LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/30 SUN
カネコアヤノ
長い長い余韻を残した、ただただ圧倒されてしまう迫真の60分
2週連続の東京と大阪の野音ワンマンショーを終えた勢いのまま、2年振りのフジロック出演となったカネコアヤノ(Vo /Gt)。前回の出演以降長年のメンバーが立て続けに変わり、新体制となったバンドセットへの期待もあり、少しそわそわしながら20時前のホワイト・ステージに到着するとすでに多くの人が詰めかけていて、彼女の登場を待ち侘びているようだ。イントロのノイジーなギターが空に抜けていき、始まったのは最新作の表題曲“タオルケットは穏やかな”。オルタナ調の荒々しいギターサウンドを感じながらも、彼女の凜とした歌声がホワイトにこだまする。
小気味のいいインディー感のある“愛のままを”でも、飯塚拓野(Ba)のベースとHikari Sakashita(Dr、 San hb)のドラムは一音一音をずっしりと響かせ、そこにカネコと林宏敏(Gt)がかき鳴らすギターが織りなすバンドサウンド。例えば一時期のサニーデイ・サービスやくるりなんかも彷彿とさせるシンプリシティが光る。最新作のジャケット同様ライティングや衣装もモノトーンで統一されたステージもしかり、彼女が彼女であることを示すのにはもう何の装飾もいらないのだろう。そんなことさえ感じる演奏の説得力が凄まじい。
林のギターが唸る“爛漫”や、古き良き日本語ロックの情感を持つ“さよーならあなた”でも、バンドのエネルギーを内へと凝縮させていくようなステージを狭く使うスタイルも相まって、よりアグレッシブなバンドサウンドに打ちのめされてしまう。こんなに広いホワイト・ステージなのに、まるでライブハウスのようにさえ感じさせる生々しい臨場感がある。
怪訝そうだったり不敵な顔をしていたりと、たびたびかなりアップでステージ上部のモニターに映るカネコの表情にはとても緊迫感があり、この点も音源のリラックスしたムードと全く違う緊張感をライブに持ち込んでいるように感じられる。ギターソロで林が見せる恍惚の表情ともまた違う、彼女独特の存在感にもただただ圧倒されてしまうばかりだ。
ざっくりとしたカネコのバッキングギターと林のアルペジオが絡み合う“グレープフルーツ”。曲間で「かわいいー!」という歓声にはにかむ様子など、ふと素の表情を感じさせるところもあったが、“月明かり”や“気分”、勢いのままざっくりとしたサウンドで奏でる“アーケード”でも、一分の隙もなく自らの存在を示し続ける彼女の姿は、シンガーソングライターの自負をまざまざと感じさせる。ああ、なんでカネコアヤノはこんなにもカネコアヤノなんだろう。
スライドギターにまどろむ“こんな日に限って”では、前半の楽曲からたびたび出てきた長尺のセッションはさらに混迷を増し、最後は“わたしたちへ”。何度も言うが、ただただ圧倒されるばかりだった。僕がいたホワイト後方あたりでもぽかーんと見入ってる人もちらほらいた。しかしながら今改めて振り返ってみると、バンドがせめぎ合った迫真の60分は、彼女がたびたび歌う「私が私であること」を、迷い苦しみながらもつかみとろうとするプロセスのようにも思えた。原稿を書き終えた今になって、最後に“わたしたちへ”を演奏した余韻が沁みてきた。
[写真:全7枚]