“石角友香” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '22 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/22 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Mon, 24 Oct 2022 01:00:55 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.20 いつものフジロックへの http://fujirockexpress.net/22/p_8780 Mon, 15 Aug 2022 02:01:28 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=8780  3年ぶりに開催された、世界最大規模のフェスティヴァル、英国のグラストンバリーが2年遅れで50周年を祝った今年、初めてここを訪れてから40年の節目を迎えた筆者の目前で繰り広げられたのは「いつものグラスト」だった。日本で大騒ぎしているコロナ禍の影響は微塵も見られない。マスクをしている人はほぼ皆無で、ステージから感染防止のアナウンスが流れることもなく、注意書きさえ目にはしていない。幸運なことに、ほとんど雨も降らず、会場を歩いていると悩まされるのが砂埃。そのためにマスクを着用しようかとも思ったのだが、それさえはばかれる開放的な空気が会場を包み込んでいた。30万人ほどが数日間を過ごしていたなか、見かけたマスク姿は数えるほど。まるで誰もなにも気にしていないという空気が会場を支配していたように思える。

 変化が見られたとすれば、2019年か、その前年からか、「ペット・ボトルを会場からなくそう」と始まった「Reuse Refill Repeat」というキャンペーンの成果かもしれない。「清潔な水を全ての人へ」を形にしようと動いている国際非営利組織、Water Aid(ウォーター・エイド)と協力して、会場内に設置された「ウォーター・キオスク」で水を無料供給。水筒やタンブラーさえあれば、美味しい水がいつでも手に入る。手持ちのものがなければ、グラストの名前が入った特製も購入も可能。それが運動をサポートする収益にも繋がる。これによって、膨大な量のペットボトルが会場から姿を消しつつあるのだ。加えて、毎朝、数多くのヴォランティアが会場のゴミを清掃。それに気付いたのか、以前ならどこにでもポイッとゴミを捨てていた人々に変化が現れて、「ゴミに溢れた」イメージが定着していたグラストが確実に変わりつつあることに驚かされていた。

 そのグラストから約1ヶ月後に開催されたのが、25年という節目を迎えたフジロック。ここがまるで別世界のように見えていた。開催を前に観客のみならず、スタッフ、関係者に周知徹底されたのが『感染防止対策ガイドライン』。それもあったんだろう。土壇場になって「陽性となった」、あるいは、「身内が感染して濃厚接触者となった」と出演をキャンセルしたアーティストも少なくはなかった。さらに、それが理由で会場には向かわないと判断せざるを得なかったスタッフもいて、フジロック・エキスプレスでも、リモート業務を余儀なくされたメンバーもいる。おそらく、そんな事情はお客さんも同じだったと察する。しかも、ちょうど開催期間中あたりか、日本での感染者数が世界最大となったと伝え始めたのがマスメディア。なんとか開催にこぎ着けた昨年よりも、遙かに厳しい状況が待ち受けていたようにも思える。

 ただ、会場にやって来た人達のほとんどがガイドラインをチェックしていたんだろう。多くの人たちがマスクを着用したり、密な状態を避けようとしていたのは伝わった。といっても、屋外で観客同士の距離が確保できて感染リスクが少ないときは、マスクを外して熱中症予防やリフレッシュしてほしいとアドバイスも添えられている。昨年は「がんじがらめの」感染予防を決まり事として受け入れなければいけなかったのに対して、今年は「自分のことは自分で」という本来の姿が戻ってきたようにも思えてた。それが「いつものフジロック」への布石なんだろう。

 例年通り、前夜祭のオアシス・エリアにはやぐらが建てられ、フジロッカーにはおなじみの『苗場音頭』が鳴り響く。そこで踊り出す老若男女も、打ち上げる花火を見上げる人達も、「やっとここまでこぎ着けた」と感じているんだろう、なにやら華やいでる。どこかで悲しさを誘った昨年とは違って、今年はシンプルに「嬉しい」気持ちで空を見上げていた人がほとんどじゃないだろうか。それは3年ぶりに復活させることができた、レッド・マーキーでの前夜祭ライヴ直前の記念撮影でも感じていた。

 舞台裏の話をすれば、はたして記念撮影をすべきかどうかで悩んでいた。全スタッフにPCR検査を施し、観客全てに抗原検査をお願いした昨年、会場に足を運んでくれたフジロッカーがガイドラインを守ろうと涙ぐましい努力をしていたのは、昨年お伝えした通り。その結果、おそらく、国内で最も完全で感染リスクの少ない場を作っていたはずだが、この様子を好意的に伝えたメディアはほとんどなかった。まるで揚げ足をとるように重箱の隅をつつく記事が大半で、なかには意図的に読者をネガティヴな方向に誘導するような記事さえ目に入っていた。脳裏のどこかで、集合写真が「その素材として使われるのではないか」と危惧する気持ちがなかったと言えば嘘になる。

 それでも「やろう」と決断したのは、「いつものフジロック」を取り戻そうと、主催者や地元のみなさんのみならず、会場にやって来たフジロッカーも懸命に努力をしていることを記録したかったというのが一番の理由だ。前夜祭からやって来る筋金入りのフジロッカーにとって、この祭りが、彼らの生活やライフ・スタイルにとってどれほど重要な意味を持っているか言うまでもないだろう。ここは年に一度、里帰りのように訪ねてくる故郷のようなもの。「おかえり!」と声をかけると、自然に「ただいま」と返したくなる「自分たちの居場所」なのだ。それを彼らが守ろうとしている姿を残したかった。2007年から毎回続けられてきた、前夜祭最初のライヴ前に撮影される彼らの記念撮影でそれを証明できないだろうかと考えて主催者に交渉。OKの返事をもらったのは、ぎりぎりとなった当日じゃなかっただろうか。

 が、いつものように、「おかえり」と言うと、みなさんから大声で戻ってくる「ただいま」というレスポンスを撮影することは考えてはいなかった。それよりも、記録したかったのは「みんなが思いをひとつにすればなにかを形にできる」ことを証明すること。その思いとは、単純にルールを守ることではない。それぞれの命を守り、この祭りを守ろうとする気持ちであり、そのために自分で考え、責任ある行動をとらなければいけない。大多数の人達がそれを理解していることを形にしたかった。単純にマスクを付ければ感染から完全に身を守ることができると断言はできないし、大声で話せば感染するとも言い切れない。でも、それぐらいのこと、僕らには簡単にできるんだということを見せたかったのだ。

 その問いかけに見事なまでに応えてくれたのが、前夜祭のライヴ直前にレッド・マーキーにいたみなさんだった。ステージから簡単に今回の狙いを説明。「おかえり!」と声をかけるけど、心の中で「ただいま」と叫んで声には出さないで、代わりに大きく手を上げて応えてほしい。そして、みんなにマスクを付けてほしいと、手短にお願いして撮影に臨んでいた。

 もちろん、リハーサルなんて無し。具体的にどうするかを思いついたのも、ステージに向かっているときだった。が、ステージからマイク越しに声をかけると待っていたのは完全な沈黙。あまりに感動的なみんなの反応にステージ上から奇声を発してしまった自分が完全に浮いているようにも思えていた。が、あの叫び声が、逆に静寂を浮き上がらせていたようにも思う。しかも、レッド・マーキーの屋根の下だけではなく、その外でも同じような光景が姿を見せていたことを、友人がフェイスブックに投稿した映像で知ることになる。撮影された写真を見ると、屋根の下にいた2000人を越えるオーディエンスの99.9%が、「マスクを付けてくれ」というリクエストに応えてくれて、例年とは全く違う記念写真が出来上がっていた。

 これから何年か先、このコロナ騒ぎが本当はなにだったのか、そして、どういう意味を持っていたのかを知ることになるかもしれない。それがなにであろうと、この場所を守ろうとしていたフジロッカーの記録は残る。おそらく、そんな思いを共有していたオーディエンスこそがステージで演奏したアーティストたちの好演を呼び起こしていたのではないだろうか。数多くのライヴを見たわけではないが、スタッフや友人の口から耳にしたのが感動を呼んだライヴの数々。スクリーンやモニター越しにその素晴らしさを感じた人達も多かったようだ。が、同じ時間と空間を共有して、空気の波動や臭いに熱気も感じる至福は、その場にいる人にしか得られない。コロナのせいで会場に来られなかった、それを熟知している仲間がモニター越しに悔しい思いをしたという話しも伝わっている。

 でも、「いつものフジロック」と呼ぶにはもうひとつだったかもしれない。天上のエリア、デイ・ドリーミングやピラミッド・ガーデンに見られたのはいつもの表情。でも、フジロックをただ素晴らしい環境下での野外コンサートではなく、フェスティヴァルたらしめている要素のひとつ、まるで異次元の空間にいるような感覚を楽しませてくれるエリア、パレス・オヴ・ワンダーや奥深くに用意されていたカフェ・ドゥ・パリあたりがすっぽりと抜け落ちている。主に英国のスタッフを中心に企画制作されているのがこのエリア。彼らが来日できなかったという事情もあるんだろう。それに彼らが演出してきたボードウォークやグリーンからホワイトに繋がるルートのオブジェにも以前の輝きは感じられなかった。もちろん、それを国内のスタッフがその穴を埋めるように努力しているのは理解しているのだが、なにかが「たりない」という気持ちは否めない。

 その一方で、我々が続ける、この速報サイト、フジロック・エキスプレスは見事なまでに「いつものフジロック」に映っていた。ライヴのことはもとより、会場に集まってきた人々の幸せな表情を切り取り、よだれが出てきそうなほど美味しそうな食べ物が顔を出す。コロナ禍の影響で出店できなかったおなじみのお店が気がかりだが、アルコール無しだった昨年はお休みしたお店も復活。「フジロック的なるもの」がここではてんこ盛りになっていた。さすがに、根っからフジロックを愛するフジロッカーが集まったfujirockers.orgが生み出した速報サイトだと自画自賛したくなる。

 ここはそんなフジロッカーたちにとって、年に一度のミーティング・ポイントなんだろう。再会を喜ぶ人達が「久しぶりだねぇ」と、再会できなかったここ数年の話に花を咲かせている様子も目に入っていた。同時に、まるでずっと繋がっていたかのような気分で新たな出会いも生まれていたようだ。SNSでは「今年は会えなかったね。どこにいたの?」なんて会話が見受けられ、初めてフジロックを体験した人達から耳にしたのは、苗場での幸せな数日間。彼らにとって、ここが年に一度の里帰りのような場所なってくれたら、それに越したことはない。

 さて、来年はどうなるんだろう。このコロナ騒ぎは収まっているだろうか。それとも、「コロナと共に生活する」ってことになるんだろうか。できるなら、マスクなんぞおさらばして、仲間たちと心置きなく大騒ぎできるようになればいいんだけど、どうだろう。そして、フジロックをこよなく愛してくれたジョー・ストラマーが語ったように「生きている意味を確認できるような」時間や空間を引き戻したいと思う。それを人ごとのように語るのではなく、そのために自分でできることはなになんだろうと、思いを巡らしながら、これからの1年を過ごしていこうと思う。来年こそは、当たり前のフジロックを楽しめるように祈りながら。

なお、「フジロック愛」に溢れたフジロック・エキスプレス、今年のスタッフは、以下の通り。会場の様子を羨ましそうに眺めながら、自宅からリモートで作業してくれたスタッフもいる。作業をスムーズに進めるために好きなライヴをほとんど見られることのないスタッフもいた。ありがとう。感謝しています。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/22/
東いずみ、阿部光平、阿部仁知、安藤淳太、イケダノブユキ、ミッチイケダ、古川喜隆、石角友香、板場俊、あたそ、岡部智子、梶原綾乃、おみそ、北村勇祐、粂井健太、小亀秀子、Eriko Kondo、佐藤哲郎、白井絢香、suguta、髙津大地、リン(YLC Photograpghy)、中島たくみ、馬場雄介(Beyond the Lenz)、HARA MASAMI、平川啓子、丸山亮平、三浦孝文、吉川邦子、森リョータ、安江正実、若林修平

■英語版(http://fujirockexpress.net/22e/
Mishu Callan, Mika Carl, Karen Lynch, PARK BAKER, Jonathan Cooper, Nina Cataldo

フジロッカーズ・ラウンジ:mimi、obacchi、藤原大和、土井優子、関根教史

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、迫勇一(デザイン)、坂上大介

プロデューサー:花房浩一

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fujirockers.orgは1997年のフジロック公式サイトから派生した、フジロックを愛する人々によるコミュニティ・サイトです。主催者からのサポートは得ていますが、完全に独立した存在として、国内外のフェスティヴァル文化を紹介。開催期間中も独自の視点で会場内外のできことを速報でレポートするフジロック・エキスプレスを運営していますが、これは公式サイトではありません。写真、文章などの著作権は撮影者、執筆者にあり、無断使用は固くお断りいたします。また、文責は執筆者にあり、その見解は独自のものであることを明言しておきます。

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補足です。例年、河原に姿を見せるゴンちゃんは最終日まで、そっとしておいてくださいとお願いしているのに、平気で「盗んで、連れ去っていく」人達が未だにいると聞きます。子供達が我慢してその時を待っているのに、恥ずかしいとは思わないんでしょうか また、森に姿を見せるマッドバニーも作品で、「勝手に持っていって(盗んで)いい」とは作者はもとより、誰も表明してはいません。これを持って帰った人達は泥棒です。「いつものフジロック」をぶちこわしにするような人達はもうここには来ないでほしい。

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鈴木雅之 http://fujirockexpress.net/22/p_1713 Wed, 03 Aug 2022 09:20:40 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1713 選曲、演奏、ゲスト、演出、MC、全てにおいてメインディッシュしかないフルコースみたいなステージだった。マーチン=鈴木雅之の濃厚な人生と音楽性を整理してもこれですよ?お客さん。恐ろしいアーティストだなあ。

最終的に入場制限がかかるほど続々、人が集まるホワイトステージ。まずはバンドメンバーである江口信夫(Dr)、下野ヒトシ(Ba)、知念輝之(Gt/Cho)、大井洋輔(Key/マニュピレーター)、竹野昌邦(Sax)、高尾直樹(Cho)、 DAISUKE(Cho)が登場。大井以外はブラックスーツにフューシャピンクのシャツという出で立ち。ショーのイントロダクションが奏でられる中、登場した主役はカラフルなドットが散りばめられた白いジャケット。ファンク調にアレンジされているが1曲目は槇原敬之のカバーで“SPY”。続いては「YOASOBIのふたりに愛を込めて」と、“怪物”のカバーで、彼のカバーワークスを知らないリスナーを驚かせている。ソウルやドゥーワップだけじゃない。言葉数が多く複雑な譜割りの楽曲も難なく歌う。しかも2曲とも少し傷つきやすく危うい主人公の曲だ。流れがいい。立て続けに今やTwitterの突っ込み画像ナンバー1、だが、曲も知られている“違うそうじゃない”がイントロのブラスだけで大いに湧く。アレンジはJBぽいのだが、オーディエンスは〈違うそうじゃない〉の振り付けに夢中だ。

「皆様こんにちは。わたくしがラブソングの王様、鈴木雅之です」と堂々と言い放つ辺りからすでにショーの演出に入っている。ぶっちゃけ日本一野外ステージが似合わない、なぜか。ジャケット、カマーバンド、エナメルシューズはラブソングには外せないと。ちなみに一番暑いのはカマーバンドらしい。ここで初めて鈴木雅之の生のステージを見る人?と問いかけると大半だ。「複雑な気分」と言いつつ、初見でこれだけ盛り上がることにまんざらでもなさそうだ。

熱唱に続いては切ないラブソング“恋人”、ブラックミュージックを日本で昇華してきた先人であり、先輩でもある忌野清志郎のバラードを、と“スローバラード”を濃い口味で表現。本当にソウルやファンクを歌謡曲全盛時代からヒットチャートに送り込んできた後輩の偽らざる気持ちが現れていたんじゃないだろうか。若い人々は面白がっていたけれど、私は不意に涙腺にきてしまった。天を仰ぐマーチン。サックスの竹野も思い切りブロウする。

もうすでにお腹が満たされてきたのだが、ここからがメインディッシュ中のメイン。「ソウルブラザーズ、その仲間を呼んでもいいでしょうか?」と、シャネルズ〜ラッツ&スターの盟友である桑野信義(Vo/Tp)と佐藤善雄(Vo)が加わる。ちなみにクワマンは鈴木の幼稚園の後輩、佐藤は小学校からの同級生。いろいろあったけれど、今も音楽仲間であることが羨ましい。このメンバーが揃ったら期待するのは当然で、グループ時代のヒット曲を連投。

ドゥーワップの“ハリケーン”はハリケーンと心が張り裂けそう、をかけていることに今更気づいた(笑)。作詞は湯川れい子先生である。次なるイントロはこの日一番の爆発力だったと思しき“め組のひと”。プロの作家の作品は歌詞と振り付けなどなど、キャッチーを探求した先に子どもでもいいと思えるシンプルな答えがあるようだ。作詞は売野雅勇先生(この曲は麻生麗二のペンネームで書かれている)。老若男女が「め!」とアクションする楽しさったらない。なぜみんな知っているのだ(笑)。さらに原点である“ランナウェイ”でコーラスの楽しさを満喫させてくれた。こちらも湯川先生。

さらに大瀧詠一の過去作がリイシューされるたびに話題になる“夢で逢えたら”も披露。名曲しかないセットリストが構築されている。聴いたことがない人がほぼいない上に、シティポップ再評価の軸まで持ち込めるアーティストは他にいないだろう。「こんなにもたくさんの人が初めて鈴木雅之のライブを見て楽しんでくれているって、すごいね。コロナ禍のなか、まだまだ迷ってるミュージシャンも多いけど、でもみんなのマスク越しの笑顔を見ていると、音楽は心のワクチンだと思いました」と、率直な思いを口にした彼。こういうところ、さすがベテランである。

そして、なんとソロ・デビュー曲が夏の名曲なのだ、この人は。持ってる。持ってるとしか言いようがない。大沢誉志幸の名曲“ガラス越しに消えた夏”を端正な声で届け、若者の心に寄り添うような歌詞〈さよならを言えただけ 君は大人だったね〉というフレーズが染みる。どれだけ名曲を持っているのだ、この人は。作詞、作曲家経由で80〜90年代の名曲をディグってみてほしい。

今後も曲の強さでラインナップされるアーティストが増えてきそうな予感がする。理屈抜きに楽しいから!

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PUNPEE http://fujirockexpress.net/22/p_1693 Sun, 31 Jul 2022 16:22:21 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1693 PUNPEEがグリーンステージに登場するのは、単に現在のヒップホップのみならず、ポップシーンでの人気が理由じゃなかった。彼のラッパー、トラックメーカーとしてのキャリアを一望するセットリストや豪華ゲスト参加が目立つが、この日、PUNPEEは自分のキャリアを使って、自分が背負ってきた、影響を受けてきたヒップホップを極上のエンターテイメントとして紹介してみせたのだ。一見、飄々とした彼のこのステージに込めた熱量にライブが終わった後も震撼している。

DJ原島宙芳とDJ ZAIに加え、この日はIllicit Tsuboiとドラマーのなかじまはじめも加えたバンドセット。小型のドローンがステージを捉え、見たことのないアングルとスピード感の映像が新鮮だ。“P.U.N.P.”に乗せて登場したのは、2017年のホワイトステージ同様、ペラッペラなレインコートを羽織ったPUNPEE。だけどなんか違う。そこに本物が登場し「誰だおまえは!」と本人。ここから彼の過去と現在がまず浮かび上がる。さらっと「夜を使い果たしていきましょうかね」と、“夜を使い果たして”を披露した辺りでは、つくづく現代の都市人のフォークソングでもあるなあ、と彼の発明に改めて感心したりしていた。

続いてBIMが登場し、「PUNPEEがグリーンステージ、ありえねえ!」と彼流の祝辞を送る。PUNPEEとは新曲”トローチ”が出たばかかりだが、今日はおなじみ“BUDDY feat.PUNPEE”を届ける。バンドセットの厚みのあるライブアレンジがグリーンのスケールで生きている。ここでふたりとも真っ昼間に食べたいものの話になり、蕎麦、いや夏ならBBQでしょ、という話の流れで“真っ昼間”と言えばZEEBRAの曲だけど、1997年からタイムマシンで来てくれないかなと、話してる端から本人登場!驚きに湧くモッシュピット。8月リリースのPUNPEEとBIMのコラボEP『焦年時代』収録の“Jammin’97 feat.ZEEBRA”をいち早く披露してくれた。

そこから“タイムマシーンにのって”があの名作アニメMVを背景に披露される。老人になったPUNPEE視点のMVであり、自分がいるのは若き日の両親がいるから、という物語について、曲が終わってから話していた。もうこうなってくると、彼を形成しているもの、ヒップホップという表現方法を選んだ背景が、重層的に組まれたセットリストと演出であることに震えるのだが、ライブそのものはどこまでも楽しい。

PUNPEEがフジロックに初めて参加したのは2008年、某ミュージシャンの運転手だったそうだ。警備会社の電話を受ける仕事をしながらビートを作っていた彼は、カサビアンなどをグリーンで見て「自分はノミみたいな存在だな」と思ったとも話していた。そこからは謎の物体が年季モノのサンプラーであり、Illicit Tsuboiからの借り物であると説明。MPCプレーヤーは簡単そうに見えて、一つ間違うとライブが止まってしまうぐらい恐ろしい、とSTUTSから訊いたPUNPEEは、それでも「ここでデカい音を鳴らしたら、こんな音があるんだ!って、届くかもしれないから叩いてみます」と、真剣な表情で“ECDのロンリー・ガール Feat.K DUB SHINE”(ECD)と“人間発電所”(BUDDHA BRAND)をプレイ。もしかしたらこのステージで最も緊張感のあるタームだったかもしれない。言葉にはしないけれど、先人へのリスペクトであることは自明だ。

続いてはステージ上の面々と音楽を作っている現在進行形を示唆する“フレンヅ”。原島やZAIのエピソードに触れる中で、実はPUNPEEのTシャツのプリントが2017年、ホワイトに出演時、原島がG-mailを送っていた画像なのだと暴露。対する原島は板橋区のロゴマーク入りTシャツで、なかなかいい勝負なんじゃないだろうか。幼馴染である彼に「今日ぐらいはふんぞりかえりましょうよ」と、“原島“ど真ん中”宙芳ラップ”が展開されたのだった。PUNPEEのライフヒストリーは続き、自分でも「話が家っぽいよね。親族呼ぶか」の一言で、なんと5lackが登場。彼自身のライブとは違い、PUNPEEの弟として共演した感の強い“Wonder Wall feat.5lack”だった。フジロックの大きなステージに登場している二人が、お互いに自分の手法でサバイブしてきた物語も、別に語りはしないが示唆された場面だったのだ。

終盤、再びPUNPEEにとってのフジロックのグリーンステージという場所を訪れた2008年は、ひとつの転機だったと話す。良くも悪しくも分岐点があれば失敗しても道を見つけられるという意味合いだったと思う。〈あの芸術家もあの戦争に行かなきゃ生きてたかも〉というラインのある“Hero”をここにセットしたのは必然的だし、クライマックスに感じられた。

ラストはグリーンに集まったオーディエンスに送る温かい1曲“Oldies”。渋いソウルのサンプリングのループが原点を照らす。大げさに言えば存在証明、1時間のショーと捉えるなら楽しめるヒストリー。いずれにしてもPUNPEEがフジロックのグリーンステージに馳せる思いの強さは証明された。

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NIKO NIKO TAN TAN http://fujirockexpress.net/22/p_1824 Sun, 31 Jul 2022 14:15:02 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1824 映像ディレクターやアートディレクターがメンバーにいるバンドというイメージが先行して、音楽性そのものは割とイマドキなファンク、ジャズやサイケデリックなムードをちょっと奇妙な世界観で表現していると音源では捉えていた。もちろんそれも間違いではないけれど、生で見るNIKO NIKO TAN TANは必要最低限の2人体制、それもシンセをメインにした、敢えて言えばHave a Nice Day!に近いシンセサウンドのディスコナンバーという印象を持った。ビートは生ドラムというのもちょっと近いかも知れない。音源だけで判断するとKroiとTempalayの間ぐらいのニュアンスを感じてたのだが、NIKO NIKO TAN TANはもっとやんちゃでタフなファンが多そうだ。

実際、ホールジーを見るわけでもなく、オアシス周辺で飲んだり食べたりしていたファンや、噂を聞きつけたオーディエンスが続々集まってくる。概して若い。ライブと並行してグッズも販売し、なかなか長い列ができている。そのアートワークの奇天烈なセンスもファンは嗅ぎつけているのだろう。

ボーカルとシンセ担当のOCHAN(オオチャン)はブルージーな声質で少しTempalayの小原綾斗を思わせる部分もある。Anabebe(Dr)はいつの時代のロックドラマー?と突っ込みたくなる長めの金髪。しかし見た目と違ってマシンライクな4つ打ちなど、正確なビートを刻む。SFチックなシンセサウンドの“同級生”に始まり、生音ハウス感のある“パラサイト”ではシンバルの連打の盛り上げがEDMに近いぐらいのアレンジだ。つまり、踊りやすく、暴れやすい。

4曲演奏したところで、OCHANが「フジに出たら解散するとか言ってたんですけど、解散するんでしょうか(笑)」と、人を煙に巻くような発言。その後、秋にワンマンライブがあることを告知していたから、当面解散はしないだろう。ヴェイパーウェーブのマインドとも共振するような、現代のDIYミュージック。ただ、そこにフュージョンやエレピが映えるソウルやファンク感も加味されていることで奇天烈さが増量されるのかもしれない。ラストは“キューバ、気づき”と題された、エクスペリメンタルな曲。チープになってしまいそうなギリギリの線を他のバンドが混ぜないようなジャンルをぶち込むことで、NIKO NIKO TAN TANという集合体は独自な立ち位置を築いている。ライブが終わっても、アンコールを求める男子が少しの間、残っていたのも象徴的かも。

メンバー
OCHAN(オオチャン/Vo,Synth,etc)、Anabebe(Dr)、Samson Lee(サムソンリー/映像/ アートディレクター)、Drug Store Cowboy(ドラッグストアカウボーイ/映像/モーショングラフィック/アートディレクター)

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BREIMEN http://fujirockexpress.net/22/p_1822 Sun, 31 Jul 2022 11:37:24 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1822 キーボードの“だーいけ”こと、いけだゆうたが残念ながら新型コロナウイルス感染症の陽性判定を受け、出演できなくなったことで、急遽、本来のセットリストとはガラッと変更してきたBREIMEN。苗場食堂にはミュージシャンとしてフレキシブルな彼らが何を見せてくれるのか?に期待して人が集まってくる。そんな中、自宅からだーいけがツイキャスの音声で「自分も何が起こるかわかりません」と、アナウンス。ステージ右手には大きな彼のパネルが飾られている。しかもライブ中、彼はツイキャスを続けていたようだ。

まずはインストセッションで各々のプレイヤビリティを自己紹介。高木祥太(Vo/Ba)が、バンド初の4人編成で、本来のBREIMENを見たかった人はまたどこかのライブに来てもらって、今日はゲストを迎えたお祭りにする旨を伝える。一人目は昨日、Gypsy Avalonにバンドセットで出演したさらさが、サポートするSo Kanno(Dr)の縁もあり登場。井上陽水の“傘がない”をスモーキーな声でカバーした。

高木がそれでもやはり4人編成は慣れないというようなことを言い、続いては自身がベースで参加しているTENDREを呼び込み、さらにこれまたKannoがBIMのバンドセットのサポートをしている縁から、さきほどまでPUNPEEのステージで盛り上げていたBIMが登場して“KIRARI Deck”を披露。メロディを歌っても強い。それにしても今年のフジロックでBIM大活躍である。TENDREはそのまま残り、さらに彼ら自身、思い出野郎Aチームのピンチヒッターで急遽本日出演したYOUR SONG IS GOODからパーカッションの松井 泉を迎えTENDREの人気曲“hanashi”を、ジョージ林のフルートがレアなアレンジで聴かせ、また、TENDREバンドでは聴くことのないギターヒーローらしいサトウカツシロ(Gt)が存分にソロを弾きまくるバージョンに変容していたのも、彼らの関係の為せる業だ。

BREIMENのメンバーが若く優れたミュージシャンであることが可能にした大改編セットリストだが、最終兵器とも言える人が登場。紹介の途中でさっさと出てきたのは昨日、グリーンステージを沸かせた田島貴男だった。スーツで決めた昨日とは一転、リラックスモードだが、ボーカルは1曲入魂の“接吻”。いや、BREIMENにORIGINAL LOVEナンバーは似合いすぎでしょう。TENDREと高木のコーラスもいい。根本にあるパンク精神も共通していそうだ。

いけだを欠いた状態で、本来のBREIMEN楽曲はできないと、方向転換した彼らは根っからのバンドマンだからこそ、今日のステージが成り立ったのだろう。ただ、BREIMENの名前を掲げ、足を運んでくれた人もいる中、最後の1曲だけはバンドのオリジナル曲“棒人間”をTENDREのサポートで披露した。絶対、悔しいはずだけど、高木も言っていたように、来年か再来年か、近い将来、BREIMENの5人のステージが見られる気がする。ライブをする場所もスケールアップしているんじゃないだろうか?そんな予感もある。いけだの回復を願うと同時にBREIMEN本来のライブが今、すごく見たい。

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Kroi http://fujirockexpress.net/22/p_1715 Sun, 31 Jul 2022 04:07:45 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1715 「水、飲んでね」―何度もオーディエンスを気遣う内田怜央(Gt/Vo)。何故かと言うと、彼自身が高校時代からキャンプ組のフジロッカーだからだ。中盤のMCで「3日目とかなると、疲れるじゃない?人、来てくれるかなあと思ってたら、こんなに来てくれるなんて」と、参加者目線、フジロックラバーならではの視点を盛り込んできてくれるのがシンプルに嬉しい。そして気合の入ったステージを彼らはどこまでもシュアな演奏第一で貫き通した。演奏に対して「カッコいい…」以外の言葉が見つからない、そんなステージで挑んできた。

とはいえ、サウンドチェックのあと、オーディエンスを含めたセルフィーを撮ったりしてはしゃいでいたのだが、まあわちゃわちゃはそこまで。本番はタイトなプレイかつ、ド頭から人気曲“Balmy Life”で上げてきた。千葉大樹(Key)のトーキング・モジュレーターの精度も格段に上がっている。ホワイトステージ、安定のナイスバランスである。疾走しつつ腰も揺らすナンバー“Juden”と飛ばす飛ばす。若年寄ぽいセンスの長谷部悠生(Gt)がジミヘンの“Purple Haze”のフレーズを混ぜてくるのもカッコいいとオモロイが半々のイメージ。そう、完全に演奏はカッコいいのだが、バンドのキャラがオモロカッコいいのがKroiが愛される理由だろう。
曲中のインスト部分の抜き差しも彼らの聴きどころで、このバンドのネオソウルやジャズテイストを決定づけている益田英知(Dr)の抜けの良いフレーズ、涼しい顔をしてグルーヴの根っこを支える関将典(Ba)が思わず「く〜〜〜っ」と声が出るフレーズを繰り出す。踊れる曲が続き、振り返るとなかなかの人数がホワイトを埋めていた。

暑いのでちょっとカームダウンするように、涼し気なエレピでジャジーなコードが奏でられる“熱海”へ。内田のボーカルもヴァースはトーキング、サビのファルセットと巧みだ。ベースとギターがユニゾンするパートも涼し気だ。続く“Pixie”では長谷部が前方に歩み出て、熱い(暑苦しい?)ギターソロを弾き、最後は歯弾きまでした長谷部の唐突感。内田に「ギターソロで笑いが起こってるね」と指摘。5人全員がムードメーカーのようなバンドだが、ライブを体験するとおもろさの分担がより分かったんじゃないだろうか。暑いと気持ちいいのどちらかしか出てこないぐらい、言葉少なになってきたステージ上。いつもなら好きな時に好きなように喋る彼らもさすがにこの暑さでは演奏第一になるだろう。

オーディエンスにはさかんに「水、飲んでる?」と注意喚起する内田だが、気分は相当いいようで、「この気持ち良い感じで、俺らも気持ちいい曲やっていいですか?」と、レイドバック気味のビートでスローにとろける“Never Ending Story”。合間に変拍子を挟むのもニクい。

この暑さでも前方で見ている人がほとんど撤退しないのが、ハマると沼のようなKroiのグルーヴの魔力なのかもしれない。「え、カッコいい、もう1曲」を繰り返しているうちに時間が経過するのを忘れると言うか。終盤、再度ギアを上げてサビで手を自然に挙げたくなる“Fire Brain”。内田のボーカルもシャウトもだんだんねちっこく強くなってきた。いいパフォーマンスが最高の音で届けられているから、安心してヒートアップしてくれ!と念を送っている自分がいた。

ラスト前には「憧れのアーティストを見たところに帰ってくるって、ヤバい状況をひしひしと感じます。また来ます、絶対。伝えたかったんで言いました」と、内田。ミュージシャン人生のかなりの部分に影響を与えたフジロックのステージの上から見る景色や感情はいかばかりか。サングラスの奥の瞳を見たかった。イノセントなラブソングにも受け取れる“Shincha”の歌詞を〈また俺らと一緒に踊ってくれるかい?最高の景色、山がそびえ立つここでまた踊って、一緒に〉とアレンジしてソウルフルに歌い上げ、最後の一音まで丁寧に演奏し終えた5人。きっと、今度はもっと曲数を増やして、夜間か大きなステージで会えるんじゃないだろうか。

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與那覇有羽 http://fujirockexpress.net/22/p_1818 Sat, 30 Jul 2022 15:30:57 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1818 ジャック・ホワイトとTRIBAL CIRCUSのサウンドチェックに挟まれたのはタイミングが悪いが、苗場食堂には少し珍しい演奏家がステージを始めようとしていた。沖縄音楽や奄美大島の音楽とも違う、沖縄本島とも違う独自の言語の与那国語で歌われる民謡がある。ちなみに日本最西端の島が与那国島だ。

そこからはるばる苗場にやってきてくれたのは與那覇有羽(よなは ゆうう)、36歳。民謡の世界では若い世代に入るのだろうか、幼い頃から与那国の音楽に触れ、沖縄県立芸術大学で琉球古典音楽の習得も目指したことがあるそう。が、与那国に戻り、民謡や伝統歌を歌い継いできたらしい。ステージは山口和昭の澄み渡る笛の音で始まる。新潟県の山の中で聴くことは二度とないかもしれないが、ここで鳴っていることになんの違和感もない。アンプリファイされた爆音に疲れた人たちが徐々に集まり、耳を澄ます。與那覇有羽は方言で喋って、自分で標準語に訳して話すのだが、沖縄の言葉以上に馴染みがない。旋律も微妙に違うのだが、やはり言葉の違いが印象を異なるものにしているようだ。

面白かったのがわらべうたで、子どもをあやすのだが、あまり泣いていると猫や犬に噛ませるぞと脅すのだそうだ。また、雨ごいの唄も、大人は10日に一度ぐらい降ってほしいが、子どもは降るなと願うという内容。民謡はただの祈りの唄じゃなく、いろいろな立場の人の気持ちを少しユーモラスに描くもののようだ。そう言えば奄美大島同様、大人になると出ていく人が多いそうで、悲しい唄も多いそうなのだが、最近では会うは一生の付き合いと捉えて、前向きな唄として解釈しているそう。

與那覇のまっすぐ腹に響く声と與那覇桂子のよくまわるこぶしと突き抜ける高音。あまり独特の唱法という印象はなかったが、人の生声のパワーは心地よい。振り返ると苗場食堂周辺にもまったり椅子でくつろぐ人がかなりいた。

与那国島ではカチャーシーでにぎやかに踊ったあとも、出会った人の命に良い風が吹くように祈るのだそうだが、今日はさらに、出会ったあなたにまた会いたいという感謝の唄も加えて、締めくくってくれた。いや、まだまだ知らない日本の言葉、たくさんあるなと思う反面、旋律に乗ると昔から知っていた心地になる。それが民謡の力かもしれない。

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ARLO PARKS http://fujirockexpress.net/22/p_1722 Sat, 30 Jul 2022 14:10:08 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1722 10分前にはレッドマーキーに着いていたのだが、なかなかの人気でいつものフジロックを実感する。まあ日本でもデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』の評価・人気は高く、初来日が待たれていた筆頭アーティストと言える存在なので当然かも。むしろレッドで大丈夫だったの?という気持ちになってきた。そしてコーチェラやグラストンベリーの配信でも見ることができたたくさんのひまわりをあしらったステージセットはフジロックでも実現。それだけでも明るい気分の入り口のなるのに、後方に桜の造花?(生花は今の時期無理だろう)まで飾ってある。

ギター、ベース、キーボード、ドラムスが位置についてイントロダクションのセッションをスタート。ネオソウル、生音ヒップホップ・バンドとして最高のバランス感覚を持ったミュージシャン揃いだ。バンドサウンドまでは配信で体感できなかっただけに、バンドが素晴らしいのは得した気分。いよいよ本人が登場、しなやかで大きなアクションで“Green Eyes”を歌い始める。柔らかく、少しハスキーで甘く、話し声に近い親密さを持った極上のボーカルがしっかり聴こえる。大きく長い拍手に「ありがとうございます」と、丁寧に発されたその声の誠実なトーンで、もうなんか泣きそうになる。本格的なワールドツアー中だが、昨年回るつもりだったプランが伸びたのだから、大変さより、初めて接するオーディエンスと心を通わせることが嬉しそうだ。そのムードが待ち焦がれたファンも、ちょっと曲が好き、ぐらいの人も、声につられてレッドマーキーにたどり着いた人にも伝播している。反応が優しいだけじゃなく、お客さん同士も優しいのだ。なんなんだ、ARLO PARKS効果。

オルタナティブ・ロックやインディミュージックも背景にある彼女の音楽にはRadiohead的な部分もあり、“Caroline”や”Eugene“のアルペジオにはジョニー・グリーンウッドのテイストを感じる。それでいて、ソロは割とブルージーだったり、フュージョンぽいところもあるギタリストがいい仕事をしている。基本的にアタックの強くないキック&スネアが基本のドラムだが、上モノのムードの変化と、何よりARLOの声のすごく近い距離で聴いているような親密さをこのキャパでも明快に伝えていることが、ARLO PARKSひいてはこのライブバンドの実力じゃないだろうか。あ、ちなみにドラマーは日本語が堪能でARLOは「彼がトランスレートしてくれる」と笑っていた。

アルバムの中でも人気の“Hurt”はベースがかなりパッシヴになり、フロアの反応も熱いものに。いわゆる本編の締めくくりはピアノジャズとドリーム・ポップが邂逅したような“Hope”。曲調も相まってコリーヌ・ベイリー・レイの人柄と歌の魅力でその場にいる人々を溶かし、泣かせたいつかのホワイトステージを思い出してしまった。アンコール的な立ち位置で、新曲“Softly”の少しアッパーなビートでゆらゆらと挙がる手が増えていく。声に出せないけれど、サビの〈Break it to me〉を口パクしていた人は多かったんじゃないだろうか。スイートな人、見ているだけでいい気分になる人はこの世に存在する。優しいムードに包まれた終演後、近くにいた人にステージのひまわりの意味を訊かれたりした。
真意は知らないけれど、話がしたくなる魔法をARLO PARKSにかけられたのかも。

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CreativeDrugStore http://fujirockexpress.net/22/p_1723 Sat, 30 Jul 2022 11:25:08 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1723 わー、これは男子の夢じゃないか?マチズモとは無縁の良い方のBOYS CLUB。正直、CreativeDrugStoreって、さまざまな大手ブランドとコラボグッズを作ったり、マーチのイメージしかなかったのだが、これはヒップホッププロパー以外も踊れる、グループならではの楽しいヤツだ!と、オープニングから確信してしまった。

とはいえ、dooooは自分のDJじゃなく、みんなのトラックを次々出しつつ、リアルタイムで音を足したりしてるせいか、冒頭は微妙に間もあったものの、BIM(MC), in-d(MC), VaVa(MC), JUBEE(MC)の紹介映像と各々のロゴが背景に映し出されると否応なく盛り上がる。軽くフリースタイルを決めて、BIMの“マジックアワー”で一気にサマータイムへ。一転ハードなJUBEEがin-dをフィーチャーした“Black Flys”、みんな大好き、BIMとVaVaの“Fruit Juice”と異なるカラーを持つメンバーの「いい曲合戦」の様相を呈している。もちろん、自分の曲以外でも賑やかしたり、DJブースと同じ高さの台の上でパフォームしたり、腰掛けたり、CDSの面々がティーンエイジャー映画のようにわちゃわちゃしてるのが最高だ。

コラボナンバーに続いてはソロナンバーのブロックへ。中でもVaVaの真面目さというか、いい意味でシリアスさが際立つ“現実Feelin’”や、男くさいJUBEEのハードな4つ打ちや高速BPMのジャングルビートなどは、CDSだからこそより見える個性に思えた。まあそれにしてもコロナ禍以降のライブでこれだけオーディエンスが自由に踊るライブを少なくとも私は初めて見た。ヒップホップのイベントでは、すでに戻ってきた景色なのかもしれないが、そりゃあ踊るわ!と言いたくなる、多様でしかもイケてる曲揃いなのだから。
ユーモアとシニカルさでバランスを取っているように見えるBIMも、さすがに10周年と初のフジロック出演に関しては真面目に「フジロックのステージに立てたのも、最前のよく見る顔の人たちや、スタッフのおかげです」と謝辞を述べ、続いてはひとつだけ作ったというCDSのビニールボールを「昨日、ヴァンパイア・ウィークエンドで、これの何十倍もでかいビニールボール見たから、これ出すかどうか悩んだんですけど」と言いつつ、フロアに投げ入れた。

続けてBIMの人気曲“Presence”の途中では「今頑張ってることがある人は10年やってみましょう」と、曲にも10周年にもかけたMC。in-dは昨年のSUMMITオールスターズでも披露した“On My Way”を今年も披露。さらに「せっかくだから新曲も作ってきた」と、ロックテイストもある新曲をライブで解禁してくれた。それぞれ熱のこもったMCで沸かせるが、VaVaの「毎年フジロックを生きがいにしてきたヤツはいますか?俺もそうだから!」と、“Mugen”で踊らせ、胸に熱いものを去来させる。ラッパーの個性とキャラクターをdooooのDJと、今回のための映像やリアルタイムでステージ上やレッドマーキーの様子を映し出すHeiyuu(Camera)とのチームワークも羨ましい限り。

最終盤はBIMのラテンでチルする“Bonita”、CDSのテーマでラッパー4人のセンスも声もしっかり印象づけて、「ああ、だからこそグループなんだな」と、またも羨ましくなってしまったのだった。10代の食えない時期から互いを知る者同士でも、ソロで多忙を極めるとグループの活動は自然消滅しそうなものだが、この6人だから、ほとんどグループの曲がなくても看板は降ろさないのだろう。ラストにCDSとしての新曲を放って、おお、これは2022年、続きに期待してOK?と、最初の「マーチしか作ってないんでは」という冷静な視点は180°転換した。

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折坂悠太 (重奏) http://fujirockexpress.net/22/p_1688 Sat, 30 Jul 2022 08:01:20 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1688 昨年は直前に出演辞退した折坂悠太。熟考された文章の中でも自分の伺いしれない死角で誰かが苦しむかもしれないからという理由はこの時代に於いて絶対は存在しないことを再認識させた。そして昨年、折坂はテレビドラマの主題歌などでポピュラーな存在になりつつあった中、外に開かれたわかりやすい作品ではなく、重奏バンドとともに内側を見つめるアルバム『心理』を完成させた。当然のことだが、ライブ活動も作品も、例えば「こんな時勢ですが、前を向いて行きましょう」というような表現はしてこなかった。自分たちの“民族音楽”を作るように、作曲し、セッションし、作った音楽を手がかりに歩いてきた、そんな感じだ。

今年1月に朝霧JAMのキックオフイベントで彼らのライブを見たときは地元富士宮市の方々が多いせいもあって、丁寧な初対面の挨拶を特に念入りにしているように思ったが、折坂は今日も「折坂悠太と申します」と、いつも通り丁寧な挨拶をしていた。スタートはガットギターのストロークにハラナツコ(Sax)のフレーズも加わり、風を運んでくるような“さびしさ”。苗場の木々にこだまするように放たれる〈風よ〜このまちに吹いてくれ〉のロングトーンには胸がすく思いだ。

2曲歌ったところで、昨年は悩んだまま辞退したことを吐露する。そして「去年の状況と今年の状況と何が違うのか、答えられません。参加した知り合いからは1997年のフジロックも大変だったと訊いております。場所などを変えていまの祭りになったんだろうなと思います。私も試行錯誤しながら営みを続けようと思います」と、偽りのない言葉を発する。去年は諦めたが、今年はようやく参加した人も多いようで、折坂のこの言葉に重なる思いの人も多かっただろう。

多くの人が知る“朝顔”も、盛り上がるのは後奏の民謡的な部分で、グリーンステージが日本のトライバルに染まっていく。さらにスリリングな“針の穴”や、昭和のハードボイルド映画を思わせる“鯱”へと続く。6人全員が自らの分身のようなフレーズや打音でグルーヴに飛び込む。グルーヴを作りながら、ここぞと音で飛び込んでいく。ハラのサックスと山内弘太(Gt)のギターが悲鳴のように鳴り響き、他の演奏者も荒れた海を航海するように渾身のフレーズを差し込み、そして大きな渦を作っていく。前方の日陰にいても暑い時間帯だが、夏山というより、足のつかない海で重奏バンドの舟に乗り込もうとしているような心地だ。

ごうごうと音を立てるステージの音がやんだ瞬間、senoo ricky(Dr)のバックビート気味のキック&スネアから、徐々に“トーチ”のイントロへ。butajiとの共作曲であるこの曲は淡々としたアコースティックな佇まいから、ずいぶん力強くて素朴な、なんならアメリカン・ロックの感触すらあるアンサンブルに変化していたのだ。恐るべし重奏バンド。

そしてロマ音楽やサンバを昇華した“心”がタフな楽団のムードを強め、〈例えばおれは、いつかの蜂 それを思えばちょっとは笑ってくれるかな?〉というセリフをループさせながら、「ご静聴賜り、ありがとうございました」と口上を述べ、ラストの“芍薬”へ。折坂バンドの音楽はいまのわれわれの民族音楽であると同時に、労働歌でもあるなと感じた。まさに日々の営みを続けていくための問いかける力と前進のための燃料となる音楽。その一旦の有りようをしっかり受け止めた。

グリーンステージつめかけたオーディエンスの集中力は高く、終演して一気に暑さに気づく、そんな1時間でもあった。

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