FUJIROCK EXPRESS '22

LIVE REPORTGREEN STAGE7/31 SUN

HALSEY

  • HALSEY

Photo by fujirockers.org Text by 若林修平

Posted on 2022.8.1 05:33

ホールジーという名の蝶、その魅力が凝縮された90分間

ホールジーのヘッドライナーが発表されたとき、思わず「えっ!」と口に出してしまった。それほど予想できなかったブッキングであったが、驚いたと同時に楽しみへと変わっていった。それは、過去にビョークやシーアが作り上げてきた伝説に、新しい1ページが追加されると直感的に感じたからだ。そんな彼女の初ヘッドラインステージは、僕らに一体どんな体験をもたらしてくれるのだろうか?興味はその一点に尽きた。

定刻の21時10分を過ぎても、会場に流れるBGM(フィオナ・アップルの“Criminal”)は止まらない。洋楽アーティストのライブは開始が遅れることが多いことを、まさかこんなタイミングで思い出すことになろうとは全く思わなかった。3分遅れの21時13分、薄明かりの中、バンドメンバー(ドラムス、ギター、キーボード)が登場し、イントロパートの演奏を始めた。再び明かりがつき、どでかい爆発音と共にそこに現れたのは、髪を黄色く染め、アバンギャルドなデザインの黒のボディスーツとトラッドな雰囲気のある白いショートパンツに身を包んだホールジーだった。

彼女の登場と共にライブが始まる号令となったのは、性差別と性暴力への強烈なカウンターソング“Nightmare”だ。時に仁王立ちで、時に地を這うような低い体勢でオーディエンスを威圧。さらに背景のスクリーンには、ロー対ウェイド事件への抗議デモの様子が流れ、歌詞に込められたメッセージをより強固なものにした。そしてこの最初の1曲でグリーンの空気が一変。BTSとの“Boy With Love”やザ・チェインスモーカーズの“Closer”などに代表される、音楽サブスクのトップに上がってくるような曲しか知らない人にとっては余計に衝撃だったと思う。歌い切った瞬間のどよめきにも似た空気がその証拠だ。

続く“Castle”ではメジャーデビュー前の彼女と音楽業界の関係をシネマスティックなインダストリアル・ポップに乗せて吐露し、“Easier than Lying”では眼を器具で無理やりこじ開けるようなエグめの映像をバックに彼女の創造的な心の内を包み隠さず歌った。曲を重ねるごとに固定観念を覆していくホールジー。もうこの時点になると、オーディエンスの反応はポップ・ミュージシャンに対するリアクションではなく、ロック・ミュージシャンに対するそれに近しいものとなっていた。

ホールジーの曲には「多様な価値観を尊重する心」があり、あらゆる差別が存在するこの時代の中で彼女は正直な心の内を歌にしていく。そこにはパンク的なアティテュードがあり、だからこそロックファンの心を鷲掴みにするのだ。そして、その「言葉」をより際立たせるため、ステージ演出だけでなく、彼女は全身を使ったパフォーマンスをも武器とした。それはシーアのときのようなコンテンポラリー・ダンスではなく、感情をダイレクトに伝えるような「動き」だ。視線の動き、目つき、佇まい、姿勢─それら人間の持つ動き全てを活用し、オーディエンスに訴えかける。実際、左右のスクリーンに映された彼女の表情を見れば、それは一目瞭然だと思う。

ライブはホールジーの魅力を90分(アンコールなし)にぎゅっと凝縮したものとなった。ただ、彼女にはもっといろんな楽曲や側面がある。彼女に対するパブリックイメージを大きく変えた最新アルバム『If I Can’t Have Love, I Want Power』のリリース後最初に出した最新シングル“So Good”も演っていないし、ライブの定番曲で開放感のあるサウンドにエモーショナルなヴォーカルが元気を与えてくれる“Be Kind”も演らなかった。それを知ってか知らずか、グリーン・ステージには“Power to the People”が流れ始めるギリギリまで多くの人が残っていた。それだけ彼女のライブが魅力的だったということだ。

<セットリスト(ライターメモ)>
01. Nightmare
02. Castle
03. Easier than Lying
04. You Should Be Sad
05. 1121 / Die for Me (ft. Future, Halsey)
06. Graveyard
07. Colors
08. Hurricane
09. If I Can’t Have Love, I Want Power
10. The Lighthouse
11. Bad at Love
12. 3am
13. Honey
14. Gasoline
15. Running Up That Hill (A Deal With God) (Kate Bush cover)
16. Experiment On Me
17. Without Me
18. I am Not a Woman, I’m a God

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7/31 SUNGREEN STAGE