FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - PYRAMID GARDEN 7/29 SAT

ASA-CHANG&巡礼

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Posted on 2023.7.29 15:31

早朝のピラミッドガーデンに響く叫び声

朝9時40分のピラミッドガーデンに、ASA-CHANG&巡礼が立つ。他のステージはまだオープンしていない中、今日一番の早起きアクトだが、昨日パレスで遊び疲れたであろう人たちも元気に早起きしている様子。今日は昨日よりも暑いし、フジロッカーの体力を試される時間帯だけど、彼らを見たかった大勢の人々が会場に押し寄せた。

ステージ下手から後関好宏(Sax,Fl)、ASA-CHANG(Perc,Tp)、須原杏(Vio)と並び、中央にはあの謎の機械、巡礼トロニクスが鎮座する。ASA-CHANGはこちらに背を向け、静かに音を奏で始めた。“影の無いヒト”だ。後関と須原の織りなすストリングスは、レクイエムのようでもあるし、命を狙う悪魔かのようにすっと忍び寄ってくる。途切れながらも紡がれる「言葉」が私たちを静かに刺していく。

ASA-CHANGがトランペットに持ち替えると、クラムボン原田郁子の声から作られた“つぎねぷと言ってみた”へ。チョップされた声ひとつひとつはどこか表情を失っているが、こうして楽曲として構成されると、それ自体が生命として感じられるから不思議だ。

途中MCでは、ステージがまるでお盆の祭壇みたいだ、という話に。敬愛する坂本龍一さんほか、今年もあらゆる方が亡くなったことを話す。そのとき「ちょっと、やだ〜」という声が周囲から聞こえたが、あれはオーディエンスの「縁起でもない」というフォローの声だったのか、それともなんだったんだろう。ふとしたその一瞬に、ASA-CHANGの音楽性が体現されていたと思った。巡礼トロニクスには坂本龍一の声も収録されているという。

続いて“告白”を披露することを宣言すると、周囲から拍手が。映像作家・勅使河原一雅のプロフィール文章をほとんどそのまま歌詞にしたこの曲は、ライヴのアレンジで聴くと、赤ちゃんをあやす「ガラガラ」の音やラジオの音など、当時そこにあった空気が、歴史が、そのままくっきりと浮かび上がってきて妙にリアルだった。巡礼トロニクスを追うように歌う須原の歌声は儚げで、少しでも触ったら壊れてしまいそうな繊細さと切実さを感じる。壊れた機器のように繰り返される〈別れた/出合った〉という言葉が、シニカルに響く。

続いて、フジロックではおなじみだという“海峡”。私達を飲み込むような勢いの波音の中で、何かを守るように続く3人のアンサンブルが、灼熱のピラミッドガーデンに涼しさを届ける。〈抗議/人間/神様〉というワードが繰り返されるセンセーショナルなナンバー“事件”では、後関のサックスがどこかエラー音に聞こえてしまい、世界の深刻さを訴えかけられているような気がした。

最後は、昨年20周年を迎えた“花”だった。“事件”からシームレスに移行し、叫び声、心臓の音など、あらゆる気持ち悪さ、居心地の悪さが音になって露出していく。途中、BPMがぐっと上がり、ガムランのような響きを持つ。巡礼トロニクスから発せられる「声」もラップのようなビートになり、黒いテープを吐き出したVHSのように、たくさんの情報と、もうどうにもならない虚しさが横たわっていた。

晴天でハッピーなピラミッドガーデンで考える、怒りと悲しみと鎮魂。ASA-CHANG&巡礼がここで音を鳴らす意味は、そのギャップにあるのだと思う。彼らは非常にジャーナリズム性の高いバンドだと思うし、そういうところが大好きだ。ときに、音楽の「楽しい部分以外」を見つめ、そして、「楽しい」音楽へも戻ろう。

[写真:全10枚]

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7/29 SATPYRAMID GARDEN