LIVE REPORT - PYRAMID GARDEN 7/30 SUN
原田郁子
Posted on 2023.7.31 03:32
出会った人たちの記憶とともに
1日の終わり、いや、フジロック3日間の最後にピラミッドガーデンまで足を運んだ自分を褒めてやりたい。素晴らしいライブだった。本人は「寝ててもいいよ。フジロックの余韻を担当します」と笑わせていたが、序盤で俄然目が冴えてしまった。
15年ぶりにソロアルバムをリリースしたばかりとはいえ、新曲ばかり演奏する可能性は低そうだ。ならば何を?と静かに期待を込めて待っていると、冒頭の言葉である。場は完全に和む。しかし演奏が始まるといい緊張感が漂う。張らない歌唱とそれに寄り添うピアノで、原マスミの“ピアノ”、マヒトゥ・ザ・ピーポーの”Pupa“のカバーを届けてくれた。ちなみに全曲、演奏の後に曲を紹介してくれたからわかったことではあるのだけれど、オリジナルもあらためて聴いてみようと思う。
この日の昼間、木道亭でも演奏した彼女。なんとギャラが〇〇と〇〇だったことはここにきた人だけが知る秘密にしておこう。笑えるベクトルではあるので、いつか話してくれるかもしれない。
ラグタイムっぽいピアノアレンジで届けたのはおおはた雄一と作った“時がたてば”。どの曲も原田のピアニストとしてのセンスやくせがストレートに伝わる。アーティスティックな鋭さとパーソナルな近さが同居しているのもソロで、しかも爆音から離れたこの場所だからこそ。さっきまでの狂騒と地続きな感じがしない。
アコースティックギターの弾き語りも聴かせてくれるという展開には最初の「フジロックの余韻担当」というリラックスした雰囲気からは随分遠くまできた体感がある。そのスタイルで届けたのはフィッシュマンズの“新しい人”と、「うまく弾けるかわからないけど」と言いつつ始めた、クラムボンの“ある鼓動”。当然ではあるけれど、バンドスタイルとは違う温度の歌唱を聴かせた。何気なくやっているようで、すごくヒストリカル。すごい選曲である。
そしてソロ新曲からは同期も流してここまでとは違うアプローチで聴かせた“青い、森、、”。実験的ですらあるアレンジ、「会えなくなってからのこと」という歌詞にさまざまな場合が浮かんで、瞬時に自分ごとになる曲だなあと唸る。そんなことを考えていたら、曲中に七尾旅人の“サーカスナイト”の一節が織り込まれて、脳内の景色がブワッと立体的になる。
そして最後は「谷川俊太郎さんと作った曲です」と、曲紹介をして“いまここ”を披露。さまざまな人が話す“いまここ”の音声が意味を持つ曲だ。ステージ上には彼女一人だが、一人で作り上げたものではない音が鳴っている。曲の後半にrei harakamiのシグネーチャーとも言える丸い音が聴こえた。“暗やみの色”から“Intro”をサンプリングしたものだと後から知ったのだが、電子音でこれだけ個性のある音色なんてそうそうない。まったり過ごすつもりだったが、終わってみればアーティスティックですごく濃い。最後の最後に深層にタッチされた1時間。今年のフジロックに悔いなし。
[写真:全10枚]