LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/28 FRI
DANIEL CAESAR
静寂を守りながら、歌声に宿る幸福に身をつつむ
たった一本のスタンドマイクが立てられているだだっ広いGREEN STAGEの中央に向かって、DANIEL CAESARがゆっくりと登場する。
まずは、4月にリリースされた『Never Enough』から“Ocho Rios”、“Let Me Go”が演奏される。広い会場にはDanielの美しい裏声が響き渡り、ときには力いっぱい真っ直ぐに歌声を飛ばし、しっとりと聴かせるナンバーが続く。時刻は19時過ぎ。ちょうど夕方から夜に差し変わる瞬間であり、オレンジ色に美しい空がまるで演出のようでもあった。今、この瞬間がぴったりと合う。ビデオテープのような画質で思い出の1ぺージを映し出すスクリーンに、歌声のみというシンプルな構成だからこそ、しっかりと彼の魅力を引き出されているのだろう。空気がゆっくりと震えるのがわかる。
2019年のRED MARQUEEの出演以来、4年ぶりのフジロック出演となるが、瞬く間に知名度を上げてきたのだと思う。続く“Entropy”、“Do you Like me?”では、打ち込み音にどこまでも伸びていくDanielの歌声が私たちの心をぐっと掴んで離さない。どこかノスタルジックなギターのサウンドに寂しさを感じずにはいられない彼の声には、それぞれの観客が身体を自由に揺らしながら、しんみりと聴き入り、ステージ上で奏でられる音楽に向き合っているようでもあった。
ピンクの照明にスクリーンにはキュートなユニコーンが映された“Valentina”ではバスドラのリズムとロマンチックな歌声が響き、その次に演奏が始まったのは表題曲である“Always”。キーボードの一音一音が、まるで一日の終わりを表現しているよう。ああ、こんなに楽しいフジロックの1日目がもうすぐ終わってしまうのか……そんなことを考えながら、温かな声に包まれる喜びみたいなものを感じずにはいられない。彼の歌声の持つ圧倒的なパワーに負けじと、観客たちの歓声や拍手も徐々に大きくなっているようでもあった。
アコースティックギターを持ち、まずは初期の楽曲から“Violet”、H.E.R.とフューチャーした“Best Part”の演奏がされる。グッと音数を削ったからこそ、彼の歌声をより近くに感じることができた時間だったのではないだろうか。贅沢な時間だったと思う。周囲は静けさに包まれ、まるで一対一で語り掛けているようなこのひと時は、今年のフジロック会期中であってもなかなかお目にかけることはできず、音をひとつずつ噛みしめるように、惚れ惚れとしながら耳を傾ける。
再びスタンドマイクのみとなり、“Please Do Not Lean”や“Disillusioned”、“Unstoppable”では、悲しさを兼ね備えながらも空に向かって高らかに上りゆくような声に浮遊感の覚えるメロディたち。ときに合唱も起き、静かにクラップ&ハンズも巻き起こる。
ラストに演奏されたのは、“Get You”。どこまでも静寂を守り、時に力強く、時にささやくような美しい歌声のみを浴び続けた1時間。幸福感に包まれながら、贅沢な時間の使い方ができたように思う。
[写真:全10枚]