LIVE REPORTRED MARQUEE7/29 FRI
SYD
ほんとに日本にいるんだよね。それはSYDも私達も同じ気持ち!
ワールドツアーのセットリストとほぼ同様の内容をレッドマーキーのトリ1時間に凝縮して届けてくれたSYD。2016年にThe Internetで出演した際は見逃したのだが、もう6年もの時間が経過し、メンバー各々でソロの作品を重ねている。そう言えば2020年2月、最後に海外アーティストのライブに足を運んだのがSteve Lacyで、まさか2022年の夏まで海外アーティストを見られない歳月が存在するとは思ってもみなかった。
現在のツアーは新作『Broken Hearts Club』を軸にしたもので、「失恋クラブ」と訳せるそのアルバムは、SYDにとって、とても大事な恋愛の渦中から終焉を描いたものだ。それをアルバムにして、しかもツアーを回るということは楽曲に昇華できているから可能なことだろう。
シンプルなセットにはキーボードとシンセ担当とベース担当が左右に位置し、そこに華奢なシルエットの人物が登場。実際に見る彼女のチャーミングさに驚く。SadeのTシャツに演出と実用を兼ねているのか、タオルを首にかけたり畳んだりしている。なぜかそれがおかしな動作どころか新しい感じに見えるのが、彼女がポップアイコンである証左かもしれない。ライブ冒頭は生音が大きすぎて、ボーカルが埋もれがちだったが、“SPECIAL AFFAIR”でバランスが整い始めた。歌い終わると大きな拍手が起き、「ジャパーン!」と、両手を広げて喜びを表す。ボーカルマイクがダブルになっているので、MCもダブルで聴こえるのがちょっと不思議な感覚だ。
最前列のあたりは熱狂的なファンが陣取っていて、見渡すと男女同じぐらい人気が高く、特に若い学生のように見える男子がゆらゆら、うねうね踊っているのは、こうしたアトモスフェリックなエレクトロニックなソウルのライブを新鮮に感じ、素直にリアクションしているからではないだろうか。また、シンガロングできない状況を見越してか、“YOU THE ONE”では背景のスクリーンに「CLAP」と表示されたり、歌メロが始まると「SING」と出たりして、つまりこれはオーディエンスに歌えという意味ではなく、SYDが歌うパートということなのかな、と理解する。そういうちょっとした演出すらもキュートだ。
ベース担当はシンセベースも兼任していて、混沌とした感情の渦を重低音で突きつけてくる。端正で淡いソウルボーカルともとれるSYDの歌唱をグッと今のものにし、作品のテーマを具現化するエレメントでもある。新作の中でもビートがバキバキで、80sのニュアンスやプリンスのテイストがある“FAST CAR”に明確なりアクションが起こる。セットリストの中では異色な印象だったが、いいフックに。
The Internetのレパートリーも少し挟まれていくのだが、じっくり聴かせる“HOLD ON”は、シンプルに1本のボーカルで、うまさと表現力の高さを心底思い知る。しかしなんて表現力の幅が広いのだろう。こうしたナンバーを聴くとき、カテゴライズはできないけれど、ジャズシンガーに通じるマインドとスキルを思い知る。
終盤はアルバムの中でも特に大事だという“OUT LOUD”、“MISSING OUT”で、本編を終了。フロアも照らすムービングライトの演出も相まって、ステージの上と下とはちょっとニュアンスの違う一体感を生み出していたのはレッドマーキーという場所ならでは。ステージから、はけずにもう1曲パフォームするといい、The InternetがKAYTRANADAをフィーチャーした人気曲“Girl”で締めくくった。「遠くない未来、新しい作品とともに帰ってくるね」と言い残したSYD。地味に活躍してくれた背景には最後に日本語で「ありがとう」という文字が、小さく笑うように映し出されていた。彼女のパーソナリティのように。
[写真:全10枚]