LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/29 SAT
GEZAN with Million Wish Collective
いまこそ革命のとき! GEZAN大旅団が指し示した未来
とんでもないライブだった。
「感動した、立てないくらい」
「本気なんだよ。本気だから伝わる」
グリーン・ステージから立ち去ろうと会場内を歩いたとき、フジロッカーたちのそんな声を耳にした。ライブを観終わって放心状態の自分も同じ気持ちしかなかった。きっと物語の旅路の終わりとともに、大きなメッセージを受け取ってしまったからだ。
GEZANの最新作『あのち』は、2021年にレッド・マーキーの大トリで共演した総勢15名のコーラス隊Million Wish Collective(以下、MWC)とともに製作した渾身の一枚だ。GEZANという核が巨大な力を得たようなこの大所帯バンドは、とんでもないエネルギー集合体として演奏を繰り広げ、リスナーの度肝を抜いてきた。
ところが、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo&G)は、この巨大な生命体を終わらせることにした。X(旧Twitter)でも「ライブでも話したけど、MWCはフジロック、6人体制はライジングサンで融解します」「寝ても覚めてもフジロックのこと考えてるよ。あの場所に7月の全てを置いてくるために、散らばった夏の破片を集めてる」と投稿している。
オルタナティブという形容詞は彼らのためにあるような言葉だ。遊び心とカッコよさを両立した中毒性の高い音楽と、現実と真っ向から向き合うマヒトゥの強い覚悟を持った言葉たちは、ロックバンドとして多くの人々の心を撃ち抜いてきた。今回がその証としてのフジロック、グリーン・ステージでのライブとも言えるだろう。
ステージにはイーグル・タカ(G)がバグパイプを高らかに吹きながら登場し、戦いの狼煙を上げると、赤い衣装をまとった集団が続々と入場してきた。そのカッコよさときたら、映画のオープニングを観ているかのよう。GEZANメンバーを中心にドラムは2台、キーボード、男女混成の大所帯コーラス隊。初めて生で見るその威風堂々とした大人数編成の迫力は圧倒的で、開始前からノックダウンされそうになる。
ブンラカシュカラカシュカラカブンブン
地面を揺らすようなコーラス隊の歌声とビートの“誅犬”で、ライブはついに幕開けした。コーラス隊の誰もが全身を使ってグリーン・ステージにエネルギーを放射していく。マヒトゥは「2023!!!」と叫び、その表情からも気力がみなぎっていることが明らかだ。中指を立て、身体を躍動させながら強い眼光で観客たちを見据えて、強力なビートの推進力にすべてをなぎ倒すように進んでいく。
この熱量を受けて、“DNA”のイントロが流れれば観客は自然とハンズ・アップ。すでにもうみんな笑顔をクシャクシャにして踊っている。2021年に加入したヤクモア(B)のパンキッシュでエネルギーに溢れたベース・ラインが走る。コーラス隊の「ほっほっほっ」という合いの手でダンス・ミュージックとしての熱量をさらに加速。「誰かを傷つけないと自分でいられない君」の歌詞を「私」と言い換えたマヒトゥは、観客の心に火を灯すように「僕らは幸せになってもいいんだよ」と力強く歌った。
「F◯CKIN’ GEZAN!」のボイス・サンプリングが観客の興奮を煽る“Shangri-Ra”へ。曲のビートをさらにハネさせるようなマヒトゥの歌詞は実に秀逸で、曲中にはあのアニメを思わせる「タッタタラリラ〜」や、先ほどの“誅犬”では「HEY HEY HEY 時には起こせよムーブメント」など、GEZANを知らない日本のリスナーが聴いてもハッとさせる仕掛けが随所に見られる。そんな言葉遊びに混じって「最低な時代言い訳にしないのさ」と芯を射抜く言葉を僕らに投げかけるのだ。
タカが「暑い中、早くから集まってくれてありがとう」と観客を気にかけ、ヤクモアは「めっちゃ気持ちいいですね、ありがとう!」とグリーン・ステージでのライブに高揚感を隠さない。「ほんとイカれた時代なんで倍の倍イカれて踊りましょう。もう後先考えずにいくところまで行こうぜ」とマヒトゥが言えば、タカが「裸の付き合いしようぜ!」と“EXTACY”へ。突き上げるようなコーラス隊のリズム、地鳴りのような電子音が鳴り響いた。“⾚曜⽇”ではステージのバックに「NO WAR」の文字が出現。ヤクモアはアンペグのベース・アンプの上に立ったかと思うと、ディジュリドゥを吹き鳴らした。エコーのかかったマヒトゥの言霊は、グリーン・ステージの観客に呼びかける。「革命なんだよ、これは!」と。
ここからは怒涛のメドレーに突入。“もう俺らは我慢できない”をベースに、音は過激さを増していった。バンドは人々の怒りを代弁するかのように絡み合い、マヒトゥは野獣のような表情で歌い上げていく。生命力にあふれた強靭なビートや爆音、ギミックの入り組んだ曲に耳を奪われてしまうかもしれないが、マヒトゥはライブを観ている一人ひとりの観客の、一つひとつの感情を手繰り寄せるかのように歌を丁寧に届けていた。
「いつまで清志郎に頼ってるんだ」
この曲をグリーン・ステージで歌うことが、強烈なカウンター・パンチとしていかなる意味を持つか彼は分かっているはずだ。GEZANは聴く者を自ずと現実と向き合わせる。マヒトゥはライブを通して客席を直視しながら、何度も何度もステージの床を叩いていた。まるで「ここから立ち上がるんだ」「ここが戦場だ」とでも観客一人ひとりに伝えるかのように。
“東京”のフレーズが鳴ると、ひときわ大きな歓声が上がった。マヒトゥは、ここでも「安倍やトランプ」の歌詞を「安倍やプーチン」と入れ替え、ステージを這いずり回るように歌い届けようとした。魂を込めてバンドは全力疾走し、曲のアウトロでは「教えて、聞かせて、ここに集ったことの意味を」「この歌が古くならないこの意味を、教えて、聞かせてよ、想像してよ、東京」と付け加え、ハンド・サインの銃を自分のこめかみに、そして客席へ向けた。
GEZANは、ルーキー・ア・ゴー・ゴー、レッド・マーキー、ホワイト・ステージでのライブ・アクトを経て、いまグリーン・ステージに立っていること、自分たちの力だけでは進めないかもしれないと思うこともあったと話したが、「ここ(グリーン・ステージ)ででたらめに遊んでいること自体がその一つのカウンターで証明なんで。とにかく音楽を信じてやりましょう。一番の武器になるんで必ず。これはもう異論は認めません」と“萃点”に突入し、観客はその想いにハンズ・クラップで応えた。
「いい仲間を作っていくとサバイブできると思うんで、MWCという形態もそういうことの塊だと思う」と話すと、「友達の歌」との紹介から”BODY ODD”になだれ込む。重く荒々しいギター・リフとマヒトゥのラップが畳み掛けてくるところで、なんとK-BOMBが登場! 迫力のフローで畳み掛けると、続いて踊ってばかりの国の下津光史、スケボーに乗る男(もしやマヒトゥが作詞・作曲・監督したUAの“微熱”のPVに出演していたスケートボーダー吉岡賢人?)やサポート・ドラマーも出てきて歌うわ、MWCのメンバー、いつもの間にか上半身裸になっていたサポート・キーボードも次々出てきて歌うわでステージはカオス状態。マヒトゥへマイクが戻り、その場で高く掲げると、最後は上半身裸で赤ハーフパンツを履いたTOSHI-LOWが登場!! マイクを受け取り、終始笑顔で飛び跳ね歌ったTOSHI-LOWはマヒトゥとハグしてステージを去った。
石原ロスカル(Dr)は「最後にフジロックで、苗場で僕らは夏にかえります!」とMCし、ラストは特大のアンセム“JUST LOVE”。イントロが鳴ると、タカはバクパイプを持って大きくステップして踊り、ギターを持ったマヒトゥは「今日以上にこの歌を上手く歌うことはできないかもな」と歌う。これで本当に最後。ヤクモアも石原も笑顔だ。MWCのメンバーたちが涙ぐんでいるのが見えた。ああ、本当に彼らの旅路は終わろうとしている。願いを込めた「everything’s gonna be alright」が力強く会場に響きわたり、グリーン・ステージは大きな拍手に包まれた。
「もらった希望の一つひとついまこの場所で返して旅を続けようと歌う」
「さよならをしよう」
マヒトゥは最後の曲中にステージの頭上を一瞬見上げた。彼の言葉を聞けば、現実を突破せんとする力の源は愛以外何物でもなかったと思う。異端とも言える大所帯バンドの旅はフジロックでこうして終わった。きっと多くの人々の心に忘れられない音楽を突き刺して。
<Set list>
1. 誅犬(Million Wish Collective)
2. DNA(Million Wish Collective)
3. Shangri-Ra(Million Wish Collective)
4. EXTACY(Million Wish Collective)
5. ⾚曜⽇(Million Wish Collective)
6. メドレー(Million Wish Collective)
7. 東京(Million Wish Collective)
8. 萃点(Million Wish Collective)
9. BODY ODD
10. JUST LOVE(Million Wish Collective)
[写真:全10枚]