LIVE REPORTGREEN STAGE7/29 FRI
THE HU
苗場に気高く響く、モンゴルの大地の音を聴け
いよいよ、待ちに待ったフジロックが始まろうとしている。毎年恒例の日高大将の挨拶が終わり、ステージ後ろのスクリーンにTHE HUの文字が浮かび上がると、観客からは野太い声が上がり、ハンドクラップが起こる。フジロックで海外アーティストが出演するのは2019年ぶり。この瞬間を待っていた。会場全体のなんだかソワソワした空気がこちらまで伝わってくるかのよう。
大きなドラミングとともに登場するメンバー。定位置に付くなり、ドラムとパーカッション、ベースの太い音に、美しいモリンホール(馬頭琴:『スーホの白い馬』で見たアレです!)の音色、そして下手・Temkaのトプショールの身体の奥をくすぐるような不思議な音。メタルにモンゴルの民族楽器を合わせた高低バランスのよいサウンドを聴いていると、それだけで頭と身体が揺れる。
掴みはばっちり。まず最初に演奏されたのは、“SHIHI HUTU”。力強いドラムにJayaのホーミーが雄々しく響く。ホーミーといえば、モンゴルの男性にのみ伝わる歌唱法で、喉から笛のような特徴的な音を出す。存在を知っている方は多くても、実際に聴いたのは今回が初めて、という方も少なくないのでは?この身体を震わす音に、馬頭琴の音色。モンゴルの伝統的な音楽にはあまり馴染みがないかもしれないが、苗場の雄大な自然にばっちり合うのだ。
次は“Shoog Shoog”。「Shoog」とは、モンゴルの伝統的な掛け声で、永遠の青空を願う言葉なのだそう。Jaya、Enkush、Galaの声とドラムの音に合わせて観客も拳を上げ、苗場の青空を願う。
「初めての日本で、本当にうれしいです。」と流暢な日本語で話してくれたのは、Enkush。ステージ横のスクリーンに目をやると、モンゴルの青年数名が自分たちの国の音楽を楽しむ姿が映され、「彼らのステージを見るためにわざわざ苗場まで来たんだな。」と勝手に想像しながら、なんだか感極まってしまう。いつも通りのフジロックが戻ってきたことだけではなくて、音楽に国境も言葉も関係ないということを改めて思い知らされる瞬間でもあった。
壮大でどっしりとしたサウンドにGalaとEnkushの圧倒される低音が印象的な“Hohchu zairan”、今までと雰囲気をガラッとかえて牧歌的な雰囲気にまとめた“Bii Biyley”、Metallica の名曲“Sad But True”のカバーと、一瞬も気を緩める隙のない曲の数々が続き、7月の頭にリリースされたばかりの“Black Thunder”では、JayaのJaw harp(ベヨンベヨン鳴ってた奴です!)のユニークな音が印象に残り、各メンバーの爆発するような音、そこに跳ねるモリンホールが交わり、会場が一体となって加速していく。
“Yuve Yuve Yu”ではハンドクラップが起こり、前方の観客たちも思わず踊りだす。ただでさえ日差しがきつく、汗ばむような気温だったのに、これだけ暑苦しい音を聴かされたら踊らないわけにはいかないでしょう。高音のホーミーはまるで笛そのもの。これだけ屈強な男たちのどこからこんなに繊細な音が出るのだろう。人体の不思議に思いを馳せながら、ステージを見入ってしまう。
鳥の鳴き声が聞こえたと思えば、彼ら表題曲“Wolf Totem”。モリンホールを力いっぱいかき鳴らすGalaとEnkush。ときにはメンバーは全員前に出、ステージにすべてのエネルギーを置いてくるかの如く頭を思いっきり振り、観客たちをさらに煽り、盛り上げていく。
最後は“This is Mongol”。ステージを見ていても曲のタイトルや演奏を見ていても、彼らが国や伝統、祖先に大きな敬意を払っているのがよくわかる。重いサウンドにどこか懐かしい伝統的なサウンド、雄大なモンゴルの大地や自然、どこまでも続く美しい地平線を思わせてくれるようだった。ステージを去る最後の最後まで堂々としたいで立ちが勇ましく、深く印象に残っている。
2022年、いつも通りのフジロックはまだ始まったばかり。トップバッターなのにちょっと飛ばしすぎなんじゃないでしょうか?入道雲が顔を出すような汗ばむ気温だったのに、更に熱くならざるを得ない圧巻のステージだった。
[写真:全10枚]