“suguta” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '21 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/21 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Tue, 02 Aug 2022 05:24:20 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.18 誰もが真剣に向き合い、決断を迫られた「コロナ禍のフジロック」 http://fujirockexpress.net/21/p_5816 Tue, 31 Aug 2021 08:53:35 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=5816  いつも通りなら、エキスプレスの締めくくりとなるこの原稿の巻頭を飾るのは、すべての演奏が終了した会場最大のグリーン・ステージ前で、満面の笑みを浮かべるオーディエンスの写真となるはずだった。が、今年は撮影さえもしていない。例年ならば、この時間帯、巨大なスピーカーから放たれる名曲、ジョン・レノンの「Power To The People」でみんなが踊り狂うことになるのだが、それが聞こえてくることもなかった。それに代わったのはMC、スマイリー原島氏の挨拶と締めの一言「Power To The People」だけ。オーディエンスの興奮に水を差すのは承知の上で、現場が最後の最後に彼らに対して「ゆっくり静かにフェスティヴァルの幕を閉じるようにお願いしよう」と判断したからだ。

 コロナ禍でのフェスティヴァル開催という、きわめて特殊な状況の下、例年とは全く趣を異にする光景が、始まる前から様々な場所で見え隠れしていた。越後湯沢駅に向かう新幹線から会場へのシャトル・バスでも同様で、いつもなら、嬉々とした表情を浮かべて仲間とはしゃいでいるはずなのに、誰もが言葉少なに見える。彼らが互いに適度な距離を開けて整然と列に並び、苗場を目指しているのだ。今回のフジロックを開催するに当たって、参加するお客さんから、全スタッフ、関係者に伝えられていたのが感染防止ガイドライン。それを彼らが徹底して守ろうとしているのが見て取れる。

 フジロッカーにとってはおなじみの、オアシス・エリアのど真ん中に姿を見せるはずのやぐらは見当たらず、それを囲んで、地元生まれの「苗場音頭」を大音響でながしながら、みんなが輪を描いて踊る光景もなかった。それが今年のフジロック開催前夜。過去10年以上にわたって続けられてきたというのに、レッド・マーキーで、「おかえり!」と声をかけて、「ただいま」と応えるみんなの記念撮影をすることも、もちろん、なかった。本来ならば、フジロックを愛する人達が待ちに待った時間の到来に、彼らの興奮が一気に爆発するのが前夜祭の開かれる木曜日の夜。しかも、前年の開催が延期されての2年ぶりだというのに、きわめて静かな幕開けとなっていた。

 公式に「前夜祭はない」と発表されてはいたものの、唯一それを感じさせてくれたのは、直前までやるのかやらないのか全く知らされなかった花火ぐらいかもしれない。例年なら、ここで大歓声がわき起こり、否応なしに「祭り」の始まりを感じさせてくれるのだが、そんな反応は一切なかった。最初の一発が打ち上げられたとき、わずかに驚きの声が聞こえ、涙を流す人がいたという話も耳に入っている。が、誰もが夜空を飾る花火をなにやら厳かに見上げていたように思う。拍手はあったかもしれないが、シ〜ンと静まりかえった会場で、花火の音と光だけが響くという、どこかで「特殊なフジロック」を象徴するかのような光景が目の前に広がっていた。おそらく、誰もがここまでたどり着くのが簡単ではなかったことを察していたのではないだろうか。


Photo by 安江正実

 当初、ライブハウスなどからクラスターが発生したことも影響したんだろう、感染拡大を誘発する場所として、ライヴ・エンタテインメントの場所がやり玉に挙げられ、そういったものが知らない間に「不要不急」を象徴するものであるかのように語られ始めていた。数多くのライブハウスが閉店を余儀なくされ、ミュージシャンや演劇人が作品の発表の場を奪われたのみならず、照明や音響の技術者が職を失っていた。さらには大規模なコンサートからフェスティヴァルが次々と延期やキャンセルの憂き目にあう。もちろん、感染拡大は阻止しなければいけない。が、同時に、音楽のみならず文化とは生きることに必要不可欠な要素であり、それを否定することはできない。その集大成としてフェスティヴァルという文化が存在する。とりわけ、それが日本で生まれ、成長していくきっかけとなったフジロックを根絶やしてはいけないという思いが主催者、関係者、そして、フジロッカーにはあったということだろう。

 それだけではなかった。昨年、フジロックが延期を発表した頃、町内から「なんとか開催できないか」という打診があったという噂を耳にしている。その理由はフジロックで生まれる経済効果であり、それが断たれることが地元に計り知れない影響を与えることになる。それが二年も続けば壊滅的な打撃を受ける可能性も否定できない。だからこそ、地元と主催者が開催に向けた方法を模索し始めるのだ。その結果として、可能な限り徹底的な感染予防策を築き上げ、観客には不自由きわまりないがんじがらめの感染予防ガイドラインを提示することになる。しかも、本来のキャパシティのほぼ25%程度にまで規模を縮小。結果として1日の最大動員数は1.4万人弱と、一般的なスポーツ競技で日本武道館をほぼ満杯にした程度にとどまることになる。

 これで採算が取れるんだろうか? しかも、感染問題に絡んで参加に不安を感じている人達や体調がすぐれない人達へのチケット払い戻しにも対応している。加えて、チケット購入者にコンタクトをして、希望者には抗原検査キットを発送し、大多数の人たちがそれに応えていた。が、それでもまだ不安だと、目指したのは100%。必要とされる膨大な数の抗原検査キットを集めるのに東奔西走したという話が伝わっている。さらに、会場内の救護テントに加え、バックヤードには数多くの医療関係者や民間救急搬送車3台を待機。また、会場入りする前に全スタッフがPCR検査を受け、陰性であることを証明してからでないと、苗場入りできない取り決めをしていた。加えて、長期滞在するスタッフは定期的に抗原検査を繰り返す。さらに、すでに会場入りしていても、自宅の家族で濃厚接触者が報告されると速効で会場を追われ、陰性であることを証明することなく現場復帰はできなくなっていた。ちなみに、観客のみならずスタッフも全員が毎日検温チェックを受けないと、会場に入ることもできないことになっている。どこかの新聞が「厳戒態勢」という言葉を使っていたのだが、まさしくその通りだろう。


Photo by 粂井 健太

 下手をすると、今年は最もフジロックらしくないフェスティヴァルになるかもしれないという危惧があった。どこかで自由と自主性が魅力となっていたフジロックだというのに、感染対策に絡んで「がんじがらめ」のルールを守らなければいけない。しかも、コロナ禍での開催ということもあり、海外からのアーティストは皆無。会場を演出するUKチームの来日もできなかった。なにやら、フェスティヴァルと言うよりも、緑に囲まれた野外コンサートでしかないかもしれない。さらには、場内でのアルコール販売が禁止され、中心部から離れた場所にごくわずかに用意された喫煙所を除いて全面禁煙となっていた。1997年にフジロックが始まった頃から、毎回出店していた、オアシス・エリアの顔のような存在となっていたバーやお店の数々が出店をキャンセル。すでに「ここに来れば顔を合わせることができる」友人や仲間たちが参加を断念するにいたるのだ。

 誰もが苦渋の決断と選択を迫られていた。特に大都市を中心に新型コロナウイルス感染者が急増し始めると、「なんとか開催してほしい」という声と同じように、「中止すべき」という声も多くなっていった。出演を予定していたアーティストやパフォーマーに対しても、様々な声が寄せられ、参加しようとしていた個人も揺れ動いていた。その結果がなにであれ、ひとりひとりが真剣にフジロックに向き合い、判断したことに敬意を表したい。来てくれたみなさんにも、今年は来るのをやめたみなさんにも、ありがとう。中止すべきだと主張した人にも、開催すべきだと声を上げた人達にも、出演してくれたアーティストにも、出演辞退をした人達にも、ありがとう。そういった反響に感じるのは、多くの人たちにとってフジロックが大きな存在になっていること。だからこそ、真剣に向き合って、彼らが導き出した判断に最大限の敬意を表したいと思う。

 会場では感染予防ガイダンスを守ろうとするオーディエンスに圧倒されることになる。少なくとも、喫煙所やフード・テントを除いて、マスクをしていない人にはお目にかからなかった。しかも、ここで食事をしていて気付くのだ。ほとんど会話が耳に入ることはなかった。「黙食をお願いします」と書かれている注意書きを守ろうとしているのが、痛いようにわかるのだ。久々に仲間と会って握手をしたり、抱き合いたい気持ちがあっても、それを躊躇して肘や拳で挨拶。マスク越しに語り合う人はいても、大声で話す人にはお目にかからなかった。また、水分補給などでマスクを外すときも、周辺に人がいないことを確認してそうしているのが見て取れた。

 ふつうならグリーン・ステージ外にMCを置くことはなかったのだが、今回は全ステージにMCを配し、演奏が始まる前に必ずオーディエンスに呼びかけていたことがある。

「必ず鼻を隠すようにマスクをして、声は出さないでください。安全な距離を保つために地面に記されたマークを確認してください。ステージ前では水分補給用のペット・ボトルなどを除いて、飲食物を持ち込まないでください」

 MCにはそのマニュアルが渡され、毎回オーディエンスに訴えかけるように義務づけられていた。そうして飛沫や接触による感染を防ごうとしているのは言うまでもない。

 そのおかげで目撃するのは、おそらく、フェスティヴァルやライヴでは前代未聞の光景だっだ。どれほどライヴが白熱しても、ほとんど歓声が聞こえることはなく、聞こえてくるのは拍手や手拍子のみ。それでも、その想いがステージ上に伝播するんだろう。加えて、悩み抜いてここに来る決断をしたアーティストの想いがそこに重なって、誰もがとてつもない熱を感じさせるパフォーマンスを見せていた。それは数えるほどのオーディエンスしか目に入らなかったちっぽけなステージであろうと、幾分の違いもなかった。今年は、会場入りを断念した数多くの人達がYouTubeでそれを目撃することになるのだが、演奏の素晴らしさを支えていたのはこの場で生まれた、えもいわれぬエネルギーのたまものではなかっただろうか。


Photo by MITCH IKEDA


Photo by Eriko Kondo

 今年は、珍しく、チーフ・プロデューサーの日高大将が二度、グリーン・ステージに立っている。昔からフジロックを支えた二人の仲間が他界したことを告げたのが初日、そして、最後、日曜日のトリを務めた電気グルーヴの前。そこで彼がオーディエンスから感じたのは「なんとかしてフジロックを支えようとする人々の熱気だった」という。それが端的に表れていたのは彼らが感染防止ガイダンスを守り続けたことのみならず、まるで1999年の苗場で起きた奇跡の再現でもあった。すべてが幕を閉じた後、会場にはほとんどゴミが落ちていなかったという。ゴミ・ゼロ・ナビゲーションを訴えて、活動しているiPledge(アイプレッジ)が毎日、会場に落ちたゴミを拾い集めているのだが、各所に設置された収集箱を除いてほとんど仕事がなかったという嬉しい話も届いている。

 フェスティヴァルが終わった8月24日に発表された主催者からの公式声明によると、その時点で「会期中の会場においてひとりの陽性者も確認されていないこと」が伝えられている。もちろん、それで完結してはいない。「今後も、時間経過と共に情報収集に努め、その結果をあらためて皆様へご報告し、未来のフェスティヴァルにおける感染防止対策の改善につなげてまいります。」と続いている。また、振り返るには早すぎるかもしれないが、完璧を目指したすべての関係者、地元のみなさん、そして、全国から会場にやって来ることができた方々や来られなかった方々にも、批判した方々にも、ここまでたどり着けたことを感謝したいと思う。

 台風に襲われて惨憺たる状況を経験した1997年開催の第一回目から、その存続が問われる大きな試練となったのが苗場に場所を移して最初の1999年。「ロック・フェスティヴァルは危険だ」という偏見に対して、互いを思いやり、愛し合うことを行動で示すことによって、会場どころか、苗場の町からお世話になったホテルや民宿でゴミひとつ落ちていない「奇跡」を形にしていた。これが「地元と共にフェスティヴァルを育てる」という流れを生み出している。それ以降、同じように台風や記録的な豪雨といった幾多の試練を乗り越えて成長してきたとは言え、今回直面したのは前代未聞のウイルスによる危機だった。前述のように、まだまだ結論を導くには早すぎるのは十分承知の上で、関わるすべての人達が可能な限りの知恵と努力で「奇跡」を目指した今年は、フジロックの歴史を語る上で無視できない1年となったことは言うまでもないだろう。

 どこかで様々な意見や考え方の違いが音楽界で分断を引き起こしているという声も耳に入る。が、フェスティヴァルを愛する人達が、多様性を認めるのは当然であり、互いを尊敬し、受け入れて、そこからよりよい選択肢へと自らを導いていくべきだと思う。その上で、今回の経験を糧に、来年を目指したいと思うのだ。このウイルスによる影響がいつまで続くのか、誰にも予測はできないかもしれない。いつか、そんな心配をすることもなく、苗場でみんなとまみえることがある日を願って、今年のエキスプレスの幕を閉じたいと思う。

 なお、ガイダンスに則り、感染を防ぎながら取材をしなければいけないという難しい状況のなかで、動いてくれたスタッフに最大限の賛辞を贈りたい。マスクやフェイス・シールドの用意はもちろん、安全な距離を保ちながらの取材は簡単ではなかったはず。また、独自に用意周到な感染対策を生み出してラウンジを運営したスタッフにも頭が下がる。心の底から、ありがとう。

 今年動いてくれたスタッフは、以下の通りです。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/21/
フォトグラファー:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、MITCH IKEDA、アリモトシンヤ、安江正実、粂井健太、白井絢香、HARA MASAMI、おみそ、suguta、シガタカノブ、佐藤哲郎
ライター:丸山亮平、阿部光平、石角友香、あたそ、梶原綾乃、阿部仁知、近藤英梨子、イケダノブユキ、三浦孝文、東いずみ

■英語版(http://fujirockexpress.net/21e/
Laurier Tiernan, Jonathan Cooper, Nina Cataldo

フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、obacchi、藤原大和

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、坂上大介(デザイン)、迫勇一

スペシャルサンクス:三ツ石哲也、若林修平、守田 昌哉、Park Baker、そして、観客を守るために奔走してくれた全スタッフ、試練を乗り越えてフェスティヴァルの素晴らしさを伝えてくれた観客のみなさん。

プロデューサー:花房浩一

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fujirockers.orgとは1997年のフジロック公式サイトから独立した、フジロックを愛する人々のコミュニティ・サイト。主催者から公式サポートを得ているが、独自取材で国内外のフェスティヴァルからその文化に関わる情報を発信。開催期間中は独自の視点で会場から全方位取材で速報を届けるフジロック・エキスプレスを運営。
http://fujirockers.org/
MerdekaTogel

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青葉市子 http://fujirockexpress.net/21/p_899 Wed, 25 Aug 2021 14:37:23 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=899 GLIM SPANKY(Acoustic Ver.) http://fujirockexpress.net/21/p_900 Wed, 25 Aug 2021 04:00:57 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=900 OAU http://fujirockexpress.net/21/p_895 Mon, 23 Aug 2021 00:43:52 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=895 BEGIN http://fujirockexpress.net/21/p_898 Sun, 22 Aug 2021 18:17:47 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=898 「音楽って、空気に乗っていくものだから、生で聞くのはとてもいい。苗場の空気に音が乗ったのが、フジロックでしょ」。比嘉栄昇(Vo)が冒頭、そのようなことを言っていた。なんて的確な表現なんだろう。今回の彼らのライヴは配信もあるんだけれど、「生で楽しむ良さ」を凝縮したような内容だった。

今日のセットリストは、直前まで悩んで決め、「のんびりやることにした」という。ちょうど沖縄では今日が送り火の日。おじいやおばあに届いたら、と“月ぬ美しゃ”が歌われた。“三線の花”では、三線の弦の響きが立体的かつダイナミックに伝わってくる。次第に上地等(Pf)と島袋優(Gt)の合いの手が入ると、(今更ながら)本物のBEGINを観ている実感が湧いて、曲の解像度がぐっと増すのを感じた。

島袋の歌唱による“海の声”では、ワンコーラスだけでも拍手が起きるほどの盛り上がりだったし、旅立ちの曲“パーマ屋ゆんた”は、沸き上がってくる物語の情景につい涙してしまった。しばらくすると、「バラードやめた!」と比嘉が宣言。“笑顔のまんま”を情熱たっぷりに演奏すると大盛り上がりで、<生きてるだけでまるもうけ OH!!>と観客もそれぞれに拳を挙げて応えた。定番の“オジー自慢のオリオンビール”も今日はどこかノンアルコール仕様。みんなの手がエアジョッキになってはい、乾杯〜!

ひとしきり楽しんだところで、話題はフジロックのことへ。よく来たね、大変だったね、と。学生だったら1年間バイトして、社会人なら食費を削って捻出したチケット代は決して安くはなかっただろう、と比嘉が観客をねぎらう。とはいえBEGINの3人も大変だっただろう。「ま、俺のほうが遠くから来たけどね」なんて言って笑いを誘っていた。

最後は“島人ぬ宝”に“涙そうそう”と、もう何度も聴いた大名曲を目の前で!そのありがたさを噛み締めながら、やっぱり生のライヴっていいなあ、これに代わるものはないよなと思っていた。電波に感情が乗らないとまでは思わないけれど、生と配信はやっぱり別物。やっぱり音楽って、空気に乗っていくものなのだなあ。

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上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット http://fujirockexpress.net/21/p_896 Sun, 22 Aug 2021 14:38:27 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=896 直前に強めの雨が降り、生ピアノはもちろん、弦楽器は無事なんだろうか?といらぬ心配をしてしまったけれど、これまでも過酷な野外の環境であるフジロックに出演してきた上原ひろみに対してそれは杞憂だった。

個人的に昨年、彼女がライブハウスの火を消さないためにブルーノート東京で連続公演を決意したとき、いま見るべきはこのライブだと直感し、熾烈なチケット争奪戦の末、最初のソロ・ピアノ・シリーズを見ることができた。何か生身の人間が鳴らす音楽の可能性を上原の演奏で浴びまくりたいと思ったのだ。

そして今回のピアノ+弦楽四重奏という編成はそのシリーズ「SAVE LIVE MUSIC」の2020年末から2021年始にかけて初披露された新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターである西江辰郎を中心とするカルテットとのプロジェクト。目下、9月のニューアルバム『SILVER LINING SUITE』から”Ribera Del Duero”のみ配信されているが、なんと今晩のプログラムはアルバムに先駆けて、新曲をほぼ演奏してくれるという、スペシャリテもスペシャリテな内容だったのだ。

西江辰郎(1st violin)、ビルマン聡平(2nd violin)、中恵菜(viola)、向井航(cello)がチューニングを終えたところに、真っ赤なドレスにゴールドのスニーカーの上原がささっと登場し、すぐプレイが始まる。チェロがコントラバス的な役割をしているのもユニークだし、なんと言ってもピアノと弦の掛け合いはジャムバンドかマスロックだ。歓声を上げられないのが残念だが、スリル満点。

超絶技巧だけがすごいわけじゃなく、ピアノと弦楽四重奏の作編曲をしたことが、まずなかなかないと思うのだ。映画音楽ならありえるのかもしれないが、ライブで演奏されてこそ活きる抜き差しの多彩さが彼女の妙味。いま、ヘブンにいる人が初めて聴く曲ばかりだが、演奏で引きずり込まれて、立ち尽くす人、揺れる人、自分なりにリズムをとって踊る人、さまざまだ。また、上原のソロが最高潮に盛り上がってくると、ジャズに詳しいオーディエンスだけじゃないはずなのに、自然と拍手が起こる。ジャズやクラシック・コンサートのルールなんてわからなくても、思うまま反応することはできる。

終盤に1曲だけ、ソロ曲の”Kaleidoscope”をプレイし、そのパワーに圧倒される場面も。弦楽の演奏者も演奏に聴き入り、弓で賛辞を送る、あの光景も見られたのだった。

ラストに”Ribera Del Duero”を配したのはソロ・パートの見せ場があるからだろうか。アンサンブルも素晴らしいが、ひとりひとりの演奏にも鳥肌が立つ。山の中でピアノと弦楽四重奏の演奏会、しかも夜にスタンディングで楽しめるなんて、生涯でもうないかもしれない。

音楽を止めないと、様々なアーティストが言う。その方法論やスタイルは人の数だけあるだろう。だが、上原ひろみのように自分が先陣を切って、実際に音楽を止めないために動く人は稀だと思う。俯瞰で見ると、フジロックに出演したのみならず、この挑戦は痕跡と呼べるものだが、逡巡や過程を知らせることなく、ただ彼女の音楽はそこにあった。

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SUPER JAM http://fujirockexpress.net/21/p_897 Sun, 22 Aug 2021 09:55:03 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=897 私が見たフジロック(Day 2)from スタッフM http://fujirockexpress.net/21/p_4812 Sun, 22 Aug 2021 09:35:40 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=4812 私が2日目に観たライヴは、個人的な諸事情により、取材したヘブンでの光風&GREEN MASSIVEと、元ちとせをスペシャルゲストとして迎えたスカフレイムスの2本のみ。残念なところはもちろんあるが、人生では色々なことが起きる。欲しくないことだって起きる。このコロナ禍だってそうだ。起きたことに合わせてダンスし、そこから楽しんでいくしかない。ということで、家族や仲間たちの目も借りて、彼らから得た話を盛り込みながら、二日目を振り返っていきたい。

 私の母がこの日のベストアクトだと言っていたSIRUP。グリーンステージから流れてきた心地よいR&B/ソウルが素晴らしく、前情報がまったくない状態だったがその音と歌声に誘われてそのままラストまで観てしまったそうだ。彼は、フジロック開催の直前に「フジロック出演にあたって ご一読頂ければ幸いです!」とフジロック出演に対する考えを真っ直ぐな言葉とともに表明していた。今年のフジロックでは多くのアーティストたちがステージ上で自分たちなりの考えを示していたが、その流れのきっかけを作ったのが彼だと感じている。ステージでは、立場的に弱者の人たちに対する想いなど、彼自身が日々感じていること、実際に行動していることを音楽を通して語り、先の表明のラストにある「大変な世の中ですが、皆様ぜひご自分を大切にしてください」、自分を大切にすることが、他人を大切にすることにつながるということ、その本物の言葉が胸に響きめちゃめちゃ感動したとの感想を母は語ってくれた。

 Corneliusのキャンセルにより、急遽出演が決定したKen Yokoyama。期間中に場外のスワロー苗場ロッジで開催された【Joe’s Garage Naeba presents “芸術衝突”】というジョー・ストラマー展に立ち寄った際に、横山健がステージ上で語ったという激アツな内容を聴いた。「どうしたらいいか分からない時、僕は心のジョー・ストラマーに聞くんです。だけど今回ばかりはジョーもどうしたらいいか分からないって。でも、ステージに上がったらブチかませ。できるだけ激しくな!」と。熱い、熱すぎる!ジョー・ストラマーはご存じの通り、フジロックを愛し、日本にフェスティヴァルの楽しみ方を文化を教えてくれた、フジロックに欠かせない存在であり精神だ。彼の心の中のジョーが言う通り、正しい答えなんてないのだろう。自分で考え、自分なりの答えを出し、行動を選択していくしかないのだろう。この話には本当に力づけられたし、勇気づけられた。

 そして、この日のグリーンステージのトリを務めたのがKing Gnu。こちらは我が弟から話を聞いた。バンドの鬼気迫る演奏も凄かったが、井口理の歌、特に”The hole”での祈りのような感極まる表現に圧倒されたとのこと。「すごくおこがましいかもしれないけど、少しでも明日を笑顔で生きられる力になれたらいいなと。そういう思いで立てたらいいなという気持ちで今日ここに立っています」と涙ながらに想いを伝え、場が感動に包まれたそうだ。バンドの創始者でリーダーの常田大希も「正解は誰にもわからないけれど、家族や仲間のことを考えて行動することがコロナに打ち勝ったり、より良い未来につながる」と自信の考えを表明した。

 今回のフジロックでは、上記に限らず多くのアーティストが自分なりの見解や考えを示している。コロナ禍に起因した現象であることは間違いないが、良い傾向ではないだろうか。自分が思うこと、感じることを表して、その上で選択し行動していく。選択した自分の責任にもとづいて。アーティストによる自由な表現や、苦悩も含んだ彼らなりの考えを我々日本全国のフジロッカーが聞いたのだ。これは大きなことだ。フジロックはただの音楽フェスティヴァルではない。その後の価値観、そして人生をもまったく変えてしまうような可能性に満ちた場であることをあらためて感じた次第だ。

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サンボマスター http://fujirockexpress.net/21/p_830 Sun, 22 Aug 2021 01:27:25 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=830 サンボマスターが4年振りのグリーンステージに登場!昨年夏の配信『KEEP ON FUJI ROCKIN’ 』の画面を飛び越してくるような熱情に当てられた時から、この日を心待ちにしていたフジロッカーも多かったに違いない。彼らはその大きな期待をさらに越えてくる熱いパフォーマンスを見せてくれた。

初っ端から「ミラクル起こすって心に決めろ!ルール守ってかかってこい!」と叫ぶ“ミラクルをキミとおこしたいんです”では、「優勝しにきたんだ!サンボマスターは観にきたおめえら全員に金メダルかけにきたんだ!」と僕らを力の限り鼓舞していく。そう、ミラクルってのはたまたま起こるものじゃなくて自分の手で起こすものなんだ。

そして「このコロナ禍でもおめえらクソだったことなんて一回もないんだよ!そのことを忘れないで!」と“忘れないで 忘れないで”を叩き込む山口隆(唄とギター)の語りは、歌ごとそのまま僕らの心にダイレクトに響いていく。そんな彼の「唄」を全身に浴びながら僕は中央の少し小高いあたりで観ていたが、モニターどころか肉眼で遠くに見える姿を眺めていても、至近距離で語りかけるような言葉にグリーンステージは鷲掴みだ!

最高潮のまま「踊りまくっていただきましょうか!」と“青春狂騒曲”になだれ込んでいく。骨太なビートで下支えする近藤洋一(ベースとコーラス)と木内泰史(ドラムスとコーラス)、そして恍惚のギターソロを炸裂する山口のスリーピースが醸し出す、これしかないってバンドサウンド。グリーンステージを見渡しても身体で喜びを表現する前方の人々から、後方で椅子に座りながら手を振る人まで、周りに気を遣いながらもみんなが今しかないこの青春を謳歌している。

「全員優勝!全員優勝!」と叫ぶ山口。トラックのビートに乗せてラップを刻んでいく“その景色を”に、「差別と暴力と分断にラブアンドピースで対抗するんだ!」と想いを乗せる“世界はそれを愛と呼ぶんだぜ”と、どんどん熱くなっていくグリーンステージ。もちろんここに集った僕らは声を出してはいけない。でも誰もが心の中で「愛と平和」を叫んでいたことは、ここにいたみんなが感じたはずだ。

人々の手が波のように揺れる“孤独とランデブー”。なんて美しい光景だろうか。ひとりひとりの魂はそれぞれ独立していても、僕らはこんな風に喜びを分かち合えるんだ。「YouTubeで観てる君も!」と、本当はここに集いたかった日本中のフジロッカーに向けて投げかける山口。サンボマスターの気持ちが画面越しのみんなにも伝わってることは、ここに居る僕らにもありありとわかる圧巻の熱量だ。

10年前の東日本大震災や昨今のコロナ禍で傷つき亡くなった人々に想いを馳せる山口。初日の猪苗代湖ズでもステージに立った彼は、故郷の方言でぽつぽつと語る。その表情には割り切れるわけのない悲しみが宿るが、それでも今ここにいる人に生きててくれてありがとうと伝える“ラブソング”。エレキギターのしんみりとした弾き語りからベース、ドラムと厚みを増していき、声を枯らしながら叫ぶ山口の歌声が苗場の森にこだましている。

“輝きだして走っていく”で突然の大雨に降られるグリーンステージ。まったく読めない山の天気はこれぞフジロックというところだが、ちょうど山口が歌っていた「負けないで キミの心 輝いていて」は、さらなる試練の中今日と明日を過ごしていくフジロッカーへのエールのように感じたものだ。そして、“できっこないを やらなくちゃ”で山口が力の限り歌う勇気と覚悟に呼応するように、突き上げる一人一人の拳。青臭いだろうか。現実はそう甘くないだろうか。それはそうかもしれない。でも周りを気遣いながらも自らの意思で立ち上がるフジロッカーたちが創り上げる光景に僕が感涙してしまったことは、誇張でもエクスキューズでもない紛れもない本心だ。

最後の“花束”では近藤が苗場食堂やSUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN FESTIVALの会場へと移動する「LIVE配信」を織り交ぜながら、数々のフェスに想いを馳せ、唄の花束を捧げるサンボマスター(LIVEじゃないだろなんて言うのは野暮ってもんだ)。キャンプサイトのテントの中からはMAN WITH A MISSIONのKamikaze Boyが顔を出し力強い応援が加わる中、ステージに戻って3人が掲げたのは京都大作戦、ARABAKI ROCK FEST.、RISING SUN ROCK FESTIVALのタオル。この時SUPERSONICのTシャツを着ていた僕は来月の無事を祈ったものだが、今年失われてしまったフェスの数々に集うはずだったミュージシャンや音楽関係者、そしてフェスを愛する人々への力強いメッセージがグリーンステージを通して全国に流れていた。

最後の最後まで誰一人置き去りにしない魂のロックンロールで一人一人の心を勇気で満たしたサンボマスター。グリーンステージを後にする僕も、より一層気をつけながらフジロックをたくましく過ごしていこうと決意を新たにしたものだ。僕らなら絶対にできる。そう強く信じながら。

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AAAMYYY http://fujirockexpress.net/21/p_942 Sat, 21 Aug 2021 15:52:17 +0000 http://fujirockexpress.net/21/?p=942 初日のヘヴンでも大いに新しいファンを獲得したTempalay。2日目はつい先日、ソロ・ニューアルバム『Annihilation』をリリースしたばかりのAAAMYYYがリニューアルした苗場食堂のステージに登場した。のだが、早々に入場規制がかかり、枠の外から鑑賞するはめに……。まぁいまの彼女の人気や注目度から言えば少し手狭だったかもしれない。

バンドのときとはまた違うデザインの白い衣装で現れた彼女。サウンドチェックの段階から声が聞こえていたTENDRE(Key)はもちろん、ステージ上にはODD FOOT WORKSのTondenhey(Gt)や昨夜、TempalayをサポートしていたBREIMENの高木祥太(Ba)の姿も見える。今年のフジロックの一端を担う面々だ。後のMCでわかったのだがDJ Yohji Igarashiも参加していた。

これまで以上にグッとダークさと儚さを兼ね備え、パーソナルな部分も打ち出した新作直後のステージとあって、スペースに入りきれなかった人も間隔をあけつつと遠巻きに見ている。苗場食堂という決して大きなボリュームじゃない出音が繊細なAAAMYYYのボーカルにはフィットしている。1曲目の“Leeloo“を歌い終えた段階で、遠慮がちに「よろしくお願いします〜」と挨拶。そこにすかさずレゲエホーンのサンプリング音源だろうか。ミスマッチだが、場が和む。

照れつつ、ラップ的な表現も取り入れた“Takes Time“、ダークなUKのインディロックっぽさがギターサウンドで際立た“Fiction”など、グッと内面に寄ったテーマとアレンジ。これはニューウェーヴ好きにも、というかニュー・オーダー好きにもきっと刺さりそう。短いステージながら、なんとサプライズで昼間、グリーンのステージを見事に盛り上げたSIRUPが“不思議“の途中から登場。意表を突く展開に静かに湧く苗場食堂。

ソロ新作についてのMCは遠さと、サウンドクラッシュで聞き取れなかったのだが、ソロにより意欲的であることは伝わってきた。ラストには彼女の死生観が反映された“Afterlife“を披露。ヨーロッパ的なメロディやシンセの音色が少しゴスな印象もある曲だ。重いテーマでも、率直で決して情念ぽく聴こえないのがAAAMYYYがいま、同性のファンを多く獲得している理由のように思う。

M.I.A.の明確な物言いや表現が好きだというAAAMYYYには共通するものを感じるし、他には例えば必然的な意味でのダークさや浮遊感という意味でラナ・デル・レイなんかにも共通項がありそう。この時代のシンガーソングライターでもあり、クリエーターでもある彼女の最新型をいち早く見ることができたのは幸運だった。

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