FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/30 SUN

BAD HOP

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Posted on 2023.8.2 04:37

最初で最後のフジロック! 超轟音バンドを従え、魅せつけた8MCの覚悟

YUKIが多幸感溢れるライブをグリーン・ステージへ届けてからの、BAD HOP。その温度差に風邪をひきそうになるが、この多種多様さもフジロックの面白さ。BAD HOPは、今回出演のキャンセルが発表されたルイス・キャパルディの代打として抜擢。日本のヒップホップ・シーンからグリーン・ステージに立つグループが選ばれたこともそうだが、先日BAD HOPが解散(!)を発表したニュースを追いかけるようにフジロックへの出演が決定したことも大きな話題となった。

すっかり暗くなった19時のグリーン・ステージ。重低音のSEが流れ、BAD HOPのライブでは見たことのないバンド・セットのシルエット、ステージ・バックには「WARNING」の文字。会場に期待と緊張感が張り詰めているのが分かる。

ステージ上に、8人のMCが姿を現すと歓声ととも上がる爆炎と狼煙。生々しい重低音が鳴り響いたかと思うと、1曲目から“Kawasaki Drift”だ! 地元・川崎での日々と過酷な現状を描き、彼らの知名度を押し上げたその曲で一気に会場のボルテージが上がる。轟音の壁のような、気合いの入りまくったバンド・サウンドにのっけからシビれてしまった。強烈すぎるパンチライン「川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ!!!」とT-Pablowが声を張り上げれば、集まった大観衆の手が自然と上がるのだった。

BAD HOPは、高校生RAP選手権の優勝経験を持つT-PablowとYZERRという双子の兄弟を中心に、幼なじみのTiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、G-k.i.d、Bark、東京都出身のVingoの8人で構成されたヒップホップ・グループだ。彼らはどこのレーベルにも所属せず自主レーベルを立ち上げ、作品作りから物販までセルフ・プロデュースで活動。2014年の活動開始から2018年4月にZepp Tokyoでの単独公演、2018年11月には日本武道館でのワンマン、2019年12月には新作リリース記念に川崎駅前でゲリラ・ライブ、2020年3月には横浜アリーナにてワンマン・ライブを行う予定だったが、コロナ禍での中止を受けて1億円の負債を覚悟で無観客でのライブを決行し、その様子をYouTubeで無料配信するなどヒップホップ・アーティストとして数々の伝説を作ってきた。

そんな中でのグループの解散発表は、大きな衝撃とともに受け止められた。曲を出せばヒップホップ・チャートを席巻し、チケットを売り出せば即ソールドアウト。ヒップホップのコアなファンから一般的な音楽リスナーまで幅広く人気を獲得し、プロップスは常に上がり続けているこのタイミングでの決断。ファンのみならず、音楽業界でも解散を惜しむ声は多い。今夜のフジロックでのライブもまた、彼らの伝説の1ページとなることはすでに間違いないだろう。

そして、この日、観客にさらなる驚きと熱狂を与えたのが、BAD HOPの音楽を支えるバック・バンドのメンバーだ。ライブ前にBAD HOPのSNSで告知されていたが、グループとして初のバンド・セットでフジロックに臨むことにした彼ら。そのステージ上には、RIZEから金子ノブアキ(Dr)とKenKen(B)、the HIATUSからmasasucks(G)と伊澤一葉(Key)の4人が並んだ。フジロッカーにはお馴染のメンバーだが、2000〜2010年代と日本のロック・シーン、ストリート・シーンを支えてきた豪華メンバーがガッチリとライブの脇を固める布陣。BAD HOPにとって、これが最初にして最後のフジロック出演となり、その舞台としてグリーン・ステージが用意されたのだ。今日の日にかけるメンバーの並々ならぬ意気込みを感じざるを得ない。

続く“Friends”でも分厚くラウドなバンド・サウンドに熱いフロウを流し込み、魅せる。KenKenのベースからはクラブでの箱鳴りのようなとんでもない重低音が弾き出されていた。そこには、ギリギリで現代を生きる若者たちのためのヒップホップと、1990〜2000年代のオルタナティブ・ロックの流れを組む轟音が融合して、1つの新しい生命体として、最高のミクスチャー・ロック・バンドが爆誕しており、その魂のこもったライムと音圧の塊に酔いしれたフジロッカーは多かったのではないだろうか。サウンド・プロダクトは、そこらのライブ・バンドを蹴散らす重さと厚みだ。こういうゴリゴリ系のバンドが観たかったという自分も胸アツ、ご飯三杯はイケる気分になった。それほどまでに、BAD HOPとラウドなバンド・セットは抜群の相性だったのだ。

「いくぞ、いくぞ、いくぞ」と“BATMAN”では、Benjazzy、Bark、Vingoと次々に重いドスのあるフロウをぶつけ、“No Melody”のアウトロではMCの熱量に応えるようにチョーキングの効いたmasasucksのギター・ソロが闇夜に轟いた。闘争心を爆発させるようにYZERRやG-k.i.dらがラップする“Round One”、続く“2018”でも気合いの入ったヘヴィなバンド・サウンドに明らかにMC陣の熱量も上がり、荒々しい化学反応が起こっていることが見て取れた。

「What’s up Fuji Rock? 調子はどうですか!?」と、T-Pablowは熱の上がったグリーン・ステージの聴衆へ語りかける。「知らない人もいると思うんですど、改めて自己紹介させてもらいます。俺らBAD HOPって言います。今日はよろしくお願いいたします」と話せば、待ってました!とばかりに歓声が上がった。客席前方では年齢層の若いキッズや、親子でファンという人々が多くいるように見えた。繁華街で見かけるようないわゆる“ギャル”たちをグリーン・ステージでちらほら見かけたことも新鮮だった。「フジロック、俺たち全員でハイランドへ行こうぜ」とTiji Jojoが声を発すれば、“High Land”へ。大きな歓声が上がり、叩き込むフロウとパンキッシュな演奏で会場をブチ上げた。

BAD HOPの曲は、とことんリアルなアンダー・グラウンドでの生を描くリリックでありながら、そのメロディや曲の構造は多くの人の耳に届くようにオーバー・グラウンドを目指していると感じる。彼らがグリーン・ステージを全うせんとする覚悟と風格は、初出演ながらすでに十分備わっていた。

彼らのライブでは合唱が起こる“Ocean view”ではYZERRやYellow Patoらのフロウで観客は身体を揺らした。メンバーはきっと「誰も邪魔できないOcean view」をステージから見ていたのだろう。「DiorのKicks 横の女の指にCartier Ring」とヒップホップ的なワードセンスが光るリリックと耳に残るフロウで人気のアンセム“Foreign”では、グリーンの光に照らされ、バンド・サウンドでさらにタイトにカッコよく曲が仕上がっていた。

「みんな基本的には幼馴染でやってるんですよ」とT-Pablow。「僕、双子で5分違いなんですよ」とYZERRとの関係性を改めて話し、「他のメンバーも生まれる前のベッドの病室から一緒、半分は保育園も一緒で。ガキのころからみんなクソみたいな環境で育ってきて、俺らも地元のやつらも本当に貧しい環境で育ってきて、そんな中で幼馴染だけでまだやれていることって奇跡だと思っています」と初めてBAD HOPのライブを観る観客にも知ってもらえるよう、彼らの歩みを丁寧に伝え、その真摯さにフジロッカーは声援で応えた。

T-Pablowは「苦労自慢とか不幸自慢とかするつもりないんですけど、少しでも、1人でも多くの人に勇気を与えられたり、この、本当に大好きなヒップホップっていうカルチャーがもっともっと日本で浸透することを心から願っています」と力強く話した。ヒット・チャートの大半をヒップホップの曲が埋め尽くすこともある世界の音楽シーンと比べて、日本でのヒップホップ・シーンがまだまだ小さいのは確か。一呼吸置いて「もう一度言います。自分たちはこの日本でヒップホップをもっともっとデカくするため本気で頑張っています」と、ヒップホップへの想いをアツくグリーン・ステージの観衆へ宣言するのだった。日本でヒップホップ広げるためにやっていますというYZERRと同様に、その想いは自主レーベルを起こして活動してきた彼らと嘘偽りなくリンクする。ヒップホップがもっと日本でオーバー・グラウンドな存在になるようにと願い、BAD HOPは走ってきた。

「ここに立たせてくれたフジロックの皆さんありがとうございます。最後まで全力で行くんで応援よろしくお願いします!」と、さらにKAWASAKIのエンジンは唸りを上げて、“待”っていたぜェ!! この“瞬間(とき)”をよォ!!とばかりに「次のステージへ」と歌う“Back Stage”に。ギターのリフとDjのスクラッチが情緒を揺さぶった“CALLIN’”では「生き残ったやつらでParty」と決意のライム。“Rusty knife”の最後には「人の噂かよ、今日も。自分のこと話せー!」と叫ぶ。過酷な経験も現代社会の中で若者の置かれた状況も、彼らへ集まるヘイトまでも生皮を剥がすように痛烈に吐き出す。SNSでの誹謗中傷や悲しいニュースが多い中で作った曲があるとMCしたあと、“Suicide”でのギターの美しいアルペジオ、キーボードのメロディが鳴ると大歓声が上がった。Tiji Jojoの切なる歌声が会場を包み込んでいった。

出演キャンセルになったミュージシャンの代役として、「フジロックのスタッフみんなが満場一致で“BAD HOPがいいんじゃないか”となってくださったみたいで本当に嬉しいです。BAD HOPが解散を発表したタイミングでこうやってフジロックに出られるのも、音楽の神様がいるんじゃないかなって本当に思っています」と、T-Pablowは喜んでみせた。「さっきYZERRとも話していたんですけど、人生今まで何にも打ち込んだことがなくて初めて音楽、このヒップホップと出会って、すべて人生変わって、これにかけてきました。ずっとずっと川崎という港町で夢を見ていました」とMCすると、「今日は娘たちも観に来ているぜ! (娘たちに)見てますか!」と“Bayside Dream”に入り、これには涙腺崩壊。

“これ以外”を披露し終えると「初めて全国流通のアルバムを出して、インディーズのレーベルなんで自分たちでCDを詰めながらお客さん発送してたりとかしてて、このステージに立てて、この景色を観られて本当にやってきてよかったなと思いました」と当時を振り返りつつ、グリーン・ステージからの景色をメンバー全員でもう一度胸に焼き付けているようだった。

「(俺たちは)これから先もずっと毎日のように一緒にいるんで、これからは一人ひとりがちゃんと違うステージヘ進めるように解散を発表して、まだ最後のライブ場所は決まっていないんですけど、もし今日ライブ観て良かったなと思ってくれるお客さんいたら、最後のライブも遊びに来てください」と解散理由についても少し触れつつ、穏やかにT-Pablowは語った。

最後は、10月に発売予定のラスト・アルバムに収録される“Champion Road”。美しくも緊張感のあるピアノの音色から始まると、ビートを上げ、炎は上がり、ステージ上の全員でフロウを叩き込んでもう超ロック。いや超ヒップホップ。大歓声に包まれた中、メンバーは観客席に手を振り、KenKenはベースを高らかに掲げ、金子ノブアキは一礼し、ステージを去っていった。

ライブ中、何度も奇跡という言葉を繰り返し、実際に奇跡を起こし続けてきたBAD HOP。BAD HOPというグループ名は“悪いヒップホップ”ではなく、日本でいうところの野球のイレギュラー・バウンド(和製英語)に由来している。強靭なバンド・サウンドを見事乗りこなし、彼らがフジロックのグリーン・ステージで魅せた“BAD HOP”が、日本のヒップホップ・シーンにとってまた大きな奇跡へと繋がってくれることを願ってやまない。

<Set list>
1. Kawasaki Drift
2. Friends
3. BATMAN
4. No Melody
5. Round One
6. 2018
7. Chop Stick
8. High Land
9. Ocean view
10. Foreign
11. Back Stage
12. CALLIN’
13. Rusty knife
14. Suicide
15. Bayside Dream
16. Hood Gospel
17. これ以外
18. Champion Road

[写真:全10枚]

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7/30 SUNGREEN STAGE