FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/30 SUN

YUKI

  • YUKI
PHOTO BYfujirockers.org

Posted on 2023.8.3 14:07

バイバイ長い夢! ソロ20周年のその先へ、踏み締めたグリーン・ステージでの涙

最終日のグリーン・ステージは、夕方になってだいぶ涼しくなってきた。言ってみれば、それはフジロックの終わりが近付いているということで、何だかセンチメンタルになってしまうのは仕方がないことかもしれない。

バンド・サウンドに乗っかって、YUKIはひらりとグリーン・ステージへ入ってきた。2017年にフジロックへ出演して以来の6年ぶりのステージ。長く活躍する実力を持った日本を代表するミュージシャンであることはもちろんだけど、いまなお変わらずに、そこにいるだけでポップ・アイコンとして成立し、人々を元気を与え続けているパワーがスゴい。グリーン・ステージに立つ彼女の姿を見ただけで、自然とテンションが上がり、これから始まる素敵な時間が約束されるのだから。YUKIの登場とともにステージ前方へ走るフジロッカーたちの気持ちがよく分かる。

今日のYUKIはというと、綺麗な金髪に……語彙力がなくて申し訳ないが、真っ白でフワフワのプリーツのような生地をランダムに幾層か重ねて、シルエットの丸い、動きのあるドレスから脚を出してスニーカーを合わせて、白いマイクを持ち……というような格好で、説明ド下手だけど、今日もYUKIがめちゃくちゃ可愛かったことだけは書いておこう。星を食べて生きていらっしゃるんだろうか。異次元レベル。

ただ、この日の彼女は、いつもとちょっと違っていた。グリーン・ステージに立つと、一瞬その景色をゆっくり目に焼き付けるように見わたした。

1曲目の“My Vision”からYUKIはフルパワー。軽快だが太く芯のあるサウンドに、「ああ、この音だ」と嬉しくなってしまう。彼女は舌をチロッと出しながら、丁寧に歌い上げていく。最初の曲から、彼女の顔は少し紅潮していることが見て取れた。ただ、真夏のステージで暑いし、全身を使っているしで、このとき、そのことはそこまで気にはならなかった。

演奏の最中、YUKIは巨大なグリーン・ステージの空間に浮かぶ小さなシャボン玉をその目に捉えていた。

“ふがいないや”で「フジロック!」と声を出すと、一気に会場の心を掴んでしまう。「いい夏の思い出作っていこうぜ!」と“JOY”のイントロで観衆を沸かせ、珠玉のポップ・チューン連発で畳み掛ける。

「改めまして、YUKIです。こんにちは!」と元気に挨拶。

「こんなに素敵な景色を見ながら、こんなに素晴らしいミュージシャンたちと素晴らしい日を過ごせていることが奇跡みたいで本当に嬉しいです。今日は本当にありがとうございます!」と、その想いを告白した。「シャボン玉みたいなのが飛んでたけど、感動して泣きそうになって“泣かないでYUKI”と思いながらね(笑)、歌ってたわ」と、会場からは「可愛い〜!」といった声が方々から飛んだが、今日のYUKIは、ステージに立った瞬間からこみ上げてきている何かがあったのだ。

「今日も月が綺麗なのは そう 君が笑っているからさ」と愛を歌う“Baby, it’s you”から、ダンサブルなビートでグリーン・ステージを踊らせる“星屑サンセット”へ。サビではみんなで手を上げ、曲の持つ瞬く星のような疾走感とともに気持ちが高揚していく。アウトロでは、その加速度で止まれなかったのか、YUKIまで「タッタッタッ」とステージ上で駆け足していた。

“プリズム”で「涙の河を 泳ぎきって 旅は終わりを告げ」「あなたは今も しかめ面で 幸せでしょうか」と遠くを見つめて歌ったYUKIは、顔を赤くし、目を潤ませた。ライブ中、彼女は「ソロになってデビューしてからは20年が経ちました」とフジロッカーに報告した。人生の機敏を丁寧にすくい上げてきた作品群を聴けば、彼女が今までどれだけの河を泳ぎ、人の幸せを願って活動してきたのだろうかと感じざるを得ない。

YUKIにとっても、今日のグリーン・ステージでのライブは、一つの区切りであったのではないだろうか。「花咲く丘まで口笛を吹いていこう」と歌うと、YUKIはさらに涙ぐんだ。コロナ禍が発生し、人との距離感は変わり、戦争や災害は起こり、先行きは見えず、道に迷いそうな僕らに彼女は口笛を吹いていこうと歌う。涙を堪えたYUKIは、「高鳴るは、胸の鼓動」とプリズムを会場へと反射させた。

身体を揺らす4つ打ちのビートに乗せて、“⻑い夢”に迷い込んだ何万人のフジロッカーの中からYUKIは「淋しがりやはどこだ」と探す仕草を見せる。もしかしたら、一番の淋しがりやは彼女自身なのかもしれない。渾身の力を込めて「そこへ行くにはどうすればいいの?」と彼女は歌い、まだこれから続く新たな旅路を見据えて「バイバイ」と過去に別れを告げる。歌い終えたYUKIは、頬を伝う涙を拭った。

“ランデヴー”に入ると、YUKIは歌いながら観衆の多さに驚いていた。こちらも歌に集中していたため気がつかなかったが、客席前方側から後ろを振り返ると、山側の方まで埋め尽くすように観客が増えていた。ステージからの光景はきっと気持ちいいだろうな。グリーン・ステージの後ろの方まで、多くの人がグッド・メロディで踊っている。ファンキーなギター間奏がさらに気分をグッと押し上げた。

「音楽が大好きな人たちが集まって、こうやっていつも通りのフジロックができて最高です!!!」と叫び、急に叫んだ自分で我に返るYUKI。ステージから広がる景色に、万感の想いがあったに違いない。ソロ・デビューして21年目。いまも現役どころか、20年間でとんでもない馬力の高性能POPスター・エンジンを作り上げた彼女は、今日もドルンッとフカして“WAGON”を走らせる。YUKIも間奏で、白い衣装を閃かせて全身で踊った。

「今日はどうもありがとうございました」

最後は「放り込むの 歓び 全て」と歌い、“鳴り響く限り”を穏やかに演奏し終え、グリーン・ステージでのライブを大成功させた。今日の厳選されたセットリストは、過去と未来を見つめた彼女の想いが強く反映されたものだと感じて止まない。

「そのドキドキはずっと終わらない」
「わたしのこのドキドキは終わらせないと言ってくれ」

そう言って、YUKIは「サンキュー! バイバイ!」とジャンプして、新たな旅へと出発した。また見えた光。またいつも通りの日常を掴んで離したくない。そんな気持ちにさせられた。

<Set list>
1. My Vision
2. ふがいないや
3. JOY
4. Baby, it’s you
5. 星屑サンセット
6. うれしくって抱きあうよ
7. プリズム
8. ⻑い夢
9. ランデヴー
10. WAGON
11. 鳴り響く限り

TAGS
7/30 SUNGREEN STAGE