LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/27 THU (EVE)
紫
Posted on 2023.7.28 10:36
目の前のオーディエンスと対峙してきた歴史
前夜祭のラインナップが発表されると同時にSNS 上にいくつか「紫ってあの紫?」という文言が並んだ。私も同じ「?」が浮かんだ。調べると、沖縄復帰20周年にあたる1992年に再結成していたようだ。個人的には沖縄がまだ本土返還される前の、だけどなぜか日本でも屈指のハードロックバンドというイメージが強かっただけに、現在、再び精力的に活動していること自体に驚いたのだ。
夕方までの湿気たっぷりな空気も気温が下がったことで気にならないというか、じっとしていると寒さを感じるぐらいのRED MARQUEE。DJ MAMEZUKAのトライバルなテクノはド派手な映像と、フロアを照らすムービングライトも相まって、老若男女を躍らせていた。その後、恒例の花房浩一の挨拶を挟んだ22:40。お腹も満たされ、アルコールも程よく摂取したオーディエンスは前夜祭をまだまだ楽しんでいる。さらに人が増えてきた。
そこに勇壮なSEが流れ、太陽に“紫”の一文字があしらわれた映像が写し出されると、唸り声のような歓声が上がった。みんなどんな情報なり知識なり好奇心でここにいるんだろう?面白すぎる。ボーカル以外のメンバーが登場して、冒頭から15分はあっただろうか?ブルースをベースに持ったハードロックは想像以上に引き締まってタイトだ。残念ながら曲名を記せるほど詳しくないので、ストレートに受けた印象で書くほかないのだが、70年代から続いてきたハードロックという、どちらかといえば様式美寄りの音楽をモダンな音響システムで体験している事実が個人的にはシュールだ。だけど、若いオーディエンスにはただただそのデカい音と確かなアンサンブルに素直にリアクションしている。その景色自体が美しいと思ったのだ。
ボーカリストも「シャウトってこれだよね」と、間抜けな感想を抱くほど、地力の違いを感じる声量とパワー。民謡もハードロックもオペラにも共通する、初見の人間を薙ぎ倒す強さ。アメリカの軍人相手に、演奏がショボかったら容赦なくビール瓶が飛んでくるなんて、映画みたいな状況でライブしてきたバンドである。今ここでも恐らくほとんどのオーディエンスは予備知識はないのだから。
レパートリーはハードロックだけじゃなかった。いや、ヴァースはハードロックだけど、アウトロに向けて沖縄民謡のメロディを持つ(というかヨナ抜きか)ピアノのメロディに波の音のSEが重なる楽曲はこのバンドにしかない個性だろう。ちょっと驚いたのは彼らがディープ・パープルの影響下にあり、“ハイウェイ・スター”のカバーは音源にもあることは調べてわかったのだが、ラストにこの曲を持ってきたところ。もちろん盛り上がるのである。ツインギターのカタルシス、爆走するドラミング、そして何よりある種の格調を添えるオルガンリフ。オリジナルにこだわるということに大した意味はないのかもしれない(か、どうかは真意を知りたいところではあるが)。目の前にいるオーディエンスを演奏で圧倒し、歓喜させることで生き抜いてきたバンドが2023年の夏、苗場の地にいた。
[写真:全10枚]