“ノグチアキヒロ” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '23 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/23 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Fri, 18 Aug 2023 09:33:43 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.23 帰ってきた大将…… みんな、それを待っていた。 http://fujirockexpress.net/23/p_9601 Mon, 14 Aug 2023 03:03:36 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=9601  たまたま見た記事に使われていた「完全復活したフジロック」という見出しに目を疑った。どこが? これを書いたのは、フジロックの一部しか知らない人か? あるいは、これが「忖度」ってヤツか? 興行的な側面を見れば、確かに近いものはあるかもしれないし、コロナのことなんぞ気にかけることもなく、やっと普通に遊べるようにはなっていたけど、「完全」はないだろう。もちろん、4年越しに復活したパレス・オヴ・ワンダーが、「らしさ」を垣間見せてくれたのはある。あれは生粋のフジロッカーにはめちゃくちゃ嬉しかった。が、「完全復活」という言葉を使うには無理がある。奥地に姿を見せていたカフェ・ドゥ・パリもなければ、音楽好きにはたまらない魅力となっていたブルー・ギャラクシーもない。ワールド・レストランがあった場所は、ただの空き地だ。開幕前と言えば、フジロックを生み出した、我々が大将と呼ぶ日高氏の影はきわめて希薄で、メディアではなにやら「過去の人」のようにされてはいなかったか。

 が、フジロックは日本のロック界を揺り動かし、変革し続ける希代のプロデューサー、日高正博氏そのものであり、その業績が結晶となったものと思っている。その原型といってもいい、アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティヴァルをUKのグラストンバリー・フェスティヴァルの影響の下にぶち上げたのは、今から40年ほど前。あの頃から旧態依然とした音楽業界に風穴を開け、激震を与え続けているのが彼であり、その集大成がフジロックなのだ。

 彼が率いるスマッシュという会社が立ち上がったのは、そのしばらく前のこと。まず彼が着手したのは、国内でレコードも発売されていないようなアーティストの招聘だった。それまでの海外アーティストの来日といえば、圧倒的なレコード・セールスを記録し、誰でも知っているスターばかり。ところが、彼が着目したのはひと癖もふた癖もあるアーティストだった。名義こそスマッシュではなかったかもしれないが、最初に招聘したのはジョージ・サラグッドとデストロイヤーズではなかったか。当時、このアーティストの存在を知っている人は多くはなかったはずだが、一連のライヴが大好評を博している。しかも、会場となったのは、海外からのアーティストが使うことはほとんどなかった小さなライヴハウス。それも画期的だった。その後も、インディ系ロックからアンダーグランドのパンク、レゲエやワールド・ミュージックにいたるまで、ジャンルにとらわれることなく、なによりも彼が信じる才能やシーンを日本に紹介することを最優先して動いていた。

 同時に、座席付きの会場がコンサートの定番となっていたことに疑問を抱いた彼は、ボクシングやプロレスで知られる後楽園ホールに着目。なんとホールの中にステージを設営して、スタンディング・スタイルのライヴを企画していくのだ。ちょっと座席を立っただけで警備員に止められたり、会場から追い出されるのが常識だった時代に、「好きに踊りなよ」というライヴの場を提供したのは画期的だった。といっても、インフラが整っているコンサート・ホールとは違って、ステージから音響に照明まで全てを用意しなければいけない。当然、金がかかる。金儲けが目的の興業屋だったら、こんなことをするわけがない。それはフジロックでも同じこと。なにもない場所に全てを作り出すことで、どれほどの経費がかかるか? 杭を一本打つにも資材やその輸送費に人件費が必要となるのだ。

 それでも、オーディエンスにとって自由に音楽を楽しむことができるライヴがどれほど嬉しかったか? この時、UKレゲエのアスワドやUSで衝撃を与えていたヒップホップ、ビースティ・ボーイズをここで体験した人達にはわかったはず。これこそが音楽の魅力を、そしてその背景をも伝えてくれるライヴの場なんだと。しかも、当時、ライヴが始まる前のコンサート・ホールといえばシ~ンと静まりかえっているのが普通だったのに、ここでは出演するアーティストに絡んだ音楽が大音響で鳴らされている。それまで当然のように幅をきかせていた「音楽鑑賞会」と呼ばれていたコンサートとは全く違った空気が流れていた。思い起こせば、スタンディングが当然の場として、先駆けとなる渋谷クアトロが生まれたのは1988年。後楽園ホールで幾度もライヴが開催された後なのだ。

 実は、DJやクラブの動きに関しても、大きな役割を果たしていたのが大将だった。黎明期のクラブ・シーンを語るときに欠かせない桑原茂一氏率いるクラブ・キングと一緒に海外からDJを招聘したのは1986年。フジロックでもおなじみのギャズ・メイオールと、当時、ロンドンのダンス・ジャズ・シーンで脚光を浴びていたポール・マーフィーを来日させている。さらには、ユニークなダンス・スタイルでマンチェスターから躍り出たダンス・トゥループ、ジャズ・デフェクターズも招聘。会場となった原宿ラフォーレでは深夜になっても行列ができるほどの反響を生み出していた。

 さらに91年にはアシッド・ジャズからUKジャズを牽引したメディア、Stright No Chaserと共同でクラブ・イヴェントを企画。Kyoto Jazz Massiveとモンド・グロッソが初めて東京に進出し、U.F.O.とDJ Krushが一堂に会して、UKジャズをリードしていたスティーヴ・ウイリアムソンのバンドThat Fuss Was Usと、しばらく後に世界的ヒットを生み出すDJユニット、US3を迎えてた大規模なパーティも実現させている。4000人超を集めてオールナイトで繰り広げられたこれが、日本のクラブ・シーンを一気に活性化させるのだ。

 そういった大将の業績を集約するように始まったのがフジロックだった。誰もが「無謀だ」、あるいは、「これでスマッシュも倒産だろ」と口にしたのが1997年の第一回を前にした頃。ものの見事に台風にやられて、2日目をキャンセルせざるを得なくなったのを「ざま見ろ」と口にした業界人も多かった。加えて、会場に来ることもなく「観客を管理する柵も作っていない」と批判をぶつけてきたのが大手メディア。「ロック・フェスティヴァルに来る人間は無知で粗野な人種だ」とでも決めつけているんだろう、そんな「常識」との闘いがこの時から始まっていったのだ。

 その最前線にいたのが大将であり、奇抜とも思えるアイデアを次々と現実にしてフジロックを成長させてきたのも彼だった。いうまでもなく、周辺にいたスタッフはたいへんな思いをしたに違いない。なにせ彼に「常識」は通用しない。が、それがフジロックを他のなにものにも比較することができないユニークなフェスティヴァルとしてきたのだ。会場外にステージを作って、奇妙奇天烈なサーカス・オヴ・ホーラーズを招聘したのは2000年。翌年には、同じ場所に、出演者でもないジョー・ストラマーとハッピー・マンデーのベズを中心としたマンチェスター軍団から、後にスターになる娘、リリーを伴った俳優のキース・アレンらを呼び寄せて、フリーキーな遊び場を作っていた。さらに、翌年になると、UKのアート&パフォーマンス軍団、Mutoid Waste Companyをリードするジョー・ラッシュがここにパレス・オヴ・ワンダーと呼ばれる空間を生み出している。その延長線にあったのが、オレンジコートの奥地に生まれたカフェ・ドゥ・パリやストーン・サークル。フジロックを単なる野外コンサートではなく、どこかで奇想天外で別世界のような祭りに仕上げていったのは間違いなく大将だった。

「俺たちにはそんな大将が必要なんだ」という想いを形にしたのが、3年前に初めて彼の写真を使って我々が発表した「Wanted」のTシャツだった。元ネタは1981年に発表されたピーター・トッシュのアルバム・カバー。下敷きとなっているのはマカロニ・ウェスタンや西部劇と呼ばれるアメリカ映画でよく見かける指名手配書だ。賞金額と「Dead or Alive」(生け捕りでも死体でも)という言葉がセットになっていて、人相書きを元に、賞金稼ぎがその首を狙うというもの。今もこんなのが生きているのかどうか知らないが、ピーター・トッシュはこのジャケットで「俺は危険なアーティスト」というイメージを打ち出したかったんだと察する。

 一方で、日高大将をネタに僕らが作ったヴァージョンには全く違った意味が込められていた。賞金の代わりに並べたのは「9041」という数字。囚人番号にも見えたこれは彼が大好きな言葉、クレイジーをもじった番号で、「Not Dead But Alive」としたのは、「生きていてもらわないと困る」からに他ならない。コロナ禍できわめて厳しい状態に直面しているフジロックが生き残るのみならず、本来の姿に戻ってさらに深化(進化)させるのに、必要不可欠なのは元気に走り回る日高大将。と、そんな想いを込めていた。

 最低限の取材経費を主催者から受け取っても、独立性を保つためにも、日常活動に関しては一銭のギャラも受け取らないボランティアで構成されるのがfujirockers.org。というので、その始まりから、活動資金作りのために様々なアイデアを絞り出している。そのひとつが、Tシャツなどの物販で生まれる収益。その歴史でかつてないほど好評だったのがこの作品で、以前とは比較にならないほどの売り上げを生み出していた。おそらく、この結果が生まれたのは、会場にやって来るフジロッカーズも同じような「想い」を共有していたからだろう。

感染防止のためにがんじがらめのルールに縛られながら、「なんとかフジロックを支えたい」という思いが際立った2021年にこれを作っていた。規模を縮小しなければいけないという流れの中で、集まった人達の数は史上最低。恒例となっている前夜祭での集合写真も撮影できなかったし、なにやらもの悲しかったのが花火大会。さらには、「声を上げるな」というので、ライヴでの歓声もないという、きわめて異様な光景が広がっていた年だ。それでも、出演者関係者のみならず、集まってきた参加者から「なんとかフジロックを守りたい」という思いがひしひしと伝わってきたのをよく覚えている。それは、現場に来ることを選ばなかった人達からも同じように感じていた。

 そして、「いつものフジロック」を謳って開催された去年も、現場ではぴりぴりした空気が漂っていた。なんとか恒例の前夜祭での集合写真は撮影できたものの、あの時、「みなさん、マスクを付けてください」と、この奇妙な時代を象徴する記録を残そうとしたことを覚えている方もいると思う。オレンジカフェのテントで食事をしようとしても、テーブルを仕切る透明の板の上には大きく「黙食」と書かれていて、久々に会った仲間との会話さえはばかられる。確かにライヴは行われたけれど、なにか釈然としないものを感じていた。グリーン・ステージの最後のバンドが演奏を終えて、いつもなら、祭りの終わりをみんなで共有する時間があったはずなのに、それもなかった。当然のように、オーディエンスの集合写真を撮ることもなく、静かに幕を閉じていった。

 それよりもなにより、フジロックでしか体験できない時間や空間を感じることがほとんどなかったのが昨年。それを象徴していたのがパレス・オヴ・ワンダーの不在だった。なにやら、フジロックからフェスティヴァルの要素がすっぽり抜け落ちて、ただの野外コンサートになっていたような感覚を持った人も多かったのではないだろうか。この時、フジロッカーズ・ラウンジでは「Where Is “Wonder”?」という写真展を開催している。「どこに『驚き』があるの?」とここで問いかけていたのは、パレスに絡んだことだけではなかった。かつてジョー・ストラマーが口にしたように、「年にたったの3日間でもいい。生きているってどういうことかを感じさせるのがフェスティヴァル」だとしたら、それがどこにあるのか? そんな疑問を感じざるを得なかったのだ。

 もちろん、パレス・オヴ・ワンダーの主力部隊がUKからやって来るスタッフだというのは、多くの人が知っている。コロナの影響で彼らの来日が難しいというのは百も承知で、同じく、大幅な縮小での開催を余儀なくされたという、経済的な打撃が後を引いているのは理解できる。が、その上で「いつものフジロック」を謳うのは「違うだろ!」という声が多数派をしめていた。

 さらに、以前なら、ジープに乗って会場を動き回っていた大将の姿を見かけることはほとんどなかった。そうやって会場に集まっていた人達と会話を交わしたりと、いつもフジロッカーに最も近いところにいたのが大将。1997年の第1回が始まる以前から、Let’s Get Togetherと名付けた公式サイトの掲示板経由で、オフ会にまで顔を出して、彼は日本で初めて継続的に開催することを目論んでいたフジロックのお客さんたちと繋がろうとしていた。その掲示板が独立するような形でfujirockers.orgが生まれた後も、「なにかをやりたい」と集まってきたスタッフと幾度となくミーティングをしたり、インタヴューの場を設けてくれたり……。それが終わると、みんなを引き連れて居酒屋に出かけて四方山話となるのだ。フジロックが成長するにつれて、そういった機会は少なくなっていくのだが、それでもフジロックを愛する普通の人達の声に彼はいつも耳を傾けていた。

 我々フジロッカーの想いは、「Wanted」のTシャツに集約されていた。大将が最前線に戻ってきて欲しい。だからこそ、昨年も「Mad Masa」のTシャツを制作。そして、今年は、彼が復活させた「苗場音頭」と忌野清志郎と作り出した「田舎へ行こう」のシングル盤を作り出すことでその重要性を訴えようとしていた。常識ではあり得ないだろう。レコード会社でもない、フジロックを愛する人達のコミュニティ・サイトを運営するfujirockers.orgがレコードを発売するという、前代未聞のプロジェクトだ。そのアイデアを彼に伝えると、二つ返事で「じゃ、事務所につないでやるよ」と動いてくれたのだ。

 そのプロモーションで動き回るなか、フジロックが生み出した「故郷」を認識することになる。「ずっと都会生まれで都会育ちの人にとって、苗場が毎年帰ってくる田舎のようなものになっていったんです」と語ってくれたのは、7月頭の苗場ボードウォークで語り合ったフジロッカーだった。なにやら故郷に帰る人達のアンセムのような響きを持つのが「田舎へ行こう」であり、彼らを暖かく受け入れて迎えてくれるのが「苗場音頭」。フジロックは野外コンサートを遙かに超えて、年に一度「生きている」ことを祝福する故郷の祭りとなっていることを思い知らせてくれるのだ。

 そのフジロックに危機が訪れていた。コロナの影響で思い通りに開催できなかったことから負債が累積。と、そんな噂が駆け巡っていた。予算も縮小しなければいけないし、今年がうまく行かなかったら、来年はない……。毎年のように「来年はないかもしれない」という危機感は持っていたんだが、それがいよいよ現実になるのかもしれない。噂の域を出てはいないというものの、想像してみればいい。もしもフジロックが開催されなかったら……。まるで故郷をなくしたような気分に陥るのだ。

 しかも、当初は予算の関係で不可能だと思われていたのがパレス・オヴ・ワンダーの復活。突き詰めていけば、コロナの影響によるダメージで、なによりも実現しなければいけないのはコンサートであって、それ以外のものは「無駄」だという発想が支配的になっていたからだ。それでも必死に食い下がったのが、UKチームのボスから東京のスタッフ。彼らがなんとか復活させたいと必死に動いていた。実を言えば、ほとんどの関係者が、守ろうとしたのはフジロックという「フェスティヴァル」であり、その象徴がここにあった。

ひょっとすると、それこそがフジロッカーズをつなぎ止めたのかもしれない。メインのステージでの演奏が終わると、行き場所がなかったのが昨年。が、今年は違った。様々なオブジェが姿を見せ、サーカスまでもが繰り広げられる。まるで映画のセットのようなその空間に浮かび上がる木造テント、クリスタル・パレスは健在だった。4年間も放置されたことで、かなりの修復が必要だったらしいが、今年もユニークなバンドの数々とDJたちが至福の時間を生み出していた。特に嬉しかったのは、その箱バンのような存在だったビッグ・ウイリーが戻ってきたこと。いつも通り、ちょいとセクシーなダンサーたちと極上のエンタテイメントを提供してくれた。

 残念ながら、ダブルAサイドで復刻した7インチのアナログ・シングルを生むきっかけとなったブルー・ギャラクシーの復活を願う声は主催者には届かなかった。まずはJim’s Vinyl Nasiumとして生まれ、それが成長して新たな名前を付けられたここで蒔かれた「音楽を楽しむ」という種を各地に持ち帰った人達が育てたのがフジロッカーズ・バー。もちろん、DJバーの土壌はすでに存在したし、ジャズ喫茶やクラブの文化も背景にはある。その全てが複雑に絡みながら、発展してきたことは言うに及ばない。が、ここから生まれたフジロッカーズ・バーというイヴェントが日本全国の様々な町で企画され、音楽を楽しむ場として定着しつつあることも見逃せないのだ。

 そんな仲間に手をさしのべてくれたのが会場外でジョー・ストラマーの遺産を守り続けるJoe’s Garageだった。「いいですよ、ここを使ってくれたら」とフジロッカーズ・バーでDJを続ける仲間たちがここに集まっていた。彼らはチケットを買ってフジロックにやって来たお客さんでもある。その彼らに「めちゃくちゃ楽しい」と言わしめたここは、UKチームのたまり場でもあり、ここでも祭りの文化が花開いていた。

 そして、なによりも嬉しかったのはフジロッカーズが「帰ってきてくれ!」と願い続けてきた大将の姿が、今年はあちこちで目に入ったことだろう。しかも、どん吉パークではいきなりステージを作って、苗場音楽突撃隊のライヴを実現させている。と思ったら、最後の朝、月曜日の早朝のクリスタル・パレスでは、ビッグ・ウイリーのバーレスクが演奏を終えたっていうのに、ステージに姿を見せた彼が言うのだ。

「もっともっと聞きたいだろ!」

 と、オーディエンスに呼びかけてアンコールをせがんでいた。へとへとになっているバンドも大将に言われたら、断れない。というので、予定外の演奏が始まっていた。なにが起こるのか、予想もできないハプニングが待ち受けているのもフジロック。それを動かしているひとりが、言うまでもなく大将なのだ。

 いつもなら、全てが終わった後、入場ゲートに「See You」と来年の告知がされるのだが、今年は昨年同様日付が記されてはいなかった。さて、本当に来年のフジロックはあるんだろうか? きっと、あるんだろうと信じたいのはやまやまだが、どこかで「まさか..……」という疑念も振り払うことができない。

 いずれにせよ、ここ数年、ずっと頭に浮かぶのは、パレス・オヴ・ワンダー、生みの親のひとり、Mutoid Waste Companyのヘッド、ジョー・ラッシュがインタヴューで残してくれた言葉。

「フェスティヴァルってのはね、ただ口をぽかんと開けて、(チケットの金を払ったんだからと、それに見合う)なにかを受け取るだけの場じゃないんだよ。自らその一部となるってことだと思うんだ」

 おそらく、fujirockers.orgのスタッフもそんな人達の集まりだろうし、会場の外でJoe’s Garageを生み出した仲間も同じだろう。苗場音頭のために浴衣を持ってきたり、コスプレで遊んだり、あるいは、お客さんなのにレコードを持ってきてDJをしたり、どこかで誰かが演奏を始めたりってのも、自らフェスティヴァルを作り出すってことなんだろう。そんな人達がいる限り、フジロックは「終わらない」と思えるんだが、どんなものだろう。もし、開催が危ういというなら、大騒ぎをして主催者を動かしてやろうじゃないかとも思う。

 さて、好天続き……というよりは、炎天下に襲われたのが今年のフジロック。まだまだ完全復活には時間が必要かもしれないが、それでもフジロックでしかない貴重な時間や体験を生み出す、フジロック本来の魅力を伝え続けてくれたのは、以下のスタッフ。ありがとう。こよなくフジロックを、そして、フジロック的なものを愛するあなたたちは、間違いなく「フジロック」を作り、支える仲間です。

 また、赤字で当然のレコード再発プロジェクトを支えて協力してくれたスタッフ、フジロッカーズ・バーの仲間のみなさん、ありがとう。まだまだ売らないと元が取れないというのでここで、もう一度大宣伝です。契約の関係上、レコード屋さんでは買うことができないことになっているこのシングル、忌野清志郎の「田舎へ行こう! Going Up The Country」と円山京子の「苗場音頭」をカップリングして、両A面としているこのレコードはこちらで購入可能です。これを買って、fujirockers.orgを支えていただければ幸いです。
https://fujirockers-store.com/collections/cd-lp

FUJIROCK EXPRESS’23 スタッフクレジット

■日本語版
あたそ、阿部光平、阿部仁知、イケダノブユキ、ミッチイケダ、石角友香、井上勝也、岡部智子、おみそ、梶原綾乃、紙吉音吉、粂井健太、小亀秀子、古川喜隆、小林弘輔、Eriko Kondo、佐藤哲郎、白井絢香、suguta、髙津 大地、近澤幸司、名塚麻貴、ノグチアキヒロ、馬場雄介(Beyond the Lenz)、HARA MASAMI(HAMA)、平川啓子、前田俊太郎、三浦孝文、森リョータ、安江正実、吉川邦子、リン(YLC Photograpghy)

■E-Team
カール美伽、Jonathan Cooper、Park Baker、Sean Scanlan

■フジロッカーズ・ラウンジ
mimi、obacchi、SEKI、yamato

■TikTok
磯部颯希

■ウェブサイト制作&更新
平沼寛生(プログラム開発)、迫勇一、坂上大介

■スペシャルサンクス
三ツ石哲也、若林修平、東いずみ、Nina Cataldo、卜部里枝、takuro watanabe、Chie、竹下高志、西野太生輝

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fujirockers.orgは1997年のフジロック公式サイトから派生した、フジロックを愛する人々によるコミュニティ・サイトです。主催者からのサポートは得ていますが、完全に独立した存在として、国内外のフェスティヴァル文化を紹介。開催期間中も独自の視点で会場内外のできことを速報でレポートするフジロック・エキスプレスを運営していますが、これは公式サイトではありません。写真、文章などの著作権は撮影者、執筆者にあり、無断使用は固くお断りいたします。また、文責は執筆者にあり、その見解は独自のものであることを明言しておきます。

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YUKI http://fujirockexpress.net/23/p_1617 Thu, 03 Aug 2023 05:07:22 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1617 最終日のグリーン・ステージは、夕方になってだいぶ涼しくなってきた。言ってみれば、それはフジロックの終わりが近付いているということで、何だかセンチメンタルになってしまうのは仕方がないことかもしれない。

バンド・サウンドに乗っかって、YUKIはひらりとグリーン・ステージへ入ってきた。2017年にフジロックへ出演して以来の6年ぶりのステージ。長く活躍する実力を持った日本を代表するミュージシャンであることはもちろんだけど、いまなお変わらずに、そこにいるだけでポップ・アイコンとして成立し、人々を元気を与え続けているパワーがスゴい。グリーン・ステージに立つ彼女の姿を見ただけで、自然とテンションが上がり、これから始まる素敵な時間が約束されるのだから。YUKIの登場とともにステージ前方へ走るフジロッカーたちの気持ちがよく分かる。

今日のYUKIはというと、綺麗な金髪に……語彙力がなくて申し訳ないが、真っ白でフワフワのプリーツのような生地をランダムに幾層か重ねて、シルエットの丸い、動きのあるドレスから脚を出してスニーカーを合わせて、白いマイクを持ち……というような格好で、説明ド下手だけど、今日もYUKIがめちゃくちゃ可愛かったことだけは書いておこう。星を食べて生きていらっしゃるんだろうか。異次元レベル。

ただ、この日の彼女は、いつもとちょっと違っていた。グリーン・ステージに立つと、一瞬その景色をゆっくり目に焼き付けるように見わたした。

1曲目の“My Vision”からYUKIはフルパワー。軽快だが太く芯のあるサウンドに、「ああ、この音だ」と嬉しくなってしまう。彼女は舌をチロッと出しながら、丁寧に歌い上げていく。最初の曲から、彼女の顔は少し紅潮していることが見て取れた。ただ、真夏のステージで暑いし、全身を使っているしで、このとき、そのことはそこまで気にはならなかった。

演奏の最中、YUKIは巨大なグリーン・ステージの空間に浮かぶ小さなシャボン玉をその目に捉えていた。

“ふがいないや”で「フジロック!」と声を出すと、一気に会場の心を掴んでしまう。「いい夏の思い出作っていこうぜ!」と“JOY”のイントロで観衆を沸かせ、珠玉のポップ・チューン連発で畳み掛ける。

「改めまして、YUKIです。こんにちは!」と元気に挨拶。

「こんなに素敵な景色を見ながら、こんなに素晴らしいミュージシャンたちと素晴らしい日を過ごせていることが奇跡みたいで本当に嬉しいです。今日は本当にありがとうございます!」と、その想いを告白した。「シャボン玉みたいなのが飛んでたけど、感動して泣きそうになって“泣かないでYUKI”と思いながらね(笑)、歌ってたわ」と、会場からは「可愛い〜!」といった声が方々から飛んだが、今日のYUKIは、ステージに立った瞬間からこみ上げてきている何かがあったのだ。

「今日も月が綺麗なのは そう 君が笑っているからさ」と愛を歌う“Baby, it’s you”から、ダンサブルなビートでグリーン・ステージを踊らせる“星屑サンセット”へ。サビではみんなで手を上げ、曲の持つ瞬く星のような疾走感とともに気持ちが高揚していく。アウトロでは、その加速度で止まれなかったのか、YUKIまで「タッタッタッ」とステージ上で駆け足していた。

“プリズム”で「涙の河を 泳ぎきって 旅は終わりを告げ」「あなたは今も しかめ面で 幸せでしょうか」と遠くを見つめて歌ったYUKIは、顔を赤くし、目を潤ませた。ライブ中、彼女は「ソロになってデビューしてからは20年が経ちました」とフジロッカーに報告した。人生の機敏を丁寧にすくい上げてきた作品群を聴けば、彼女が今までどれだけの河を泳ぎ、人の幸せを願って活動してきたのだろうかと感じざるを得ない。

YUKIにとっても、今日のグリーン・ステージでのライブは、一つの区切りであったのではないだろうか。「花咲く丘まで口笛を吹いていこう」と歌うと、YUKIはさらに涙ぐんだ。コロナ禍が発生し、人との距離感は変わり、戦争や災害は起こり、先行きは見えず、道に迷いそうな僕らに彼女は口笛を吹いていこうと歌う。涙を堪えたYUKIは、「高鳴るは、胸の鼓動」とプリズムを会場へと反射させた。

身体を揺らす4つ打ちのビートに乗せて、“⻑い夢”に迷い込んだ何万人のフジロッカーの中からYUKIは「淋しがりやはどこだ」と探す仕草を見せる。もしかしたら、一番の淋しがりやは彼女自身なのかもしれない。渾身の力を込めて「そこへ行くにはどうすればいいの?」と彼女は歌い、まだこれから続く新たな旅路を見据えて「バイバイ」と過去に別れを告げる。歌い終えたYUKIは、頬を伝う涙を拭った。

“ランデヴー”に入ると、YUKIは歌いながら観衆の多さに驚いていた。こちらも歌に集中していたため気がつかなかったが、客席前方側から後ろを振り返ると、山側の方まで埋め尽くすように観客が増えていた。ステージからの光景はきっと気持ちいいだろうな。グリーン・ステージの後ろの方まで、多くの人がグッド・メロディで踊っている。ファンキーなギター間奏がさらに気分をグッと押し上げた。

「音楽が大好きな人たちが集まって、こうやっていつも通りのフジロックができて最高です!!!」と叫び、急に叫んだ自分で我に返るYUKI。ステージから広がる景色に、万感の想いがあったに違いない。ソロ・デビューして21年目。いまも現役どころか、20年間でとんでもない馬力の高性能POPスター・エンジンを作り上げた彼女は、今日もドルンッとフカして“WAGON”を走らせる。YUKIも間奏で、白い衣装を閃かせて全身で踊った。

「今日はどうもありがとうございました」

最後は「放り込むの 歓び 全て」と歌い、“鳴り響く限り”を穏やかに演奏し終え、グリーン・ステージでのライブを大成功させた。今日の厳選されたセットリストは、過去と未来を見つめた彼女の想いが強く反映されたものだと感じて止まない。

「そのドキドキはずっと終わらない」
「わたしのこのドキドキは終わらせないと言ってくれ」

そう言って、YUKIは「サンキュー! バイバイ!」とジャンプして、新たな旅へと出発した。また見えた光。またいつも通りの日常を掴んで離したくない。そんな気持ちにさせられた。

<Set list>
1. My Vision
2. ふがいないや
3. JOY
4. Baby, it’s you
5. 星屑サンセット
6. うれしくって抱きあうよ
7. プリズム
8. ⻑い夢
9. ランデヴー
10. WAGON
11. 鳴り響く限り

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BALMING TIGER http://fujirockexpress.net/23/p_1664 Wed, 02 Aug 2023 12:49:55 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1664 「バーミングタイガーの新しくなった公演」「今から始まります」と明らかにGoogle翻訳っぽい日本語がレッド・マーキーのステージ上に映し出された。

念仏が聴こえ、木魚を叩くようなSEの流れるステージには、キャラ絵顔の箱を被った5人のメンバーがDJブースの前に静かに並んでいる。もう1人はDJブースに立っているようだ。割れんばかりの大歓声に迎えられて。

この日のレッド・マーキーの注目度は並大抵ではなかった。観客席前方に多くのフジロッカーが詰めかけていたが、日本人が多かったのか、日本以外のアジア人が多かったのかも判別がつかなかった。アジア系の海外勢フジロッカーがこんなに多いフジロックは個人的に初めてだ。年齢層も20〜30代といったところか。彼らが注目されていたのは知っていたけど、比較的若い世代にここまで人気とは。

バーミング・タイガーはアジアの有名な軟膏「タイガーバーム」からその名を取り、多様な才能が集まった音楽集団で、自分たちのことを「多国籍オルタナティブK-POPバンド」と表現している。メンバー総勢11人それぞれが個々でも活動を行う若手気鋭のクリエイティブ集団だ。

今回、フジロックのステージに登場したのは、メンバー11人のうち、パフォーマー4人とプロデューサー2人の計6人。リーダーでプロデューサー兼クリエイティブ・ディレクターのサン・ヤン、緑の髪がトレードマークで有名なラッパーのオメガ・サピエン、シンガーソングライターでラッパーのマッド・ザ・スチューデント、紅一点のR&Bシンガーであるソグム、低音ボーカルのBjウォンジン、ヴィジュアル・アーティストでプロデューサー兼クリエイティブ・ディレクターのホン・チャニだ。ステージに登場しなかったメンバーは割愛するが、他にもDJ・音楽プロデューサー、映像監督、マーケター、A&Rなど裏方仕事も含め、それぞれがパフォーマンスだけではなく、職種的にも違った個性を持ち合わせているハイブリッドさだ。

“JUST FUN!”を聴いたときからバーミング・タイガーのファンだったというBTSのRMをフィーチャリングし、話題を呼んだヒットシングル“SEXY NUKIM”(日本でもBTSファンに知られる存在となった)が、いまのところ日本では一番有名な曲であろう。

彼らの音楽性やPVに触れると伝わってくるが、彼らは現代の若者を代表して、新たな価値観を提示しようとしている。ヒップホップと韓国のK-POPをベースにしつつも、国境を越えたアジア文化をクールなものとして世界に発信していこうとする気概があるのだ。

1曲目は、力強いビート・トラックにオメガの男臭いフロウが乗る“Kolo Kolo”。“Kolo Kolo”は韓国語で咳を表すオノマトペだ。繰り返される「ハクナマタタ」のフレーズがキャッチーだが、ヤンチャ感が強い。ヒップホップやパンクなどがベースにあるが、最近こういった暴れ感のあるグループはあまりいないなと一発で思わせてくれる。“Jiāyóu”でソグムのラップが入り、会場から「わぁ!」と歓声が漏れる。リズム・トラックからヒップホップとプリミティブな民族音楽的要素との融合を感じられるし、振り付けも洗練された、というよりヒップホップに生物的な肉体表現や記号性を過剰に足している感じで面白い。というか、バーミング・タイガーってめちゃくちゃ踊るんだね。

「Fuji Rock! What’s Up!?」「Open your eyes! Right now!」と会場に呼びかければ、大歓声が上がり、もう場内はオーバーヒート状態。フジロッカーの反応だけで、彼らの注目度の高さが分かる。ライブ冒頭の日本語スライドは、“Armadillo”のPVで差し込まれた「バーミングタイガーの新しいミュージックビデオ」文字画像のセルフ・パロディだ。このPVはオメガが過ごした日本で撮影されている点も面白い。彼は母国・韓国を離れ、日本やアメリカ、中国で育った、いわゆるサード・カルチャー・キッズで、そのアイデンティティの複雑さがバーミング・タイガーの自由さの一因でもありそうだ。

とあるバースが近づくと、DJブースから松葉杖をついた(!?)マッド・ザ・スチューデントが飛び出してきて会場全員がビックリしたが、気にせずソグムに次ぐ高音ラップを繰り出した。どうやら怪我をしたようだが、それに負けじとマッドの元気なフロウが気持ちいい。ステージ中心で2人が踊っているときは、他の4人は端に避けていたり、振り付けがしっかり決まっていたり、彼らはプロダクションとしてかなり見せ方にこだわっている印象。曲が終わると、マッドはDJブースへと戻った。

ソグムをフィーチャーした“Moving Forward”から“BuriBuri”で観客は大盛り。ソグムは髪をかき上げてセクシーにダンス。「Shake it Shake it」「BuriBuri」のキラー・フレーズに、ダンスも含め、日本でもTikTokなどで流行りそうな気がする。もしや、もう流行っているのかな?

“Kamehameha”でも感じるこの民族音楽っぽさは、韓国の音楽から来ているのだろうか。韓国のその辺りの音楽を知らないので断言できないが、世界的な流行方向へ洗練されていくK-POPに、土着的な成分を色濃く注入しているようなミクスチャー感覚がある。曲名は、あのカメハメ波由来だし。

「F◯ckin’ Crazy Fuji Rock!」とサンが興奮気味にMC。資料ではパフォーマーの区分には入っていなかったリーダーでプロデューサーの彼もライブで歌うし、踊りまくっている。ホンも長髪を振り乱し、アグレッシブに踊っていた。一体これは。

ここで、マッドが「僕ノ足ハ怪我シマシタ」と原因不明だが怪我の報告。フジロッカーから心配の声が出そうになると、自身がラップをするアッパーソング“Field Trip”へ! 続く“Riot”では、オメガとともにラップし、杖を振り上げ、怪我をもろともしないパフォーマンスを見せた。大丈夫なのか。ソグムが「It over Frog」と曲紹介すると、幻想的な“Frog”へ。ソグムの高音ボーカルに対し、オメガがかなり低音のラップを乗せていく。アメリカや日本のヒップホップ、オルタナティブ・ロックなどの枠に収まっていないサウンドは刺激的だ。

「You sure are only sexy?」と、Bjウォンジンが官能的な低音ボイスで呼びかければ、“SEXY NUKIM”が始まる合図と歓声が上がる。重力場強めの重低音が鳴り響き、上半身裸のオメガとホン、真ん中にBjウォンジンが立ち、PVで魅せた「アジアン・セクシー」を体現する振り付けを踊りながら歌う。たぶん、普段はMCで参加しているマッドがホンの代わりに踊っているんだろうけど、松葉杖をついた足ではしょうがない。首をセクシーに回す振り付けや、セクシーすぎるBjウォンジンの超低音ボイスにみんなクギ付けだった(本当にセクシー)。マッドも自分のバースではやっぱり出てきて、片足ジャンプで歌うのだった。レッド・マーキーはアイドルを迎えたような熱気だ。

オメガが日本語で「アツイ、アツイ」「フジロック、カッコイイ?」と話したあと、バーミング・タイガーでフジロックに出ることは夢だったと語ると、観客から惜しみない拍手が贈られた。続いて行われたのは、メンバー全員で“Bodycoke”のサビでの振り付けを観客へレクチャー。一緒に歌い、一緒に踊り、観客との一体感を上げていく。ストリートなPOPさ全開の代表曲“JUST FUN!”、マッドがMCを務める超キャッチーなPOPソング“UP”(マッド何度も出てきて大変)、ハードコアめな“Sudden Attack”ではマッドは松葉杖を捨てて膝をついた状態でヘッド・バンキングするなど終始大暴れで、個人的に観た今回のライブの中で一番の熱狂がそこにあった。

メンバーは騒げフジロック!と煽りに煽り、「Are you ready? Sure!?」と壁をぶち破らんとするようなアグレシッブなビートの“POP THE TAG”へ。曲の途中で、観客に左と右に分かれるようにジェスチャーするメンバー。……ん、ウォール・オブ・デスをやろうとしている? 1回目は曲と観客のタイミングが合わず中途半端な感じになってしまったが、すかさず次の間奏部分で「Fuji Rock! Are you ready?」と2回目へ。フライングで動いてしまった観客たちに戻れ戻れとメンバーが指示を出すなど、この一連のやり取りにはメンバーも観客も大盛り上がり。気を取り直して“1、2、POP THE TAG!”で観客全力のウォール・オブ・デス!!! 久しぶりに見たレッド・マーキーでのモッシュ状態に鳥肌が立った。

「Amazing」「I love you!」と、次々にフジロッカーたちへ敬意を表すメンバーたち。君たちはあなた自身を信じているかい?と語りかけるオメガ。大歓声が会場に響きわたり、最後の曲“Trust Yourself”へ突入。オメガの高速ラップで沸き、「Trust Yourself!」と彼は観客に向け、時折胸を叩きながら何度も強く叫んだ。そして、またもウォール・オブ・デス。どんなけ好きなんだ、みんな!「Let’s go Fuji!!!」の合図でぶつかり合って大はしゃぎだ。オメガは「I love you Fuji Rock!」と叫び、メンバーも「Unbelievable!」と、フジロックの場で生まれたエネルギーに心を打たれているようだった。ダメ押し4回目のウォール・オブ・デスではメンバーも観客も残った力を出し切り、爆発的な盛り上がりを見せて、ライブは幕を閉じた。「Just a history day!」とオメガの手は高く上げられた。

観客から惜しみない拍手を送られる中、「Trust F◯ckin’ Yourself!」とオメガは叫び、舞台袖に消えたのだった。「ありのままの姿でいい」という彼らのアツいメッセージは、フジロッカーたちに確実に届いただろう。しかし、まさか今年ウォール・オブ・デスが観られるとは。その光景はコロナ禍前の日常と同じものだが、とても懐かしく、尊く、そして輝いて見えた。

バーミング・タイガーは、フジロッカーの胸に大きな傷痕と筋肉痛を残した。盛り上がり方、一体感を考えると、フジロック2023の中でもかなり上位に食い込むアクトではなかっただろうか。帰ったら筋肉痛に効くというタイガーバーム、塗ってみようかな。

<Set list>
1. Kolo Kolo Intro
2. Kolo Kolo
3. “Unreleased song no.1
4. Armadillo
5. “Unreleased song no.2
6. “Unreleased song no.3
7. “Unreleased song no.4
8. “Unreleased song no.5
9. Field Trip
10. “Unreleased song no.6
11. Frog
12. SEXY NUKIM
13. “Unreleased song no.7
14. JUST FUN!
15. “Unreleased song no.8
16. “Unreleased song no.9
17. POP THE TAG
18. Trust Yourself

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BAD HOP http://fujirockexpress.net/23/p_1618 Tue, 01 Aug 2023 19:37:05 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1618 YUKIが多幸感溢れるライブをグリーン・ステージへ届けてからの、BAD HOP。その温度差に風邪をひきそうになるが、この多種多様さもフジロックの面白さ。BAD HOPは、今回出演のキャンセルが発表されたルイス・キャパルディの代打として抜擢。日本のヒップホップ・シーンからグリーン・ステージに立つグループが選ばれたこともそうだが、先日BAD HOPが解散(!)を発表したニュースを追いかけるようにフジロックへの出演が決定したことも大きな話題となった。

すっかり暗くなった19時のグリーン・ステージ。重低音のSEが流れ、BAD HOPのライブでは見たことのないバンド・セットのシルエット、ステージ・バックには「WARNING」の文字。会場に期待と緊張感が張り詰めているのが分かる。

ステージ上に、8人のMCが姿を現すと歓声ととも上がる爆炎と狼煙。生々しい重低音が鳴り響いたかと思うと、1曲目から“Kawasaki Drift”だ! 地元・川崎での日々と過酷な現状を描き、彼らの知名度を押し上げたその曲で一気に会場のボルテージが上がる。轟音の壁のような、気合いの入りまくったバンド・サウンドにのっけからシビれてしまった。強烈すぎるパンチライン「川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ!!!」とT-Pablowが声を張り上げれば、集まった大観衆の手が自然と上がるのだった。

BAD HOPは、高校生RAP選手権の優勝経験を持つT-PablowとYZERRという双子の兄弟を中心に、幼なじみのTiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、G-k.i.d、Bark、東京都出身のVingoの8人で構成されたヒップホップ・グループだ。彼らはどこのレーベルにも所属せず自主レーベルを立ち上げ、作品作りから物販までセルフ・プロデュースで活動。2014年の活動開始から2018年4月にZepp Tokyoでの単独公演、2018年11月には日本武道館でのワンマン、2019年12月には新作リリース記念に川崎駅前でゲリラ・ライブ、2020年3月には横浜アリーナにてワンマン・ライブを行う予定だったが、コロナ禍での中止を受けて1億円の負債を覚悟で無観客でのライブを決行し、その様子をYouTubeで無料配信するなどヒップホップ・アーティストとして数々の伝説を作ってきた。

そんな中でのグループの解散発表は、大きな衝撃とともに受け止められた。曲を出せばヒップホップ・チャートを席巻し、チケットを売り出せば即ソールドアウト。ヒップホップのコアなファンから一般的な音楽リスナーまで幅広く人気を獲得し、プロップスは常に上がり続けているこのタイミングでの決断。ファンのみならず、音楽業界でも解散を惜しむ声は多い。今夜のフジロックでのライブもまた、彼らの伝説の1ページとなることはすでに間違いないだろう。

そして、この日、観客にさらなる驚きと熱狂を与えたのが、BAD HOPの音楽を支えるバック・バンドのメンバーだ。ライブ前にBAD HOPのSNSで告知されていたが、グループとして初のバンド・セットでフジロックに臨むことにした彼ら。そのステージ上には、RIZEから金子ノブアキ(Dr)とKenKen(B)、the HIATUSからmasasucks(G)と伊澤一葉(Key)の4人が並んだ。フジロッカーにはお馴染のメンバーだが、2000〜2010年代と日本のロック・シーン、ストリート・シーンを支えてきた豪華メンバーがガッチリとライブの脇を固める布陣。BAD HOPにとって、これが最初にして最後のフジロック出演となり、その舞台としてグリーン・ステージが用意されたのだ。今日の日にかけるメンバーの並々ならぬ意気込みを感じざるを得ない。

続く“Friends”でも分厚くラウドなバンド・サウンドに熱いフロウを流し込み、魅せる。KenKenのベースからはクラブでの箱鳴りのようなとんでもない重低音が弾き出されていた。そこには、ギリギリで現代を生きる若者たちのためのヒップホップと、1990〜2000年代のオルタナティブ・ロックの流れを組む轟音が融合して、1つの新しい生命体として、最高のミクスチャー・ロック・バンドが爆誕しており、その魂のこもったライムと音圧の塊に酔いしれたフジロッカーは多かったのではないだろうか。サウンド・プロダクトは、そこらのライブ・バンドを蹴散らす重さと厚みだ。こういうゴリゴリ系のバンドが観たかったという自分も胸アツ、ご飯三杯はイケる気分になった。それほどまでに、BAD HOPとラウドなバンド・セットは抜群の相性だったのだ。

「いくぞ、いくぞ、いくぞ」と“BATMAN”では、Benjazzy、Bark、Vingoと次々に重いドスのあるフロウをぶつけ、“No Melody”のアウトロではMCの熱量に応えるようにチョーキングの効いたmasasucksのギター・ソロが闇夜に轟いた。闘争心を爆発させるようにYZERRやG-k.i.dらがラップする“Round One”、続く“2018”でも気合いの入ったヘヴィなバンド・サウンドに明らかにMC陣の熱量も上がり、荒々しい化学反応が起こっていることが見て取れた。

「What’s up Fuji Rock? 調子はどうですか!?」と、T-Pablowは熱の上がったグリーン・ステージの聴衆へ語りかける。「知らない人もいると思うんですど、改めて自己紹介させてもらいます。俺らBAD HOPって言います。今日はよろしくお願いいたします」と話せば、待ってました!とばかりに歓声が上がった。客席前方では年齢層の若いキッズや、親子でファンという人々が多くいるように見えた。繁華街で見かけるようないわゆる“ギャル”たちをグリーン・ステージでちらほら見かけたことも新鮮だった。「フジロック、俺たち全員でハイランドへ行こうぜ」とTiji Jojoが声を発すれば、“High Land”へ。大きな歓声が上がり、叩き込むフロウとパンキッシュな演奏で会場をブチ上げた。

BAD HOPの曲は、とことんリアルなアンダー・グラウンドでの生を描くリリックでありながら、そのメロディや曲の構造は多くの人の耳に届くようにオーバー・グラウンドを目指していると感じる。彼らがグリーン・ステージを全うせんとする覚悟と風格は、初出演ながらすでに十分備わっていた。

彼らのライブでは合唱が起こる“Ocean view”ではYZERRやYellow Patoらのフロウで観客は身体を揺らした。メンバーはきっと「誰も邪魔できないOcean view」をステージから見ていたのだろう。「DiorのKicks 横の女の指にCartier Ring」とヒップホップ的なワードセンスが光るリリックと耳に残るフロウで人気のアンセム“Foreign”では、グリーンの光に照らされ、バンド・サウンドでさらにタイトにカッコよく曲が仕上がっていた。

「みんな基本的には幼馴染でやってるんですよ」とT-Pablow。「僕、双子で5分違いなんですよ」とYZERRとの関係性を改めて話し、「他のメンバーも生まれる前のベッドの病室から一緒、半分は保育園も一緒で。ガキのころからみんなクソみたいな環境で育ってきて、俺らも地元のやつらも本当に貧しい環境で育ってきて、そんな中で幼馴染だけでまだやれていることって奇跡だと思っています」と初めてBAD HOPのライブを観る観客にも知ってもらえるよう、彼らの歩みを丁寧に伝え、その真摯さにフジロッカーは声援で応えた。

T-Pablowは「苦労自慢とか不幸自慢とかするつもりないんですけど、少しでも、1人でも多くの人に勇気を与えられたり、この、本当に大好きなヒップホップっていうカルチャーがもっともっと日本で浸透することを心から願っています」と力強く話した。ヒット・チャートの大半をヒップホップの曲が埋め尽くすこともある世界の音楽シーンと比べて、日本でのヒップホップ・シーンがまだまだ小さいのは確か。一呼吸置いて「もう一度言います。自分たちはこの日本でヒップホップをもっともっとデカくするため本気で頑張っています」と、ヒップホップへの想いをアツくグリーン・ステージの観衆へ宣言するのだった。日本でヒップホップ広げるためにやっていますというYZERRと同様に、その想いは自主レーベルを起こして活動してきた彼らと嘘偽りなくリンクする。ヒップホップがもっと日本でオーバー・グラウンドな存在になるようにと願い、BAD HOPは走ってきた。

「ここに立たせてくれたフジロックの皆さんありがとうございます。最後まで全力で行くんで応援よろしくお願いします!」と、さらにKAWASAKIのエンジンは唸りを上げて、“待”っていたぜェ!! この“瞬間(とき)”をよォ!!とばかりに「次のステージへ」と歌う“Back Stage”に。ギターのリフとDjのスクラッチが情緒を揺さぶった“CALLIN’”では「生き残ったやつらでParty」と決意のライム。“Rusty knife”の最後には「人の噂かよ、今日も。自分のこと話せー!」と叫ぶ。過酷な経験も現代社会の中で若者の置かれた状況も、彼らへ集まるヘイトまでも生皮を剥がすように痛烈に吐き出す。SNSでの誹謗中傷や悲しいニュースが多い中で作った曲があるとMCしたあと、“Suicide”でのギターの美しいアルペジオ、キーボードのメロディが鳴ると大歓声が上がった。Tiji Jojoの切なる歌声が会場を包み込んでいった。

出演キャンセルになったミュージシャンの代役として、「フジロックのスタッフみんなが満場一致で“BAD HOPがいいんじゃないか”となってくださったみたいで本当に嬉しいです。BAD HOPが解散を発表したタイミングでこうやってフジロックに出られるのも、音楽の神様がいるんじゃないかなって本当に思っています」と、T-Pablowは喜んでみせた。「さっきYZERRとも話していたんですけど、人生今まで何にも打ち込んだことがなくて初めて音楽、このヒップホップと出会って、すべて人生変わって、これにかけてきました。ずっとずっと川崎という港町で夢を見ていました」とMCすると、「今日は娘たちも観に来ているぜ! (娘たちに)見てますか!」と“Bayside Dream”に入り、これには涙腺崩壊。

“これ以外”を披露し終えると「初めて全国流通のアルバムを出して、インディーズのレーベルなんで自分たちでCDを詰めながらお客さん発送してたりとかしてて、このステージに立てて、この景色を観られて本当にやってきてよかったなと思いました」と当時を振り返りつつ、グリーン・ステージからの景色をメンバー全員でもう一度胸に焼き付けているようだった。

「(俺たちは)これから先もずっと毎日のように一緒にいるんで、これからは一人ひとりがちゃんと違うステージヘ進めるように解散を発表して、まだ最後のライブ場所は決まっていないんですけど、もし今日ライブ観て良かったなと思ってくれるお客さんいたら、最後のライブも遊びに来てください」と解散理由についても少し触れつつ、穏やかにT-Pablowは語った。

最後は、10月に発売予定のラスト・アルバムに収録される“Champion Road”。美しくも緊張感のあるピアノの音色から始まると、ビートを上げ、炎は上がり、ステージ上の全員でフロウを叩き込んでもう超ロック。いや超ヒップホップ。大歓声に包まれた中、メンバーは観客席に手を振り、KenKenはベースを高らかに掲げ、金子ノブアキは一礼し、ステージを去っていった。

ライブ中、何度も奇跡という言葉を繰り返し、実際に奇跡を起こし続けてきたBAD HOP。BAD HOPというグループ名は“悪いヒップホップ”ではなく、日本でいうところの野球のイレギュラー・バウンド(和製英語)に由来している。強靭なバンド・サウンドを見事乗りこなし、彼らがフジロックのグリーン・ステージで魅せた“BAD HOP”が、日本のヒップホップ・シーンにとってまた大きな奇跡へと繋がってくれることを願ってやまない。

<Set list>
1. Kawasaki Drift
2. Friends
3. BATMAN
4. No Melody
5. Round One
6. 2018
7. Chop Stick
8. High Land
9. Ocean view
10. Foreign
11. Back Stage
12. CALLIN’
13. Rusty knife
14. Suicide
15. Bayside Dream
16. Hood Gospel
17. これ以外
18. Champion Road

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ÁSGEIR http://fujirockexpress.net/23/p_1690 Mon, 31 Jul 2023 16:02:16 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1690 それは、幻想的な終幕の始まりだった。

フジロック2023最終日、その最後の夜。闇夜の森で、ヘッドライナーのライブは“Higher”から始まった。アウスゲイルはキーボードを弾きながら、夜空に響きわたる柔らかな声で高らかに歌った。青く照らされた光の中、イントロはポップなのにどこか切ない音色の“Borderland”が奏でられると、タイトなドラムが物語を走らせていく。アウスゲイルの後ろにはギター、キーボード(またはベース)、ドラムのプレイヤーが並び、静かな夜のグルーヴを高めていた。

“いつも通り”のフジロックを3日間全力でやり切った2023年の苗場に、「How are you doing?」と、アウスゲイルは6年振りに帰ってきた。過去2回はいずれもホワイト・ステージでのライブ。今回は、皆さんお待ちかねのフィールド・オブ・ヘブンで大トリというわけだ。大きいステージでのライブも最高だが、アイルランドの透き通った空気を感じさせる旋律と彼の優美な歌声を、静寂の森の中で楽しめるのはベストなのではないだろうかとつい考えてしまう。最終日の深い時間にもかかわらず、同じようなことを考えたフジロッカーたちが最後の夜を最後まで楽しむために続々とこの奥地に集まっていた。

アウスゲイルは、アイスランド出身のシンガー・ソングライター。ほとんどの楽器を自らプレイでき、フォークトロニカ(フォーク+エレクトロニカ)のスターだ。2022年に、4枚目のアルバム『Time On My Hands』をリリース。コロナ禍の中、自身を見つめ直すことをテーマとして、繊細に構築されたフォーク・ポップ作品となっており、今回のライブは6年振りとあって、最新アルバムを含む新しいアウスゲイルが観られるのではと期待は高まっていた。3日目のラスト、最奥地のヘブンで彼のライブを堪能するなんて、こんな贅沢な時間があるだろうか。

アウスゲイルは続いて、“Dreaming”をプレイ。シンセサイザーが幻想的な空間を描き、タイトなドラムがときに激しく感情を盛り上げる。“Summer Guest”では、カントリー・ミュージックのような心地よい音楽をギターでつま弾き、観衆を笑顔にさせた。“Peð”は寂しさが募り、夢の終わりのようなメロディだが、ドラム・ビートの高まりとともピアニカに近いような掠れたシンセのロング・トーンが心地よい音色を生み出していた。アウスゲイルによるシンセサイザーの音のこだわりを存分に味わうというのも、実りのある音楽体験になりそうだ。

演奏が終わり、アウスゲイルは「Thank you」と観客たちへ静かに話しかけた。ライブを通して、彼はほとんどMCをせず、淡々と曲をプレイしていくが、それが森の闇と相まって没入感を高めてくれた。

フォークトロニカは、荘厳なエレクトロニカと美しい音色のアコースティックなサウンドが重なり、屋内でゆっくり聴く音楽として、北欧の音楽シーンで人気のあるジャンルだ。インストゥルメンタル色が濃く、内省的なその電子音楽は厳かで落ち着いた曲調が多いので、夜のヘブンのような自分と向き合える場所で聴くにはピッタリだ。

メロウな名曲“Waiting Room”では、アウスゲイルはスポットライトを浴びて、ギターを弾き、そのメロディの良さに観客は酔いしれた。“Lazy Giants”はアーバンなサウンドに、どこか80年代を思わせるシンセサイザーの響きが特徴的でテンションが上がる。一度聴いたら耳に残るそのフレーズは、観衆からもひときわ大きな歓声が上がっていた。

“Vibrating Walls”の音が鳴れば、フィールド・オブ・ヘブンの闇に揺れるフジロッカーたちは身体を揺らすスピードを静かに速めた。この曲は、インディー・ポップ・バンドのスーパーオーガニズムによるリミックスVer.がYouTubeに公開されて話題にもなった。低音のリズムが効いていて、夜更けとともに身体を包み込むような感覚に襲われる。

アウルゲイルの曲は荘厳なエレクトリカだけではなく、高揚感のあるメロディとドライブするドラムが爽快な“King and Cross”や、開放感のある「higher and higher」のフレーズが美しい“Snowblind”など、気持ちを直接押し上げてくれる曲も多い。“Snowblind”の後半ではセッションは激しさを増し、その熱量を上げ、低音強めのシンセサイザーの音色も美しかった。

最後は「Last one tonight」とアウスゲイルが終演が近いことを伝え、“Torrent”で美しい音色を奏でて締めた。大歓声に包まれるフィールド・オブ・ヘブン。あっという間だったが、実に彼は計19曲もたっぷり演奏してくれていた。雄大な自然に溶け込むかのようにメロディに浸り切り、どおりで夢心地だったわけだ。しかし、会場のフジロッカーたちは、彼の甘美な音像世界とフジロックの夜をまだ終わらせたくないと、ステージに向かって拍手を続けた。

すると、「Thank you」とギターを持ってアウルゲイルが1人で再登場! 割れんばかりの拍手がヘブンに響いた。アンコールで1曲と、彼はギターのチューニングを終えると、美しく優しいアルペジオをつま弾き、まだ眠れぬフジロッカーたちへの子守り歌のように静かに、そして柔らかく歌い上げ、ヘブン最後の夜は幕を下ろすのだった。

アウスゲイルの澄みわたった音像は、闇夜の森で疲れた身体を静かに癒し、英気を与えてくれる極上のライブ体験となった。また来年もフィールド・オブ・ヘブンでこんな体感がしたいと思わされてしまうのだった。

いやぁしかし、こんな奥行きと深みのあるライブはぜひ寒いシーズンにも観たいし、秋冬あたりに、アウスゲイルと日本のsleepy.abで北国対バンなんてのも良いかもしれない。ともに荘厳な自然を感じさせる音像で相性がいいはずなどと勝手な妄想を膨らませつつ、こうして激闘だったフジロック2023の3日間は終幕し(まだまだ朝まで他のステージではライブはあるものの)、幻想的なシンセサイザーの残響音とともにホワイト・ステージは静かに眠りについた。

<Set list>
1. Higher
2. Borderland
3. Dreaming
4. Lifandi vatnið
5. Summer Guest
6. Like I Am
7. Peð
8. Waiting Room
9. Head in the Snow
10. Lazy Giants
11. Youth
12. Breathe
13. Vibrating Walls
14. King and Cross
15. Snowblind
16. Going Home
17. Bury The Moon
18. Until Daybreak
19. Torrent

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坂本慎太郎 http://fujirockexpress.net/23/p_1678 Mon, 31 Jul 2023 09:41:39 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1678 ちょうどよい夜の深さ、ちょうどよい暗さ、ちょうどよい気温。心地よい体験を求めて、フラフラとたどりついたフジロックの最奥地。森の暗闇と一体化したようなフィールド・オブ・ヘブンの1日目ラストを飾るのは、坂本慎太郎だ。真夏の快晴を通り越して炎天下の中、各所で想いの詰まった興奮のライブが繰り広げられた“普段通り”のフジロック2023。その記念すべき年の最初の夜、彼がフジロックに出演した2021年と同じこの場所で、またそのライブを観ることができる喜びは他に代え難いものがある。

森の暗闇に紛れて集まったフジロッカーたちは、まるで1日の喉の渇きを癒すために水を求めて集まった動物たちのよう。こちらも期待して、ザ・ストロークスを観ずにのそのそと誘い出されているのだからどうしようもない。最高なフジロックの夜だからこそ動物らしく、過ごそうか。

今宵のバンド・メンバーは、坂本のバックとして鉄壁の布陣となったAYA(B & Cho)、菅沼雄太(Dr & Cho)、西内徹(Sax & Flute)。インタビュー記事で「ちょっと明るい感じにしたかった」と述べていたアルバム『物語のように』を提げて精力的にライブを行ってきた彼らだが、6月25日の日比谷公園大音楽堂で行われたライブは公演後絶賛の嵐だっただけに期待しないっていうのは無理な話。ライブ・チケットがなかなか手に入らないミュージシャンがゆえ、涙を飲んだファンも多く、フラッと立ち寄ったらたまたま観られたなんていうフジロッカーはラッキーだろう。

坂本慎太郎がギターをつま弾けば、長い夜の幕開けだ。薄暗いステージ上をいくつもの直線的なライトが浮遊する中、ベース、ドラム、サックスが穏やかに合流し、「あ、こんばんは」と坂本が思い立ったように挨拶。最初の曲“思い出が消えてゆく”のギアを上げた。「記憶の〜」と歌い上げた彼の歌声とサックスの残響音は、月が照らす夜空へと反響し消えていく。“死者より”のギター・リフが鳴ると、真夜中の動物となった観客たちは一斉に踊り出し、喜びの歓声を上げる。「いきものって うらやましい」と死者からの生への未練を浴びながら暗闇で楽しそうに身体を揺らす。坂本の繰り出すダンサブルなグルーヴに人類はもう死んでも逆らえないのではないだろうかなどと思ってしまう。

坂本の歌声とAYAのコーラスの絡み合いが美しい“めちゃくちゃ悪い男”へ。坂本のアグレッシブなギター・ソロへ入るとひときわ大きな歓声が上がり、そのビンテージ・ワインのような味わい深い音色に唸らされた。“愛のふとさ”では西内の色気のあるサックスがソロ・パートで熱量を上げ、「夜は長いから」とまだまだ終わらない秘密のパーティーをフジロッカーたちに期待させた。

真夜中の森、ヘブンと坂本の曲は何でこんなにも相性が良いのだろうかと思いながら、ライブ中はずっとウットリしていた。月夜の闇に響くギターの音色で改めて思い知らされたのは、ゆらゆら帝国解散後のソロ・ワークで坂本が追求してきたミニマムなプレイ・スタイルの圧倒的な強度。大きな味付けの施されないその音色は、最新作でも一貫して基本的に肩の力の抜けたリフや極限まで削ぎ落とされた単音の響きだけで構成されており、並みのギター・プレイヤーでは素っ裸すぎて心許なく腰が引けてしまいそうな音作りだ。歌詞もまた、極めてシンプルな言葉のチョイスと必要最低限の言葉数で本質へ迫っていく文学的手腕を遺憾なく発揮しており、もう脱帽という以外に言葉が見当たらない。

AYAのメロディアスに動き回るベース・ラインと軽快なギター・リフで強制的にフジロッカーたちの身体を踊らせる“仮面をはずさないで”、坂本がギター・ソロで単音弾きの美しさを爆発させたかと思えば「あーうー」とついみんな一緒にハモってしまう“まともがわからない”と続けて披露され、動物たちはヨダレが止まらない。ライブを通して、菅沼のドラムによる心地よいグルーヴ、随所に入る西内の色気ある(時にショー・タイム!とばかりに激しく暴れ回る)サックスの音色に夜の深さも相まって脳が溶けてしまいそうな感覚に陥った。

ポップなメロディでディストピア的な世界観を描く“あなたもロボットになれる”のイントロが流れば、「待ってました!」とばかりにフジロッカーは興奮。西内の軽快なマラカスが耳に心地よい。続く“ディスコって”では客席から「最高!」と声が上がり、“ナマで踊ろう”で森のダンスホール・フィールド・オブ・ヘブンは最高潮へ。曲の終盤、西内は踊るようにマラカスを振ったかと思えば、最後にはタオルをぶん回して踊り出した。突然坂本慎太郎のステージに日本のレゲエ・ミュージシャンがゲスト参加したのかと思って、真夏のジャンボリーを感じてしまった。

坂本が「最後にゲスト、紹介します」と、先ほどヘブンでライブをしたばかりのヨ・ラ・テンゴのフロントマン、ジェイムズ・マクニューが呼び込まれ、フジロッカーは大興奮。タオル回す系のミュージシャンじゃなくて良かった。「どうもありがとうございました」と、ラストはジェイムズの軽快なギター・リフとともに“NYC Tonight”。坂本とジェイムズの瑞々しい歌声とプレイで、フジロックの動物たちは大いに喉を潤し、森へと帰っていった。

ギターロックのミニマリストすぎやしませんか?と言いたくなるほど潔い必要最低限さで、心地よいグルーヴと物語の核心部分を確実に抽出する坂本慎太郎の才能は常軌を逸しているなとしみじみ感じたフジロック1日目の夜更けだった。そして、今年は“普段通り”にライブを観られたことの喜びを噛み締めた特別な初日だったと、きっとフジロッカーたちは感じながらその日眠りについた(もしくは朝まで遊んだ)のではないだろうか。自分はというと、これまでの作品からチョイスされた最高のセットリストにテンションが上がりすぎたのか、「これはギターロックの寿司?」「あなたは寿司屋の名店ということ?」などと夢の中で割烹着姿の坂本に質問していた。

<Set list>
1. 思い出が消えてゆく
2. 死者より
3. めちゃくちゃ悪い男
4. 愛のふとさ
5. 仮面をはずさないで
6. まともがわからない
7. あなたもロボットになれる
8. 物語のように
9. 君はそう決めた
10. ディスコって
11. ナマで踊ろう
12. NYC Tonight (with James McNew from Yo La Tengo)

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GOMA http://fujirockexpress.net/23/p_1791 Sun, 30 Jul 2023 17:00:14 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1791 フジロック3日目も見事な快晴。空も山も青く、雨の降る気配なんてまったくなし。もう最終日の朝を迎えてしまったわけだが、きっと毎年同じように「早いな〜」と思っているフジロッカーばかりで、恒例行事みたいなものでもある。しかし、我々に名残惜しんでいる暇はなく、最後まで全力で楽しんで帰りたい。そこで、最終日のスタートダッシュを気持ちよく迎えるにはどこが良いかと考えた。それは……

ザッザッザッ

我々はフジロックの奥地、ピラミッド・ガーデンへとやってきた。フィールド・オブ・ヘブンの真逆側。テント・サイトを通り抜け、朝の支度をする人々を眺めながら歩いてきたのだけれど、家族連れとアジアからの観光客が本当に多くなったと感じる。今後はもっと外国人客の割合が増えていくだろうとぼんやり思ったりしたが、自分はそれを結構ポジティブに捉えていて、島国・日本で活動するミュージシャンのライブを海外の人に生で観てもらう機会はそんなに多くはなく、フジロックの口コミきっかけで世界的な人気を得るミュージシャンが出てきたら面白いなと夢想している。

そんなことを思いながら、会場へ着くとドラムのサウンド・チェックが聴こえてきた。なかなかここまで足を延ばすことができず、数年ぶりに来たピラミッド・ガーデンは「あれ、こんなにおしゃれで開放感のある場所だったっけ」と、もはや記憶すら遡れそうにない。飲食ブースも充実し、綺麗に整備された公園のようになっていて居心地が良さそうだ。

そう、最終日、最初の選択はGOMAのライブにしたのだ。間違いない。

GOMAは2021年の東京パラリンピック開会式でトラック入場曲と声を担当したので、世界にその名は広がっているかもしれないが、彼もまたフジロックで海外からの観光客にライブを観てもらい、彼の音楽がもっと多くの人へ広がってほしいと思うミュージシャンの1人だ。

GOMAは、オーストラリア先住民アボリジナルの伝統楽器であるディジュリドゥを操って、トランスからブレイクビーツまで吹きこなし、身体と脳を痺れさせるような低音のグルーヴで多くの観客を魅了してきた。近年、画家としてもその才能を広げている彼は、過去交通事故に遭い高次脳機能障害と診断され、活動休止後はリハビリを経て、2011年のフジロックで音楽活動を再開することになるなど、人生の節目でフジロックに出演している。

時刻は、9時40分過ぎ。こんな早い時間なのに、会場では開演を待ち望む人たちがすでにたくさん集まっていて正直驚いた。ステージ前方を陣取って踊る気満々の人も多い。やる気が違うよ、ピラミッド・ガーデンに来たフジロッカーたちは。

GOMAは、今回で3回目のフジロック出演。GOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTIONの椎野恭一(Dr)と2人体制でのライブとなる。「(フジロック以外も含め)今までやったライブで、一番早い時間です」と話していた彼は、チリリンと鐘を鳴らし、静かに手元の小さな打楽器を叩きながら心地よい音像を作り出していく。その優しい音色はピラミッド・ガーデンに響きわたり、涼しい風が吹き抜けた。

そして、十分な時間を使って穏やかな雰囲気を作り上げると、GOMAはディジュリドゥに口を近付け、低音がゆっくりと鳴り響き始めた。椎野のリズムが入ると、突如として緊張感を増す。GOMAは椎野へアイコンタクトを送り、指で天を指し示すとドラムが音の強度を上げていく。

GOMAは「おはようございます」とボソッと挨拶。「そういえば昔、早朝バズーカという番組がありましたけど、朝早くから集まってくれてありがとうございます。ここからは上げていきましょうかね」との早朝ディジュリドゥ宣言に、早朝フジロッカーたちから歓声が飛んだ。

速いドラムのリズムがグルーヴを作り出したところで、「ドゥワプワドゥワプワ」とディジュリドゥの低音がビートを刻み出す。うわぁ〜〜〜久しぶりの生GOMAサウンド!! 低音の振動に鳥肌が立つ。周りの観客たちもたまらず立ち上がり踊り出した。グルーヴが十分に高まったところで、「ワン、ツー!」とのカウントからさらに音の熱量を上げ、会場内の踊りも激しくなる。GOMAの手は自然とそこにはないはずのベースを弾き始め、エア・ベースもまた一緒に疾走していく。天然色のクラブ・ミュージックが鳴り出すと、吸い寄せられるように続々と人が集まってきて、会場はあっという間に音楽ラバーで埋め尽くされた。GOMAサウンドの中毒性は強力で、問答無用で人を踊らせてしまう。それは、早朝だろうとまったく関係がなかったようだ。

GOMAは細くて伸縮可能な軽量タイプの黒いディジュリドゥを持ち出すと、ステージ前へ出て“Bulbupn”を吹き始め、より細かくビートを刻み出した。集まった観客たちは前日までの疲れを忘れて、緑に輝く芝生の上でみんな楽しそうに身体を揺らす。より激しいドラムのリズムで始まった“Drum’n Didge”でたっぷり観客を踊らせると、最後はGOMAが「プワワァァァァァン」と戦国時代のホラ貝のような音で締めた。そんな音出るんだ。

続いては「はっ」と掛け声をかけながらグルーヴを盛り上げていき、激しいドラム・ソロに突入。フジロッカーたちは大きな声援をステージに送った。ドラムがリズムを保ち続ける中、「ありがとね。朝のピラミッド最高!」と晴れ晴れとした表情でGOMAは言う。「今年のフジロック、ピラミッドは特別だからね。いろんな思いが詰まっている。ここにいるみんながずっとずっと幸せでありますように! 大好きなフジロックがずっと続きますように! 4カウント!」と話すと、4カウントめで演奏がピタッと止まり、会場からこの日一番の大きな歓声が起こった。

「最高フジロック! ピラミッド! 来てくれたみんなありがとう!」

喜びの表情を浮かべたGOMAのグルーヴがまた渦を巻くように走り出す。観客は、朝から汗だくになって無我夢中で踊った。「今回初めての朝9時40分から。本当にみんな来てくれんのかな?と思ったからめっちゃ感動しています。ありがとう」「じゃあ最後の1曲、僕らと一緒に楽しんでくれますか!」と“One greeve”へ。最後は椎野のドラムと掛け合いをするように完走した。まだまだ踊り足りなさそうな観客たちとステージ上から記念撮影後、GOMAと椎野は互いを讃え合うように手を繋ぎ、2人で両手を挙げて一礼。拍手に見送られ、ステージを去った。

長かった自粛期間を経て、いま青空と緑の芝の間で、またみんな一緒に音楽で踊ることができる。こんなピースフルな光景は他にはないんではないだろうか。

「音楽の力に感謝します」

そう言って、GOMAは笑った。

<Set list>
1. オープニングセッション
2. wooden mask
3. Omotino
4. Bulbupn
5. Drum’n Didge
6. Afrobily
7. One greeve

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ALANIS MORISSETTE http://fujirockexpress.net/23/p_1611 Sun, 30 Jul 2023 03:00:36 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1611 アラニス・モリセットがフジロックに帰ってくる。彼女が苗場でライブしたのは2001年のこと。つまり、22年ぶりに苗場に歌姫が登場するというわけだ。

いやぁ、アラニス・モリセットですよ。アラニスなんて、学生時代にバリバリ聴いていたクチの自分を否応なしに思い出してしまう。自転車で爆走しながら、世の中の不満にツバを吐きかけたい気分を浄化してもらっていたっけ。当時、女性ミュージシャンの作品の中でそういうロックな気分で聴いていたものは少なかったように思う。ライブ未体験勢としては青春の思い出も相まって、この機会を見逃せなくなっていた。

アラニス・モリセットは、元カレへの辛辣なメッセージを綴ったデビュー・シングル“ユー・オウタ・ノウ”を髪を振り乱して歌う姿が世界に衝撃を与え、曲の良さと高い歌唱力も相まって大ヒット。そのスタイルは、のちの女性ミュージシャンたちに多大な影響を与えた。1995年のデビュー・アルバム『ジャグド・リトル・ピル』は、グラミー賞に輝くなどその後の活躍はご存知の通り。

個人的な感覚では、当時の閉塞感のある空気に対して女性版ニルヴァーナが現れた感じというか(全然違うのは分かっているので雰囲気をくんでほしい)、退屈な現状にNoを突きつけるかのように髪を振り乱して本音を赤裸々に歌うロックなアティテュードは、退屈な音楽に飽き飽きしていた人々を魅了し、「女性でもここまで表現していいんだ」と世界中の女性たちを勇気付けていた。

少し涼しくなった夕方。グリーン・ステージの最前列は日本人はもちろん、まさに当時を知る世代ぐらいの海外のお客さんが集まっていた。開演までの静かな時間、みんな何だかそわそわ。彼女はいまどのような感じなのか、今日は何の曲が演奏されるのか。「もうすぐアラニスが目の前に現れる」ということに、いささかの緊張感が漂っているようだった。

グリーン・ステージに映像が映し出されると大きな歓声が上がった。その映像は、アラニスのこれまでの歩みを網羅するような内容で、何だかこちらまで当時を振り返ってしまい、懐かしい気分になる。アラニスは近年『ジャグド・リトル・ピル』リリース25周年を記念し、作品を再現するワールド・ツアーを行っており、もしかして今日は……?

スパンコールが輝く豹(猫?)の顔がプリントされた黄色いTシャツを着たアラニスが会場に登場すると、すぐさま『ジャグド・リトル・ピル』収録の“オール・アイ・リアリー・ウォント”がスタート。もう会場は声援と合唱の嵐。アラニスはステージを右端から左端まで常に歩き回り、くねくねと身体を揺らしながら歌う。歌声は当たり前だが力強いアラニスのままだし、彼女がハーモニカを吹けば「そうそう! この音色!」と懐かしくて興奮してしまった。

続く“ハンド・イン・マイ・ポケット”では、アラニスがフジロックに帰ってきた喜びを表すように右手を上げれば大きな歓声が上がり、“ライト・スルー・ユー”のアウトロでドラマーと掛け合いをすれば歓声が上がる。初めて観るライブのはずだが、アラニスは当時と何も変わらず元気にステージを飛び跳ねていてすべて懐かしく思えてしまった。

そして、“ユー・ラーン”で会場全体で大合唱。もちろん自分もだ。いま聴いても改めて名曲すぎる。前にいる外国人旅行者の団体も手を上げ声を張り上げている。何より強さと切なさを帯びたアラニスの生の歌声に大いにシビれさせられた。

ここまででお気付きかと思うが、この日のセットリストはそのほとんどが『ジャグド・リトル・ピル』からの曲だった。古参のファンにとってもちょっと感涙モノ。これも22年ぶりのフジロックに対するアラニスなりのサービスだろう。

ピアノのイントロが印象的で力強く展開していく“リーズンズ・アイ・ドリンク”を歌い終えると、「Thank you so much!」とアラニスは笑った。“ヘッド・オーバー・フィート”でギターを持った彼女は楽しそうにバンド・サウンドの中へと入っていく。曲後半で奏でられたハーモニカの美しい音色は、グリーン・ステージに隅々まで響きわたり、景色に溶けていく様はとても感動的だった。

アラニスは声を伸ばすときに、身体を大きく後ろに仰け反らせてマイクから口を離し、音量を調整する歌唱法をよくするのだが、そのアクションの頻度の多さや声量も含め、まったく衰えを感じさせない。むしろ、当時より歌声に優しさとテクニックを感じるのは気のせいではないのだろう。

アラニスは客席へマイクを向け、会場のみんなと“アイロニック”を歌った。この曲の演奏中、ステージのバックにフー・ファイターズの元ドラマーである故テイラー・ホーキンスの写真が映し出される。テイラーは、アラニスのメジャー・デビュー時のバンドのドラマーだった。そして、本日グリーン・ステージのヘッド・ライナーは彼の在籍したフー・ファイターズ。その意図が不意打ちを食らった心にグッときた。

そして、みんなお待ちかねの“ユー・オウタ・ノウ”。言わずもがなの大合唱。アラニスの歌声がみんなの思い出とともに夏の苗場を駆け抜けていく。最後の「You oughta know!」を会場と一体となって歌い、大歓声が起こった。「Thank you!」とお礼を述べたアラニスにみんなで最大の拍手。レポートを書かないといけないという気構えがなければ泣いていたと思う。

手を胸の前に重ね、祈るように、子守唄を歌うかのように始まった“アンインヴァイティド”の後半では一変、ドラムのリズム爆発に合わせてアラニスが髪を振り乱してグルグル回転!!! まるで『ジャグド・リトル・ピル』リリース当時のように回る彼女を観て、回転キターーーーーッ!とみんな織田裕二ばりに思ったに違いない。(当時を回想中なのでネタも古くなる)

「Thank you so much!」 アラニスは最後に“サンク・ユー”を歌い、フジロックと苗場の景色、そして今まで支えてくれていたであろうファンたちに大きな感謝を伝え、観客の顔を確認するように会場を見回してステージを足早に後にした。

終演後、前方で観ていたおじさん方は国籍関係なく、みんな少年のような顔に戻っていた。思い出に感傷的なレポートになってしまったが、それも音楽の力ということで勘弁してほしい。若い世代には彼女の歌はどのように届いたのだろうか。きっと彼女の真っ直ぐな歌が彼らの心も揺らしてくれたはず。機会があれば、その辺のところを聞いてみたい。

<Set list>
1. ALL I REALLY WANT
2. HAND IN MY POCKET
3. RIGHT THROUGH YOU
4. YOU LEARN
5. REASONS I DRINK
6. HEAD OVER FEET
7. PERFECT
8. IRONIC
9. SMILING
10. YOU OUGHTA KNOW
11. UNINVITED
12. THANK YOU

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LOUIS COLE http://fujirockexpress.net/23/p_1633 Sat, 29 Jul 2023 17:39:17 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1633 フジロック2日目もあっという間に夜が更け、ホワイト・ステージのライトが煌々と光り輝いている。そりゃもう楽しくて、満身創痍である(自分が)。コロナ禍を経て“普段通り”に戻った今年の開催だけに、ミュージシャンたちそれぞれの想いは強く、すべての音楽体験が胸を震わせた。まだ2日目、超気持ちいいどころか昇天させたいのかフジロック。身体は大砲の弾を何発も喰らい穴ボコだらけ。会場と作業場のテントを生ける屍として往復していた。もうダメかもしれない。レポ書くのも。

そんな自分をよそ目に、夜も更けたホワイト・ステージには期待という名の笑顔を輝かせたフジロッカーたちが続々と集まっていた。例年一番混み合う2日目だが、今年はとんでもない集客となりそうだと午前中のグリーン・ステージで前座MCの人が言っていたっけ。そんなスペシャルな日のヘッドライナーとして登場するのが話題沸騰中のスペシャルな変人、いや超人、ルイス・コールというわけだ。

ルイス・コールは、超絶技巧派ドラマーにして作詞・作曲・プロデュースかつどうやら何でもできてしまうと噂のマルチ・プレイヤー。彼のポップ・センスとドラム・スキルが融合したファンクネスを魅せつけたアルバム『クオリティー・オーバー・オピニヨン』は大ヒット。2022年12月のジャパン・ツアーは追加公演を含む全4公演を即完売し、自身のバンドにこれまたスキルフルな日本人ホーン隊を加えたビックバンド編成で観衆の度肝を抜いた。

その超絶テクニックや楽しいと噂のライブを生で観られるだけでも嬉しいのに、スペシャルなビッグ・バンドを率いてフジロックにやってくるというわけで、楽しみにしてきた方も多いだろう。ポップだけど、どこか漂う彼の得体の知れなさは何なのか存分に体感してみたいと思った。

真っ赤に照らされたステージから「Welcome to Louis Cole Welcome musical Louis Cole……」と低音ボイスが流れ、開演の期待が高まってくると、ステージはパッと明るくなり、ドクロの全身スーツを纏ったバッキング・ボーカルの3人娘(以下、都合上バッキング・ガールズと呼ぶ)が子ども用の木馬(?)に乗ったルイス・コールを押しながら登場。拍子抜けした観客から笑い声が漏れる。ルイスは丈の短いスーパーマリオブラザーズのパーカー(子ども用?)を着こなし(?)、「コンニチハ〜!」と日本語で挨拶。キーボードでチャルメラのメロディを弾いて、早速観客からウケを取る。登場数十秒で日本へのファンサービスが情報過多である。

噂に違わぬ豪華なビッグ・バンド編成は、ピーター・オロフソン(B)とライ・ティスルスウェイト(Key)、歌とダンスを担う先ほどのバッキング・ガールズ3名、日本人プレイヤーによるホーン隊の7名だ。超絶テクニックを持つ精鋭ホーン隊もバッキング・ガールズ同様全身ドクロ・スーツ着用だ。

「最初の曲はこれ」とドンドンと鳴るリズムに、鍵盤もお手の物なルイスのキーボードが乗ってスタート。そこへファンキーなベースが入ってくると、クレイジーなスーパーマリオワールド「ホワイト・ステージ」は始まった。曲の途中で、ルイスはおもむろにステージ右手側のドラム・セットに座ると会場がザワつく。「ワン、ツー、ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー!」のカウントで高速ドラミングがスタート。スティックを持ったら水を得た魚のように残像が見えるレベルで叩き始めた。フジロッカーたちから大歓声が上がる。

ルイス・コールのドラム、「うまーーーーーーい!!!」と心のスピードワゴンが全速力でフレーズを間違えるくらい上手かった。高速かつ滑らかなドラムさばきで凄まじいグルーヴを出している上に、打ち込みかのようにビッタビタにリズムへアジャストするプレイのタイトさ。生音でこれって脅威的ですらある。彼はインタビューでも毎日ドラムの練習は欠かさないと言っていたが、まさにその賜物だろう。僕のような素人でもグリッドへのジャスト感が異常なレベルだと分かるドラミングは久しぶりに聴いたかもしれない。

ルイスのやたら長いロング・トーンがブレイクの役割を果たし、そこへ華やかなホーン隊が入ってきて、さらにゴージャスさを増すサウンド。会場パンパンに集まった観客は大喜びの大騒動。ライとピーターのファンキーな高速ソロ・フレーズからルイスのドラム・ソロへとパーティはもう止まらない。

ルイスのキーボードとホーン隊で始まったアーバンなシティ・ポップ“シンキング”でホワイト・ステージは巨大ダンス・フロア化。ルイスと上からTシャツを着込んだバッキング・ガールズが並び、“アイム・タイト”のPVでも見せた心臓が飛び出すキレのないダンス(服の中に片手を入れて突き出すやつ)を繰り出すなどステージングでも魅せた。曲が終わっても機材からまだループ音源が流れており、ドラム・セット側にいたルイスはバッキング・ガールズの1人にアイコンタクト。「ブツン」と止めさせ、笑いが起きた。演奏はパッキパキなのにダンスはすこぶるユルい、後処理は雑。そのギャップがマンマミーヤ。

荘厳な音像の中、ルイスが何かの宣誓のように早口で白い紙を読み上げた“クオリティー・オーバー・オピニヨン”から、ドラムへ移動し、シンバルの連打から“ビッチズ”へ。爆発するビート、ウネウネのベースにホーンの音色が鮮やかに乗っていく。

すると、バッキング・ガールが手持ちのビデオ・カメラでステージ上を撮影し始めた。その映像はステージ後方の下半分(上半分は映像部隊のもの)に映し出されるのだが、画角ブレブレの安定感皆無さで、ルイスのどアップを撮ったりホーン隊や観客を撮ったり床や靴を撮ったり、どこを撮っているのか判然とせず、特にそこまで音楽とシンクロしないホーム・ビデオのような情報がこの後ホワイト・ステージの大画面半分を占領し続けたのもルイス・コールらしいといえば、らしい。どこ撮ってんだ。

バラードを聴かせたかと思うと、最後の締めにホーン隊が入るところのカウントをルイスが間違え、照れる。可愛いかよ。感極まったフジロッカーたちから次々に「愛しているよ!」との声が飛べば、こっちも愛しているよ!と返すルイス。相思相愛かよ。

ステージ上のルイスは、とにかく忙しかった。キーボードやギターを弾いて、ドラム叩いて、歌って踊って、喋ってととにかく動き回っていた。その合間も観客へのサービスを忘れない、というかライブ全体がサービスの塊。音楽性も含め、そのサービス精神こそが彼のすべてだと思えた。得体の知れなかった彼の一面が少し分かった気がした。

次に、ルイスは「ドン、ドン」とマイクを叩いてビートを作るとその場で録音、ループさせ、今度はギターでいくつかフレーズを重ねていき、歌入れをして即席のループ・ミュージックで“アイム・タイト”を披露。これには手拍子で観客も大盛り上がり。ライブ後半でも、ステージ上で発生した「ブーーン」というノイズに「Oh, Bad Noise!」と言いながら、そのままルーパーで声を重ねバンド演奏の中に組み込み、星間飛行のようなSF的音像の“レッツ・イッツ・ハプン”に仕立て上げていった。才能の塊かよ。

強烈なビートの“フォーリング・イン・ア・クール・ウェイ”が始まると、バッキング・ガールズが冒頭の馬の乗り物に乗ってステージをランダムに走り回った。3人のモソモソした動きは絶望的にキレはなかったが、音のスタッカートが短く入るイントロ部分のフレーズなど、曲のキレからはゲーム・ミュージックにも影響を受けたと語っていたルイスのバックボーンが感じられた。合いの手のように入る超絶早弾きベース・ソロに観客が沸き、ホーン隊でのソロ回しからファンク調になったかと思えば、それぞれの演奏メンバーがバカテクをぶつけ合う超人デスマッチ状態。ルイスのビートもブラストするように暴れ、会場は全員無敵のマリオ状態で飛び跳ねた。

ここで、ステージ後方に大きく映し出されていた「LOUIS COLE」の画像がズレてWindowsのデスクトップが出現するアクシデントが発生し、会場爆笑。しまったとルイスは手元のPCでサクッとフォルダからデータを引っ張り出し修復し事なきを得たが、ステージ・バックのLOUIS COLE画像、自作かい。というかステージ後ろの画像管理まで自分かい。多才かよ。

ドリーミングな曲調の“ナイト”でクールダウン。バッキング・ガールズが懐中電灯で会場を照らし、お返しとばかりに観客はスマホのライトを点けて幻想的な雰囲気に。「アイシテル!」と叫ぶルイス。次の曲の準備として、彼はおもむろに手元のPCでステージ画像を危険な雰囲気の赤い画面へと差し替えた。裏方作業丸見えで危険さはダウンした。

特徴的なイントロが耳に残る“マイ・ビュイック”のリズムに合わせて、バッキング・ガールズがカクカク機械的なユルかわダンス、ルイスの異常な手数のドラム・ソロ、アグレッシブなホーン隊やキーボードのソロなどで会場はさらにヒートアップ。バッキング・ガールズの「I love you so good」の歌声が祝祭をフィナーレへと導く“パーク・ユア・カー・オン・マイ・フェイス”では、ドラムは唸りを上げ、ホーン隊も全力で総参戦。楽しげに歌ったルイスは、笑顔で踊りまくるフジロッカーたちをビデオ・カメラで子どものように撮影していた。

「One more song」とルイスはバス・ドラムのビートを刻み始め、“フリーキー・タイムス”へ。終盤ドラムは加速し、トランペットも火を噴く。ホーン隊で最後はゴージャスに締め、ルイスが観客一人ひとりを指差し「アリガト! アリガト!」を連呼。「アイシテルヨー!」と終演……したかに思われたが、全曲演奏し終えたもののまだ時間があるということで、「次やる?」となんともう1曲“ドゥ・ザ・シングス”をプレイ!

アーバンなキーボード・サウンドからホーン隊のソロ7連発、キーボード、ベース、そしてルイスのドラム・ソロへと超絶スキルのファンキー頂上決戦リレーはいつまでも聴いていられる最強のグルーヴだった。こうなったら会場にいるフジロッカーは体力の続く限り無敵スター状態で踊り続けるしかない。大歓声に包まれた超人テクニカル集団のスーパーマリオパーティはこうして終わりを告げた。マンマミーア。

2日目の大トリにて、苗場に最高のグルーヴを生み出したルイス・コール。彼の超絶ドラミングは、手数が多くとも“すべての音”が寸分の狂いもなくジャスト・タイミングだった。そして、内容山盛りすぎのステージと彼のサービス精神、そのすべてがジャストでフジロッカーの心を鳴らしていた。

<Set list>
1. F it Up
2. Thinking
3. Quality Over Opinion
4. Bitches
5. I’m Tight(即席)
6. Message
7. Falling in a Cool Way
8. Night
9. My Buick
10. Let It Happen
11. Park Your Car on My Face
12. Freaky Times
13. Doing the Things

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DERMOT KENNEDY http://fujirockexpress.net/23/p_1629 Sat, 29 Jul 2023 06:52:28 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1629 一聴して、その声と心に突き刺さるメロディにヤラれてしまった。

午後の日差しが容赦ないホワイト・ステージの一段上がったステージ後方にキーボード、ベース、ドラムのサポート・メンバーが歓声に迎えられ、並び立った。背の高い彼らがバックライトに照らされ、ステージに浮かぶそのシルエットは、まるでファッション・ショーのセットのように均整が取れていて、つい見惚れてしまうと、その隙に黒いスウェットと黒いパンツ姿のダーモット・ケネディがステージに颯爽と現れた。

この炎天下に黒づくめの格好は少々心配になったが、彼はギターを持つと、ハスキーかつ力強い声量で“パワー・オーバー・ミー”、“ワン・ライフ”と続けて歌い上げた。あっという間に観客たちを彼の作品に引き込み、ホワイト・ステージは大歓声に包まれる。彼の歌声はとびきりソウルフルで、誤解を恐れず言えばブルージーなのだ。その声1音で、聴く者をあの日の情景へと連れ去ってしまう。

アイルランド出身のシンガー・ソングライターであるダーモット・ケネディは、その力強く憂いを帯びた歌声と、心の痛みをすくい上げるような秀逸なメロディ・メーカーだ。多くの支持を得た2019年発表のデビュー・アルバム『ウィズアウト・フィアー』は全英アルバム・チャート初登場1位を獲得し、今回のライブでパフォーマンスを体感できることを楽しみにしていた人も多いはずだ。その証拠に国籍問わず、早くから観客がホワイト・ステージに集まっていた。

ライブでは音源よりも強く感じられる彼のしゃがれ声の成分が、焦燥や切なさをさらに増幅させていた。そして、信じられないくらいのイケメンボイス。さらに、本人も超絶イケメン。ステージに現れた瞬間に危うく夏の恋に落ちかねなかった。

楽器隊のメンバー紹介を終えると、“アン・イブニング”、“ドント・フォゲット・ミー”で心を直接揺さぶるようなメロディ・ラインを畳みかけてくる。楽器隊も曲の熱量に呼応するように、演奏の熱量を上げていった。ダーモットもまた、曲ごとにギターを頻繁に持ち替えているのも印象的だった。時には、アコギから別のアコギへ。彼自身の音へのこだわりもそこで見て取れた。

“グローリー”では、魂の叫びとも思える歌声がホワイト・ステージに木霊する。観客と一緒に「Singing to me Glory」のフレーズを熱を込めて歌い切り、「Thank you very much」とダーモットは客席に感謝。“アフター・レイン”でも「You won’t go lonely」のフレーズをスエットの袖で汗を拭いながら観客と一緒に歌い、大きな歓声と拍手が起こった。その光景を見たダーモットは「Beautiful!」と、彼の歌がフジロックの会場に届いていると大きな手応えを感じているようだった。観客も終始身体を揺らし、笑顔で歌声に酔いしれ、次の“アウトナンバード”のころには自然発生的に合唱が発生するようになっていった。

ダーモットの歌声に気を取られている間に、実はライブ中盤でサポート・ドラマーが交代していた。ダーモットの歌声に呼応するように力強いドラミングで観客を魅了していた彼(長髪に上半身裸の人)は途中から細かくドラム・セットを調整していたが、何らかの理由で交代となったのだろう。そこからもう一人のサポート・ドラマーは大忙しで、突然の交代からステージの進行を止めぬよう、曲のリズムを刻みながらスタッフと連携を取り、最後の曲直前までドラムの調整を繰り返していた。そのプロの仕事をここに一筆しておきたい。

ドラムのトラブルを乗り越え、甘い歌声に誘われるように“キス・ミー”へ。突き抜けた爽やかさを感じさせるサビに観客の気分も最高潮に。会場の後方から観ていると、外国人の観客たちはカップルが多いなと思っていたら、ライブが始まるや否や恋人同士あちこちでキス発生。いやー、こんなライブを観たらロマンティックな気持ちになってしまうのは大変よく分かる。それは、とてもピースフルな光景でもあった。あの歌声には抗えない。

ラストは“サムシング・トゥ・サムワン”をフジロッカーたちと大合唱。ダーモットは「Keep gose on. Non stop」とこの時間を惜しむように歌い、最後は演奏を止め、ホワイト・ステージに響く観客の歌声で幕を閉じた。

「Thank you so much Fujirock!」

人々は、ダーモット・ケネディという甘くほろ苦いソウルに酔いしれ、これから生きていく道を噛み締めるようにそれぞれの歌声を重ねて、最高の時間を過ごした。

<Set list>
1. Power Over Me (ext.)
2. One Life
3. An Evening
4. Don’t Forget Me
5. Moments / Glory
6. After Rain
7. Outnumbered
8. Kiss Me
9. Something to Someone

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