LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/29 SAT
FOO FIGHTERS
俺らはただデイヴの苗場帰還を祝福する
フジロック’23、2日目。ここグリーンステージもいよいよトリのアーティストを残すのみとなった。開演時刻の約15分前、ステージ前方の中央エリアは人が押し寄せ、あっという間にクローズしてしまった。当然の結果だろう。これから「世界で最も熱い男」、デイヴ・グロール率いるフーファイことフー・ファイターズが2015年来8年ぶりに苗場に帰還するのだから。しかも、デイヴは愛する盟友テイラー・ホーキンスと最愛の母親、バージニアを失うという大きな喪失を乗り越えての帰還。どんな悲劇が起ころうとも、自分のことは二の次で、むしろ自分の持ちうるものすべてをネタにしてファンを、世界を楽しませようとする男だ。日本への、この度の苗場への帰還を心から祝福したい。
さぁ、開演まで1分前となった。トム・ペティの“Free Fallin’”がステージから流れる。トム・ペティからザ・ハートブレイカーズのドラマーにならないかと誘われた経緯があるデイヴだ。サビを合唱するクラウドもいて、スタート前の曲としてうってつけだと思っていたが、曲が終わってしまったものの開演の気配がない。次のザ・ローリング・ストーンズの“Gimme Shelter”の途中でステージが暗転し、デイヴがギターをギャンギャンかき鳴らしながらバンドとともに登場。ステージが深紅に染まったと思いきや、あのリフを刻みはじめる。のっけから“All My Life”投下とくれば、もう予想できるだろう?大歓声とモッシュの嵐がフロアに吹き荒れるに決まっている。演奏と途中で止めて、ギターを刻みはじめるデイヴが得意とする緩急をつけた構成で、スタートからフロアを灼熱の渦の中に叩き込んだ。
続く“The Pretender”で、「今夜、お前らと一緒に歌っていいか?」と叫ぶデイヴ。少し出だしだからか、声が出づらそう。ベースのネイト・メンデルが声のサポートをしているように見えた。
頭に水をぶっかけ、髪を振り乱してメタルなリフを刻み“No Son of Mine”がはじまった。バンドが一体となって放出するヤバすぎるグルーヴ。しかも途中でメタリカの“Enter Sandman”のリフをザックザックと刻み、お次はパラノイドのリフをかましてくる。こんなの頭を振るしかないだろ!新ドラマージョシュ・フリーズが超絶ドカドカでオーディエンスを圧倒。めちゃめちゃかっこいい!日本のファンにとっては最高の初お披露目の場になったのではないだろうか。「今夜は長い夜になるぜ!」とデイヴがかっこよく締めくくった。
次に披露されたのが今年出た新譜『But Here We Are』からのリードトラックの“Rescued”だ。「今夜、俺を救い出してくれ!(Rescue me tonight!)」と髪を振り乱し一心不乱に叫ぶデイヴ。もの凄いエネルギーだ。デイヴの叫びも段々とエンジンがかかってきたぜ!
暖かみのあるフレーズが流れ、“Walk”がはじまった。愛してやまない二人を失った失意から救い出されるのを待っていたところからまた歩きはじようというデイヴの心意気が感じられるこの2曲の流れに早くも目頭が熱くなる。
伝説の第1回目の1997年フジロックが初めてだったと、その後も含めフジロック出演を振り返るデイヴ。「久しぶりに戻って来られて嬉しいから今夜をスペシャルなものにしたいんだ。これまでにやったことがないことをやる。古い友人をステージに呼んで一緒に歌うんだ。特別な理由のためにね」と何とアラニス・モリセットをステージに呼び込んだのだ。「美しく、とても賢くて、慈悲深くかったもう今は一緒にいない彼女に捧げます」とつい先日亡くなったシネイド・オコナーの“Mandinka”をアラニスが歌い、フーファイが演奏した。最後にシネイドの写真がバックに映し出され哀悼の意を表し、そのまま“Learn to Fly”へなだれ込む。テイラーとデイヴがこの曲で向かい合って楽しそうに演奏していたのを思い出して泣いてしまった。
ラミがキーボードで荘厳なゴスペル調のメロディを奏で、デイヴと一緒に歌う“Times Like These”は場にとんでもない感動を生み出す。「It’s times like these you learn to live again. It’s times like these you give and give again. It’s times like these you learn to love again. It’s times like these you give and give again…」このくだりでもう号泣だ。渾身のバンドサウンドで激しくロックし感動に包まれ、そのまま軽快でキャッチーな“Under You”へ。バックにフーファイのフライヤー・ポスターと思しきデザインが幾つも映し出されては消えていく。そこに演奏中のバンドの映像が入り込んでくる。続いていくロックバンドの旅を描いているかのようだ。
「古い曲をやるぜ!」と“Breakout”のギターフレーズが!冒頭で初めて出演した1997年のフジロックに触れ、サビパートで音を消して、「フーファイファン!」と合唱を促す。さぁ、そろそろ来るぜあの爆発パートが!「Breakout!」フロアは携帯電話のライトできらめき、 ジョシュがドラムソロをぶちかまして再び場に熱狂の渦を創り出した。
「次も一緒に歌うのが楽しい曲だ」とお次は“My Hero”ときた。ギターを中心に静かに演奏し、みんなで合唱し感動を生み出す。最後は「オーライ!一緒に歌うぜ!」とデイヴが腕を突き上げ共に歌う。「ありがとう!ビューティフルだ!」とデイヴも嬉しそうだ。
ここで恒例のバンドメンバー紹介タイム。クリス・シフレットがキレッキレのギターソロをかまし、ネイト・メンデルがビースティ・ボーイズの“Sabotage”のベースラインを奏でるのだから大変だ!と思いきやデイヴが一部を叫んだだけで終わってしまった。お次のラミ・ジャフィーには1度目では「まだ足りない!フジのためにやれ!(Give it for FUJI)」と厳しいデイヴ。2回目の浮遊感あるスペイシーなプレイで「それがフジのためにやるってことだ!」と晴れて合格。ここで「For FUJI!」と何度も連呼するデイヴ。オーディエンスからのレスポンスが素晴らしく、これで盛り上がるなら簡単だとお気に召されたようだ(この後何度も我々はこれに付き合うことになる)。パット・スメアはラモーンズと言えばな曲“Blitzkrieg Bop”のリフをかき鳴らす、するとドラムのジョシュ・フリーズがドカドカやったので、フロアが思わず「Hey! Ho! Let’s Go!」コールをやってしまう。これに応えバンド全員で一部を披露してくれた。「パットは悪いやつなんだ」と冗談を言ってじゃれ合い、また「For FUJI!」コールを何度も繰り返すデイヴ。最後に大歓声の中紹介された新ドラマーのジョシュ・フリーズのソロの前にラミがディーヴォの“Whip It”のフレーズを弾いたのでバンド全員で演奏する羽目に。そして、「もう一人フーファイのメンバーが来ているんだ。7人目の新メンバーだ!」と28年の付き合いになるというウィーザーのパット・ウィルソンを呼び込み(デイヴの冗談だとは思うが…もし本当ならびっくりニュースだ!)、1stレコードから“Big Me”を一緒にプレイした。
続くはグッと重たくなった“Monkey Wrench”を投下!フロアから今夜一番のバンドクラップが送られた。「フジ!叫べるか?」とグリーンステージ一帯全員で叫び、ジョシュの叩き込みとともに爽快に締めくくった。
「テイラーと俺は日本でたくさん楽しんだんだぜ!」とテイラーの一番好きなフーファイの曲だったからと“Aurora”を優しく奏でる。夜風が心地よい今にぴったりだ。きっとテイラーが天国から苗場を見下ろしている。いや、きっと彼の魂は今一緒にここにいてあの笑顔で楽しんでいることだろう。終盤でバンドがハードに音を出力して熱く締め括った。
「後1曲やるぜ!いや2曲やるぜ、フジのためにな!」と“Best of You”。ラストでバンドが熱くジャムセッションを繰り出す中、オーディエンスが携帯電話のライトを付け「オー!オー!オー!」と大合唱。「オーケー!これまでで一番好きなフジだぜ!ありがとう!」と嬉しそうなデイヴにこちらもほっこりとさせられた。
「多分次の新しい俺のタトゥーになるぜ。For FUJI!」と冗談を挟みつつ「最初に日本に来てから随分経つけど、今度はもっと早く戻ってきたいね。日本中をツアーで回れたら最高だな!その日が来るまで、この曲で一緒にダンスしようぜ」と本セット最後の曲“Everlong”がはじまった。前回2015年のフジロックではリードトラックだった曲だ。バンドもオーディエンスもあらん限りに叫び、ダンスし、楽しみ尽くした約1時間半のステージを完走した。
コロナ禍中にデイヴが『The Atalantic』紙に寄稿した記事の中で「なぜ我々にはライブが必要なのか?」についてこう書いている。「俺はこれまで、俺の音楽を、言葉を、人生を、俺のショーに来てくれた人達と分かち合ってきた。そして来てくれた人達は、それぞれの声を俺と分かち合ってくれた。叫び声を上げ、汗をかく観客なしでは、俺の曲は単なる音でしかない。だけど、みんなと一緒なら、音楽の大聖堂の楽器になれる。毎晩毎晩俺たちは、みんなで一緒に音楽の大聖堂を作れる。だからそれを、また絶対にみんなで一緒に作るんだ」(参照元)まさしく今夜、苗場でこの宣言を実現してくれた。ありがとう。次の来日はいつになるか分からないけど、俺たちはいつだってデイヴの帰還を祝福するよ。
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