FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/28 FRI

坂本慎太郎

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Posted on 2023.7.31 18:41

また真夜中の森で踊ろうよ、ギター・ロックのミニマム・ディスコ

ちょうどよい夜の深さ、ちょうどよい暗さ、ちょうどよい気温。心地よい体験を求めて、フラフラとたどりついたフジロックの最奥地。森の暗闇と一体化したようなフィールド・オブ・ヘブンの1日目ラストを飾るのは、坂本慎太郎だ。真夏の快晴を通り越して炎天下の中、各所で想いの詰まった興奮のライブが繰り広げられた“普段通り”のフジロック2023。その記念すべき年の最初の夜、彼がフジロックに出演した2021年と同じこの場所で、またそのライブを観ることができる喜びは他に代え難いものがある。

森の暗闇に紛れて集まったフジロッカーたちは、まるで1日の喉の渇きを癒すために水を求めて集まった動物たちのよう。こちらも期待して、ザ・ストロークスを観ずにのそのそと誘い出されているのだからどうしようもない。最高なフジロックの夜だからこそ動物らしく、過ごそうか。

今宵のバンド・メンバーは、坂本のバックとして鉄壁の布陣となったAYA(B & Cho)、菅沼雄太(Dr & Cho)、西内徹(Sax & Flute)。インタビュー記事で「ちょっと明るい感じにしたかった」と述べていたアルバム『物語のように』を提げて精力的にライブを行ってきた彼らだが、6月25日の日比谷公園大音楽堂で行われたライブは公演後絶賛の嵐だっただけに期待しないっていうのは無理な話。ライブ・チケットがなかなか手に入らないミュージシャンがゆえ、涙を飲んだファンも多く、フラッと立ち寄ったらたまたま観られたなんていうフジロッカーはラッキーだろう。

坂本慎太郎がギターをつま弾けば、長い夜の幕開けだ。薄暗いステージ上をいくつもの直線的なライトが浮遊する中、ベース、ドラム、サックスが穏やかに合流し、「あ、こんばんは」と坂本が思い立ったように挨拶。最初の曲“思い出が消えてゆく”のギアを上げた。「記憶の〜」と歌い上げた彼の歌声とサックスの残響音は、月が照らす夜空へと反響し消えていく。“死者より”のギター・リフが鳴ると、真夜中の動物となった観客たちは一斉に踊り出し、喜びの歓声を上げる。「いきものって うらやましい」と死者からの生への未練を浴びながら暗闇で楽しそうに身体を揺らす。坂本の繰り出すダンサブルなグルーヴに人類はもう死んでも逆らえないのではないだろうかなどと思ってしまう。

坂本の歌声とAYAのコーラスの絡み合いが美しい“めちゃくちゃ悪い男”へ。坂本のアグレッシブなギター・ソロへ入るとひときわ大きな歓声が上がり、そのビンテージ・ワインのような味わい深い音色に唸らされた。“愛のふとさ”では西内の色気のあるサックスがソロ・パートで熱量を上げ、「夜は長いから」とまだまだ終わらない秘密のパーティーをフジロッカーたちに期待させた。

真夜中の森、ヘブンと坂本の曲は何でこんなにも相性が良いのだろうかと思いながら、ライブ中はずっとウットリしていた。月夜の闇に響くギターの音色で改めて思い知らされたのは、ゆらゆら帝国解散後のソロ・ワークで坂本が追求してきたミニマムなプレイ・スタイルの圧倒的な強度。大きな味付けの施されないその音色は、最新作でも一貫して基本的に肩の力の抜けたリフや極限まで削ぎ落とされた単音の響きだけで構成されており、並みのギター・プレイヤーでは素っ裸すぎて心許なく腰が引けてしまいそうな音作りだ。歌詞もまた、極めてシンプルな言葉のチョイスと必要最低限の言葉数で本質へ迫っていく文学的手腕を遺憾なく発揮しており、もう脱帽という以外に言葉が見当たらない。

AYAのメロディアスに動き回るベース・ラインと軽快なギター・リフで強制的にフジロッカーたちの身体を踊らせる“仮面をはずさないで”、坂本がギター・ソロで単音弾きの美しさを爆発させたかと思えば「あーうー」とついみんな一緒にハモってしまう“まともがわからない”と続けて披露され、動物たちはヨダレが止まらない。ライブを通して、菅沼のドラムによる心地よいグルーヴ、随所に入る西内の色気ある(時にショー・タイム!とばかりに激しく暴れ回る)サックスの音色に夜の深さも相まって脳が溶けてしまいそうな感覚に陥った。

ポップなメロディでディストピア的な世界観を描く“あなたもロボットになれる”のイントロが流れば、「待ってました!」とばかりにフジロッカーは興奮。西内の軽快なマラカスが耳に心地よい。続く“ディスコって”では客席から「最高!」と声が上がり、“ナマで踊ろう”で森のダンスホール・フィールド・オブ・ヘブンは最高潮へ。曲の終盤、西内は踊るようにマラカスを振ったかと思えば、最後にはタオルをぶん回して踊り出した。突然坂本慎太郎のステージに日本のレゲエ・ミュージシャンがゲスト参加したのかと思って、真夏のジャンボリーを感じてしまった。

坂本が「最後にゲスト、紹介します」と、先ほどヘブンでライブをしたばかりのヨ・ラ・テンゴのフロントマン、ジェイムズ・マクニューが呼び込まれ、フジロッカーは大興奮。タオル回す系のミュージシャンじゃなくて良かった。「どうもありがとうございました」と、ラストはジェイムズの軽快なギター・リフとともに“NYC Tonight”。坂本とジェイムズの瑞々しい歌声とプレイで、フジロックの動物たちは大いに喉を潤し、森へと帰っていった。

ギターロックのミニマリストすぎやしませんか?と言いたくなるほど潔い必要最低限さで、心地よいグルーヴと物語の核心部分を確実に抽出する坂本慎太郎の才能は常軌を逸しているなとしみじみ感じたフジロック1日目の夜更けだった。そして、今年は“普段通り”にライブを観られたことの喜びを噛み締めた特別な初日だったと、きっとフジロッカーたちは感じながらその日眠りについた(もしくは朝まで遊んだ)のではないだろうか。自分はというと、これまでの作品からチョイスされた最高のセットリストにテンションが上がりすぎたのか、「これはギターロックの寿司?」「あなたは寿司屋の名店ということ?」などと夢の中で割烹着姿の坂本に質問していた。

<Set list>
1. 思い出が消えてゆく
2. 死者より
3. めちゃくちゃ悪い男
4. 愛のふとさ
5. 仮面をはずさないで
6. まともがわからない
7. あなたもロボットになれる
8. 物語のように
9. 君はそう決めた
10. ディスコって
11. ナマで踊ろう
12. NYC Tonight (with James McNew from Yo La Tengo)

[写真:全3枚]

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7/28 FRIFIELD OF HEAVEN