずについていくことができるだろうか。

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Awesome City Club http://fujirockexpress.net/21/p_838 Wed, 25 Aug 2021 23:00:00 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=838 最終日、グリーンステージのトップバッターを飾るのはAwesome City Club。ステージ上部には緑と花の巨大なリースが掲げられていて、下手にはビニールプール、上手にはベンチと、なんだかにぎやかなステージの予感がする。3人のコーラスと、キーボード、ドラム、ベースという編成のもと、atagi(Vo&Gt)、PORIN(Vo)、モリシー(Gt)が舞台に登場。3人とも緑色に統一されたファッションだ。

「おはようございます!Awesome City Clubです!」と始まったのは“夏の午後はコバルト”。ビニールプールに現れたダンサーがバブルガンでしゃぼん玉を放っていくと、PORINとatagiのハーモニーがばっちり決まって、会場は一気にハッピーな空気に包まれていく。ここで新たに4人のストリングスがメンバーに加わり、13人という大編成にパワーアップ!「今日最高の景色を見に行きましょう」とatagi。

“GOLD”が始まると、待ってました!とばかりの大きな手拍子が会場に響き渡る。そのまま“アウトサイダー”では、コーラス隊と一緒に右に左にとステップを踏むPORINのなんと楽しそうなことか。何重にも分厚くなった圧倒的サウンドスケールで、観客を魅了した。“青春の胸騒ぎ”はゆったり伸び伸びとした苗場の昼下がりにちょうどよく合うし、“color”の息のあったコーラスワークもまた癒やされるのだけど、今日は“Don’t Think, Feel”からの流れが素晴らしかった。もう曲名の通りなのだが、着席していたストリングスまでも立って踊ってのお祭り騒ぎ。奏者から観客までが全身で感じる、ソウルでファンクな巨大ナンバーに化けていた。続いての“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”もまた、会場が一体となって盛り上がれる曲だった。空にぐるっと輪を書くような振り付けが楽しいが、モリシーの鋭いサウンドも差し込まれたりして、多角的なアプローチを感じられる。atagiとPORINが立ち位置を入れ変えながら歌う姿は、ミュージカルで恋の駆け引きでも見ているような気分だった。

中盤には、すっかり彼らの代表曲となった“勿忘”も披露された。みんながもう何度も聴いているであろうこの曲、会場の空気感で咀嚼すると、ずいぶん違う曲になるんだなと思った。静かでまっさらな空に響き渡る2人の力強いハーモニー。かと思えば、13人の厚みが総動員されて、ぐっとロックになっていく。静と動の使い分けや、言葉と言葉の絶妙な間も効いていて、バラードというよりはロックなナンバーに仕上がっていた。

最後は「みんな元気でいてください、また会いましょう」と“Lullaby For TOKYO CITY”。メンバー全員がギターを構え、笑顔をこぼしながら演奏するその姿は、音楽への喜びと未来に向けての祈りが詰まっていた。総勢13人のビッグステージ、いまのAwesome City Clubのエンターテインメントが全部詰まった、現在の集大成的ステージだった。

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cero http://fujirockexpress.net/21/p_837 Mon, 23 Aug 2021 16:14:12 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=837 「お待たせしましたceroです、よろしくお願いいたします」。“My Lost City”のあの愉快なイントロが始まる。重量感あるドラミングから、歌声がすっと立ち上がって、ウインドチャイムがきらめき出し、cero初のグリーンステージが幕を開けた。

2018年夜のホワイトステージで観た、エネルギッシュで生命力に満ちた彼らのプレイは、今でもよく覚えている。『Obscure Ride』からの大きな流れの、あのドライヴ感を味わいにここに来た人も多いはずだ。けど今日のceroは、ちょっぴり空気が違った。『POLY LIFE MULTI SOUL』からまた一段と違った高みに到達している。陰か陽かといえば陰のほう。今のメンバーと築き上げてきたアンサンブル感を守りながら、あくまでも冷静に提示していくようなプレイだった。サウンドチェックがギリギリまで行われていたのもまた、その緊張感を示す証拠かもしれない。

カウベルの乾いた音が見え隠れする“Buzzle Bee Ride”では、シンプルなようで多構造なビートから、音のレイヤを重ねてエキゾチックな世界観を作り上げていった。ジャズ色の強いアレンジが際立つ“魚の骨 鳥の羽根”では、スキップするリズムとコーラスの波を、もがくような動きをしながら乗りこなす高城の姿が印象的だった。

そしてなによりも驚いたのは、“Contemporary Tokyo Cruise”から“Narcolepsy Driver”に移り、そのまま披露された朗読だった。この日、時間の都合でMCはカットしていったのだが、この朗読にすべてをかけていたのかもしれない。高城は街と書かれたノートを開き、言葉を紡ぎ始めた。それは8月22日の情景を描写したものだったが、どこか手探りの語りかけで、この世の中への答えが出せていない彼なりの気持ちの表明だったようにも思う。もしかしたら、本当に直前の直前まで、出演を迷っていたのかもしれない。あくまでも私の感想なのだが、ふとそう思った。

このぼやけた感情の行き先を探していたところ、終盤のMCで少しだけ気持ちを話してくれた。「色々いいたいことはあったけれど、これからも健やかに生きていきましょう」。そこからは、閉じていた心が開いていくようなナンバーが続いた。“さん!”と“Fdf”での、あふれんばかりの高城の笑顔は、何か答えを見つけ出したあとかのようだった。

もちろん、“Yellow Magus”とか、今日もやった“Summer Soul“など、フロウの気持ちよさを得られるエンタメ全振りなceroも大好き。けれども、あらゆる舵をとりながら、次に停泊する島を見極めているような、実験的なceroもまた、愛しいなと思った。この荒波を抜けたらまた、どんな彼らに会えるのだろうか。

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CHAI http://fujirockexpress.net/21/p_875 Mon, 23 Aug 2021 15:47:29 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=875 Gorillazの新作アルバムヘの参加や、SUB POPとの契約など、ワールドワイドに快進撃を続けるCHAI。もともと、ファンクとかブラック・ミュージックのニュアンスがあるバンドだとは思っていたが、最新作にいたっては打ち込みを多用してみたり、ヒップホップやR&Bなどもまるっと自分のものにしていて、その変貌ぶりには驚くばかりだ。今回はその勢いのままに、多角的なアプローチで成熟した彼女たちを垣間見れるステージとなっていた。

一足先に舞台上に上がったYUNA(Dr,Cho)のカウントから始まった“NO MORE CAKE”で、新生CHAIのフジロックが始まった。軽快な16ビートに合わせて観客が体を揺らし始めると、MANA(Vo,Key) 、KANA(Gt,Vo) YUUKI(Ba,Cho)の3人が舞台上を暴れだした。メンバーは皆ピンクのふわふわドレスにシルバーのポンチョを羽織っている。ドレスのボリューム感とは対照的な小さな体で、でっかい音をかき鳴らすKANAの姿がなんともカッコいい。続いての“クールクールビジョン”ではYUUKIがシンセサイザーを担当。「Everybody,We are CHAI ‼︎」という掛け声とともに、轟音でスペイシーなサウンドが炸裂した。どっしり構えた低音に、MANAのパワフルな高音ボイスという高低差にぐっときた。

ここからは、最新作のムードに一気に接近。“Nobody Knows We Are Fun”はしっとりR&Bな空気が漂っていたし、<ほくろはチョコチップかもね>というワードが巧みな“チョコチップかもね”も、耳元でささやくような声が気持ちよく響き化学反応を起こしていた。

シンプルに音楽性の厚みだけではなく、パフォーマンスの厚みもまた一段と増している。中盤、YUUKIとYUNAによるDJプレイが始まり、これが大盛り上がり。おなじみの自己紹介タイムでは、バンド全体を紹介するんじゃなくて、彼女たちひとりずつにスポットが当てられたものになっていた。ハイスクールミュージカルの“We’re All In This Together”に合わせ、自身の担当パートや好きなことを紹介していくあたり、もう世界のCHAIなんだなと実感する。

シルバーのポンチョを脱ぎ、フラミンゴのようなドレスの全貌が明らかになったところで、YUUKIとYUNAがヴォーカルをとる“UNITED GIRLS ROCK’N’ROLL CLUB”へ。マナ&カナはベースとドラムを担当。バンド全体でマルチなプレイを見せつけた。YMCKの8ビットサウンドがご機嫌に映える“PING PONG! (feat. YMCK)”でのポップさといったらたまらない。パラパラのようなマナカナの動きもまた楽しくて、ちょっとニューオーダーっぽい音がするのもまたいい。

これだけ幅が広くて愛の深いプレイができるんだから、彼女たちがいかに今日に賭けてきたのかは誰の目にも明らかだ。MCでも「私たちミュージシャンで、音楽は絶っっ対辞めたくなくて。ライヴがない人生は、ありえない!」と力強く語っていたし、終盤、YUNAが涙するという一面もあった。そして最後のナンバー、“フューチャー”は、いつも以上に特別な意味を持って鳴らされた。「私を止めるものは何もない!」と強く歌いきると、会場は希望と絶賛の拍手に包まれていた。

暗くて不安な世の中だけど、CHAIにはこの勢いで世界を駆け抜けていってほしい。楽しませてくれてありがとう。これからも最高にキュートなバンドでいてね!

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NUMBER GIRL http://fujirockexpress.net/21/p_845 Mon, 23 Aug 2021 03:28:23 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=845 中学2年生の少女に伝えたい。ナンバーガールは復活すると。いま思えば、ライヴハウスで『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』の上映会が開催されたときに、再生機が故障して“URBAN GUITAR SAYONARA”から先が再生できないことがあった。スタッフが何度かチャレンジしてみたけど、どうしても止まっちゃってその先に行けない。そんなとき「本当の『その先』に行くには、どうしたらいいのかなあ……」なんてぼんやり思っていたことを思い出す(無事に再生できたんだけれども)。それくらい再結成への壁は高くて、ありえないものだと思っていたから。

でも今日は違う。かじりつくように何度も再生したあの2001年。あの続きが、続きが!目の前に広がっている。私は「リアルで彼らを追えなかった悔しさで生きている」タイプの人間で、今こんな文章を書いているんだけれども、ここにきてまさか、その悔しさが成仏することになるとは。でも、リアルタイムで追ってきた人たちの喜びといったら、たまらないだろうな。ライジングサンでの公演中止はとても辛かったけれども、彼らの歴史に「20年ぶりのフジロック」という1ページが加わるから、今日は記念すべき日だ。本当によかった。

21時の空。天気は、豪雨じゃなくて、ちょうどよく曇り。願わくばグリーンステージだったのだけれど、あのホワイトステージの音響で聴く彼らも贅沢だろう。おなじみの「福岡市博多区からやって参りました、NUMBER GIRLです」の挨拶から、“タッチ”が始まる。ジャリジャリと尖ったテレキャスターが熱を帯びて、向井秀徳(Gt,Vo)が深い深いシャウトをすると、気づいたらここはフジロックだった!
そのまま“ZEGEN VS UNDERCOVER”へ。ただでさえバッキバキな中尾憲太郎47才(Ba)のプレイ、今日はよりいっそう締まっていてゾクゾクする。「鉄のような鋭い風が吹いていく、そんな季節。また、やって、くるんだろうか」と向井のMCから“鉄風 鋭くなって”へ。ああ、ここでもイントロのベースに刺されて死ぬ。声をあげたくて仕方がない観客たちが、一気に感情を爆発させていた。

「今週のスポットライト、第836748位、ナムアミダブツだ!」なんて小ネタから始まる(語呂合わせじゃないんかい!)“NUM-AMI-DABUTZ”。田渕ひさ子(Gt)によるイントロのアルペジオは粒が揃えられていて、音の断面がなんともクリアだ。ベース以外のすべての音という音が自由に暴れまくるこの曲だが、今回はかなり淡々と暴れている。今日にかける彼らの本気ぶりが伝わってくるし、20年経っても変わらない強靭なグルーヴに圧倒された。この曲だけでもずいぶん化けているなと思うが、もっと驚いたのは、「あの名前を呼べ!あの子はいつかの透明少女」で始まった“透明少女”。イントロ明けからのアヒト・イナザワ(Dr)のドラミングがどことなくサーフロックなテイストを潜ませていて、よりいっそう夏を感じる仕上がりになっていた。

“MANGA SICK”の荒削りなイントロは、いつ聴いても脳天を直撃。ドラムに合わせて入れられる跳ねるようなバッキングで、さらに踊れる気がする。そして、“U-REI”では、弦が引きちぎれるくらいのセッションが繰り広げられる。ぶよんぶよんにファットな低音、声を震わせおどろおどろしく歌う向井。怪談話をしているときのような、冷たーい空気が流れていて、背筋が凍るのを感じた。続いて、日比谷野音の配信で解禁された新曲“排水管”。まさか彼らの新作が聴けるとは。ナンバーガールであってナンバーガールじゃないような新しさ、でもZAZENBOYSではないのは確か。そんな絶妙なところを行く新機軸に酔いしれた。

そのあとも、“TATTOOあり”と“水色革命”などおなじみのナンバーを2021年の解像度でもって繰り広げ、終盤はさらに加速。「ドラムス・アヒトイナザワ」から“OMOIDE IN MY HEAD”だ。2001年の夏の日には一番最初にプレイされた、彼らを象徴する曲。あのこもったドラムは夏の湿気を帯びていて、やっぱりこの音本物なんだよな、としみじみ感動してしまった。そして最後の“I don’t know”では、ギター、ベース、ドラムすべての音がものすごい熱量でかき鳴らされ、観客を大いに圧倒した。ワンマンライブ級の90分で、最後の最後まで、カラッカラになるまでエネルギーを使い果たした彼ら。その衝撃波を全身で受け止めてしまった私達はただ立ち尽くすしかなかったし、完全に打ちのめされてしまった。

20年を経て、今を生きている音がする。進化も続けている。再結成したバンドは数あれど、その後に待ち受ける壁というのはなかなか高いものだ。そんな壁を彼らはいとも簡単にパスしていて、平然とした顔で次の壁を登り始めているんだ……アンコール“IGGY POP FAN CLUB”を聞きながら、私はそんなことをぼんやり考えていた。2021年8月21日。ナンバーガールの歴史の目撃者であることを誇りに、私も前に歩み出していきたいと思う。

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BEGIN http://fujirockexpress.net/21/p_898 Sun, 22 Aug 2021 18:17:47 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=898 「音楽って、空気に乗っていくものだから、生で聞くのはとてもいい。苗場の空気に音が乗ったのが、フジロックでしょ」。比嘉栄昇(Vo)が冒頭、そのようなことを言っていた。なんて的確な表現なんだろう。今回の彼らのライヴは配信もあるんだけれど、「生で楽しむ良さ」を凝縮したような内容だった。

今日のセットリストは、直前まで悩んで決め、「のんびりやることにした」という。ちょうど沖縄では今日が送り火の日。おじいやおばあに届いたら、と“月ぬ美しゃ”が歌われた。“三線の花”では、三線の弦の響きが立体的かつダイナミックに伝わってくる。次第に上地等(Pf)と島袋優(Gt)の合いの手が入ると、(今更ながら)本物のBEGINを観ている実感が湧いて、曲の解像度がぐっと増すのを感じた。

島袋の歌唱による“海の声”では、ワンコーラスだけでも拍手が起きるほどの盛り上がりだったし、旅立ちの曲“パーマ屋ゆんた”は、沸き上がってくる物語の情景につい涙してしまった。しばらくすると、「バラードやめた!」と比嘉が宣言。“笑顔のまんま”を情熱たっぷりに演奏すると大盛り上がりで、<生きてるだけでまるもうけ OH!!>と観客もそれぞれに拳を挙げて応えた。定番の“オジー自慢のオリオンビール”も今日はどこかノンアルコール仕様。みんなの手がエアジョッキになってはい、乾杯〜!

ひとしきり楽しんだところで、話題はフジロックのことへ。よく来たね、大変だったね、と。学生だったら1年間バイトして、社会人なら食費を削って捻出したチケット代は決して安くはなかっただろう、と比嘉が観客をねぎらう。とはいえBEGINの3人も大変だっただろう。「ま、俺のほうが遠くから来たけどね」なんて言って笑いを誘っていた。

最後は“島人ぬ宝”に“涙そうそう”と、もう何度も聴いた大名曲を目の前で!そのありがたさを噛み締めながら、やっぱり生のライヴっていいなあ、これに代わるものはないよなと思っていた。電波に感情が乗らないとまでは思わないけれど、生と配信はやっぱり別物。やっぱり音楽って、空気に乗っていくものなのだなあ。

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奇妙礼太郎 http://fujirockexpress.net/21/p_946 Sun, 22 Aug 2021 13:22:18 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=946 そろそろフジロックが終わってしまう。メインステージのトリが始まる少しだけ前の澄んだ夜空に、幻想的な光が灯る苗場食堂ステージ。その最後を飾るのは、奇妙礼太郎だ。

“humming bird”が始まると、感情の波がぐっと押し寄せてきて、とっても切なくなってしまった。彼ひとりとギター1本だけなのに、浮かんでくる様々な情景。ときにか細く、ときに声を大にして歌い、そのメリハリのついた表現にぐっときてしまう。どの曲もストレートに投げてくるのかと思いきや、独特な世界観の“お茶を飲もう”なんて曲も。一度聴いたら忘れない、踊る千利休というパワーワード。どこか遊び心のあるナンバーで場を和ませた。続いて“Life is Beautiful”の儚さから一転、“アスファルト”では力強い声量で魅せる。顔をくしゃっとして振り絞るように放たれる彼の声とエネルギーは、どう考えてもその体以上に大きい。

途中、さり気なく差し込まれた“サザエさん一家”もまたまた不思議だったけれど、何事もなかったかのように“エロい関係”へ。以前に結構ウケたのだという、杉咲花さんのラジオでのエピソードを披露したところ、ここでは全くウケない様子でとてもおかしかった。

ときどき、他ステージからの音漏れが目立ってきて、彼の歌に集中できないときがあったのが残念だった(聴いている場所にもよる)。彼もきっと気になっていただろうけど、それでも力の限り歌を届けてくれた。トラベルスイング楽団とかにぎやかな形態も好きだったけれども、今回のようにしっとりと過ごせる機会もまた贅沢だと思った。

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サニーデイ・サービス http://fujirockexpress.net/21/p_868 Sun, 22 Aug 2021 05:09:32 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=868 流行り病や辛いニュースやSNSの衝突。すべてにうんざりしていたときに、たったひと言「いいね!」と肯定してくれたサニーデイ・サービスに、どれだけ救われたことか。先が見えないコロナ禍に象徴的なひとつのアルバム。難しいことは一切なくて、ただロックを始めたばかりかのようなみずみずしさにあふれたサウンド。もちろんサニーデイ・サービスはいつだって素晴らしいんだけど、いま、こんな音を鳴らせる彼らが本当に好きだ。

この日のセットリストは、アルバム『いいね!』からを中心に……なるかと思っていた。でも今日は、フェスならではのオールタイム・ベスト的な強い楽曲たちが並んでいた。まず、最初が“恋におちたら”。声がなくとも観客の喜びが伝わってきたし、隣の男性も小さくガッツポーズをしていた。あの優しいアルペジオと、いつにもなくロマンチックな歌声が五臓六腑に染み渡る。そうそう、この感じたまらないなあ!なんて思っていたら、一転“さよなら! 街の恋人たち”では、ひたすらにエモーショナルなセッションが繰り広げられた。田中貴のベースは骨太で、曽我部恵一のギターは色っぽくて。大工原幹雄のドラムはごろごろと暴れ回っている。なんだこれは。むちゃくちゃエモくないか。

続いての“春の風”は、かなりの盛り上がり。『いいね!』からの楽曲であるのはもちろんだけど、周りを見渡すと若いファンが増えてきているように感じる。シンプルで、歌えて、盛り上がれるこの曲はやっぱり輝きを放っていたし、思わず涙ぐんでしまう自分がいた。続いて“コンビニのコーヒー”でも、かなりのセッションが繰り広げられた。え、サニーデイ・サービスって、こんなに衝動的で、即興的なバンドだったっけ。そんな驚きとともに、感動が湧き上がってくる。続く“セツナ”もまた、まるでセツナじゃないみたいなハードな展開で胸がぎゅっとなった。

その後何事もなかったかのように“白い恋人たち”をしっとりと響かせると、ここからはもうずっと無敵。「ありがとうね、よく来てくれたね」と、今ここにいる我々を肯定してくれる曽我部の優しさに、私たちの緊張の糸もわっとほどけていく。“サマー・ソルジャー”の大熱唱(もちろん各々心の中で)が繰り広げられたら、さらに“若者たち”からの“青春狂走曲”でとどめを刺された。

“青春狂走曲”なんて、ずるいに決まっている。<そっちはどうだい うまくやってるかい/こっちはこうさ どうにもならんよ>のそっち側とこっち側は、距離が遠くなった私とあなたかもしれないし、苗場にいる私と画面の向こうにいるあなたかもしれない。とにかく、人とうまくつながれない世の中にこの曲が、どんな特別な意味とパワーを持って鳴らされたことか。こんなことになるなんて、全く想像がつかなかった。

それぞれがこの時を胸に、どんな思いであったとしても、サニーデイ・サービスはそれらをすべて受け止め、肯定してくれる。深い悲しみを乗り越えて、また改めて走り出した彼らの生きる衝動に、今年もたくさん泣いてたくさん笑わせてもらった。

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milet http://fujirockexpress.net/21/p_869 Sat, 21 Aug 2021 17:55:08 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=869 フジロック2021、初日にはなかった土砂降り。「ああ、今年も降ってきちゃったか〜」なんて、半分イライラしつつも、もう半分は嬉しい気持ちでMiletを見に行く。この雨の強さだとレッドマーキーは人でいっぱいだろう、ソーシャルディスタンスに気をつけながら入ってみたところ、ちょうどよく雨が落ち着いてきた。それでも人は一向に減らない。ああ、ここにいる人は雨宿りじゃない。Miletを待っているのだ。

ドラマ主題歌への抜擢や、NHK紅白歌合戦、オリンピック閉会式への出場を果たし、瞬く間に人気を獲得したMilet。昨日は、MAN WITH A MISSIONのステージに登場し、「Reiwa」を披露したことでも注目を集めている。バックにギター、ベース、キーボード、コーラス、ドラムの5人を従えたmiletは、赤を基調とした服装(レッドマーキーだからレッドにしたそう)で颯爽と登場した。

1曲目“Again and Again”が始まった瞬間、空気がガラリと変わったのを感じた。曇り空を引き裂くように鋭い彼女の歌声に、観客は早くも心奪われた様子だった。「始まりました、フジロック!」との声から続く“Diving Board”は、彼女の歌唱テクニックにグッと迫れる1曲。渋みと強さのこもった独特な声と、グローバルに発音される日本語の語感のよさを、すみずみまで味わうことができた。
彼女の出発点ともいえる1曲“inside you”では、7本の赤い光が彼女を灯す演出。最初のサビはしっとりと、次はダイナミックに歌い上げる。曲が進むにつれて感情のツマミを少しずつ調整していき、やがて一気に爆発させていた。“Fire Arrow”になると、会場はよりドープな雰囲気へと到達した。絡みつくような歌声と、アメコミのダークヒーローのような妖しさ。ドキドキしたのは私だけではないはず。

彼女といえば、その魅力的なアルトヴォイスでダークなナンバーを得意としているイメージがあった。白鳥というよりは、黒鳥のような感じだ。けれども今回わかったのは、“Wake Me Up”のような視界の開けた楽曲や、“Ordinary days”みたいなまっすぐな愛の歌もハマること。「プロのフジロッカーでしょ?もうちょっとプロっぽいとこと、見せてよ!」なんて言えてしまう飾らなさと可愛らしさ。TVだけは見えていなかったMiletのあらゆる魅力がこのライヴには詰まっていた。

ドラマ主題歌でもあった”us”は、この日一番の盛り上がりを見せた。イントロから大きな手拍子が始まり、彼女はそれに応えるようにステージを右へ左へと動き、感謝の気持ちを伝えながら歌っていった。そして、「これからも、みんなのために歌っていきます」と、MAN WITH A MISSIONのKamikaze Boyが提供した楽曲“Grab the air”も披露。私達にたくさんの投げキッスをして、去っていった。気づいたら空も晴れ、なんだか心も晴れやか。土砂降りの雨で尖った心も優しく解きほぐしてくれる、包容力あるステージだった。

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