“若林修平” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '22 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/22 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Mon, 24 Oct 2022 01:00:55 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.20 いつものフジロックへの http://fujirockexpress.net/22/p_8780 Mon, 15 Aug 2022 02:01:28 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=8780  3年ぶりに開催された、世界最大規模のフェスティヴァル、英国のグラストンバリーが2年遅れで50周年を祝った今年、初めてここを訪れてから40年の節目を迎えた筆者の目前で繰り広げられたのは「いつものグラスト」だった。日本で大騒ぎしているコロナ禍の影響は微塵も見られない。マスクをしている人はほぼ皆無で、ステージから感染防止のアナウンスが流れることもなく、注意書きさえ目にはしていない。幸運なことに、ほとんど雨も降らず、会場を歩いていると悩まされるのが砂埃。そのためにマスクを着用しようかとも思ったのだが、それさえはばかれる開放的な空気が会場を包み込んでいた。30万人ほどが数日間を過ごしていたなか、見かけたマスク姿は数えるほど。まるで誰もなにも気にしていないという空気が会場を支配していたように思える。

 変化が見られたとすれば、2019年か、その前年からか、「ペット・ボトルを会場からなくそう」と始まった「Reuse Refill Repeat」というキャンペーンの成果かもしれない。「清潔な水を全ての人へ」を形にしようと動いている国際非営利組織、Water Aid(ウォーター・エイド)と協力して、会場内に設置された「ウォーター・キオスク」で水を無料供給。水筒やタンブラーさえあれば、美味しい水がいつでも手に入る。手持ちのものがなければ、グラストの名前が入った特製も購入も可能。それが運動をサポートする収益にも繋がる。これによって、膨大な量のペットボトルが会場から姿を消しつつあるのだ。加えて、毎朝、数多くのヴォランティアが会場のゴミを清掃。それに気付いたのか、以前ならどこにでもポイッとゴミを捨てていた人々に変化が現れて、「ゴミに溢れた」イメージが定着していたグラストが確実に変わりつつあることに驚かされていた。

 そのグラストから約1ヶ月後に開催されたのが、25年という節目を迎えたフジロック。ここがまるで別世界のように見えていた。開催を前に観客のみならず、スタッフ、関係者に周知徹底されたのが『感染防止対策ガイドライン』。それもあったんだろう。土壇場になって「陽性となった」、あるいは、「身内が感染して濃厚接触者となった」と出演をキャンセルしたアーティストも少なくはなかった。さらに、それが理由で会場には向かわないと判断せざるを得なかったスタッフもいて、フジロック・エキスプレスでも、リモート業務を余儀なくされたメンバーもいる。おそらく、そんな事情はお客さんも同じだったと察する。しかも、ちょうど開催期間中あたりか、日本での感染者数が世界最大となったと伝え始めたのがマスメディア。なんとか開催にこぎ着けた昨年よりも、遙かに厳しい状況が待ち受けていたようにも思える。

 ただ、会場にやって来た人達のほとんどがガイドラインをチェックしていたんだろう。多くの人たちがマスクを着用したり、密な状態を避けようとしていたのは伝わった。といっても、屋外で観客同士の距離が確保できて感染リスクが少ないときは、マスクを外して熱中症予防やリフレッシュしてほしいとアドバイスも添えられている。昨年は「がんじがらめの」感染予防を決まり事として受け入れなければいけなかったのに対して、今年は「自分のことは自分で」という本来の姿が戻ってきたようにも思えてた。それが「いつものフジロック」への布石なんだろう。

 例年通り、前夜祭のオアシス・エリアにはやぐらが建てられ、フジロッカーにはおなじみの『苗場音頭』が鳴り響く。そこで踊り出す老若男女も、打ち上げる花火を見上げる人達も、「やっとここまでこぎ着けた」と感じているんだろう、なにやら華やいでる。どこかで悲しさを誘った昨年とは違って、今年はシンプルに「嬉しい」気持ちで空を見上げていた人がほとんどじゃないだろうか。それは3年ぶりに復活させることができた、レッド・マーキーでの前夜祭ライヴ直前の記念撮影でも感じていた。

 舞台裏の話をすれば、はたして記念撮影をすべきかどうかで悩んでいた。全スタッフにPCR検査を施し、観客全てに抗原検査をお願いした昨年、会場に足を運んでくれたフジロッカーがガイドラインを守ろうと涙ぐましい努力をしていたのは、昨年お伝えした通り。その結果、おそらく、国内で最も完全で感染リスクの少ない場を作っていたはずだが、この様子を好意的に伝えたメディアはほとんどなかった。まるで揚げ足をとるように重箱の隅をつつく記事が大半で、なかには意図的に読者をネガティヴな方向に誘導するような記事さえ目に入っていた。脳裏のどこかで、集合写真が「その素材として使われるのではないか」と危惧する気持ちがなかったと言えば嘘になる。

 それでも「やろう」と決断したのは、「いつものフジロック」を取り戻そうと、主催者や地元のみなさんのみならず、会場にやって来たフジロッカーも懸命に努力をしていることを記録したかったというのが一番の理由だ。前夜祭からやって来る筋金入りのフジロッカーにとって、この祭りが、彼らの生活やライフ・スタイルにとってどれほど重要な意味を持っているか言うまでもないだろう。ここは年に一度、里帰りのように訪ねてくる故郷のようなもの。「おかえり!」と声をかけると、自然に「ただいま」と返したくなる「自分たちの居場所」なのだ。それを彼らが守ろうとしている姿を残したかった。2007年から毎回続けられてきた、前夜祭最初のライヴ前に撮影される彼らの記念撮影でそれを証明できないだろうかと考えて主催者に交渉。OKの返事をもらったのは、ぎりぎりとなった当日じゃなかっただろうか。

 が、いつものように、「おかえり」と言うと、みなさんから大声で戻ってくる「ただいま」というレスポンスを撮影することは考えてはいなかった。それよりも、記録したかったのは「みんなが思いをひとつにすればなにかを形にできる」ことを証明すること。その思いとは、単純にルールを守ることではない。それぞれの命を守り、この祭りを守ろうとする気持ちであり、そのために自分で考え、責任ある行動をとらなければいけない。大多数の人達がそれを理解していることを形にしたかった。単純にマスクを付ければ感染から完全に身を守ることができると断言はできないし、大声で話せば感染するとも言い切れない。でも、それぐらいのこと、僕らには簡単にできるんだということを見せたかったのだ。

 その問いかけに見事なまでに応えてくれたのが、前夜祭のライヴ直前にレッド・マーキーにいたみなさんだった。ステージから簡単に今回の狙いを説明。「おかえり!」と声をかけるけど、心の中で「ただいま」と叫んで声には出さないで、代わりに大きく手を上げて応えてほしい。そして、みんなにマスクを付けてほしいと、手短にお願いして撮影に臨んでいた。

 もちろん、リハーサルなんて無し。具体的にどうするかを思いついたのも、ステージに向かっているときだった。が、ステージからマイク越しに声をかけると待っていたのは完全な沈黙。あまりに感動的なみんなの反応にステージ上から奇声を発してしまった自分が完全に浮いているようにも思えていた。が、あの叫び声が、逆に静寂を浮き上がらせていたようにも思う。しかも、レッド・マーキーの屋根の下だけではなく、その外でも同じような光景が姿を見せていたことを、友人がフェイスブックに投稿した映像で知ることになる。撮影された写真を見ると、屋根の下にいた2000人を越えるオーディエンスの99.9%が、「マスクを付けてくれ」というリクエストに応えてくれて、例年とは全く違う記念写真が出来上がっていた。

 これから何年か先、このコロナ騒ぎが本当はなにだったのか、そして、どういう意味を持っていたのかを知ることになるかもしれない。それがなにであろうと、この場所を守ろうとしていたフジロッカーの記録は残る。おそらく、そんな思いを共有していたオーディエンスこそがステージで演奏したアーティストたちの好演を呼び起こしていたのではないだろうか。数多くのライヴを見たわけではないが、スタッフや友人の口から耳にしたのが感動を呼んだライヴの数々。スクリーンやモニター越しにその素晴らしさを感じた人達も多かったようだ。が、同じ時間と空間を共有して、空気の波動や臭いに熱気も感じる至福は、その場にいる人にしか得られない。コロナのせいで会場に来られなかった、それを熟知している仲間がモニター越しに悔しい思いをしたという話しも伝わっている。

 でも、「いつものフジロック」と呼ぶにはもうひとつだったかもしれない。天上のエリア、デイ・ドリーミングやピラミッド・ガーデンに見られたのはいつもの表情。でも、フジロックをただ素晴らしい環境下での野外コンサートではなく、フェスティヴァルたらしめている要素のひとつ、まるで異次元の空間にいるような感覚を楽しませてくれるエリア、パレス・オヴ・ワンダーや奥深くに用意されていたカフェ・ドゥ・パリあたりがすっぽりと抜け落ちている。主に英国のスタッフを中心に企画制作されているのがこのエリア。彼らが来日できなかったという事情もあるんだろう。それに彼らが演出してきたボードウォークやグリーンからホワイトに繋がるルートのオブジェにも以前の輝きは感じられなかった。もちろん、それを国内のスタッフがその穴を埋めるように努力しているのは理解しているのだが、なにかが「たりない」という気持ちは否めない。

 その一方で、我々が続ける、この速報サイト、フジロック・エキスプレスは見事なまでに「いつものフジロック」に映っていた。ライヴのことはもとより、会場に集まってきた人々の幸せな表情を切り取り、よだれが出てきそうなほど美味しそうな食べ物が顔を出す。コロナ禍の影響で出店できなかったおなじみのお店が気がかりだが、アルコール無しだった昨年はお休みしたお店も復活。「フジロック的なるもの」がここではてんこ盛りになっていた。さすがに、根っからフジロックを愛するフジロッカーが集まったfujirockers.orgが生み出した速報サイトだと自画自賛したくなる。

 ここはそんなフジロッカーたちにとって、年に一度のミーティング・ポイントなんだろう。再会を喜ぶ人達が「久しぶりだねぇ」と、再会できなかったここ数年の話に花を咲かせている様子も目に入っていた。同時に、まるでずっと繋がっていたかのような気分で新たな出会いも生まれていたようだ。SNSでは「今年は会えなかったね。どこにいたの?」なんて会話が見受けられ、初めてフジロックを体験した人達から耳にしたのは、苗場での幸せな数日間。彼らにとって、ここが年に一度の里帰りのような場所なってくれたら、それに越したことはない。

 さて、来年はどうなるんだろう。このコロナ騒ぎは収まっているだろうか。それとも、「コロナと共に生活する」ってことになるんだろうか。できるなら、マスクなんぞおさらばして、仲間たちと心置きなく大騒ぎできるようになればいいんだけど、どうだろう。そして、フジロックをこよなく愛してくれたジョー・ストラマーが語ったように「生きている意味を確認できるような」時間や空間を引き戻したいと思う。それを人ごとのように語るのではなく、そのために自分でできることはなになんだろうと、思いを巡らしながら、これからの1年を過ごしていこうと思う。来年こそは、当たり前のフジロックを楽しめるように祈りながら。

なお、「フジロック愛」に溢れたフジロック・エキスプレス、今年のスタッフは、以下の通り。会場の様子を羨ましそうに眺めながら、自宅からリモートで作業してくれたスタッフもいる。作業をスムーズに進めるために好きなライヴをほとんど見られることのないスタッフもいた。ありがとう。感謝しています。

■日本語版(http://fujirockexpress.net/22/
東いずみ、阿部光平、阿部仁知、安藤淳太、イケダノブユキ、ミッチイケダ、古川喜隆、石角友香、板場俊、あたそ、岡部智子、梶原綾乃、おみそ、北村勇祐、粂井健太、小亀秀子、Eriko Kondo、佐藤哲郎、白井絢香、suguta、髙津大地、リン(YLC Photograpghy)、中島たくみ、馬場雄介(Beyond the Lenz)、HARA MASAMI、平川啓子、丸山亮平、三浦孝文、吉川邦子、森リョータ、安江正実、若林修平

■英語版(http://fujirockexpress.net/22e/
Mishu Callan, Mika Carl, Karen Lynch, PARK BAKER, Jonathan Cooper, Nina Cataldo

フジロッカーズ・ラウンジ:mimi、obacchi、藤原大和、土井優子、関根教史

ウェブサイト制作&更新:平沼寛生(プログラム開発)、迫勇一(デザイン)、坂上大介

プロデューサー:花房浩一

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fujirockers.orgは1997年のフジロック公式サイトから派生した、フジロックを愛する人々によるコミュニティ・サイトです。主催者からのサポートは得ていますが、完全に独立した存在として、国内外のフェスティヴァル文化を紹介。開催期間中も独自の視点で会場内外のできことを速報でレポートするフジロック・エキスプレスを運営していますが、これは公式サイトではありません。写真、文章などの著作権は撮影者、執筆者にあり、無断使用は固くお断りいたします。また、文責は執筆者にあり、その見解は独自のものであることを明言しておきます。

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補足です。例年、河原に姿を見せるゴンちゃんは最終日まで、そっとしておいてくださいとお願いしているのに、平気で「盗んで、連れ去っていく」人達が未だにいると聞きます。子供達が我慢してその時を待っているのに、恥ずかしいとは思わないんでしょうか また、森に姿を見せるマッドバニーも作品で、「勝手に持っていって(盗んで)いい」とは作者はもとより、誰も表明してはいません。これを持って帰った人達は泥棒です。「いつものフジロック」をぶちこわしにするような人達はもうここには来ないでほしい。

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JACK WHITE http://fujirockexpress.net/22/p_1685 Wed, 03 Aug 2022 09:50:48 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1685 ジャック・ホワイト、10年ぶりのフジロックはヘッドライナーとしての凱旋だ。この10年はギターロックにとって逆風の10年だったと言っても過言ではないだろう。それは、ジャンルの多様化がより進み、ポップ・ミュージックを軸にしたジャンルのクロスオーバーが主軸になったことに起因している。しかし、昨年あたりからギターロックの再興が始まり、その中にはもちろんジャックもいた。2022年、ジャックは『The Fear Of The Dawn』と『Entering Heaven Alive』、2作の新作をリリースした。この2作に共通してあるキーワードが「再生」だ。このキーワードがライブにどう反映されるのか?そこを注目ポイントに置いて、今日を迎えた。

少し肌寒い夜のグリーンステージ。そこに集まった多くの人が期待するのは皆同じだろう。「ロックンロールなライブが観たい!」。そんな期待の中、MC5の“Kick Out the Jams”をBGMにメンバーが登場。今回のバンドは、ジャック・ホワイト(Vo./Gt.)、ドミニク・ジョン・デイビス(B)、クインシー・マクラリー(Key)、ダル・ジョーンズ(Dr)、そして​​ジャック曰く「憧れの人」という白い人形(Ukulele)の5人(?)で編成されている。ジャム・セッションから始まったライブは、加速度的にボルテージを上げていく。ステージを縦横無尽に動き回りながらジャック仕様に魔改造されたギターでリフを刻んでいく“Taking Me Back”、ジャック・ホワイト史上最強クラスに重厚な“Fear of the Dawn”と新作から2曲続いたところで、聴き覚えのあるイントロがきた。ザ・ホワイト・ストライプス(以下ストライプス)の“Dead Leaves and the Dirty Ground”だ。声を震わせながら歌うジャック。シャウトするジャック。もはやどういじってるのかすら分からないギターを鳴らすジャック。それらはストライプスの頃から大きく音を変え「再生」したひとつの証だ。ザ・デッド・ウェザーの“I Cut Like a Buffalo”や、ザ・ラカンターズの“Steady, as She Goes”に関しても、アレンジを大きく変え、もはや別の曲になっていた。ただしそこにネガティブな印象は全くなく、今のジャックのロックンロール・レベルが凄まじく上がっている証拠なのだと理解できた。

一方で「再生」されたのはサウンド面だけではない。背景に構えられた巨大モニター。そこに映し出される映像は曲ごとに形を変え、彼らのパフォーマンスを後押ししていた。さらに「遊び心」という点においても、以前だったら考えられなかったようなことを今回やっている。それはジャックの足元にずらっと並べられているエフェクターだ。その中に初音ミクのペダル『KORG MIKU STOMP』があって、それを踏むとギターのピッキングに合わせて初音ミクが歌い出すという超絶変化球なエフェクター。これが“Hi-De-Ho”のアウトロで使われ、初音ミクの声が鳴った瞬間、思わず本気で驚いてしまった。「本当に使うんだ」と。

そんなあらゆる進化や試みが見られたライブは、ストライプスの“Ball and Biscuit“で一旦幕を閉じたが、クライマックスはアンコールに待ち構えていた。同じくストライプスのスーパーアンセム“Seven Nation Army”だ。“あの”ギターフレーズにエフェクトがかけられ、より厚みと存在感をもたらしたこの曲はライブのラストにふさわしく、曲が終わりに近づくと共に「あぁ、これで終わりなのか」と感覚的に感じてしまった。90分のライブが終わり、グリーンステージを後にする人たちの口から揃って聞こえてきたのはジャック・ホワイトに対する感嘆と賞賛の言葉だった。

<セットリスト(ライターメモ)>
01 Taking Me Back
02 Fear of the Dawn
03 Dead Leaves and the Dirty Ground (The White Stripes cover)
04 Love Interruption
05 A Tip From You to Me
06 Love Is Selfish
07 Hotel Yorba (The White Stripes cover)
08 I Cut Like a Buffalo (The Dead Weather cover)
09 The White Raven
10 Hi-De-Ho (feat. Q-Tip)
11 Fell in Love With a Girl (The White Stripes cover)
12 Lazaretto
13 That Black Bat Licorice
14 Ball and Biscuit (The White Stripes cover)
EN01 What’s the Trick?
EN02 Steady, as She Goes (The Raconteurs cover)
EN03 Sixteen Saltines
EN04 Seven Nation Army (The White Stripes cover)

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VAMPIRE WEEKEND http://fujirockexpress.net/22/p_1679 Wed, 03 Aug 2022 09:45:46 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1679 ヴァンパイア・ウィークエンド、前回の出演は2018年のグリーンステージ。その時のヘッドライナーはボブ・ディラン(以下、ディラン)だった。エズラ・クーニグ(Vo./G.)は「あの時のライブが最新作『Father of the Bride』のスタート地点だった」そして「今回の日本(フジロック)と韓国でのステージがゴールになる」と語っている。今年のフジをゴールにした理由は非常にシンプルなもので、ひとつはスマッシュから最後のヘッドライナー枠としてのオファーがあったから。もうひとつは「今回また出て、あのステージで『Father of the Bride』の曲を演りたかったんだ。僕にとってあのアルバムはフジロックを彷彿とさせるから。アウトドアな感じがするところがね。」。そんな二つの理由が起点となり、初のフジロック・ヘッドライナーが決まった。

21時、定刻。パラパラ降り出した雨で肌寒いグリーンステージはほぼ人で埋まっていた。ホワイトのジョナス・ブルーを途中で切り上げたであろう人から、レッドのシドを観終わって来たであろう人まで、こぞってグリーンステージに集結したような感じだ。そこに強烈なロック・ナンバーが降臨した。AC/DCの“Back In Black”だ。この曲は前回のフジロックの入場時にも使われていた曲で、ライブのスタートに勢いをつけてくれる…はずだったのだが、ライブが始まっていきなり音響設備の不調によりまともに曲が聴けないような状況に陥った。しかし、そんな時でもバンドは強かった。ステージのメインスピーカーから音が流れていない状況でも、演奏を続け、ほぼ“生音”だけで観客を圧倒したのだ。そんな彼らの心意気にオーディエンスは大きな拍手を送っていた。

3曲目“White Sky”が終わった後、一旦ライブは中断。それは約13分ほどで復旧し、その後の無双っぷりが本当に凄まじかった。音圧が上がったことにより存在感が増した、“Cousins”に“A-Punk”。良質なバンドアンサンブルのベースラインがグッと上がった“This Life”。外部アーティストを招いて制作したEPで大きな変化を遂げた“2021”と挙げ出したらキリがない。それらの要因となっているのは、この4年間で獲得した「ロックバンド」としての肉体性と柔軟性の向上で、曲のアレンジを大胆に変えてみたり、ジャムパートを多く作ってみたりと、新たなるチャレンジの機会を創出していた。その証拠に、約90分(中断時間含む)のライブで曲数がアンコールも含め15曲と、短い曲の多い彼らにしては比較的少なくなっている。そんな彼らの成長物語のラストは、ボブ・ディラン“Jokeman”のカバーだった。『Father of the Bride』の始まりの場所にディランが立っていたから、終わりの場所でもディランを演ろう─という理由だったかは定かではないが、そんな繋がりを想像するだけで、何とも言えない充実感が込み上げてくる。

『Father of the Bride』の旅は、来月の韓国公演をもって終わりとなる。今作のプロセスはエズラやバンドにとって「音楽が好きだ」という思いへの原点回帰だ。その想いを僕らにもしっかりと届けてくれた、そんな90分だったような気がする。

<セットリスト(ライターメモ)>
01.Sunflower
02.Unbelievers
03.White Sky
04.Sympathy
05.Cape Cod Kwassa Kwassa
06.Bambina
07.2021
08.This life
09.Harmony Hall
10.Diane Young
11.Cousins
12.A-Punk
13.Jerusalem, New York, Berlin
EN1.Campas
EN2.Oxford Comma
EN3.Jokeman (Bob Dylan cover)

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さらさ (band) http://fujirockexpress.net/22/p_1773 Tue, 02 Aug 2022 12:00:10 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1773 初日のレッド・マーキー、マイケル カネコのステージに登場したさらさ。あのステージパフォーマンスを見て、アヴァロンまで足を運んだ人もきっと少なくないはずだ。さらさは湘南茅ヶ崎育ち、弱冠23歳のシンガーソングライターだ。「ブルージーに生きろ」をテーマにあらゆるネガティブな感情や出来事を作品として作り上げ、それらを肯定する。「ブルース」という若い世代には馴染みのない音楽は、彼女のフィルターを通すとどのように聴こえてくるのか?それを確認するために、僕はアヴァロンまで来た。

ブルージーな香り漂う“踊り”から始まったライブは、彼女の中にあるソウルが感じられる“温度”、アンニュイで浮遊感のあるヴォーカルが印象的な“JJJ”と続き、アヴァロンの空間をあっという間にさらさの色に染め上げていった。その世界観に浸るかの如く、アヴァロンに来ているオーディエンスは彼女の音楽に身を任せる。さらに、デビューシングルである“ネイルの島”、R&Bにダブの要素が織り込まれた“祈り”などを聴いていると、彼女の中にある“ブルース”というのは音楽の種類ではなくアティテュードなのだと改めて理解できた。すると、彼女の「ブルースに生きろ」というテーマはとても納得がいくし、これからの彼女の動きがより楽しみになったのは間違いない。

彼女のステージを見て思い出したのは、かつてのオレンジ・コートだった。世界中のあらゆる音楽ジャンルが聴けたあのステージだ。日本の音楽業界のメインストリームにあるのは即効性のあるポップ・ミュージックかもしれないが、彼女のようなアーティストがいてもいい…いやいた方が日本の音楽カルチャーは芳醇なものになるんじゃないか?そう純粋に思えたステージだった。

<セットリスト(さらさTwitterより引用)>
1.踊り
2.温度
3.JJJ
4.ネイルの島
5.祈り
6.朝
7.退屈
8.このまま
9.Amber
10.火をつけて
11.グレーゾーン

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Awich http://fujirockexpress.net/22/p_1717 Tue, 02 Aug 2022 08:44:02 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1717 ついにエーウイッチがフジロックのステージに登場する。今年3月14日、日本武道館公演を見事に成功させた注目の彼女のステージを目に焼き付けるため、レッド・マーキーにはパンパンのお客さんが集まっていた。しかも入場規制までかかっていたとのこと。伝説が生まれる予感がプンプンする。

真っ白に発光する背景スクリーン。“Queendom”のイントロが流れる中、登場したエーウイッチ。逆光でシルエットしか見えないが、仁王立ちするその姿から感じる存在感は凄まじい。強烈なラップを畳み掛け、スクリーンの発光色が変わった瞬間、彼女の全容が露わになった。白とグレーのボディースーツを身に纏った彼女の佇まいは、2018年のフジロックに出演したケンドリック・ラマーとタブって見えた。「女王が苗場に降臨!」それは歴史的瞬間なのだと、その場にいたオーディエンスは皆感じていただろう。

不穏なピアノイントロから始まる“Shock Shock”では、重厚なトラックの中で発せられる「まさか女が来るとは」というリリックが強烈。続く“NWO”の中、今回のバンドメンバーが登場。これまで何度も一緒に共演しているSOIL & “PIMP” SESSIONSの丈青(Pi.)、秋田ゴールドマン(B.)、みどりん(Dr.)、そして社長(Manipulator.)だ。エーウイッチが1人ずつメンバーを紹介し、そのまま次の曲“Open It Up”へ。そこでエーウィッチのマシンガンラップとみどりんのドラミングによる凄まじい掛け合いが繰り広げられる。青森のねぶた資料館で見たねぶたにインスパイアされたという“NEBUTA”では、ヴァースに突入するタイミングでYENTOWNの盟友であるラッパーのkZmが登場。客席に乗り出さんばかりのパワーを振り撒いていった。

これまで数々の女性アーティストのライブを観てきたが、この日のエーウイッチはそれらのどれとも被らないもので、唯一無二のオーラを発していた。それはオーディエンスの盛り上がり方からして一目瞭然だ。そんなオーラは“口に出して”でも発揮されていた。途中のアカペラパートではレッド・マーキーのオーディエンスに向けて強烈で挑発的なラップをぶちかます。続くMCで「みんな誰を観に来たの?みんな私のこと好きなんだよね?どれにしようかな?」と投げかけ、その流れのまま“どれにしようかな”に突入。ここでも存分に女王っぷりを発揮していく。“紙飛行機”では、音源でサンプリングとして使われてる“色彩のブルース”を見事に歌い上げオーディエンスを痺れさせたが、さらなる痺れる事態がこのあと待っていた。EGO-WRAPPIN’の中納良恵がサプライズ登場し、オリジナル“色彩のブルース”を歌ったのだが、SOILのメンバーをバックにした“色彩のブルース”は相性抜群でエーウイッチのラップとはまた異なる存在感を発揮していた。曲が終わって、中納は退場。すると大先輩の登場に思わず「緊張しすぎて歌詞飛んじゃいました」とこぼしたエーウイッチ。そんな彼女が今の素直な心境を言葉にした。「こんなこと夢にも思わなかった。想像できなかった。もう何もかもやめようと思った時期もありました。でもやめなかった。それで気づいたことがあります。やめなければいつでもリベンジできます。」その流れから“Revenge”へ。「本当の意味のリベンジとは?」について語ったこの曲で、誰かを憎むのではなく自分を解放することで切り開いていくことだと歌った。

女王のライブはハイライトを迎える。愛娘が当時小学4年生のころに体験した普天間米軍ヘリ墜落事故。それにインスパイアされた曲“TSUBASA”。この曲を愛娘のYomi Jahをステージに迎え、歌ったのだ。「たくましく翼を広げて飛べるように」そんな思いが込められたこの曲、2人の言葉で歌われたこの曲を聴けたこの時間は本当に貴重なものだった。そしてライブはクライマックスへと突入していく。強烈なトラップビートが響きわたった”WHORU?”。ラッパーJP THE WAVYを迎えたラップのアレンジが特徴的な“GILA GILA”。kZmと同じくYENTOWNの盟友であるKEIJUを迎えた地元沖縄を自賛する“Link Up”、そしてYENTOWNに所属するキッカケとなったChaki Zuluによるプロデュースの“Remember”。最後は愛する人との別れと新しい恋について描いた“Bad Bad”で60分の濃密なステージは幕を閉じた。

今回はレッド・マーキーでのライブだったが、彼女のパフォーマンスを観て思ったのは「もっと大きなステージでやったら、もっと映えるんじゃないだろうか?」という未来への青写真だ。その時に改めて言おう「女王、降臨」と。

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HALSEY http://fujirockexpress.net/22/p_1691 Sun, 31 Jul 2022 20:33:07 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1691 ホールジーのヘッドライナーが発表されたとき、思わず「えっ!」と口に出してしまった。それほど予想できなかったブッキングであったが、驚いたと同時に楽しみへと変わっていった。それは、過去にビョークやシーアが作り上げてきた伝説に、新しい1ページが追加されると直感的に感じたからだ。そんな彼女の初ヘッドラインステージは、僕らに一体どんな体験をもたらしてくれるのだろうか?興味はその一点に尽きた。

定刻の21時10分を過ぎても、会場に流れるBGM(フィオナ・アップルの“Criminal”)は止まらない。洋楽アーティストのライブは開始が遅れることが多いことを、まさかこんなタイミングで思い出すことになろうとは全く思わなかった。3分遅れの21時13分、薄明かりの中、バンドメンバー(ドラムス、ギター、キーボード)が登場し、イントロパートの演奏を始めた。再び明かりがつき、どでかい爆発音と共にそこに現れたのは、髪を黄色く染め、アバンギャルドなデザインの黒のボディスーツとトラッドな雰囲気のある白いショートパンツに身を包んだホールジーだった。

彼女の登場と共にライブが始まる号令となったのは、性差別と性暴力への強烈なカウンターソング“Nightmare”だ。時に仁王立ちで、時に地を這うような低い体勢でオーディエンスを威圧。さらに背景のスクリーンには、ロー対ウェイド事件への抗議デモの様子が流れ、歌詞に込められたメッセージをより強固なものにした。そしてこの最初の1曲でグリーンの空気が一変。BTSとの“Boy With Love”やザ・チェインスモーカーズの“Closer”などに代表される、音楽サブスクのトップに上がってくるような曲しか知らない人にとっては余計に衝撃だったと思う。歌い切った瞬間のどよめきにも似た空気がその証拠だ。

続く“Castle”ではメジャーデビュー前の彼女と音楽業界の関係をシネマスティックなインダストリアル・ポップに乗せて吐露し、“Easier than Lying”では眼を器具で無理やりこじ開けるようなエグめの映像をバックに彼女の創造的な心の内を包み隠さず歌った。曲を重ねるごとに固定観念を覆していくホールジー。もうこの時点になると、オーディエンスの反応はポップ・ミュージシャンに対するリアクションではなく、ロック・ミュージシャンに対するそれに近しいものとなっていた。

ホールジーの曲には「多様な価値観を尊重する心」があり、あらゆる差別が存在するこの時代の中で彼女は正直な心の内を歌にしていく。そこにはパンク的なアティテュードがあり、だからこそロックファンの心を鷲掴みにするのだ。そして、その「言葉」をより際立たせるため、ステージ演出だけでなく、彼女は全身を使ったパフォーマンスをも武器とした。それはシーアのときのようなコンテンポラリー・ダンスではなく、感情をダイレクトに伝えるような「動き」だ。視線の動き、目つき、佇まい、姿勢─それら人間の持つ動き全てを活用し、オーディエンスに訴えかける。実際、左右のスクリーンに映された彼女の表情を見れば、それは一目瞭然だと思う。

ライブはホールジーの魅力を90分(アンコールなし)にぎゅっと凝縮したものとなった。ただ、彼女にはもっといろんな楽曲や側面がある。彼女に対するパブリックイメージを大きく変えた最新アルバム『If I Can’t Have Love, I Want Power』のリリース後最初に出した最新シングル“So Good”も演っていないし、ライブの定番曲で開放感のあるサウンドにエモーショナルなヴォーカルが元気を与えてくれる“Be Kind”も演らなかった。それを知ってか知らずか、グリーン・ステージには“Power to the People”が流れ始めるギリギリまで多くの人が残っていた。それだけ彼女のライブが魅力的だったということだ。

<セットリスト(ライターメモ)>
01. Nightmare
02. Castle
03. Easier than Lying
04. You Should Be Sad
05. 1121 / Die for Me (ft. Future, Halsey)
06. Graveyard
07. Colors
08. Hurricane
09. If I Can’t Have Love, I Want Power
10. The Lighthouse
11. Bad at Love
12. 3am
13. Honey
14. Gasoline
15. Running Up That Hill (A Deal With God) (Kate Bush cover)
16. Experiment On Me
17. Without Me
18. I am Not a Woman, I’m a God

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マカロニえんぴつ http://fujirockexpress.net/22/p_1730 Sun, 31 Jul 2022 14:42:36 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1730 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマカロニえんぴつ、初のフジロックはレッド・マーキー。開演前のリハーサルの場には
バンドメンバーの姿があり、ほぼライブと言っても過言ではない演奏を見せていた。バンドもそんな変な状況を、はっとりがMCで自らいじっていて、「いい感じでひねくれているなぁ」と思ったのだが、それもまたバンドの魅力のうちのひとつなのだろう。そんな開演前のリハーサルで、既に温まった感のあるマカロニえんぴつの初フジロックは、彼らのキャリアをぎゅっと凝縮されたミニベストアルバム的な内容だった。

ザ・ビートルズの“Hey Bulldog”で入場してきたマカロニえんぴつは、はっとり(Vo./G.)、田辺由明(G.)、長谷川 大喜(Key.)高野賢也(Ba.)の4人組ロックバンドだ。ここにサポートメンバーの高浦”suzzy”充孝(Dr.)が加わり、ライブはスタートした。1曲目はソリッドなリズムのポップ・チューン“洗濯機と君とラジオ”。この曲で一気にに会場のボルテージを上げていく。サビに入り、両手を大きく両手を上下に振るオーディエンス。その熱を引き継いでいくように、某アニメ映画の主題歌にも使われている“はしりがき”、ポップなピアノイントロが印象的な“レモンパイ”と続いていった。

「どうもマカロニえんぴつです。すごく嬉しいです。まさかフジロックに出れるとは。今日は思い出に残るようなステージにしたいと思います!」 そんなはっとりの決意表明と共にライブは中盤へと突入。全ての音楽ファンに愛されるような普遍的名曲“MUSIC”では、Aメロからハンズクラップが巻き起こり、続く”たましいの居場所”では、この曲が車のCMソングにも使われているということもあり、僕の後ろに居た、おそらく初めて彼らのライブと観たと思しき人から「あっ!この曲知ってる!」なんて声も上がっていた。ここで長谷川のピアノソロを挟み、緩やかな大人の雰囲気漂うファンキー・チューン“裸の旅人”、ディスコ・ポップなイントロアウトロの“ワルツのレター”と続いていく。「ここのセクションはの曲は洋楽ファンにも受けそうだな」なんて思いつつ、ライブは後半へ。

エレクトロなポップ・ロック・チューン“STAY with ME”、バンドらしいソリッドでシンプルなロック・サウンドのある“星が泳ぐ”と続き、胸が熱くなるメロディラインのある“愛の手”にオーディエンスはメロディに身を任せて体を揺らしていた。はっとりのヴォーカルとイントロのピアノのリズムが素晴らしい“なんでもないよ、”には思わず一緒に歌いたくなってしまいそうな心地よさが感じられた。はっとりのオーディエンスと音楽に対する思いが感じられるMCを挟んで、ラストは美しいメロディとバンドアンサンブルが心に響く“hope”で終演を迎えた。

約60分のライブはあっという間に終了。正直聴き足りない感じはあるが、冒頭にも書いたように彼らの要素がぎゅっと詰め込んだこの日のライブは、初めて彼らの音楽を聴いた人にも響いたんじゃないだろうか。

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SUPERORGANISM http://fujirockexpress.net/22/p_1711 Sun, 31 Jul 2022 10:31:18 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1711 スーパーオーガニズムが新体制での新作『World Wide Pop』を提げ、苗場に4年ぶりに帰ってきた。前回のフジロックでのライブは2018年のレッド・マーキー。入場規制がかけられたあのステージで見られたのは、彼女たちらしさ爆発の奔放なステージだった。あの時はオロノ曰く「すっげぇキレてた(怒ってたという意味)」。日本が嫌いで海外に出たのに日本で売れてしまったというジレンマと、パンパンに膨れ上がった観客の中に“クソジジイ”が目の前に突っ立ってたせいで(?)キレてたという。今年もまたキレないといいんだけど…そんな心配をしながら開演を待っていた。そして、もうひとつ気になったのがステージ上に置かれているソファーだ。ドラムセットが置かれている台の前と横に2人掛けのソファー1台と1人掛けのソファー2台がそれぞれ置かれている。つい「なにあれ??」と口走ってしまいそうになったのをグッと堪えていたところで開演時刻を迎えた。

“Black Hole Baby”のイントロが流れる中、5人組となった新生スーパーオーガニズムのメンバーが登場した。ステージ向かって左から、B(Background Vo./Background Dancer)、ハリー(g)、オロノ、トゥーカン(ds)、ソウル(Key / Background Vo / Background Dancer)。各々が自分のポジションに並び立つと、間もなくホワイトに鳴り響いたのは「スーーパーオーガニーズムー♪これはおいしいー!」というCHAIによるサンプリング・ボイス。その音を号令に、ライブは“World Wide Pop”からスタートした。ポップなグルーヴと中毒性のあるフレーズの繰り返しがたまらないこの曲で踊り続けるオーディエンス。ソウルの「ハロー、フジロック!戻ってきたよ!」という歓喜の叫びと共に始まった次の曲はユーモアに満ちた歌詞とへなちょこサウンドが対照的な“The Prawn Song”だ。Bとソウルのキュートなダンスに、気だるそうに歌ういつも通りのオロノ。続くパートでは、“Back Hole Baby”、“Into The Sun”、“It’s All Good”とシームレスに繋がっていく。“It’s All Good”では、端にあったカメラに向かってダッシュしてポーズをキメるオロノ、にこやかに手を振りながら踊るBとソウル、コーラスパートで両手突き上げるオーディエンス、各々が終始盛り上がっていた。さらに“Put Down Your Phone”では、オロノがアコギを手に取りラップ気味に歌い、歌の途中では「4年ぶりだぜフジロック!(英語)」と嬉しさを表現。次の曲“Sprorgnsm”でもオロノは「スーパーオーガニズムー!(日本語)」と叫んでいたし、これは完全にご機嫌モードだ。

ライブも中盤。次の曲が始まるまでの待ち時間に男性スタッフがサックス(オロノが曲で使う)を持ってきたのだが、サックスをオロノに渡し、ステージ袖へ戻ろうとした瞬間オロノに呼び止められ、半ば強制的にソファーに座らせられた。「ソファーはそこで使うのか!?」と心の中でツッコんでいる中、“Flying”はスタート。速いBPMのビートが効いたデジタルロック的なサウンドは強烈にポップでオーディエンスはそれに合わせ思いっきり踊っていた。そして、曲もラストに近づいていくと、オロノはソファーに座らせていた男性スタッフを呼び込み、サックスの音が鳴るベル部分にマイクを向けさせ、鳴る音を拾わせた。もう、彼らの発想はもはや常人には理解し難い。

最後のセクション前のMC、オロノが来年の来日単独公演を発表するとオーディエンスは大歓喜。そこですかさず「詳しくはwearesuperorganism.comを見てくれ」とオチをつけてくるあたりがさすがオロノだ。スーパーオーガニズムの奔放なパフォーマンスが繰り広げられる中、クライマックスは最後に訪れた。明るくキャッチーなフックのある新たなアンセム“Teenager”ではホワイト・ステージが一体になって盛り上がり、ラスト“Something for Your M.I.N.D.”では、ステージ袖で見ていため組(新作国内盤収録のボートラで“Black Hale Baby”をカバー)の菅原達也(Vo./G.)をステージに呼び込み、さらには無作為(ただしバンドのTシャツを物販で買った人、もしくはハーモニカ吹ける人が優先される)に観客をステージに上げ、イギー・ポップのステージばりにカオスな空間の中、曲を演奏、大団円を迎えた。

ライブを終え、ステージを降りていく観客を1人ずつ話をして見送っていくオロノ。そんな彼女の姿を見て、思わず「大人になったなぁ」と感動してしまった。

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JAPANESE BREAKFAST http://fujirockexpress.net/22/p_1695 Sun, 31 Jul 2022 07:23:01 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1695 開演前、ステージ上にはサウンドチェックをするジャパニーズ・ブレックファストことミシェル・ザウナーの姿があった。アーティストがサウンドチェックすること自体、そんなに珍しいことではないが、ミシェルの場合「サウンドチェックを自分で行うことで全体を理解する」という明確な目的があるからのように思えた。彼女は何においても成長できる機会を無駄にはしたくないのだ。

最新アルバム『Jubilee』のオープニング・トラック“Paprika”からスタートしたライブは、アルバムタイトルの「Jubilee=祝祭」が指し示すような明るいムードで進んでいった。80年代っぽさを感じさせるストレートなポップ・ロック・チューン“Be Sweet”、ドリーミーなギターフレーズが印象的なアコースティック・サウンドの“Kokomo,IN”と続き、ライブも中盤にさしかかると、ミシェルのより奥底にあるものが見えてくる。セカンドアルバム『Soft Sounds From Another』からの“The Body Is a Blade”では、背景のスクリーンにミシェルの母親の写真がたくさん映し出された。この曲に込められているのは、「亡くなった母との思い出に縛られるのはもうやめよう」という思いだ。

彼女のアルバムは彼女のお母さんと共にある。ファーストアルバム『Psychopomp』は彼女の母親が癌で闘病中に書かれたもので、セカンドアルバム『Soft Sounds From Another』は母親の死からインスピレーションを受け作られた作品だ。『Jubliee』はそんな過去に縛られていた自分とおさらばし、大きく羽ばたいて行こうという思いが込められている。そして、そんな思いはサウンド面にも表れていて、それまでのドリーム・ポップやインディー・ポップ的な過去の音楽性から大きく飛躍し、新たなポップネスを獲得しようとする意思に満ち溢れている。そんなポジティブな思いはステージ上の彼女の明るい表情にも表れていて、実際ライブのスタートからミシェルはほぼ終始微笑みを浮かべていた。それは決して作ったものではなく自然に生まれたものであることは感覚的にではあるが伝わってきた。

無機質なビートのドリーミーチューン“Posing In Bondage”ではそんな開放的なマインドが表れていたし、“Everybody Wants to Love You”にはミシェルの「自分を愛して」というメッセージというメッセージが強く表れていた。ライブの終盤には、彼女の敬愛するウォン・カーワイ監督の代表作品『恋する惑星』のエンディング曲、フェイ・ウォンの“夢中人”(原曲はザ・クランベリーズの“Dreams”)をカバー。続く“Posing For Cars”では弾き語りで「夢は叶う」と歌い、ラストは“Driving Woman”でギターノイズの嵐を浴びせかけ、ライブは終了した。

彼女のクリエイティビティはこれからもさらに広がりを見せるに違いない。それは決して希望的観測ではなく、この日のライブを通して彼女が振り撒いていた笑顔がとても素直なものに感じられたからだ。

<セットリスト>
Paprika
Be Sweet
Kokomo, IN
Road Head
Savage Good Boy
Boyish
The Body Is A Blade
Glider
Posing In Bondage
Everybody Wants To Love You
Slide Tackle
Dreams(Faye Wong cover)
Posing For Cars
Driving Woman

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toconoma http://fujirockexpress.net/22/p_1755 Sat, 30 Jul 2022 13:47:48 +0000 http://fujirockexpress.net/22/?p=1755 フジロック2日目の昼下がり。ヘブンの天候は快晴。正午ぐらいまではカンカン照りが続いていてかなり暑かったのだが、この時間になると、そよ風も涼しく感じる。そんなちょうど良い気候の中登場してきたのは、4人組インストゥルメンタル・バンド、toconomaだ。前回のフジロック出演は2018年のフィールド・オブ・ヘブンで、その年はバンド活動10周年というのも相まって、​​石橋光太郎(Gt.)が思わず涙ぐむという感動的なシーンがあったが、今年は果たしてどんなシーンを僕らに見せてくれるのだろうか?各々がそれぞれの期待を抱きつつ、ライブはスタートした。

メンバーは白と黄色を基調とした衣装を身に纏い、「最高な休日へようこそ!toconomaです。」「晴れて良かったね」という和やかなMCから始まったのは“Yellow Surf”。ミドルテンポのメロディーラインは、その時のヘブンの気候にマッチしていて、オーディエンスはみんな心地よさそうに体を揺らしていた。続くは、グルーヴィーなイントロから始まる“Highwind”。疾走感のあるこのナンバーは、ラストへ向かってどんどんと加速していく。オーディエンスも、そのスピードに「追いつけ追い越せ」と踊るスピードを上げていった。これぞヘブンなダンスチューンの次は、今月頭にリリースされたばかりの新曲“Quest4”。細かく刻まれるビートと緩やかに上がっていく高揚感のマッチングが素晴らしい。「ヘブンのインストバンドはやっぱりコレだからやめられないんだよなぁ。」思わずそう呟いてしまいそうになった。続くMCで「僕らインストバンドで、歌詞ないんで待ってたら終わっちゃうんで気をつけてください」なんて冗談や、矢向怜(Ba)が店主を務める東京・三鷹にあるタイ料理屋『キッチンconro(コンロ)』の宣伝も挟みつつ、ライブはMCも含め穏やかに進んでいく。

この後、初公開の新曲(曲名はまだない)と“DeLorean”、そして“underwarp”の3曲がシームレスに繋がるロングセクションに突入。新曲はエレクトロなダンスナンバーで、80’s風シンセ・ポップ・ファンクをベースにエクスペリメンタルな面も見え隠れしていて、初聴きでも全く問題なく踊れる楽曲だ。それにしても、この3曲のロングセクションは本当に心地よかった。シームレスに繋がるということは、曲間で瞬間的にテンポが変わったりするので、その変化に対応するのもまた楽しかったりするのだ。

温かみが溢れるライブも後半に突入。「ちょっと踊ってみませんか?」というMCから、ポップでジャジーな風味のある“ALOE”。サビから一気に加速していくエモーショナル溢れる“Vermelho do sol”にオーディエンスは思いっきり踊る。そしてファンキーなリフとグルーヴィーなシンセが印象的な“relive”と続き、ラストは熱くなった心身をチルアウトさせるメロディの“the morning glory”で幕を閉じた。

途中のMCで西川隆太郎(Key)が「フジロック最高だね。ここに来て、変わらない場所があるんだなと実感しました。」と口にしていた。今の世の中、いろんなものが変わってしまった。一方で変わらないものもあるんだ。そんな当たり前のことを改めて気づかせてくれた彼らに感謝!

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