LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/29 SAT
JATAYU
言葉のビザは必要なし。観客とステージひとつになって完成するバンド
インドのバンドといえば、昨年出演したメタルバンド、Bloodywoodが記憶に新しいが、今年はカルナティックなフュージョンバンド・JATAYUがフジロックに来てくれた。前夜祭の彼らはちょっぴりしか見ていないけれど、親しみやすいコール&レスポンスで会場と一体になっていた様子はすぐにでもわかったから、とても楽しみにしていた。
ステージ下手から、KASHYAP JAISHANKAR(Ba)、SHYLU RAVINDRAN(Gt)、 SAHIB SINGH(Gt)が並び、中央奥に, MANU KRISHNAN(Dr,Vo)が位置につく。彼らの黒い衣装にはそれぞれ、濃オレンジ、紫、赤といった、民族衣装にも近い差し色が入っており、フィールド・オブ・ヘブンの雰囲気にぴったりだ。
“Maha”は、リード・ギターを担当するSHYLUのメロウな速弾きから始まり、ビブラートを繰り返しながら甲高いギターのうねりが作られていく。仰け反るようにして音を振り絞るその姿は勇ましくてかっこいい。観客のほとんどは、言葉の通じない人たちかもしれないが、JATAYUは音や声でコミュニケーションをとっていく、そんな姿勢のバンドらしい。観客と一緒にコール&レスポンスでメロディの練習をして、“69”へ突入する。SAHIBが手を挙げ合図すると、観客たちの「ラララララ」というコールが加わり、曲が彩られていく。たとえば3拍/2拍で進む5拍子のような、とっつきにくいリズムに参加するのはなんだか難しく思えるが、彼らの導きのおかげでうまく馴染める。変拍子でもって、彼らの大切にしている南インドのカルナーティック音楽から、ガレージ・ロック、メタル……とあらゆるチャネルを行き来する忙しさは、じつにプログレッシブで面白い。
続いて埼玉県出身のキーボーディスト、矢吹 卓が登場し、彼をフィーチャリングに迎えて発表した“No Visa Needed”を披露した。矢吹の指の運びは軽やかで、まるで息を吸って吐くかのような自然さだ。JATAYUが「アメイジング・ミュージシャン」と称える彼の音はくっきりとクリアで、変幻自在なセッションの解像度をより高めていった。
その後オーディエンスは“Moodswings”の出だしを歌うチャレンジをするが、これがなかなか歌えない!言葉が難しいんじゃなくて、入りが難しい。少しズレてしまってSAHIBとともに「あーっ!」って惜しい気持ちを声に出したり、あまりにもハズしたときは笑いが起きたり。ステージと観客とが対話して、最後の1ピースを埋める。なんて楽しいライブ体験なんだろう。ぼたぼたと水滴が落ちるときのようなMANUの大粒のドラミング、SAHIBがしゃがんでエフェクターを操作し、音をぐにゃぐにゃ混ぜる様子、KASHYAPとSHYLUの会話するようなセッションなど、各々の動きは違えど、確かなグルーヴを感じられる。メインのメロは、某インド映画みたいに、虎でも出てきたか?と思ってしまうくらい、ワイルドかつきらびやかだった。
フュージョンの中にインド的エッセンスがちらりと見える、個性的でユニークな楽曲たち。そして、オーディエンスを巻き込み一緒にコミュニケーションを試みる貪欲な姿勢。彼らの人懐っこさに触れると、まさに“No Visa Needed”と言いたくなる。このステージをきっかけに、さらにたくさんの人と仲良くなり、大きな音楽の輪を作っていってほしい。
[写真:全10枚]