LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/29 SAT
CAROLINE POLACHEK
苗場の地で堪能する圧倒的な一期一会の総合芸術
フジロック’23、2日目も17時を過ぎた。アラニス・モリセットの懐かしい音を聴きながらグリーンステージを超えてホワイトステージへと向かう。
朝からうだるような暑さが続いたが、夕方になってもまだまだ暑い。ホワイトステージに集結した人たちが発する熱気を伴って発汗が一向にとどまる気配がない。
ステージに流れていたヴァン・ヘイレンの“Jump”が終わり、1分前になると画面にラフスケッチのような時計の映像が映し出されカウントダウンしていく。ベースとギター、ドラムの3名が登場し、画面が電子ビートとともに「0」が表示されるとステージに高らかな美声が響き渡った。満を持してCAROLINE POLACHEK(以下キャロライン)が姿を見せ、「ヘイ!ヘイ!ヘイ!」と腕を突き上げ“Welcome to My Island”からステージの幕が開いた。キャロラインは白い布を重ね合わせたようなアーティスティックな装い。赤いロングブーツもアクセントになっている
「フジローック!私の日本初のコンサートへようこそ!」と挨拶し、ここに来られて光栄だと言葉を詰まらせる。キャロラインの人柄、想いが伝わり、オーディエンスから割れんばかりの拍手喝采が送られ、場が温かい感動に包まれた。
全身が震わせられるような重たいベースが入りはじまった“Bunny Is a Rider”では、曲間でマイクスタンドにマイクをセットしオーディエンスに手拍子を促す。美しい口笛の鳴りとともに荘厳に締めくくるのだ。「ありがとうございまーす!」とびっくりするほど流暢な日本語で感謝の意を伝えた。
アコースティックギターで奏でられるラテン調のフレーズを持つ“Sunset”、バックに稲妻が光る映像に切り替わりダークな様相の中はじまった“Ocean of Tears”、2021年に亡くなったSOPHIEに捧げた“I Believe”とステージは進行していく。キャロラインの美声、声域の広さは圧倒的だ。高音のビブラートを手をウェーブしながら発声する。その所作、一挙手一投足が本当に美しい。コリオグラフィーも作り込まれているようでいて、たった今創作されたような生々しさがあり、彼女の世界にどんどん引き込まれていくのだ。
Grimesに捧げるとはじまった“Fly to You”。キャロラインが本曲で細かくビートを刻み、スキルフルなドラミングで魅せてくれるラッセルに拍手を求める。世界観を共に創作している仲間たちへの経緯ある気遣いある行動にまたしても感動してしまう。
深いグリーンに木の葉が舞う映像にぴったりの幻想的な“Blood and Butter”。この曲はつい先日訃報が届いたシネイド・オコナーに捧げられた。インドのヒンズースケールを伴う浮遊感ある流麗なギターソロがたまらない。そして、キャロラインがバンドメンバーをひとりひとり紹介した(マットがギターで、マーヤがベースだ)。
ここでフジロックならではとしか言いようがないマジカルなサプライズが起きた。何と、レッドマーキーでステージを終えたばかりのWEYES BLOODが登場!美しいドレスに身を包んだWEYES BLOODとキャロラインが共に歌い上げる“Butterfly Net”の神々しさといったら…本当にもの凄いものを見せてもらった。
入りの電子音に合わせて何かを捕まえては取り込み放出するパフォーマンスから形作っていった“Billions”、本セット一番の高らかなロングトーンボイスが圧巻だった“Smoke”、コーラス耳目に優しく響き渡る“So Hot You’re Hurting My Feeling”と、日が落ちた苗場の自然と一体となってファンタジーの世界にいるような感覚へと誘われた。
「とてもとても美しい夜ありがとう!」と締めくくりの曲は“Door”。キャロラインがオーディエンスに扉を次々と開いていく振り付けを示し、サビパートで一体となった。スモークが焚かれ、山に黄色と赤の明かりがぼんやりと灯る映像とともに圧倒的な演出に彩られたステージの幕引きを行った。
終演後の余韻がもの凄く、しばらくその場を動けなかった。キャロラインの世界観に引き込まれてしまいどこにいるのか、現実が分からなくなったような感覚。音楽が芸術なのだという本質をあらためて思い知らされたようなライヴだった。
[写真:全10枚]