LIVE REPORT - PYRAMID GARDEN 7/30 SUN
GOMA
Posted on 2023.7.31 02:00
音楽の力に感謝!青空と緑の間で踊るピースフル・ダンス・フロア
フジロック3日目も見事な快晴。空も山も青く、雨の降る気配なんてまったくなし。もう最終日の朝を迎えてしまったわけだが、きっと毎年同じように「早いな〜」と思っているフジロッカーばかりで、恒例行事みたいなものでもある。しかし、我々に名残惜しんでいる暇はなく、最後まで全力で楽しんで帰りたい。そこで、最終日のスタートダッシュを気持ちよく迎えるにはどこが良いかと考えた。それは……
ザッザッザッ
我々はフジロックの奥地、ピラミッド・ガーデンへとやってきた。フィールド・オブ・ヘブンの真逆側。テント・サイトを通り抜け、朝の支度をする人々を眺めながら歩いてきたのだけれど、家族連れとアジアからの観光客が本当に多くなったと感じる。今後はもっと外国人客の割合が増えていくだろうとぼんやり思ったりしたが、自分はそれを結構ポジティブに捉えていて、島国・日本で活動するミュージシャンのライブを海外の人に生で観てもらう機会はそんなに多くはなく、フジロックの口コミきっかけで世界的な人気を得るミュージシャンが出てきたら面白いなと夢想している。
そんなことを思いながら、会場へ着くとドラムのサウンド・チェックが聴こえてきた。なかなかここまで足を延ばすことができず、数年ぶりに来たピラミッド・ガーデンは「あれ、こんなにおしゃれで開放感のある場所だったっけ」と、もはや記憶すら遡れそうにない。飲食ブースも充実し、綺麗に整備された公園のようになっていて居心地が良さそうだ。
そう、最終日、最初の選択はGOMAのライブにしたのだ。間違いない。
GOMAは2021年の東京パラリンピック開会式でトラック入場曲と声を担当したので、世界にその名は広がっているかもしれないが、彼もまたフジロックで海外からの観光客にライブを観てもらい、彼の音楽がもっと多くの人へ広がってほしいと思うミュージシャンの1人だ。
GOMAは、オーストラリア先住民アボリジナルの伝統楽器であるディジュリドゥを操って、トランスからブレイクビーツまで吹きこなし、身体と脳を痺れさせるような低音のグルーヴで多くの観客を魅了してきた。近年、画家としてもその才能を広げている彼は、過去交通事故に遭い高次脳機能障害と診断され、活動休止後はリハビリを経て、2011年のフジロックで音楽活動を再開することになるなど、人生の節目でフジロックに出演している。
時刻は、9時40分過ぎ。こんな早い時間なのに、会場では開演を待ち望む人たちがすでにたくさん集まっていて正直驚いた。ステージ前方を陣取って踊る気満々の人も多い。やる気が違うよ、ピラミッド・ガーデンに来たフジロッカーたちは。
GOMAは、今回で3回目のフジロック出演。GOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTIONの椎野恭一(Dr)と2人体制でのライブとなる。「(フジロック以外も含め)今までやったライブで、一番早い時間です」と話していた彼は、チリリンと鐘を鳴らし、静かに手元の小さな打楽器を叩きながら心地よい音像を作り出していく。その優しい音色はピラミッド・ガーデンに響きわたり、涼しい風が吹き抜けた。
そして、十分な時間を使って穏やかな雰囲気を作り上げると、GOMAはディジュリドゥに口を近付け、低音がゆっくりと鳴り響き始めた。椎野のリズムが入ると、突如として緊張感を増す。GOMAは椎野へアイコンタクトを送り、指で天を指し示すとドラムが音の強度を上げていく。
GOMAは「おはようございます」とボソッと挨拶。「そういえば昔、早朝バズーカという番組がありましたけど、朝早くから集まってくれてありがとうございます。ここからは上げていきましょうかね」との早朝ディジュリドゥ宣言に、早朝フジロッカーたちから歓声が飛んだ。
速いドラムのリズムがグルーヴを作り出したところで、「ドゥワプワドゥワプワ」とディジュリドゥの低音がビートを刻み出す。うわぁ〜〜〜久しぶりの生GOMAサウンド!! 低音の振動に鳥肌が立つ。周りの観客たちもたまらず立ち上がり踊り出した。グルーヴが十分に高まったところで、「ワン、ツー!」とのカウントからさらに音の熱量を上げ、会場内の踊りも激しくなる。GOMAの手は自然とそこにはないはずのベースを弾き始め、エア・ベースもまた一緒に疾走していく。天然色のクラブ・ミュージックが鳴り出すと、吸い寄せられるように続々と人が集まってきて、会場はあっという間に音楽ラバーで埋め尽くされた。GOMAサウンドの中毒性は強力で、問答無用で人を踊らせてしまう。それは、早朝だろうとまったく関係がなかったようだ。
GOMAは細くて伸縮可能な軽量タイプの黒いディジュリドゥを持ち出すと、ステージ前へ出て“Bulbupn”を吹き始め、より細かくビートを刻み出した。集まった観客たちは前日までの疲れを忘れて、緑に輝く芝生の上でみんな楽しそうに身体を揺らす。より激しいドラムのリズムで始まった“Drum’n Didge”でたっぷり観客を踊らせると、最後はGOMAが「プワワァァァァァン」と戦国時代のホラ貝のような音で締めた。そんな音出るんだ。
続いては「はっ」と掛け声をかけながらグルーヴを盛り上げていき、激しいドラム・ソロに突入。フジロッカーたちは大きな声援をステージに送った。ドラムがリズムを保ち続ける中、「ありがとね。朝のピラミッド最高!」と晴れ晴れとした表情でGOMAは言う。「今年のフジロック、ピラミッドは特別だからね。いろんな思いが詰まっている。ここにいるみんながずっとずっと幸せでありますように! 大好きなフジロックがずっと続きますように! 4カウント!」と話すと、4カウントめで演奏がピタッと止まり、会場からこの日一番の大きな歓声が起こった。
「最高フジロック! ピラミッド! 来てくれたみんなありがとう!」
喜びの表情を浮かべたGOMAのグルーヴがまた渦を巻くように走り出す。観客は、朝から汗だくになって無我夢中で踊った。「今回初めての朝9時40分から。本当にみんな来てくれんのかな?と思ったからめっちゃ感動しています。ありがとう」「じゃあ最後の1曲、僕らと一緒に楽しんでくれますか!」と“One greeve”へ。最後は椎野のドラムと掛け合いをするように完走した。まだまだ踊り足りなさそうな観客たちとステージ上から記念撮影後、GOMAと椎野は互いを讃え合うように手を繋ぎ、2人で両手を挙げて一礼。拍手に見送られ、ステージを去った。
長かった自粛期間を経て、いま青空と緑の芝の間で、またみんな一緒に音楽で踊ることができる。こんなピースフルな光景は他にはないんではないだろうか。
「音楽の力に感謝します」
そう言って、GOMAは笑った。
<Set list>
1. オープニングセッション
2. wooden mask
3. Omotino
4. Bulbupn
5. Drum’n Didge
6. Afrobily
7. One greeve
[写真:全10枚]