FUJIROCK EXPRESS '22

LIVE REPORTGREEN STAGE7/31 SUN

TOM MISCH

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Photo by 北村勇祐 Text by 三浦孝文

Posted on 2022.7.31 21:19

早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け

フジロック2022もいよいよ最終日。とっぷりと日も暮れ、今年のフジロックの終わりが徐々に近づいてきた。寂しさを感じつつも、今グリーンステージ前で嬉しさを噛みしめている。去る7月19日に、コロナ禍による長いブレイク後の過酷なツアーによるメンタルヘルスへの影響からオーストラリアとニュージーランドのツアーをキャンセルするとのアナウンスがあった。直前のアナウンスだったこともあり、フジロックも無理だろうと諦めていたが、こうして無事来日してくれて本当に良かった。

いてつく吹雪のようなミニマルノイズが響き渡る中、6名のバンドメンバーが、ステージに向かって右からベース、ドラム、サイドギター、キーボード、パーカッション、バイオリン、それぞれの定位置についていく。サウンドチェックのようでいて非常に練られた絶妙なタイミングで音やビートを入れ込んでいく。トムが登場し、照明でステージが青くぼやける中、浮遊感のあるフレーズで本セットのイントロを創り出していく。不穏なフレーズのループがはじまると、フロアから待ちわびた大歓声が巻き起こる。ドラムの鋭いビートと地鳴りのようなベース音が入り“What Kinda Music”がはじまった。高音の声もよく出ていてコンディションは良さそうだが、今のところトムに笑顔はなく、終始厳しめの表情を浮かべているのが気にかかる。

中央のトムにスポットライトが集中照射され“It Run’s Through Me”の柔らかなギターフレーズが奏でられると、ひと際大きな歓声が上がった。ボサノヴァ調のムードで軽快に進みながら、随所で入ってくるベース音の太さに驚かされる。生だとここはこう鳴るのか!という発見と体験。ライヴで最高なのこういう瞬間だ。後半のトムのギターとサックスの掛け合いもライヴならではのスリリングさに満ちあふれ、かつバンドが渾然一体となって生み出しているグルーヴは心地よさの極地だ。

間髪を入れず“Losing My Way”へ。トムが静かに歌い上げる冒頭部をオーディエンスがバンドグラップでバックアップ。みんなで手を叩いて創る音に全身が包まれているような感覚にさせられ、何とも心地よい。後半に向けて徐々にファンキーさが増幅していってトムのギターソロが爆発するところ、涙ちょちょぎれもんのカッコよさだ!

「コンニチハ!ここへ来れて嬉しいよ!聴いてくれてありがとう!」と挨拶するトム。ようやく笑顔が見れた。ここで新曲“Falling For You”を披露。3ギターにより刻まれるファンキーなカッティング、サビ後の王道ロックなキメキメのフレーズ、パーカッションによるアフリカンビート…大好物だらけ!これは踊れる。

ここで照明の使い方の巧みっぷりも特筆しておきたい。“I Wish”では、最低限のスポット照明とバックに映し出された映像の光だけでスタートし、サビ周辺でプルーとピンクとクルクルとカラフルにステージをフロアを照らして曲展開のポイントをしっかり押さえている。Nightriderでは、照明がほぼ落ちて夜の世界を醸成するとともに、浮遊感漂うフレーズに合わせてスクリーンにパープルに光る円柱の様なデザインが回転し続け、音の雰囲気を助長していた。“Disco Yes”での虹色にきらめくミラーボールの使い方も絶妙!トムの曲進行の緩急に合わせた照明のコントラスト、そして観るものを唸らせ感動させる粋な照明デザインには何度も膝を打ってしまった。

“Tidal Wave”での圧巻のギターソロを堪能して、トムが現代を代表するギターヒーローであることをあらためて実感が、「俺の超絶技巧プレイを見ろ!のタイプでは決してない。あくまでバンドの中の一人として、メンバーと一緒にグルーヴを創り出していくプロデューサーとしてのギターというところからソロを披露している。ゲストシンガーを迎え入れプレイしたマイケル・キワヌカの“Money”においても、シンガーが歌いやすいようにリードしていくようなギターだ。トムの人間性の高さの表れと言ってしまえばそれまでかもしれないが、新しいギターの可能性を感じたのは私だけだろうか。

ラストはバイオリンのフレーズが効いている“South of the River”。テムズ河の南側、サウスロンドンシーンのことを歌っていると思われるこの曲で、トムとバックバンドの仲間たちが次々と放ってくるたまらなく美しいグルーヴにいつまででも身体を委ねていたくなる。トムはバンドとともに渾身の表現を100%放ち切った演奏の幕引き後、オーディエンスと集合写真を撮って笑顔でにこやかにステージを後にした。

アフリカにこんな諺がある。「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」バックバンドの6名、ゲストミュージシャンの2名の仲間たちと一緒に極上のグルーヴと感動を創り上げたトムの今夜のステージを観てこの諺を思い出した。トムはこれからも仲間たちと一緒に新しい音楽世界へどんどん進んでいくことだろう。

[写真:全10枚]

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7/31 SUNGREEN STAGE