LIVE REPORTPYRAMID GARDEN7/31 SUN
Terry Riley with Sara Miyamoto – Everything and Beyond –
深淵な音世界と対峙する時間
いよいよフジロック2022も終わろうとしている。帰路につこうとゲートに向かう者、朝まで遊び倒すべくレッドマーキーやオアシスエリア、イエロークリフに足を急ぐ者、それぞれの選択してフジロックの最後を満喫している様子が見て取れる。私は、ピラミッド・ガーデンを目指していた。朝から快晴が続いていた今日だが、23時を回ろうかという頃に雨が降り始め、ポンチョが必要な程度の強さだ。
ピラミッド・ガーデンに到着。今年は初日から3日間ともここが私の終着点だ。控えめで美しい照明、ステージ上に灯されたキャンドルの光、目に映るものすべてが感慨深い。
さて、これからここに登場し本ステージの幕引きを行うのは、ミニマル・ミュージックの創始者、テリー・ライリーだ。1960年代に『in C』や『A Rainbow in Curved Air』をリリースし、広く音楽の世界に多大な影響を与えてきたレジェンド。御年87歳。今年のフジロック出演者リストに彼の名前を見かけて目を疑ったが、何とテリーさんは日本は山梨県在住なのだという。
「さどの島銀河芸術祭」におけるDOMMUNEが手掛ける新プロジェクト「LANDSCAPE MUZAK」に参加する予定だったテリーさんは、2020年3月に視察のため佐渡島に訪れる。しかし、ご存知のように新型コロナの蔓延により米国でロックダウンが施行されてしまったため帰国を断念し今に至るとのこと。今年の3月にはビルボードライブ東京でライヴも行われており、我々日本人がテリーさんの音楽の世界観を知り、触れることができるまたとない機会が到来していると言えるだろう。
これらを踏まえ今夜のステージは目撃しておかないといけない。テリーさんは昨日の朝にも同じピラミッド・ガーデンに姿を見せており、何と名曲“A Rainbow in Curved Air”を披露したのだという。
雨脚が強まる中、開演時刻にテリーさんが登場。ただいるだけで伝わってくる存在感。仙人のようだ。キーボードから幻想的なドローンを出力する。音におぞましい質感が加わっていくと、仮面を付けた宮本沙羅が杖をつきながらゆっくりと登場し、テリーさんが繰り出す流麗にして不気味な音に合わせてうごめくような踊りを披露している。宮本の仮面は密林仮面として活動するアーティスト、鈴木明子氏による植物を織り込んで作られたもののようだ。
続く曲ではアコーディオンあるいはピアニカのような音をテリーさんがじんわりと響かせ、宮本が挿入してくる民族楽器がノイズのように絡み合い、幻想的な音世界はどんどん深淵なものになっていく。宮本が奏でるダフ(フレームドラム)の控えめなビートが心地よく鼓膜を叩いてくる。テリーさんが深みのある声で「ゴーマンダー、ゴーマンダー…」とマントラあるいはお経のような調べで歌いはじめ、キャンドルの光や照明の色と相まって宗教儀式の様相を呈してきた。
最後に向けてテリーさんの鍵盤がもたらす音像は、バイオリンのような音だったり奏でる多種多様な音色が混ざり合い、場をどんどん覚醒させていき、最後はしめやかに約1時間のステージの幕引きを行った。テリーさんの演奏が神がかっていくに連れて、演奏に呼応するかのように降りしきっていた雨がいつの間にか上がっている。
テリーさんの音世界と対峙した1時間が何だったのか。頭では理解ができない。他の音楽や現実世界のものとは明らかに違う時間が流れている音楽だった。音楽の世界はどこまでも深い。テリーさんが87歳にしてなお、その世界の奥の更に奥まで表現を深めて行こうとしているように感じられたライヴだった。テリーさんが今日本に住んでいるという幸運、フジロックに出演してくれた幸運、ここに居合わせた幸運とたくさんの奇跡を経て今がある。この一度きりの人生すべてが奇跡だということに感謝しつつ今年のフジロックを完了したいと思う。
[写真:全10枚]