FUJIROCK EXPRESS '22

LIVE REPORTWHITE STAGE7/31 SUN

ずっと真夜中でいいのに。

  • ずっと真夜中でいいのに。

Photo by fujirockers.org Text by 阿部仁知

Posted on 2022.8.1 03:02

ACAねのことが気になって仕方がない

やたらと大掛かりなサウンドチェックをしている19:40頃のホワイトステージ。「なんだあれ?」と思うような楽器(そもそも楽器なのか?)もちらほら見受けられ、「何が起こるんだろう?」とソワソワした雰囲気の中、作詞作曲もこなすヴォーカルのACAねによる、ずっと真夜中でいいのに。(以下:ずとまよ)のライブが始まった。

10人近い大所帯のメンバーが音だけでなく視覚的にも鮮烈なずとまよバンドセット。“JK BOMBER”ではホーンも加わったファンキーなバンドサウンドが奏でられる一方で、Open Reel Ensembleの2人が両サイドで操るオープンリールや、エレクトリックな打音を叩き鳴らすテレビ型の電子楽器なんかは、どういう原理で音が鳴っているのかさえよくわからない。だがそのことが逆に興味を掻き立てる。わからなさはこのバンドの大きな特徴かもしれない。

そして一番わからないのはACAねだ。ステージ上部のモニターに流れる映像の中で、彼女の姿はぼかされるか、顔は映さないように繊細にコントロールされている。このカメラワークがやたらとエモーショナルで、サウンドに溢れる刹那的な感傷をさらに増幅させていく。ラップ気味に歌う“違う曲にしようよ”や、ポップなメロディの癖が楽しい“お勉強しといてよ”でも、ACAねの異様な存在感は際立っている。“秒針を噛む”では縦横無尽にグラインドしまくるメンバーとは対照的に、ほぼ直立不動のまま伸びやかに歌う彼女の姿から目が離せない。

昭和歌謡のような歌声の“マリンブルーの庭園”ではなにやら扇風機を弾いてるし、スラップベースが冴えわたる“勘ぐれい”の最後できゃりーぱみゅぱみゅのようなフレーズを呟いたかと思えば、ポエトリーリーディングのような歌唱から始まる“眩しいDNAだけ”に、いきなり「苗場」なんて言葉を織り交ぜられたらドキッとしてしまう。

さらに“マイノリティ脈絡”にトラックメイカー気質を感じたかと思えば、最新リリースの“ミラーチューン”はアイドルのようでもあり、ジャンル名や属性で規定しようとした側から遠ざかっていくずとまよのパフォーマンス。でも頭に浮かび続ける「???」とは裏腹に、奔放に踊り続ける身体とドキドキしまくっている心をまるごとエモーショナルに昇華する、ずとまよサウンドがたまらなく楽しいんですよ。

僕はもうずっとACAねのことが気になっていて、“正義”でメンバーにどんどん見せ場を回している時でさえ彼女しか目に入らなかった(バールのようなもので何かを叩いていた)。そしてまた扇風機を弾き、オープンリールの2人が傘を振り回し、ACAねは「ジャスティース!!」と叫び、呼応するように手を振り上げる僕がいた。なんなんだこの高揚感は。

最終盤のここにきてはじめてのMC。何も喋らない方がむしろ自然に感じていたので、逆に驚いて思わずメモってしまった。

「来てくれてありがとうございます。昨日はそこら辺の出店でへぎそば食べました。あとアラビアータのターキーも食べました。次で最後なんですが、めためたでくそくそなこの季節、今日この頃なんですが、心臓を競争する前に一旦一緒に踊りましょう」

やはりいまいち捉え所がないACAねのキャラクターだが、「心臓を競争する前に」はもちろんこの曲“あいつら全員同窓会”のフレーズ。このわかるようなわからないような、でも何か確実に心に残るACAねの独特なリリックが、全編を通して僕をくすぐり続けていたことに思い当たる。「全員ジャーンプ!」で飛び跳ねるたくさんの人々も、多分訳もわからず巻き込まれているんじゃないだろうか。でもそんな自分ごと心から楽しめるずとまよのパフォーマンスに、僕らは最後まで踊りふけっていた。

ここまで書いても僕はずとまよのことが何もわからない。むしろ理解ははるかに遠ざかってしまったような心境だ。でも多分わかることはそれほど重要じゃない。だって今この瞬間もACAねのことが気になって仕方がないのだから。

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7/31 SUNWHITE STAGE