フジロック’23初日の17時前。空は雲に覆われ涼しい風が吹いている。これからグリーンステージに降臨するのは、今年のフジロック一番の目玉といって過言ではない日本が誇る伝説にして現役バリバリのロックレジェンド「永ちゃん」、「ボス」、「E.YAZAWA」こと矢沢永吉だ。ここでは、日本のロックの礎を築き、筋の通った生き様を示してくれていることに敬意を表し「ボス」で統一させていただく。

ボスの登場を固唾を呑んで待つ我々。これまでのフジロックで感じたことがない緊張感がグリーンステージ一帯を覆っている。開演時刻の10分前になると「永ちゃん！」コールがステージ前方から徐々に巻き起こってくる。スモークがモクモクと焚かれ、ボス登場の準備が整えられていく。

「E.Yazawa」タオルを首にかけた人は多いものの、リーゼントで上下白のスーツでバシッときめた明らかなファンな装いの人は一見少ないように見えたが、いた！中央にしっかりと。その方々の腕を突き上げ「フジロック、行くぞー！」とほんまもんの熱い「永ちゃん」コールには深いリスペクトと愛情を感じられた。当然のごとく、ひと際拡大した「永ちゃん」コールが拍手喝采ととともに空間に拡がっていく。これで場は整った！

17時ちょうどに真っ赤な「E.Yazawa」が映し出されると、総勢11名のバンドが登場し、上下を白のスーツできめたボスがノリノリで現れた。披露されたのは、何とCAROL時代のご機嫌なロッケンローナンバーの“カモン・ベイビー”。グラサンを放り投げ、マイクスタンドをのっけから軽やかに振り回し、ボス自らバンドクラップを促して「ロッケンロー！」と最も聴きたかった最高なシャウトで締めくくってくれるのだ。

「フジロックへようこそ！いらっしゃいどうも！フジロックでこうやってみんなに会えたよ！YAZAWAを魅せますよ！」今年初となるステージの喜びを伝え、お次もバリバリのロッキンナンバーの“黒く塗りつぶせ”という大サービスっぷりだ。グリーンステージ一帯に響き渡る強靭な声もさることながら、ステージを隅から隅まで走り回るこのエネルギーは一体どこから来るのだろう。

雷鳴音とともに、3名のバックシンガーたちがステージに登場。自身で調べたら39歳の時に創った曲だという大人の恋の曲“SOMEBODY’S NIGHT”ではモノクロームの映像が映し出されグッと渋く、静かな情熱がほどばしるムードに。夏フェスでやりたかったとのことで、フジロッカーに披露できてボスも満足気だ。

昨年50周年を迎え、9月14日には74歳になるというボス。海外には、ミック・ジャガーをはじめ自分よりも年上で現役の人たちがいるということ「ストーンズにできて、矢沢にできないわけないだろー！」と「言っちゃった！笑」と照れかくしをしつつもこれからも歌い続けていくことを高らかに宣言し、大切なCAROLのデビュー曲の“ルイジアンナ”でまたしてもロックンロールヘブンへ。50年代のアメリカを表現したような男女のツイストダンサーズが登場し、古き良きロックンロールの時代へと誘ってくれる。

続く“アリよさらば”では「この道のどこかで倒れても俺の人生さ」と、しっとりと力強くに歌い上げる。ボスの生き様そのもののような歌詞に思わず目頭が熱くなる。アコギを手に奏でられる“チャイナタウン”。大人の色気が漂うボスの声といい、サックスの音色といい、日が落ちはじめたこの時間帯にドンピシャの心地よさだ。

「続けていきます！ロッケンロー！」の咆哮とともにいよいよ来た！“止まらないHa～Ha”！ボスがハットを粋にかぶり、歌いシャウトすれば「Ha～Ha」でタオルが盛大に宙を舞う。これこれ！これを苗場で見たかったんだ！

ラストは、これまたタオル曲の定番“トラベリング・バス”！前奏で会場の様子が画面に映しだされる。泣いているファンや、家族みんなで笑顔で楽しんでいる姿が。これがボスが創り出しているロックンロールの世界観だ。歌詞を手掛けた故西岡恭蔵氏も天国からこの様子を喜んでいることだろう。ジャズやカントリー、ブルーズ、ロックンロールを産んだ米国の音楽都市が連呼され、生涯をかけてロックンロールを愛し深め続けているボスの矜持が込められているような曲だ。赤の「E.YAZAWA」タオルを見せつけ、コール＆レスポンスでオーディエンスと大いに楽しみ、約40分のステージを完走した。

終演後も鳴り止まない「永ちゃん」コールや「40分弱で、終わり？」といった声やアンコールも飛び交っていたが、フジロックでボスのロックンロールを堪能できたことに感謝しようじゃないか。11月からは、記念の150回目の日本武道館公演を含むコンサート・ツアー『Welcome to Rock’n’Roll』がはじまる。ボスのロックンロールの旅はまだまだ続く。