LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/29 SAT
WEYES BLOOD
とろけてしまいそうなくらい贅沢な時間
16時前に足を運ぶと、すでに前方には多くの人が詰めかけているレッド・マーキー。Twitterを見るとインディー愛好家として知っている人たちが何人も最前列付近で待機しているようで、念願の初来日を果たすワイズ・ブラッドことナタリー・メリングへの期待の高さが伺える。スクリーンにはなにやら目を血走らせた水夫のようなキャラクターが時計を気にしている様子が映っているが、まだかまだかと歓声があげる僕らの気持ちも似たようなものかもしれない。
4人のバンドメンバーとともに、白いドレスとサングラスで現れたナタリー。“It’s Not Just Me, It’s Everybody”では歌い出しや間奏のたびに大きな歓声が上がり、メンバー全員で重厚なコーラスを入れる“Children of the Empire”でも、しっとりと伸びやかに歌う彼女の歌声に早くも虜になってしまった。甘美なメロディにうっとり浸る“Andromeda”では流星群のようなキラキラした映像も相まって、なんともドラマチックな時間が流れている。
ナタリーがサングラスをとって、続いては”Seven Words”。チャーチオルガンから徐々に演奏が合流していくバンドサウンドは決して主張的ではなくシンプルなものだが、だからこそ堅実に寄り添うような演奏が光っている。ゆったりとした時間の流れを感じながら、身振り手振りに気品を感じさせるナタリーの優美な歌声が響きわたるレッド・マーキー。なんて贅沢な時間だろう。ドキュメンタリー映画監督のアダム・カーティスへのリスペクトを語った“God Turn Me Into a Flower”では、3つの鍵盤のアンビエント風味のフレーズとナタリーの伸びやかな歌声が重なり合う中で、ドキュメンタリー風の断片的なイメージがフラッシュする背景の映像がとても印象的に映る。
続いてはナタリーがリズムピアノを奏でる“Everyday”。基本的に抑制的な演奏のバンドだからこそ、ブリッジのここぞというところの爆発力も際立っている。ドライヴ感のあるインディー・サウンドにゆらゆら揺れたり飛び跳ねたりしながら、感じ入るような表情でステージを見つめるオーディエンス。特にクレバーなベースラインだったり、エリオット・スミスやジョン・レノンのソロ作のような感触のドラムのサウンドメイクがとてもインディー然としていて、甘美に酔いしれながらもグッとくる絶妙なバンドサウンドだ。
ナタリーのアコギの粒感と微睡むようなエレキギターが溶け合う“Something to Believe”に続いて、ミュージカルのようにチャーミングに踊り歌う“Do you need my Love”。この辺りでは神々しくさえ感じていたナタリーの佇まいにも親しみを覚え、どんどん親密な雰囲気になっていくレッド・マーキーの雰囲気もまたたまらない。
“Twin Flame”ではナタリーが縦横無尽にステージを駆け回り、最後はスペーシーなシンセフレーズが印象的な“Movies”。ドラムが入る終盤では再びドキュメンタリー風の映像が流れたかと思ったら、ブーケトスのように白いバラを何本もフロアに投げ入れるナタリーは本当にキラキラして見えた。惜しみない拍手でバンドを見送る僕らの胸には、親密で贅沢な時間を過ごした確かな充実感があった。
[写真:全10枚]