“森リョータ” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '21 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/21 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Tue, 02 Aug 2022 05:24:20 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.18 誰もが真剣に向き合い、決断を迫られた「コロナ禍のフジロック」 http://fujirockexpress.net/21/p_5816 Tue, 31 Aug 2021 08:53:35 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=5816  いつも通りなら、エキスプレスの締めくくりとなるこの原稿の巻頭を飾るのは、すべての演奏が終了した会場最大のグリーン・ステージ前で、満面の笑みを浮かべるオーディエンスの写真となるはずだった。が、今年は撮影さえもしていない。例年ならば、この時間帯、巨大なスピーカーから放たれる名曲、ジョン・レノンの「Power To The People」でみんなが踊り狂うことになるのだが、それが聞こえてくることもなかった。それに代わったのはMC、スマイリー原島氏の挨拶と締めの一言「Power To The People」だけ。オーディエンスの興奮に水を差すのは承知の上で、現場が最後の最後に彼らに対して「ゆっくり静かにフェスティヴァルの幕を閉じるようにお願いしよう」と判断したからだ。

 コロナ禍でのフェスティヴァル開催という、きわめて特殊な状況の下、例年とは全く趣を異にする光景が、始まる前から様々な場所で見え隠れしていた。越後湯沢駅に向かう新幹線から会場へのシャトル・バスでも同様で、いつもなら、嬉々とした表情を浮かべて仲間とはしゃいでいるはずなのに、誰もが言葉少なに見える。彼らが互いに適度な距離を開けて整然と列に並び、苗場を目指しているのだ。今回のフジロックを開催するに当たって、参加するお客さんから、全スタッフ、関係者に伝えられていたのが感染防止ガイドライン。それを彼らが徹底して守ろうとしているのが見て取れる。

 フジロッカーにとってはおなじみの、オアシス・エリアのど真ん中に姿を見せるはずのやぐらは見当たらず、それを囲んで、地元生まれの「苗場音頭」を大音響でながしながら、みんなが輪を描いて踊る光景もなかった。それが今年のフジロック開催前夜。過去10年以上にわたって続けられてきたというのに、レッド・マーキーで、「おかえり!」と声をかけて、「ただいま」と応えるみんなの記念撮影をすることも、もちろん、なかった。本来ならば、フジロックを愛する人達が待ちに待った時間の到来に、彼らの興奮が一気に爆発するのが前夜祭の開かれる木曜日の夜。しかも、前年の開催が延期されての2年ぶりだというのに、きわめて静かな幕開けとなっていた。

 公式に「前夜祭はない」と発表されてはいたものの、唯一それを感じさせてくれたのは、直前までやるのかやらないのか全く知らされなかった花火ぐらいかもしれない。例年なら、ここで大歓声がわき起こり、否応なしに「祭り」の始まりを感じさせてくれるのだが、そんな反応は一切なかった。最初の一発が打ち上げられたとき、わずかに驚きの声が聞こえ、涙を流す人がいたという話も耳に入っている。が、誰もが夜空を飾る花火をなにやら厳かに見上げていたように思う。拍手はあったかもしれないが、シ〜ンと静まりかえった会場で、花火の音と光だけが響くという、どこかで「特殊なフジロック」を象徴するかのような光景が目の前に広がっていた。おそらく、誰もがここまでたどり着くのが簡単ではなかったことを察していたのではないだろうか。


Photo by 安江正実

 当初、ライブハウスなどからクラスターが発生したことも影響したんだろう、感染拡大を誘発する場所として、ライヴ・エンタテインメントの場所がやり玉に挙げられ、そういったものが知らない間に「不要不急」を象徴するものであるかのように語られ始めていた。数多くのライブハウスが閉店を余儀なくされ、ミュージシャンや演劇人が作品の発表の場を奪われたのみならず、照明や音響の技術者が職を失っていた。さらには大規模なコンサートからフェスティヴァルが次々と延期やキャンセルの憂き目にあう。もちろん、感染拡大は阻止しなければいけない。が、同時に、音楽のみならず文化とは生きることに必要不可欠な要素であり、それを否定することはできない。その集大成としてフェスティヴァルという文化が存在する。とりわけ、それが日本で生まれ、成長していくきっかけとなったフジロックを根絶やしてはいけないという思いが主催者、関係者、そして、フジロッカーにはあったということだろう。

 それだけではなかった。昨年、フジロックが延期を発表した頃、町内から「なんとか開催できないか」という打診があったという噂を耳にしている。その理由はフジロックで生まれる経済効果であり、それが断たれることが地元に計り知れない影響を与えることになる。それが二年も続けば壊滅的な打撃を受ける可能性も否定できない。だからこそ、地元と主催者が開催に向けた方法を模索し始めるのだ。その結果として、可能な限り徹底的な感染予防策を築き上げ、観客には不自由きわまりないがんじがらめの感染予防ガイドラインを提示することになる。しかも、本来のキャパシティのほぼ25%程度にまで規模を縮小。結果として1日の最大動員数は1.4万人弱と、一般的なスポーツ競技で日本武道館をほぼ満杯にした程度にとどまることになる。

 これで採算が取れるんだろうか? しかも、感染問題に絡んで参加に不安を感じている人達や体調がすぐれない人達へのチケット払い戻しにも対応している。加えて、チケット購入者にコンタクトをして、希望者には抗原検査キットを発送し、大多数の人たちがそれに応えていた。が、それでもまだ不安だと、目指したのは100%。必要とされる膨大な数の抗原検査キットを集めるのに東奔西走したという話が伝わっている。さらに、会場内の救護テントに加え、バックヤードには数多くの医療関係者や民間救急搬送車3台を待機。また、会場入りする前に全スタッフがPCR検査を受け、陰性であることを証明してからでないと、苗場入りできない取り決めをしていた。加えて、長期滞在するスタッフは定期的に抗原検査を繰り返す。さらに、すでに会場入りしていても、自宅の家族で濃厚接触者が報告されると速効で会場を追われ、陰性であることを証明することなく現場復帰はできなくなっていた。ちなみに、観客のみならずスタッフも全員が毎日検温チェックを受けないと、会場に入ることもできないことになっている。どこかの新聞が「厳戒態勢」という言葉を使っていたのだが、まさしくその通りだろう。


Photo by 粂井 健太

 下手をすると、今年は最もフジロックらしくないフェスティヴァルになるかもしれないという危惧があった。どこかで自由と自主性が魅力となっていたフジロックだというのに、感染対策に絡んで「がんじがらめ」のルールを守らなければいけない。しかも、コロナ禍での開催ということもあり、海外からのアーティストは皆無。会場を演出するUKチームの来日もできなかった。なにやら、フェスティヴァルと言うよりも、緑に囲まれた野外コンサートでしかないかもしれない。さらには、場内でのアルコール販売が禁止され、中心部から離れた場所にごくわずかに用意された喫煙所を除いて全面禁煙となっていた。1997年にフジロックが始まった頃から、毎回出店していた、オアシス・エリアの顔のような存在となっていたバーやお店の数々が出店をキャンセル。すでに「ここに来れば顔を合わせることができる」友人や仲間たちが参加を断念するにいたるのだ。

 誰もが苦渋の決断と選択を迫られていた。特に大都市を中心に新型コロナウイルス感染者が急増し始めると、「なんとか開催してほしい」という声と同じように、「中止すべき」という声も多くなっていった。出演を予定していたアーティストやパフォーマーに対しても、様々な声が寄せられ、参加しようとしていた個人も揺れ動いていた。その結果がなにであれ、ひとりひとりが真剣にフジロックに向き合い、判断したことに敬意を表したい。来てくれたみなさんにも、今年は来るのをやめたみなさんにも、ありがとう。中止すべきだと主張した人にも、開催すべきだと声を上げた人達にも、出演してくれたアーティストにも、出演辞退をした人達にも、ありがとう。そういった反響に感じるのは、多くの人たちにとってフジロックが大きな存在になっていること。だからこそ、真剣に向き合って、彼らが導き出した判断に最大限の敬意を表したいと思う。

 会場では感染予防ガイダンスを守ろうとするオーディエンスに圧倒されることになる。少なくとも、喫煙所やフード・テントを除いて、マスクをしていない人にはお目にかからなかった。しかも、ここで食事をしていて気付くのだ。ほとんど会話が耳に入ることはなかった。「黙食をお願いします」と書かれている注意書きを守ろうとしているのが、痛いようにわかるのだ。久々に仲間と会って握手をしたり、抱き合いたい気持ちがあっても、それを躊躇して肘や拳で挨拶。マスク越しに語り合う人はいても、大声で話す人にはお目にかからなかった。また、水分補給などでマスクを外すときも、周辺に人がいないことを確認してそうしているのが見て取れた。

 ふつうならグリーン・ステージ外にMCを置くことはなかったのだが、今回は全ステージにMCを配し、演奏が始まる前に必ずオーディエンスに呼びかけていたことがある。

「必ず鼻を隠すようにマスクをして、声は出さないでください。安全な距離を保つために地面に記されたマークを確認してください。ステージ前では水分補給用のペット・ボトルなどを除いて、飲食物を持ち込まないでください」

 MCにはそのマニュアルが渡され、毎回オーディエンスに訴えかけるように義務づけられていた。そうして飛沫や接触による感染を防ごうとしているのは言うまでもない。

 そのおかげで目撃するのは、おそらく、フェスティヴァルやライヴでは前代未聞の光景だっだ。どれほどライヴが白熱しても、ほとんど歓声が聞こえることはなく、聞こえてくるのは拍手や手拍子のみ。それでも、その想いがステージ上に伝播するんだろう。加えて、悩み抜いてここに来る決断をしたアーティストの想いがそこに重なって、誰もがとてつもない熱を感じさせるパフォーマンスを見せていた。それは数えるほどのオーディエンスしか目に入らなかったちっぽけなステージであろうと、幾分の違いもなかった。今年は、会場入りを断念した数多くの人達がYouTubeでそれを目撃することになるのだが、演奏の素晴らしさを支えていたのはこの場で生まれた、えもいわれぬエネルギーのたまものではなかっただろうか。


Photo by MITCH IKEDA


Photo by Eriko Kondo

 今年は、珍しく、チーフ・プロデューサーの日高大将が二度、グリーン・ステージに立っている。昔からフジロックを支えた二人の仲間が他界したことを告げたのが初日、そして、最後、日曜日のトリを務めた電気グルーヴの前。そこで彼がオーディエンスから感じたのは「なんとかしてフジロックを支えようとする人々の熱気だった」という。それが端的に表れていたのは彼らが感染防止ガイダンスを守り続けたことのみならず、まるで1999年の苗場で起きた奇跡の再現でもあった。すべてが幕を閉じた後、会場にはほとんどゴミが落ちていなかったという。ゴミ・ゼロ・ナビゲーションを訴えて、活動しているiPledge(アイプレッジ)が毎日、会場に落ちたゴミを拾い集めているのだが、各所に設置された収集箱を除いてほとんど仕事がなかったという嬉しい話も届いている。

 フェスティヴァルが終わった8月24日に発表された主催者からの公式声明によると、その時点で「会期中の会場においてひとりの陽性者も確認されていないこと」が伝えられている。もちろん、それで完結してはいない。「今後も、時間経過と共に情報収集に努め、その結果をあらためて皆様へご報告し、未来のフェスティヴァルにおける感染防止対策の改善につなげてまいります。」と続いている。また、振り返るには早すぎるかもしれないが、完璧を目指したすべての関係者、地元のみなさん、そして、全国から会場にやって来ることができた方々や来られなかった方々にも、批判した方々にも、ここまでたどり着けたことを感謝したいと思う。

 台風に襲われて惨憺たる状況を経験した1997年開催の第一回目から、その存続が問われる大きな試練となったのが苗場に場所を移して最初の1999年。「ロック・フェスティヴァルは危険だ」という偏見に対して、互いを思いやり、愛し合うことを行動で示すことによって、会場どころか、苗場の町からお世話になったホテルや民宿でゴミひとつ落ちていない「奇跡」を形にしていた。これが「地元と共にフェスティヴァルを育てる」という流れを生み出している。それ以降、同じように台風や記録的な豪雨といった幾多の試練を乗り越えて成長してきたとは言え、今回直面したのは前代未聞のウイルスによる危機だった。前述のように、まだまだ結論を導くには早すぎるのは十分承知の上で、関わるすべての人達が可能な限りの知恵と努力で「奇跡」を目指した今年は、フジロックの歴史を語る上で無視できない1年となったことは言うまでもないだろう。

 どこかで様々な意見や考え方の違いが音楽界で分断を引き起こしているという声も耳に入る。が、フェスティヴァルを愛する人達が、多様性を認めるのは当然であり、互いを尊敬し、受け入れて、そこからよりよい選択肢へと自らを導いていくべきだと思う。その上で、今回の経験を糧に、来年を目指したいと思うのだ。このウイルスによる影響がいつまで続くのか、誰にも予測はできないかもしれない。いつか、そんな心配をすることもなく、苗場でみんなとまみえることがある日を願って、今年のエキスプレスの幕を閉じたいと思う。

 なお、ガイダンスに則り、感染を防ぎながら取材をしなければいけないという難しい状況のなかで、動いてくれたスタッフに最大限の賛辞を贈りたい。マスクやフェイス・シールドの用意はもちろん、安全な距離を保ちながらの取材は簡単ではなかったはず。また、独自に用意周到な感染対策を生み出してラウンジを運営したスタッフにも頭が下がる。心の底から、ありがとう。

 今年動いてくれたスタッフは、以下の通りです。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/21/
フォトグラファー:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、MITCH IKEDA、アリモトシンヤ、安江正実、粂井健太、白井絢香、HARA MASAMI、おみそ、suguta、シガタカノブ、佐藤哲郎
ライター:丸山亮平、阿部光平、石角友香、あたそ、梶原綾乃、阿部仁知、近藤英梨子、イケダノブユキ、三浦孝文、東いずみ

■英語版(http://fujirockexpress.net/21e/
Laurier Tiernan, Jonathan Cooper, Nina Cataldo

フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、obacchi、藤原大和

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、坂上大介(デザイン)、迫勇一

スペシャルサンクス:三ツ石哲也、若林修平、守田 昌哉、Park Baker、そして、観客を守るために奔走してくれた全スタッフ、試練を乗り越えてフェスティヴァルの素晴らしさを伝えてくれた観客のみなさん。

プロデューサー:花房浩一

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fujirockers.orgとは1997年のフジロック公式サイトから独立した、フジロックを愛する人々のコミュニティ・サイト。主催者から公式サポートを得ているが、独自取材で国内外のフェスティヴァルからその文化に関わる情報を発信。開催期間中は独自の視点で会場から全方位取材で速報を届けるフジロック・エキスプレスを運営。
http://fujirockers.org/
MerdekaTogel

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King Gnu http://fujirockexpress.net/21/p_827 Fri, 27 Aug 2021 15:01:45 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=827 ライブ終了後、とにかく興奮していた自分がいる。なんだか、物凄いものを目撃してしまった。どうしても眠りにつけない夜とか人との会話とか、なんでもいいけど、ふと思い返してみたり、後の世に語られるライブというのはいくつもあるが、この日のGREEN STAGEのヘッドライナーを飾ったKing Gnuのライブは、まさにその場に立ち会った人全員の記憶に強く印象を残す、とにかく言葉では言い尽くせないほど凄まじいライブであった。

メンバーが登場し、まず初めに鳴らされたのは“開会式”。青いライトに、合計15か所から遠慮なく吹き出る炎に、その炎をかき消すかの如くステージ上に広がるスモーク。あのー、これ、予算っていくら降りたんでしょうか?今までヘッドライナーを務めてきた世界に名をはせる伝説的なバンドに引けを取らないカオティックな空間には、思わず笑いそうになる。裏方の方々も、こんな馬鹿みたいに派手なステージを作るのめちゃくちゃ楽しかっただろうな、なんて妄想も膨らむ。
演奏だって、このぶっ飛んだ演出に負けていない。こんなはっ倒されそうになるくらいの音圧を出せるバンドが国内にはいるのかと驚くほどの重い音。けれど、うるささ・やかましさは一切なく、大きな音がひとつの個体となって全身に響くあの瞬間は、たまらなく気持ちがよかった。

“飛行艇”では、すでに温まっている観客が手を左右に振り、常田大希(Gt.Vo.)と井口理(Vo.Key.)の声がコントラストとなって美しく響く。
やりたい放題のステージなのに、“千両役者”ではまばゆいグリーンのレーザーが更に会場を盛り上げていく。King Gnuといえば、フロントマンの2人の顔がパッと思い浮かぶ方も多いかもしれない。けれど、ライブを見てよくわかるのは、リズム隊である新井和輝(Ba.)と勢喜遊(Drs.Sampler)の2人が大きな柱となって、このバンドをしっかりと支えているということ。もちろん、個々の演奏技術はものすごく高い。そこにも十分驚かされるのだが、他のメンバーの音を邪魔せず最大限に生かす形で、音源とは異なる野太いリアルなバンドサウンドに変化させていく。すごい。ドラムとベースでこんなことまでできるのか。全体を通じて各々の音を聴いていると、この2人がいるからこそ、フロントマンは安心して背中を任せることができるのだなと、納得ができる。

1stアルバムから“Vinyl”、2ndから“sorrows”と徐々に会場を温め、次に披露されたのはKing Gnuの名や才能を世に広めるきっかけとなった“白日”。井口に向かってまっすぐと伸びる何重もの白いスポットライト。安定した美しい高音がどこまでも心地よい。この声を聴いているだけで、心を掴まれ、その場から動けなくなりそうになる。
次は、彼らの最新曲である“泡”。身体の芯にまで鳴る重い低音が、やわらかい膜のように身体を包み込む。「泡」というタイトルに、じっくりと聴かせるスローなテンポ。まるで水のなかに飛び込んだような感覚を持つ。音源とはまた異なる印象、そしてライブでしか味わえない感覚を抱くワンシーンでもあった。

メンバーそれぞれが笑顔で楽しそうに演奏する姿が印象に残る“Hitman”に、“The Hole”で披露された一寸も狂うことのない井口の正確な高音にはいつもため息が出る。ときに振り絞るように、ときに軽やかに伸びていくこの歌声は、つくづく唯一無二だなと思い知らされる。
途中、井口がMCにて、今の状況や自分の置かれる立場、他のアーティストのライブを見ても正しさがわからないままステージに立っているという心境、それから「すごくおこがましいかもしれないけど、少しでも明日を笑顔で生きられる力になれたらいいなと、そういう思いで立てたらいいなという気持ちで今日ここに立っています」というリアルな気持ちを涙声になりながら、正直に話す。さまざまな情報が飛び交い、何が本当に正しいのか、どのような行動を取れば間違いがないのか、今の状況下ではわからない。King Gnuに限った話でも、フジロックに出演しているアーティストだけの話でもないが、それぞれが想いを背負って決断をする。さまざまな思いを抱える井口の、ひとりの人間としての本音を聞くことができた。

ライトがサイレンのようにステージを照らし、井口とメガホンを片手に持つ常田が堂々とステージを練り歩いた“Slumberland”、重厚感のある低音が底にまで響き、原曲とは異なる印象を持つ“Tokyo Randez-Vous”。常田のギターソロがばっちりと決まり、終わりに向けて加速していく“傘”と、ただステージを見ているだけでも、新しい気づきや発見が多くある。家で聴いているだけではもったいない。King Gnuのライブを何度も何度も見てしまう理由がよくわかる。

フジロックの2日目の終わりがすぐそばに近づくなか、“Player X”に“Flash!!!”と、強弱をつけながらも身体の残ったエネルギーを出し切るような2曲が続く。しっとり聴かせたあとの駆け抜けるような疾走感がたまらなく気持ちがいい。観客たちも目の前の音楽に圧倒されながらも、手をあげ、手を叩き、ジャンプをし、ステージに呼応する形で楽しんでいるようだった。

「自分の身近な人たちの幸せをひとりひとりが考えた先に、きっとコロナに打ち勝てる時代がくると思うんだよね」「それぞれが周りの奴を守るために生きていこうぜ」という常田のMCのあと、アンコールで演奏されたのは、“三文小説”、“Teenager Forever”、そして「4年前のROOKIE A GO-GOでも最後にやった曲です」という“サマーレインダイバー”。
King Gnuにとって4年という長いようで短い年月の間に、どんなことがあったのだろう。当時から一線を画していたが、場外のあの小さなステージから一気にGREEN STAGEのヘッドライナーへと登り詰めた、その年月の長さと彼らの成長を感じさせる1曲でもあった。途中のMCでもあったが、このバンドにとってフジロックは、大切で特別なフェスであることは間違いないはずだ。

本当に、とんでもないものを見てしまった。気合いと緊張、フジロックへの思い、ヘッドライナーへの責任、さまざまな熱量を感じさせるライブは、息をつく暇すら与えない。ライブとしては当然のこと、ひとつの体験として、ショーとして、自分の理解や感覚を超えたものを見せされると、人は頭が真っ白になってしまう。ライブレポートとしては正しくないのかもしれないが、いくら言葉にしてもまったく語り尽くせる気がしない。
見事にヘッドライナーという大役を果たしたKing Gnuは、これからどこへ向かい、どんな未来を見せてくれるのだろうか。日本の音楽の未来、そのものに対して、更に希望を持てるような90分間であった。

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millennium parade http://fujirockexpress.net/21/p_839 Fri, 27 Aug 2021 15:00:25 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=839 ミュージシャン、映像ディレクター、CGクリエイター、デザイナー、イラストレーター……属している肩書やバンドの垣根を超えたビッグ・プロジェクト、それがmillennium paradeだ。いまや国民的なロックバンドに化けたKing Gnuや、PVをはじめ多方面で活躍するクリエイティブレーベルPERIMETRONなどのコミュニティから構築されている彼らは、もはやひとつの生き物であり、城であり、国家であると思う。

彼らを初めて聴いたとき、本当に驚いた。限りなくアンダーグラウンドなのに、オーバーグラウンドの線も見え隠れしている。それに国内よりも、圧倒的に世界に顔を向けているのだ。ふと思い出したのは『Vulnicura』のビョークだろうか。あの悲しみに満ちたストリングスと、全容が掴みきれない音の厚み、どことなく背筋がヒヤッとする気味悪さ……それらに通ずるものを持ち合わせているように感じた。間違いなく、フジロックでトリを飾るタイプのグループだし、とくに今年のトリにはふさわしいと思った。

ホワイトステージ中央には、巨大でのっぺらぼうな鬼のモニュメントが配置されていて、これに映像を投影していくようだ。火野正平扮する琵琶法師の独特な語りから始まるオープニングムービーが始まると、メンバーたちが登場。下手・上手にそれぞれ石若駿(Dr)と勢喜遊(Dr)、加えて下手側からMELRAW(Sax/Gt/Fl/Vocoder)、江崎文武(Key)、新井和輝(Ba)。中央奥にermhoi(Vo)、森洸大(Vo/Agitator/Artdirector/Designer)、佐々木集(Vo/Agitator/Creative director)のヴォーカル&コーラス隊が並ぶ。そしてステージ前方中央、まるでコックピットのような位置に構えるのは常田大希(Producer/Music)……といった感じだろうか。
音源未発表曲“NEHAN”のセッションが始まると、“Fly with me”のブラスが高らかに鳴らされる。「FUCK YEAH FUJI」と表示されたVJのはっちゃけ具合も最高だが、ゲスト登場したHIMIが森・佐々木とともにステージ上を自在に歩き回りながらパフォーマンスする様子もまたクールだった。舞台中央ののっぺらぼうなモニュメントには、同曲PVのキャラクター・Eugeneが投影されていて、映像とのリンクにも目が話せない。

続いて、子鬼たちが画面に現れ、“Bon Dance”へ。線香花火がチカチカと映し出され、百鬼夜行的な世界が繰り広げられていく。ermhoiの歌声は、原曲のころんとした印象よりもスタッカートをきかせていて力強い。石若&勢喜のタイトなWドラムや、メロディを裏から支えるサックスがアレンジに厚みをもたらしている。

そして、のっぺらぼうの顔が膨張したようなエフェクトからの、“Veil”。エレクトロな世界観をどうライヴで再現するのかが気になっていたが、手数多めの繊細なWドラムから、MELRAWの血通ったコーラスなど、ずいぶん肉体的な演奏だったので驚いた。“WWW”(音源未発表曲)では、のっぺらぼうの顔に歌舞伎の隈取りのような模様が出演。やがて、曲に合わせて口を動かしだしたのもクールな演出だった。ラップとジャズが交差するような、楽曲のダイナミックなパワーに酔いしれた。

“Stay!!!”は、原曲のCharaに代わりermhoiがメインボーカルに。曲の世界観はそのままに、完全に彼女のものにしていた。“Philip”に関しても、森がメインを担い、常田のヴォコーダーヴォイスと掛け合うように歌い上げていた。そしてKing Gnuの“Slumberland”、ミレパにおいてはパリッとしたサックスとともに鳴らされ、この夜をいっそうムーディに演出していた。“Trepanation”では、PVのあのキャラクターが映し出され、ワン・ツーとカウントが入り、楽曲へ。映像とリンクする生演奏の息遣いを感じながら、原曲とはまた違う儚げなアレンジが印象的だった。

途中、ゲストでKing Gnuの井口理が登場し、“Fireworks and Flying Sparks”へ。井口の神秘的なファルセットと、常田のハスキーボイスのコントラストに、魑魅魍魎的な映像も相まって、よりカオティックな深みへとズブズブハマっていく。そして極めつけは、やっぱり“FAMILIA”だろうか。暗闇の中に一筋のスポットライトが井口を照らし出す。その歌声は暗闇を手探りで進むような、不安さと切実な祈り。ホワイトステージらしくビリビリとした地鳴りがすると、あの殺気迫る常田との掛け合いが始まっていった。生と死と愛。壮大なサウンドスケープでもって表現されたレクイエムに、震えが止まらなかった。

そして、軽快なドラミングが響き渡ると、モニュメントの中央に「竜とそばかすの姫」のBelleが登場し、そのまま同曲のメインテーマ“U”へ。映画の世界観と現実とがうまく組み合わさった演出に、会場は大いに盛り上がった。やがてサイバーパンクな映像と、ermhoiの退屈を吐き出すような歌い方が退廃的な“2992”、最後は「Thank you FUJIROCK!」と、“call me”(音源未発表曲)とともにエンディングムービーへ突入し、幕は閉じた。

MCなし、怒涛の18曲。蓋を開けてみるととってもゴージャス。毎曲スペシャルゲストが満載のヒップホップグループのようなスタイルで、次々と新しい要素が投げかけられる、かなり濃密な1時間半だった。1秒たりとも目が話せないクリエイティビティの集合知を浴びた観客たちは、ただただ圧倒された様子だった。あらゆるセンスと想像力を身に纏い、この世のものからあの世のものまで味方に付けて練り歩く。そんなmillennium paradeの百鬼夜行に、怖がらずについていくことができるだろうか。

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CHAI http://fujirockexpress.net/21/p_875 Mon, 23 Aug 2021 15:47:29 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=875 Gorillazの新作アルバムヘの参加や、SUB POPとの契約など、ワールドワイドに快進撃を続けるCHAI。もともと、ファンクとかブラック・ミュージックのニュアンスがあるバンドだとは思っていたが、最新作にいたっては打ち込みを多用してみたり、ヒップホップやR&Bなどもまるっと自分のものにしていて、その変貌ぶりには驚くばかりだ。今回はその勢いのままに、多角的なアプローチで成熟した彼女たちを垣間見れるステージとなっていた。

一足先に舞台上に上がったYUNA(Dr,Cho)のカウントから始まった“NO MORE CAKE”で、新生CHAIのフジロックが始まった。軽快な16ビートに合わせて観客が体を揺らし始めると、MANA(Vo,Key) 、KANA(Gt,Vo) YUUKI(Ba,Cho)の3人が舞台上を暴れだした。メンバーは皆ピンクのふわふわドレスにシルバーのポンチョを羽織っている。ドレスのボリューム感とは対照的な小さな体で、でっかい音をかき鳴らすKANAの姿がなんともカッコいい。続いての“クールクールビジョン”ではYUUKIがシンセサイザーを担当。「Everybody,We are CHAI ‼︎」という掛け声とともに、轟音でスペイシーなサウンドが炸裂した。どっしり構えた低音に、MANAのパワフルな高音ボイスという高低差にぐっときた。

ここからは、最新作のムードに一気に接近。“Nobody Knows We Are Fun”はしっとりR&Bな空気が漂っていたし、<ほくろはチョコチップかもね>というワードが巧みな“チョコチップかもね”も、耳元でささやくような声が気持ちよく響き化学反応を起こしていた。

シンプルに音楽性の厚みだけではなく、パフォーマンスの厚みもまた一段と増している。中盤、YUUKIとYUNAによるDJプレイが始まり、これが大盛り上がり。おなじみの自己紹介タイムでは、バンド全体を紹介するんじゃなくて、彼女たちひとりずつにスポットが当てられたものになっていた。ハイスクールミュージカルの“We’re All In This Together”に合わせ、自身の担当パートや好きなことを紹介していくあたり、もう世界のCHAIなんだなと実感する。

シルバーのポンチョを脱ぎ、フラミンゴのようなドレスの全貌が明らかになったところで、YUUKIとYUNAがヴォーカルをとる“UNITED GIRLS ROCK’N’ROLL CLUB”へ。マナ&カナはベースとドラムを担当。バンド全体でマルチなプレイを見せつけた。YMCKの8ビットサウンドがご機嫌に映える“PING PONG! (feat. YMCK)”でのポップさといったらたまらない。パラパラのようなマナカナの動きもまた楽しくて、ちょっとニューオーダーっぽい音がするのもまたいい。

これだけ幅が広くて愛の深いプレイができるんだから、彼女たちがいかに今日に賭けてきたのかは誰の目にも明らかだ。MCでも「私たちミュージシャンで、音楽は絶っっ対辞めたくなくて。ライヴがない人生は、ありえない!」と力強く語っていたし、終盤、YUNAが涙するという一面もあった。そして最後のナンバー、“フューチャー”は、いつも以上に特別な意味を持って鳴らされた。「私を止めるものは何もない!」と強く歌いきると、会場は希望と絶賛の拍手に包まれていた。

暗くて不安な世の中だけど、CHAIにはこの勢いで世界を駆け抜けていってほしい。楽しませてくれてありがとう。これからも最高にキュートなバンドでいてね!

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SIRUP http://fujirockexpress.net/21/p_831 Sat, 21 Aug 2021 05:59:17 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=831 終盤のMCでSIRUPは「フジロックのグリーンステージにR&Bやソウルを自分なりに表現している日本人アーティストが立つのは多分初めてじゃないか」と、自負心と気概を見せていたが、個人的には遅すぎるぐらいでは?という気持ちが先立った。スケール感や知名度こそ違うけれど、コロナ禍じゃなければシルク・ソニックがフジロックにラインナップされててもおかしくないよね?と思うわけである。アンダーソン・パークだってグリーンのステージに立ったわけだし。

R&Bやネオソウル、ヒップホップのアーティストはもっと多くてもいいと感じる自分のような音楽ファンかつフジロック好きにはこの機会にSIRUPの美声と根拠のちゃんとある愛情表現が多くの人の目に触れるのは単純に嬉しかった。しかも6人体制のフルバンドでの登場である。生音のアンサンブルとスキル、SIRUPの歌をともに歌うような演奏に、単なるサポートの枠を超えた関係値を見た。

当意即妙なバンドアンサンブルで歌に寄り添いつつ、アゲていくデビュー曲“Synapse”などを序盤に配置し、歌の確かさにグリーンの後方で寝そべっている人もビジョンぐらいは見るようになる。SIRUPは「音楽が好きなら、音楽で見知らぬ同士が一つになれる感覚は知っているはず、泳ぎましょう」と“SWIM”を披露。驚異的な高音のロングトーンも上手くても刺さらない人のそれと違って、上手いと言語化する感想の前に心臓が掴まれて、同時に癒やされている。ロングトーンの締め方が上品なのだ。歌に人柄を見て、次第に前方エリアにも人が集まる。フェスキッズ風の男子が首でリズムを取りながら歩いている。そんなちょっとした新しい光景が可視化されるのがフェスティバルの醍醐味だし、大好きな場面だ。

車のCMにも起用された“Do Well”では座っていたカップルも立ち上がって踊る。そうして少しずつSIRUPの周囲に仲間が増えていく感じ、というのは妄想がすぎるだろうか。

終盤、彼はコロナ禍のみならず、ここ数年、しんどい思いを抱えながら生きてきたという。彼の希望は「誰しもが守られる社会」であり、その思いが端的に表出したのが新作『cure』であり、現実世界でも弱い立場にある人が生きやすい施策に携わったり、外国人への偏見とも闘っている。そういう背景がある彼がお互いを思い合おうと歌うと、どんな言葉よりストンと自分の中に落ちるものだ。祈りのようでもあるし、ただ思っているだけではだめだとも言われているような“Thinkin about us”はいつでも思い出したい曲になった。

いいことをするのはクールだ。いやもっと言えばいいことをするのは当たり前だといえるぐらいがクールなのかもしれない。温かくて、いつでも誰でも入ってくることができるフレキシブルな音楽、それがR&Bやソウル、ヒップホップのDNAからSIRUPが受け継いだものだと思う。この日、グリーンステージのフィールドで挙げられた手がいつかつながりますように。

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KID FRESINO(BAND SET) http://fujirockexpress.net/21/p_841 Sat, 21 Aug 2021 01:21:35 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=841 フィーチャリングやTV出演で注目されていたタイミングだけあって、ホワイトステージに集ったオーディエンスは早くから期待感を滲ませながらサウンドチェックを眺めていた。オーバーサイズのシャツに身を包み、KID FRESINOと5人のバンドメンバーの登場だ。

2019年の深夜のレッドマーキーに続いての出演となったKID FRESINO(BAND SET)は、早速最新作『20, Stop it』から“Shit, V12”を叩き込む。待ってましたとばかりに前のめりなラップと切れのあるサウンドに、僕らは早速釘付けに。そして続く“Coincidence”の前に、サポートメンバーの小林うてな(Steelpan / Traktor / Cho)が出演辞退となったことを告げるKID FRESINO(彼がぜひ読んでほしいと語った彼女のメッセージも併記しておこう)。スティールパンが映える曲だけに残念ではあったが、それでもソリッドなバンドサウンドがホワイトステージに刻まれていく様は圧巻だ。

“come get me”、“Winston”と立て続けに披露。DJセットでは何度か観ていたKID FRESINOのステージだが、バンドセットだとこうも違うのか。中村佳穂や君島大空と活動をともにする西田修大(Gt)が伸びやかなフレーズを奏でれば、くるりのステージを終えこの後millennium paradeのステージも控える石若駿(Dr)は粒の光るダイナミックな打音を刻み、精鋭たちが集ったバンドセットはひとりひとりの音がこれでもかと際立っている。その中でもキレと独特の癖があるKID FRESINOのラップの存在感はブチ抜けていて、相互に作用しながらドライヴしていくスリリングなバンドセッションにわくわくしっぱなしだ。

フジロックならではのスペシャルな共演も見られたKID FRESINOのステージ。“Girl got a cute face” ではCampanellaがフリーキーなスタイルで会場を沸かし、“Lungs”では赤いシャツを着たOtagiriが異様な存在感を放つ。KID FRESINOとも違うスタイルのラップを繰り広げる様子はバチバチのバトルのようでもありながら、盟友との温かい信頼関係を感じさせた。極めつけは、たまたま会場で見かけたから急遽連れてきたというDaichi Yamamotoとともに、クラブの情感を歌う“Let it be”。僕には彼のホームグラウンド京都METROの光景が浮かんだが、軽いフットワークで遠く離れた地の想いを連れてくるのも実にフジロックらしい共演だろう。掛け合うKID FRESINOのなんと楽しそうなことか!

後半にはキラーチューン“cherry pie”や、トラックから流れるNENE(ゆるふわギャング)のラップが映える“Arcades”など、暮れゆく太陽と吹き抜ける風を感じながら夏の情感を鮮やかに彩っていく。トラックとバンドの生音の組み合わせがなんともいい塩梅だ。そして“lea seydoux”と“Run”は息をつく暇もない圧巻のバンドセッション!思わず「お前らはtoeか!fox capture planか!」なんて言葉が頭に浮かび、感嘆を通り越して笑ってしまったではないか。“youth”でもスモークがライトに照らされてバンドが神々しく浮かび上がる様子に、ただただ圧倒されるオーディエンス。

“Rondo”、“Retarded”のパーティーの幸福感から一転、 “ALIEN”ではアカペラで誰もが持つ孤独感や疎外感を歌うKID FRESINO。それでも最後の“Easy Breezy”には仲間への愛とリスペクトが溢れていて思わずうるっとしてしまう。そして、普段の呼び名でメンバーを紹介する中には小林うてなも。このバンドは彼女の魂もしっかりここにつれてきた。KID FRESINOとバンドメンバー、客演の盟友たち。それぞれの「個」を尊重しながらどこまでもスリリングに響き合う、協奏のかたちがここにはあったのだ。

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ドレスコーズ http://fujirockexpress.net/21/p_844 Fri, 20 Aug 2021 22:47:00 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=844 あまり周年とかに興味はないのだが、志磨遼平がフジロックの地に立つのは2011年の毛皮のマリーズ以来。しかも今日と同じくホワイトの一番手である。10年の間にマリーズは解散し、志磨はすでにドレスコーズという可変的な音楽集団に数十人以上のメンバーを迎えている。しかも今年はサブスクリプション・サービスの特性を活かしきって、2〜3週間ごとに曲が変化・成長するという前代未聞のアルバム『バイエル』をリリースした(してきた)。かつ、そのツアーは公募メンバーによる「音楽を見知らぬ誰かと作り上げる」試行の真摯な表現だった。なので、今年のフジロックでのドレスコーズ最大の興味は端的に「バンドメンバーは誰?」ということと、コロナ禍だからこその表現(例えば、愛しているからこそ触れられないとか、不要不急だけどすてきな歌とか)をした『バイエル』をそのまま披露するのか?ということだった。

結論から言うと、マインドは2021年の『バイエル』のツアーを継承していたと言えるのではないか。メンバーは志磨ワークスではおなじみの有島コレスケ(Ba)、アルバムにも参加していたskillkillsのビートさとし(Ds)、中村圭作(Key)、そしてLEARNERSでも出演している堀口知江(Gt)というラインナップ。堀口のゴールドのブラストカルトのギターがステージにあるだけでなんとなくバンドサウンドのイメージができた。

志磨のアコギと中村のオルガンに乗せて、フロントの3人がうやうやしく合唱する“大疫病の年に”を演奏し終えると志磨は「おはよう。よろしく。みんなよく来たね。ドレスコーズです」と短く言い、ロネッツ風のビートが甘酸っぱい“はなれている”へ。50s風でもあるし、志磨のボーカルの気だるさはヴェルベット・アンダーグラウンドのようでもある。『バイエル』収録曲以外にも、前作『ジャズ』からロマ音楽風の“エリ・エリ・レマ・サバクタニ”などエキゾチックなメロディも聴かせたが、バンド・アレンジがミニマムで隙間が多いので、ジャンルの越境が気にならない。

今年の状況を指して「初めてのロックフェスティバルで、みんなここに来ることも来ないこともいっぱい悩んだと思うの。次の曲は人間は変われるのか?という曲です」と話して、“ローレライ“へ。みるみる顔が赤く陽に灼けていく志磨。真剣な表情で〈ひとをみくだすくせを/自分のことをみくだすくせを/なおすから どうかいかないで〉、そして比喩として、こんな汚れた手でよければ、なんでもすると誓うのだ。思わず涙も出るというものだけど、我々の手もまた汚れているかもしれず、いつ誰を傷つけてしまうかわからないという恐怖とロマンチックがないまぜになってしまう。志磨自身はオーディエンスには「どうぞ健やかに」としか言わないけれど。

また「今は離れ離れの僕たちがいつかまた会えますように、心を込めて歌います」と、ここに来ない選択をしたファンにも“愛のテーマ”を届けた。志磨曰く、ロックンロールには力があると。まず健やかに。そして愛と平和、心に怒りを持つこと、そしてユーモア。「黙って怒りましょう」と、ラストの“愛に気をつけてね“では、志磨を真似て、そこここで中指が突き立てられる。その怒りは漠然としたものから具体的なものまでもはやマーブル状に混ざりまくっている。逡巡しながらここにいる自分も含めて、大声を出さずに怒り続けていく術と仲間がいることをドレスコーズは確信させてくれた。確実に10年前よりしぶとい志磨遼平とその仲間がいた。あなたは10年で何が変わり、何が変わっていませんか?

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5lack http://fujirockexpress.net/21/p_842 Fri, 20 Aug 2021 16:30:53 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=842 クラブサウンドに乗せて自由に揺れるソーシャルディスタンス、そして拍手と手振りだけでしっかり成り立つコールアンドレスポンス。2018年の深夜のレッドマーキー以来の出演となった5lackのパフォーマンスは、このご時世でもダンスフロアは輝きを失わないことを示してくれた。そしてそれを実現したのは集った僕らの音楽を愛する気持ちと、彼のステージへの矜持に他ならないだろう。

ラップトップPCとDJセットに、突起がたくさんついたマイクスタンドのみの無骨なステージセット。最初に現れたのはなんとPUNPEEではないか。実兄にしてこの後SUMMITのステージも控える彼のビートメイクと、吹き荒れるスモーク。その中から5lackが登場し、初っ端からボルテージは最高潮だ。

「調子どう?」と投げかけたのも束の間、矢継ぎ早に繰り出したのは“DNS”。身体にズシンとくるビートは久々に味わうホワイトステージの音響を感じさせるが、トラップ調のチルいトラックは脱力感があって、僕らの身体も軽やかに揺れる。そして、“近未来200X”では早速GAPPERが登場しはやくもPSGの面々が揃うものの、歌い終わった彼はあっさりとステージを後に。変に演出せず淡々とやるのも彼らの流儀なのだろう。

アコギのトラックが映える“Nove”に続いて、NTTドコモの「2020年東京オリンピック・キャンペーンCM “Style ’20”」提供曲の“東京”。5lackのラップにはこの数ヶ月東京で起こっていたことへの含みを感じたが、声を挙げずとも手を振り上げることで彼に応えるオーディエンスからは、ヒップホップへの愛と苗場への思いが感じられる。

“That’s me”では、音楽への矜持をリリックに乗せてホワイトステージに刻んでいく5lack。スクラッチも冴え渡るPUNPEEの言葉を借りるなら、まさに「それがチミって感じ」というところだろう。MCの「明日死ぬかもしれない、それが人生」という言葉は今の状況を思うとあまりにも重過ぎるが、平時だとしても何が起こるかわからないのが人生。続く“Feeling”29”にはラップで生きてきた彼の生き様がこもっていた。

声を出してはいけない僕らのために歓声をサンプリングしてきたというPUNPEE。試してみて「やっぱ(実際の声と比べて)しょぼいな」とはなっていたものの、この状況だから用意してきた遊び心が光る。昔からのヘッズに向けた“Hot Cake”では、思わず癖で「Singin’!」と言って吹き出したり後で訂正したりと、茶目っ気たっぷりな姿が印象的だ。

そしてリリックの「俺の良いとことお前の良いとこを足して2で割りゃ最高だと思うよ」になぞらえて(まさにこの2人の関係みたいだ)、キラーチューン“Wonder Wall”ではPUNPEEもフロントに!こんなの僕らも身振り手振りで応えたくなるじゃないか。MCでの掛け合いはなんだかたどたどしくて微笑ましくもなったが、やはり音楽のコンビネーションは抜群だ。

そして再びGAPPERの登場で、“Problem Shutdown”と“Fujiyama”をドロップ!MCでもやたら謙遜したりと実直な印象の5lackのフロウと比べて、GAPPERのたくましいラップもまた違うフィーリングを持ち込み、気持ちのいい風を感じながら揺られるホワイトステージ。終盤にはメロウに奏でる“Syler”に軽快なビートに心も弾む“Weeken”、そしてピアノソロの“緩む”では、「自分で自分のことを決めて後悔のないように」と語る5lack。これこそがヒップホップの、そしてフジロックに流れる精神なのだと僕は感じていた。

最後は“五つノ綴り”が醸し出す甘美な倦怠感に揺られながら、スモークとともに去っていった5lack。PUNPEEはいつの間にかステージを後にしていたが、彼が何気なく言っていた「適当に揺れていこう」は今年のフジロックを過ごす指針のように僕の心に残っている。

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METAFIVE(砂原良徳×LEO今井) http://fujirockexpress.net/21/p_840 Fri, 20 Aug 2021 14:46:25 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=840  フジロック2021初日も早くも19時をまわった。とっぷり日が暮れたここはホワイト・ステージ。5lackとKID FRESINOというヒップホップアクトの2組に続いて、満を持して登場するのはMETAFIVEだ。諸事情により高橋幸宏、小山田圭吾、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコが出演せず、メンバーはまりんこと砂原良徳(以下まりん)とLEO今井(以下レオ)のみ。相対性理論のギタリストの永井聖一と、GREAT3のドラマーにして、高橋幸宏とLEO今井とも縁が深い白根賢一をサポートメンバーに迎えての特別編成でのライヴだ。この状況の中での、またとない編成でのMETAがどんな色を描くのか楽しみでならない。

 オーディエンスもこのコロナ禍の影響で半減しているとは言え、待ちわびた人たちがステージ前方に集合している。本来であれば、新譜『METAATEM』もリリースされ、本格的な再始動の場となるはずであったステージだ。本当に色々なことが起きる。そこで止まることなく、METAFIVEの世界を表現を共有するべくここに立ってくれた二人には感謝しかない。

 ステージが暗転すると割れんばかりの拍手が巻き起こる。続くタメの静寂のひととき…はじまる…。吹き荒ぶ吹雪のような音の中央に強引に導入されるぶっといビート。バックの画面に「META」の文字が縦横無人に踊りはじめると、レオとまりんが暗闇の中、寡黙に登場した。新譜に収録されていた”Full Metallisch”という楽曲だ。ダークで鋭利な刃物の冷たさを感じさせる音質と照明。ナイン・インチ・ネイルズの首謀者、トレント・レズナーも腰を抜かす世界観だ。レオが声を張り上げたドンピシャのタイミングでインしてくる永井と白根を含んだバンドアンサンブルの見事さには身震いものだ。のっけからめちゃくちゃかっこいい。

 続くは、新譜に先立ちリリースされた”The Paramedics”だ。レオ印満載の曲。METAの楽曲らしくとても踊れる曲に仕上がっているが、根底にヘヴィ・メタルやハードコアへの愛が感じられる。生は、ライヴはやはり絶品だ。レオはカウベルをこれでもかと叩きつけたり、シーケンサーを豪快にかき鳴らしたりと大はしゃぎだ。まりんが淡々と、エネルギー高めの音を出力して跳ねるグルーヴを彩っていく。

 今夜のサポートメンバーの一人、永井のギターの巧みさにはやられてしまった。”Musical Chair”での流れるようなギターソロ、軽快に疾走する”Gravetrippin'”のラストでのアーミング奏法でのキメキメの締めくくりなど、楽曲の持つ質感にピッタリと寄り添い、的確な音を繰り出すギタリストだ。

 今夜のステージの屋台骨たるビートを支えた白根もすごい。身体が自然とダンスしてしまう今夜のグルーヴ、レオがいつも以上のはしゃぎっぷりで魅せる歌は彼のドラムに依るところが大きい。朋友であるGreat3のリーダー、片寄明人がインタビューで「エモーショナルなのに演奏もしやすくて、歌いやすいっていうのが白根賢一のドラム」と絶賛したが、まさしくその通りだ。複雑怪奇なリズムに突飛な音が飛び交う”Don’t Move”。永井と白根の確かなミュージシャンシップに裏打ちされた音像の上を飛び跳ねる、まりんとレオの自由極まりないパフォーマンス。本当にまたとないライヴをたった今、目撃している。

 ラストは、小山田圭吾節が効いたアンニュイな”環境と心理”。「ありがとうございました!緊急事態中のメタファイブでした!」とレオが挨拶して、あっさりと完了。

 人生、毎日が一期一会。これから世界で何が起き、その時自分は何を選択して何を成していくのか。今夜限りのまたとないライヴを観終えた後、そんなことが頭に浮かんだのだ。

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DYGL http://fujirockexpress.net/21/p_843 Fri, 20 Aug 2021 08:00:20 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=843 DYGLという非常に真面目なバンドが不器用なままその素顔をさらけだしたステージだった。ひとつ前のドレスコーズが演奏やパフォーマンスやお客さんたちの迷っている心に寄り添うメッセージの打ち出し方まであらゆる点で上手かったゆえに感動的だったライヴと比べ、DYGLは自分たちもまた迷っているのだということをステージでみせてドレスコーズとは正反対の、どちらがよいとか悪いとかでなく、どちらも感動的なステージをみせてくれた。

必殺の定番曲"Come Together "や"Bad Kicks"を始め、いつも演奏する初期の曲を外し、歌が際立つアコースティックな曲やギターノイズが放出される新譜中心のセットリストでフジロックのステージに立つというのも勇気あっただろうし、迷いの中にいて結論がでない話を長々と秋山がMCするというのもリスキーなことである。黙って演奏していればよいのだけど、でも秋山は、バンドはそれを選択した。

コロナ禍でフェスにでること、ステージに立つことを正面から受け止め不器用な姿を見せることそのものがフェスにくる人たちに伝えたかったことなのだろう。サポートギタリストとDYGLの4人は真摯に向き合い、それが感動的だったのだ。この後もいくつかバンドを観たし、それぞれの向き合い方、誠実さがあったけど、DYGLほど思考の過程までみせたバンドはなかった。

始まるときは、夏の日差しが強いホワイトステージだったけど、だんだん雲が空を覆ってきて日差しが和らぎ、過ごしやすくなった。ずっと旋回しているヘリコプターがうざかったけれども。"7624″で始まり、”Sink"そして"The Search"で終わったライヴはDYGLがフジロックでおこなった何回かのステージの中で一番観客の気持ちに近いものとなった。"The Search"はそれまでの想いをギターノイズにぶつけたような熱演だった。演奏が終わると秋山はマスクをつけてステージを去っていった。

セットリスト
7624
Bangar
Half of me
Stereo Song
Wanderlust
The Rhythm of the World
Alone in the Room
Bushes
Sink
The Search

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