“三浦孝文” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '23 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/23 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Fri, 18 Aug 2023 09:33:43 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.23 帰ってきた大将…… みんな、それを待っていた。 http://fujirockexpress.net/23/p_9601 Mon, 14 Aug 2023 03:03:36 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=9601  たまたま見た記事に使われていた「完全復活したフジロック」という見出しに目を疑った。どこが? これを書いたのは、フジロックの一部しか知らない人か? あるいは、これが「忖度」ってヤツか? 興行的な側面を見れば、確かに近いものはあるかもしれないし、コロナのことなんぞ気にかけることもなく、やっと普通に遊べるようにはなっていたけど、「完全」はないだろう。もちろん、4年越しに復活したパレス・オヴ・ワンダーが、「らしさ」を垣間見せてくれたのはある。あれは生粋のフジロッカーにはめちゃくちゃ嬉しかった。が、「完全復活」という言葉を使うには無理がある。奥地に姿を見せていたカフェ・ドゥ・パリもなければ、音楽好きにはたまらない魅力となっていたブルー・ギャラクシーもない。ワールド・レストランがあった場所は、ただの空き地だ。開幕前と言えば、フジロックを生み出した、我々が大将と呼ぶ日高氏の影はきわめて希薄で、メディアではなにやら「過去の人」のようにされてはいなかったか。

 が、フジロックは日本のロック界を揺り動かし、変革し続ける希代のプロデューサー、日高正博氏そのものであり、その業績が結晶となったものと思っている。その原型といってもいい、アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティヴァルをUKのグラストンバリー・フェスティヴァルの影響の下にぶち上げたのは、今から40年ほど前。あの頃から旧態依然とした音楽業界に風穴を開け、激震を与え続けているのが彼であり、その集大成がフジロックなのだ。

 彼が率いるスマッシュという会社が立ち上がったのは、そのしばらく前のこと。まず彼が着手したのは、国内でレコードも発売されていないようなアーティストの招聘だった。それまでの海外アーティストの来日といえば、圧倒的なレコード・セールスを記録し、誰でも知っているスターばかり。ところが、彼が着目したのはひと癖もふた癖もあるアーティストだった。名義こそスマッシュではなかったかもしれないが、最初に招聘したのはジョージ・サラグッドとデストロイヤーズではなかったか。当時、このアーティストの存在を知っている人は多くはなかったはずだが、一連のライヴが大好評を博している。しかも、会場となったのは、海外からのアーティストが使うことはほとんどなかった小さなライヴハウス。それも画期的だった。その後も、インディ系ロックからアンダーグランドのパンク、レゲエやワールド・ミュージックにいたるまで、ジャンルにとらわれることなく、なによりも彼が信じる才能やシーンを日本に紹介することを最優先して動いていた。

 同時に、座席付きの会場がコンサートの定番となっていたことに疑問を抱いた彼は、ボクシングやプロレスで知られる後楽園ホールに着目。なんとホールの中にステージを設営して、スタンディング・スタイルのライヴを企画していくのだ。ちょっと座席を立っただけで警備員に止められたり、会場から追い出されるのが常識だった時代に、「好きに踊りなよ」というライヴの場を提供したのは画期的だった。といっても、インフラが整っているコンサート・ホールとは違って、ステージから音響に照明まで全てを用意しなければいけない。当然、金がかかる。金儲けが目的の興業屋だったら、こんなことをするわけがない。それはフジロックでも同じこと。なにもない場所に全てを作り出すことで、どれほどの経費がかかるか? 杭を一本打つにも資材やその輸送費に人件費が必要となるのだ。

 それでも、オーディエンスにとって自由に音楽を楽しむことができるライヴがどれほど嬉しかったか? この時、UKレゲエのアスワドやUSで衝撃を与えていたヒップホップ、ビースティ・ボーイズをここで体験した人達にはわかったはず。これこそが音楽の魅力を、そしてその背景をも伝えてくれるライヴの場なんだと。しかも、当時、ライヴが始まる前のコンサート・ホールといえばシ~ンと静まりかえっているのが普通だったのに、ここでは出演するアーティストに絡んだ音楽が大音響で鳴らされている。それまで当然のように幅をきかせていた「音楽鑑賞会」と呼ばれていたコンサートとは全く違った空気が流れていた。思い起こせば、スタンディングが当然の場として、先駆けとなる渋谷クアトロが生まれたのは1988年。後楽園ホールで幾度もライヴが開催された後なのだ。

 実は、DJやクラブの動きに関しても、大きな役割を果たしていたのが大将だった。黎明期のクラブ・シーンを語るときに欠かせない桑原茂一氏率いるクラブ・キングと一緒に海外からDJを招聘したのは1986年。フジロックでもおなじみのギャズ・メイオールと、当時、ロンドンのダンス・ジャズ・シーンで脚光を浴びていたポール・マーフィーを来日させている。さらには、ユニークなダンス・スタイルでマンチェスターから躍り出たダンス・トゥループ、ジャズ・デフェクターズも招聘。会場となった原宿ラフォーレでは深夜になっても行列ができるほどの反響を生み出していた。

 さらに91年にはアシッド・ジャズからUKジャズを牽引したメディア、Stright No Chaserと共同でクラブ・イヴェントを企画。Kyoto Jazz Massiveとモンド・グロッソが初めて東京に進出し、U.F.O.とDJ Krushが一堂に会して、UKジャズをリードしていたスティーヴ・ウイリアムソンのバンドThat Fuss Was Usと、しばらく後に世界的ヒットを生み出すDJユニット、US3を迎えてた大規模なパーティも実現させている。4000人超を集めてオールナイトで繰り広げられたこれが、日本のクラブ・シーンを一気に活性化させるのだ。

 そういった大将の業績を集約するように始まったのがフジロックだった。誰もが「無謀だ」、あるいは、「これでスマッシュも倒産だろ」と口にしたのが1997年の第一回を前にした頃。ものの見事に台風にやられて、2日目をキャンセルせざるを得なくなったのを「ざま見ろ」と口にした業界人も多かった。加えて、会場に来ることもなく「観客を管理する柵も作っていない」と批判をぶつけてきたのが大手メディア。「ロック・フェスティヴァルに来る人間は無知で粗野な人種だ」とでも決めつけているんだろう、そんな「常識」との闘いがこの時から始まっていったのだ。

 その最前線にいたのが大将であり、奇抜とも思えるアイデアを次々と現実にしてフジロックを成長させてきたのも彼だった。いうまでもなく、周辺にいたスタッフはたいへんな思いをしたに違いない。なにせ彼に「常識」は通用しない。が、それがフジロックを他のなにものにも比較することができないユニークなフェスティヴァルとしてきたのだ。会場外にステージを作って、奇妙奇天烈なサーカス・オヴ・ホーラーズを招聘したのは2000年。翌年には、同じ場所に、出演者でもないジョー・ストラマーとハッピー・マンデーのベズを中心としたマンチェスター軍団から、後にスターになる娘、リリーを伴った俳優のキース・アレンらを呼び寄せて、フリーキーな遊び場を作っていた。さらに、翌年になると、UKのアート&パフォーマンス軍団、Mutoid Waste Companyをリードするジョー・ラッシュがここにパレス・オヴ・ワンダーと呼ばれる空間を生み出している。その延長線にあったのが、オレンジコートの奥地に生まれたカフェ・ドゥ・パリやストーン・サークル。フジロックを単なる野外コンサートではなく、どこかで奇想天外で別世界のような祭りに仕上げていったのは間違いなく大将だった。

「俺たちにはそんな大将が必要なんだ」という想いを形にしたのが、3年前に初めて彼の写真を使って我々が発表した「Wanted」のTシャツだった。元ネタは1981年に発表されたピーター・トッシュのアルバム・カバー。下敷きとなっているのはマカロニ・ウェスタンや西部劇と呼ばれるアメリカ映画でよく見かける指名手配書だ。賞金額と「Dead or Alive」(生け捕りでも死体でも)という言葉がセットになっていて、人相書きを元に、賞金稼ぎがその首を狙うというもの。今もこんなのが生きているのかどうか知らないが、ピーター・トッシュはこのジャケットで「俺は危険なアーティスト」というイメージを打ち出したかったんだと察する。

 一方で、日高大将をネタに僕らが作ったヴァージョンには全く違った意味が込められていた。賞金の代わりに並べたのは「9041」という数字。囚人番号にも見えたこれは彼が大好きな言葉、クレイジーをもじった番号で、「Not Dead But Alive」としたのは、「生きていてもらわないと困る」からに他ならない。コロナ禍できわめて厳しい状態に直面しているフジロックが生き残るのみならず、本来の姿に戻ってさらに深化(進化)させるのに、必要不可欠なのは元気に走り回る日高大将。と、そんな想いを込めていた。

 最低限の取材経費を主催者から受け取っても、独立性を保つためにも、日常活動に関しては一銭のギャラも受け取らないボランティアで構成されるのがfujirockers.org。というので、その始まりから、活動資金作りのために様々なアイデアを絞り出している。そのひとつが、Tシャツなどの物販で生まれる収益。その歴史でかつてないほど好評だったのがこの作品で、以前とは比較にならないほどの売り上げを生み出していた。おそらく、この結果が生まれたのは、会場にやって来るフジロッカーズも同じような「想い」を共有していたからだろう。

感染防止のためにがんじがらめのルールに縛られながら、「なんとかフジロックを支えたい」という思いが際立った2021年にこれを作っていた。規模を縮小しなければいけないという流れの中で、集まった人達の数は史上最低。恒例となっている前夜祭での集合写真も撮影できなかったし、なにやらもの悲しかったのが花火大会。さらには、「声を上げるな」というので、ライヴでの歓声もないという、きわめて異様な光景が広がっていた年だ。それでも、出演者関係者のみならず、集まってきた参加者から「なんとかフジロックを守りたい」という思いがひしひしと伝わってきたのをよく覚えている。それは、現場に来ることを選ばなかった人達からも同じように感じていた。

 そして、「いつものフジロック」を謳って開催された去年も、現場ではぴりぴりした空気が漂っていた。なんとか恒例の前夜祭での集合写真は撮影できたものの、あの時、「みなさん、マスクを付けてください」と、この奇妙な時代を象徴する記録を残そうとしたことを覚えている方もいると思う。オレンジカフェのテントで食事をしようとしても、テーブルを仕切る透明の板の上には大きく「黙食」と書かれていて、久々に会った仲間との会話さえはばかられる。確かにライヴは行われたけれど、なにか釈然としないものを感じていた。グリーン・ステージの最後のバンドが演奏を終えて、いつもなら、祭りの終わりをみんなで共有する時間があったはずなのに、それもなかった。当然のように、オーディエンスの集合写真を撮ることもなく、静かに幕を閉じていった。

 それよりもなにより、フジロックでしか体験できない時間や空間を感じることがほとんどなかったのが昨年。それを象徴していたのがパレス・オヴ・ワンダーの不在だった。なにやら、フジロックからフェスティヴァルの要素がすっぽり抜け落ちて、ただの野外コンサートになっていたような感覚を持った人も多かったのではないだろうか。この時、フジロッカーズ・ラウンジでは「Where Is “Wonder”?」という写真展を開催している。「どこに『驚き』があるの?」とここで問いかけていたのは、パレスに絡んだことだけではなかった。かつてジョー・ストラマーが口にしたように、「年にたったの3日間でもいい。生きているってどういうことかを感じさせるのがフェスティヴァル」だとしたら、それがどこにあるのか? そんな疑問を感じざるを得なかったのだ。

 もちろん、パレス・オヴ・ワンダーの主力部隊がUKからやって来るスタッフだというのは、多くの人が知っている。コロナの影響で彼らの来日が難しいというのは百も承知で、同じく、大幅な縮小での開催を余儀なくされたという、経済的な打撃が後を引いているのは理解できる。が、その上で「いつものフジロック」を謳うのは「違うだろ!」という声が多数派をしめていた。

 さらに、以前なら、ジープに乗って会場を動き回っていた大将の姿を見かけることはほとんどなかった。そうやって会場に集まっていた人達と会話を交わしたりと、いつもフジロッカーに最も近いところにいたのが大将。1997年の第1回が始まる以前から、Let’s Get Togetherと名付けた公式サイトの掲示板経由で、オフ会にまで顔を出して、彼は日本で初めて継続的に開催することを目論んでいたフジロックのお客さんたちと繋がろうとしていた。その掲示板が独立するような形でfujirockers.orgが生まれた後も、「なにかをやりたい」と集まってきたスタッフと幾度となくミーティングをしたり、インタヴューの場を設けてくれたり……。それが終わると、みんなを引き連れて居酒屋に出かけて四方山話となるのだ。フジロックが成長するにつれて、そういった機会は少なくなっていくのだが、それでもフジロックを愛する普通の人達の声に彼はいつも耳を傾けていた。

 我々フジロッカーの想いは、「Wanted」のTシャツに集約されていた。大将が最前線に戻ってきて欲しい。だからこそ、昨年も「Mad Masa」のTシャツを制作。そして、今年は、彼が復活させた「苗場音頭」と忌野清志郎と作り出した「田舎へ行こう」のシングル盤を作り出すことでその重要性を訴えようとしていた。常識ではあり得ないだろう。レコード会社でもない、フジロックを愛する人達のコミュニティ・サイトを運営するfujirockers.orgがレコードを発売するという、前代未聞のプロジェクトだ。そのアイデアを彼に伝えると、二つ返事で「じゃ、事務所につないでやるよ」と動いてくれたのだ。

 そのプロモーションで動き回るなか、フジロックが生み出した「故郷」を認識することになる。「ずっと都会生まれで都会育ちの人にとって、苗場が毎年帰ってくる田舎のようなものになっていったんです」と語ってくれたのは、7月頭の苗場ボードウォークで語り合ったフジロッカーだった。なにやら故郷に帰る人達のアンセムのような響きを持つのが「田舎へ行こう」であり、彼らを暖かく受け入れて迎えてくれるのが「苗場音頭」。フジロックは野外コンサートを遙かに超えて、年に一度「生きている」ことを祝福する故郷の祭りとなっていることを思い知らせてくれるのだ。

 そのフジロックに危機が訪れていた。コロナの影響で思い通りに開催できなかったことから負債が累積。と、そんな噂が駆け巡っていた。予算も縮小しなければいけないし、今年がうまく行かなかったら、来年はない……。毎年のように「来年はないかもしれない」という危機感は持っていたんだが、それがいよいよ現実になるのかもしれない。噂の域を出てはいないというものの、想像してみればいい。もしもフジロックが開催されなかったら……。まるで故郷をなくしたような気分に陥るのだ。

 しかも、当初は予算の関係で不可能だと思われていたのがパレス・オヴ・ワンダーの復活。突き詰めていけば、コロナの影響によるダメージで、なによりも実現しなければいけないのはコンサートであって、それ以外のものは「無駄」だという発想が支配的になっていたからだ。それでも必死に食い下がったのが、UKチームのボスから東京のスタッフ。彼らがなんとか復活させたいと必死に動いていた。実を言えば、ほとんどの関係者が、守ろうとしたのはフジロックという「フェスティヴァル」であり、その象徴がここにあった。

ひょっとすると、それこそがフジロッカーズをつなぎ止めたのかもしれない。メインのステージでの演奏が終わると、行き場所がなかったのが昨年。が、今年は違った。様々なオブジェが姿を見せ、サーカスまでもが繰り広げられる。まるで映画のセットのようなその空間に浮かび上がる木造テント、クリスタル・パレスは健在だった。4年間も放置されたことで、かなりの修復が必要だったらしいが、今年もユニークなバンドの数々とDJたちが至福の時間を生み出していた。特に嬉しかったのは、その箱バンのような存在だったビッグ・ウイリーが戻ってきたこと。いつも通り、ちょいとセクシーなダンサーたちと極上のエンタテイメントを提供してくれた。

 残念ながら、ダブルAサイドで復刻した7インチのアナログ・シングルを生むきっかけとなったブルー・ギャラクシーの復活を願う声は主催者には届かなかった。まずはJim’s Vinyl Nasiumとして生まれ、それが成長して新たな名前を付けられたここで蒔かれた「音楽を楽しむ」という種を各地に持ち帰った人達が育てたのがフジロッカーズ・バー。もちろん、DJバーの土壌はすでに存在したし、ジャズ喫茶やクラブの文化も背景にはある。その全てが複雑に絡みながら、発展してきたことは言うに及ばない。が、ここから生まれたフジロッカーズ・バーというイヴェントが日本全国の様々な町で企画され、音楽を楽しむ場として定着しつつあることも見逃せないのだ。

 そんな仲間に手をさしのべてくれたのが会場外でジョー・ストラマーの遺産を守り続けるJoe’s Garageだった。「いいですよ、ここを使ってくれたら」とフジロッカーズ・バーでDJを続ける仲間たちがここに集まっていた。彼らはチケットを買ってフジロックにやって来たお客さんでもある。その彼らに「めちゃくちゃ楽しい」と言わしめたここは、UKチームのたまり場でもあり、ここでも祭りの文化が花開いていた。

 そして、なによりも嬉しかったのはフジロッカーズが「帰ってきてくれ!」と願い続けてきた大将の姿が、今年はあちこちで目に入ったことだろう。しかも、どん吉パークではいきなりステージを作って、苗場音楽突撃隊のライヴを実現させている。と思ったら、最後の朝、月曜日の早朝のクリスタル・パレスでは、ビッグ・ウイリーのバーレスクが演奏を終えたっていうのに、ステージに姿を見せた彼が言うのだ。

「もっともっと聞きたいだろ!」

 と、オーディエンスに呼びかけてアンコールをせがんでいた。へとへとになっているバンドも大将に言われたら、断れない。というので、予定外の演奏が始まっていた。なにが起こるのか、予想もできないハプニングが待ち受けているのもフジロック。それを動かしているひとりが、言うまでもなく大将なのだ。

 いつもなら、全てが終わった後、入場ゲートに「See You」と来年の告知がされるのだが、今年は昨年同様日付が記されてはいなかった。さて、本当に来年のフジロックはあるんだろうか? きっと、あるんだろうと信じたいのはやまやまだが、どこかで「まさか..……」という疑念も振り払うことができない。

 いずれにせよ、ここ数年、ずっと頭に浮かぶのは、パレス・オヴ・ワンダー、生みの親のひとり、Mutoid Waste Companyのヘッド、ジョー・ラッシュがインタヴューで残してくれた言葉。

「フェスティヴァルってのはね、ただ口をぽかんと開けて、(チケットの金を払ったんだからと、それに見合う)なにかを受け取るだけの場じゃないんだよ。自らその一部となるってことだと思うんだ」

 おそらく、fujirockers.orgのスタッフもそんな人達の集まりだろうし、会場の外でJoe’s Garageを生み出した仲間も同じだろう。苗場音頭のために浴衣を持ってきたり、コスプレで遊んだり、あるいは、お客さんなのにレコードを持ってきてDJをしたり、どこかで誰かが演奏を始めたりってのも、自らフェスティヴァルを作り出すってことなんだろう。そんな人達がいる限り、フジロックは「終わらない」と思えるんだが、どんなものだろう。もし、開催が危ういというなら、大騒ぎをして主催者を動かしてやろうじゃないかとも思う。

 さて、好天続き……というよりは、炎天下に襲われたのが今年のフジロック。まだまだ完全復活には時間が必要かもしれないが、それでもフジロックでしかない貴重な時間や体験を生み出す、フジロック本来の魅力を伝え続けてくれたのは、以下のスタッフ。ありがとう。こよなくフジロックを、そして、フジロック的なものを愛するあなたたちは、間違いなく「フジロック」を作り、支える仲間です。

 また、赤字で当然のレコード再発プロジェクトを支えて協力してくれたスタッフ、フジロッカーズ・バーの仲間のみなさん、ありがとう。まだまだ売らないと元が取れないというのでここで、もう一度大宣伝です。契約の関係上、レコード屋さんでは買うことができないことになっているこのシングル、忌野清志郎の「田舎へ行こう! Going Up The Country」と円山京子の「苗場音頭」をカップリングして、両A面としているこのレコードはこちらで購入可能です。これを買って、fujirockers.orgを支えていただければ幸いです。
https://fujirockers-store.com/collections/cd-lp

FUJIROCK EXPRESS’23 スタッフクレジット

■日本語版
あたそ、阿部光平、阿部仁知、イケダノブユキ、ミッチイケダ、石角友香、井上勝也、岡部智子、おみそ、梶原綾乃、紙吉音吉、粂井健太、小亀秀子、古川喜隆、小林弘輔、Eriko Kondo、佐藤哲郎、白井絢香、suguta、髙津 大地、近澤幸司、名塚麻貴、ノグチアキヒロ、馬場雄介(Beyond the Lenz)、HARA MASAMI(HAMA)、平川啓子、前田俊太郎、三浦孝文、森リョータ、安江正実、吉川邦子、リン(YLC Photograpghy)

■E-Team
カール美伽、Jonathan Cooper、Park Baker、Sean Scanlan

■フジロッカーズ・ラウンジ
mimi、obacchi、SEKI、yamato

■TikTok
磯部颯希

■ウェブサイト制作&更新
平沼寛生(プログラム開発)、迫勇一、坂上大介

■スペシャルサンクス
三ツ石哲也、若林修平、東いずみ、Nina Cataldo、卜部里枝、takuro watanabe、Chie、竹下高志、西野太生輝

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fujirockers.orgは1997年のフジロック公式サイトから派生した、フジロックを愛する人々によるコミュニティ・サイトです。主催者からのサポートは得ていますが、完全に独立した存在として、国内外のフェスティヴァル文化を紹介。開催期間中も独自の視点で会場内外のできことを速報でレポートするフジロック・エキスプレスを運営していますが、これは公式サイトではありません。写真、文章などの著作権は撮影者、執筆者にあり、無断使用は固くお断りいたします。また、文責は執筆者にあり、その見解は独自のものであることを明言しておきます。

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G.LOVE & DONAVON FRANKENREITER http://fujirockexpress.net/23/p_1689 Mon, 31 Jul 2023 16:04:02 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1689 フジロック’23最終日、現在19時前。ここはフィールド・オブ・ヘブン(以下ヘブン)。日がとっぷり暮れ、ミラーボールが幻想的に場にきらめきを与えはじめる。終わりが近づいているからこそ、今フジロックの現場にいることの尊さを感じるのだ。

これからヘブンに登場するのは、初出演の2000年来計5度のフジロック出演歴を持つG. LOVE(以下G.)と、過去3回出演し13年ぶりに苗場の地を踏むDONAVON FRANKENREITER(以下ドノヴァン)によるスペシャルユニットだ。開演前にMCのジョージ・ウィリアムズも語っていた通り、二人の名が発表された瞬間にヘブンに出演するだろうと容易に予想できた。彼らが奏でるルーツ・ミュージック母体の音楽や、自由なヴァイブスはヘブンが間違いなくベストな舞台。この貴重な機会を目撃するべく多くの人が集結している。

ステージに登場するや否やいなたくブルーズ・ハープをいなたく、そして豪快に鳴らすG.。「調子はどうだ、フジロック!?」と“SoulBQue”からステージの幕が上がった。のっけからG.十八番、ブルーズとヒップホップを融合した「ラグモップ」を惜しみなく繰り広げる。G.とドノヴァンが向かい合い互いにフレーズを生み出し合うギター合戦の展開がライヴならではのダイレクトで生々しい熱をビンビンに放出!

続くはドノヴァンの“Whatchu Know”。G.がハーモニカをとり、ドノヴァンが暖かみのあるの歌声を披露し場をほっこりさせる。ラストはバンドが暑苦しくロッキンなグルーヴを創り出して熱く締めくくった。“Move By Yourself”、“Rodeo Clowns”、“Heading Home”、“Rainbow”とドノヴァンからG.の順で交互にお互いの楽曲を一緒に随所にセッションを入れ自由自在に繰り広げていく。バックで二人を支えるベーシストのMATT GRUNDY (以下マット)とドラマーのCHUCK TREECE (以下チャック)も最高だ。気心の知れた4人が互いに敬意を持ちつつ楽しそうに演奏している。バンドのムードに呼応するかのように、フロアは誰もが本当に気持ち良さそうにダンス。歓声を上げ、まったく知らない人同士ながら乾杯し、お酒を振る舞い合ったりしている。まさしくヘブンな光景がここにあるのだ。

ウクレレのような軽快なフレーズとともにはじまる“Free”。たった今のピースフルなヴァイブスの中でこの曲が披露されるという、ぴったりの展開があるだろうか。みんなで歌い心地よく揺れる。至福の極みだ。G.が吹き上げるハープの音色、随所で刻まれる太いギターのフレーズ、すべてが完璧にはまっている。

さぁ、ここからはブルーズ天国のはじまり。冒頭で楽しくコール&レスポンスをして“Guitar Man”がスタート。土臭いデルタ・ブルーズな雰囲気がたまらない。またしてもG.とドノヴァンの凄まじいギターバトルが飛び出す。本曲を締めても熱収まらぬとばかりにブルージー極まりないフレーズをプレイするG.。そのまま“Baby’s Got Sauce”に突入した。中盤でチャックが歌う展開は本セットならでは。お次はドノヴァンペンによるブルーズナンバー“Them Blues”へ。マットが巧みにハープを吹く中、G.とドノヴァンがタイトにギターを刻み絡み合う。G.によるスライドギターが更にブルーズ沼の深淵へと誘うのだ。

チャックのドラムソロから繋がる“Cold Beverage”。G.とマットがダブルハープを披露し、重たさが加わった今の音で至福の本セットも終盤に向けて駆け抜けていく。ラストは“It Don’t Matter”。ドノヴァンの優しい声が最高に気持ちいい。チャックのドラムソロあり、G.によるギターソロあり、ハープをロングブロウする見せ場も見せつつ、最後はみんなで何度もサビパート大合唱し約1時間強のステージを完走した。メンバー全員が揃ってステージ前に立ち、幾度もお辞儀。タオルやドラムのバチ、本日披露した曲のセットリストなどなど…提供できるものはすべてフロアに放出してステージを後にした。

G.とドノヴァンというフジロックを愛する者たちによる、フジロックを愛する者たちに向けた極上のライヴ。今宵、ここヘブンは愛と自由と音楽で満ちあふれていた。

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NEAL FRANCIS http://fujirockexpress.net/23/p_1688 Mon, 31 Jul 2023 16:02:56 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1688 フジロック’23、早くも最終日。夕方に差し掛かり、今年も着実に終わりに近づいている。寂しさが増していく時間帯の中、フィールド・オブ・ヘブン(以下ヘブン)へと向かう。今回の出演陣の中でも最も楽しみにしていた注目株の一人がこれからヘブンに登場する。アメリカはシカゴから遥々やってきたNEAL FRANCIS(以下ニール)だ。今回の取材で、初のヘブン出演アーティストとなるのが彼だ。

ヘブンに到着して、やっぱり私はここが好きなんだとあらためて実感。立ち並ぶお店が少し減ってしまったのが残念だが、ピースフルなヴァイブスが空間全体に広がっているのだ。それは、もちろんヘブン出演陣の音楽によるところも大きいのだが、フジロックではをヘブンを根城としている住人が大勢いる。その人たちによるラヴ&ピースで自由な会話こそが、この雰囲気を創り上げていると思っている。そして、ヘブンを愛する人たちが集うライヴは、めちゃくちゃ盛り上がるのだ。

ニールはコロナ禍のためキャンセルとなった2020年のフジロックに出演予定だった。なので、ようやく実現した念願の初来日にして初演となるのが本ライヴになるのだ。音楽は彼が影響を受けたアーティストを確認すれば自ずと分かろうというもの。アラン・トゥーサン、Dr.ジョン、レオン・ラッセル、ザ・バンド…ヘブンという場がドンピシャということがここからうかがえるだろう。過去にこれらアーティスト・バンドたちが繋がりのある先達たちが出演しているのだから。

開演時刻に今年亡くなった高橋幸宏氏と坂本龍一氏追悼の意を込めてと思われるYMOの“RYDEEN”がSEとして流れる中、ギター、ベース、ドラムを務めるメンバーが登場した。全員が上下赤のアディダスのジャージ姿(まさかYMOの赤い人民服を模しているわけじゃないよな?)。ニールが様々な花と鳥(鶴?)が描かれたスーツに身を包んでいて、長めの髪とともにヒッピーのような装いでステージに姿を見せた。1発目はニールがキーボードで弾き語りはじまる“Say Your Prayers”。大好きなのが、中盤以降に転調し盛り上げるパートだ。踊り、飛び跳ねるしかチョイスはないグルーヴがたまらない。ギターも畳みかけるようにソロをかましグルーヴに輪をかけていく。

「私の名前はニールです。ありがとうございます!」と日本語でとても流暢に挨拶をするニール。昨晩のキャロライン・ポラチェックといい、初来日を前に日本語を覚えコミュニケーションを取ろうと準備をしてきているアーティストが多い印象だ。愛とリスペクトが感じられ、こんなアーティストを大好きになってしまったのは私だけではないだろう。

続く“Change”も疾走感をもって転調し、終盤に向けてニールと3名のバンドが一体となって創り出す怒涛のセッションにオーディエンスは大盛り上がりだ。これぞヘブングルーヴ。みんな大好きだよね。そのままファンキーになだれ込んでくる“She’s A Winner”。原曲を壊し、まったく異質なファンクネスを即興で曲調も展開もどんどん変え、自由に表現している。絶妙なタイミングでドラムのソロを入れてきたりとバンドのスキルの高さはもちろんのこと、結束力の高さも相当なものだ。これだからライヴはやめられない。

ニールがキーボードをリズミカルに叩きはじまった”Very Fine”。「フー!」とのかけ声を契機に深く黒いグルーヴが渦を巻いていく。それにしても、ニールとバンドは何て楽しそうに演奏するのだろう。こちらも呼応してどんどん楽しくなってくる。バンドとオーディエンスの間のあるべきコミュニケーションがここに存在しているのだ。

「シカゴから遥々やってきたよ。フジロックに呼んでくれてありがとう!」と別のキーボードに移り、軽快にかついなたく引き倒す。そして、Can’t Stop the Rain”へ。はい、最高!60s~70sのヴィンテージなロック好きを唸らせるこのリフ、メロディに展開。中盤のセッションはまるでミーターズだ。バンド渾身一体の演奏力、オーディエンスとの一体感、そして楽しさ、間違いなく本セットのハイライトと断言して間違いないだろう。

流麗でグルーヴイーなキーボードの調べが入ってきて“Alameda Apartments”を発進。間奏部で息の合ったバンドによるセッションが飛び出だすと、頭を振り乱すニールの軽快なソロが乗ってくるんだ。こんなのもうひたすらに踊るしかないだろ!

入りと中盤のジャジーなセッションが圧巻だった“BNYLV”、往年のプログレッシブロックの雰囲気でキーボードとギターのソロパートが秀逸だった“Sentimental Garbage”を締めくくり、本来は予定されていなかったであろう“She’s A Winner”をアレンジを一新して再演。時間が残されている限り演奏し、集まってくれたオーディエンスを楽しませようとする心意気が感じられ、涙が出そうになってしまった。そして、高いミュージシャンシップを持つ彼らだからこそできる芸当だ。

彼らが生み出す音をいつまででも浴びていたくなるような至福の1時間だった。まだまだライヴで体験したい楽曲がたくさんある(“This Time”とかさぁ!)。ぜひとも単独公演ツアーで再来日を果たしてほしい!

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ドミコ http://fujirockexpress.net/23/p_1636 Sun, 30 Jul 2023 14:31:59 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1636 フジロック最終日も14時を回った。今年のフジロックは本当に雨が降らない。今日も朝から晴れっぱなしだ。皆さん、熱中症にはほんと気をつけましょう。

これからここホワイトステージに登場するのはさかしたひかる (Vo/Gt)と長谷川啓太(Dr)からなるツーピースロックバンドのドミコだ。2017年は苗場食堂、2019年はレッドマーキー、今回はホワイトステージに出演と、フジロックという場においてもバンドが確実にステップアップしていっている。メンバー自ら開演時刻ぎりぎりまで歌い、音出しをして、入念にサウンドチェック。さかしたの声に気合がみなぎってる。本ステージにかける本気度がうかがえた。

開演時刻にお馴染みのSE、キング・クリムゾンの“Easy Money”が流れ「DOMICO」の文字がバックに映し出されると、二人がステージに姿を見せた。さかしたがリヴァーブのかかったギターをかき鳴らし、長谷川啓太がドラムをドカドカと打ち込んでウォーミングアップ。ひかるが「よろしくー!」と絶叫し、ステージ開演を高らかに宣言し、“問題発生です”からキックオフだ。本曲のハイライトは終盤に二人がジャムセッションのごとく繰り広げたロックンロールパートだろう。ロックファン共のケツを問答無用に蹴り上げるようなド直球のリフを繰り出しまくるのだ。のっけからこの圧倒的な展開に圧倒され呆然と立ち尽くすオーディエンスが散見された。

ドミコは緩急のつけ方が本当に上手い。さかしたが小気味よくカッティングしながらはじまった“united pancake”。中盤ではテンポダウンしてその後徐々にアップして疾走パートに移行し爽快にしめくくる。続く、十八番のルーパーを駆使して音を重ね合わせて音に厚みを生み出していく“なんて日々だっけ?”。この曲も基調のミドルテンポの中でロック好きには唸るしかないギターソロで見せ場を作った上で、締めの速度上げという構成が絶妙だ。“まどらまない”ではさかしたのアームを駆使して巧みに音に変化を加えていく。「小鳥は未来には飛んでいることはないって」のところで長谷川のドラムが転調するところが最高だ。何度聴いても卒倒してしまいそうなほど格好いい。

エフェクトをかけ不穏で浮遊感を伴う音を重ね合わせて出力する“ばける”から“化けよ”への流れ。さかしたのギター表現から、ロックの未来、そしてギターを通しての表現に可能性がまだまだあると思い知らされた。

またしても耳がかっこいいといっているブルージーなフレーズとAC/DCの“Back in Black”ライクなロッケンローリフが刻まれる“深海旅行にて”、かつてのブランキー・ジェット・シティの危なさを感じさせるギターフレーズと声がたまらない“びりびりしびれる”、本セットのラストとなった“ペーパーロールスター”、流れるように披露されたラスト3曲。さかしたと長谷川が向かい合い、互いに挑発するように繰り出される、たまに曲規定の枠を飛び出してしまうほどの熱いセッションは、ロック本来の初期衝動や荒々しさ、ライヴの本質、それら全てを体験させてくれた。

完全にノックアウトされてしまった。多くの海外からのオーディエンスも観ていたが、間違いなくぶっ飛ばされたことだろう。最後まで観た人たちが多かったようだ。ドミコ印のロックンロールで世界を制する日も近い?

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WEEZER http://fujirockexpress.net/23/p_1640 Sun, 30 Jul 2023 14:20:51 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1640 フジロック’23の終わりが近づいている。毎年この時間帯になると寂しくなってくるのは私だけではないだろう。苗場にいる時間がより愛おしく、残りの時間を大切にしようとも思えて来る時間帯だ。

フジロック最終日のホワイトステージの大トリを飾るのは、WEEZER(ウィーザー)だ。結成の1992来、今年て31年目となる大ベテランバンド。コンスタントに作品リリースし続けており、昨年はヴィヴァルディの「四季」に影響を受けた『SZNZ / シーズンズ』というプロジェクトを立ち上げ、春、夏、秋、冬と季節毎にEPをリリースするという創作意欲衰え知らずのハードワーキングなバンドでもある。そんなウィーザーが初出演の2009年来14年ぶりに苗場へ帰還だ。

開演2分前になると「WEEZER」の文字ステージに映し出され、TOTOの名曲“Africa”が夜風に心地よく流れる。TOTOは今月来日ツアーをしていたのでナイス選曲!と思ったが、この曲は開演のSEとして定番のようだ。暗闇のステージに稲妻のようにライトが随所で差し込まれ、ラジオのチャンネルを次々に切り替えていくようなイントロがしばらく続く。パッとステージに黄色の鮮やかな照明が付き、トップバッターの曲“My Name Is Jones”がはじまった。瞬間に笑顔が弾けるオーディエンス。完璧なスタートだ。続いて重たいリフが刻まれ“Beverly Hills”がスタート。私の目の前にお父さんと思われる人に肩車をして嬉しそうに手拍子をしている小さい女の子がいたのが忘れられない。ウィーザーはやっぱり曲がいい。このシンプルでキャッチーなメロディライン。子供から大人まで楽しめる佳曲をたくさん持っていることがウィーザーの真骨頂だ。

疾走するインストチューン“Return To Ithaka”をバンドのリーダーにしてフロントマンのリヴァース・クオモがエディ・ヴァンヘイレンのごとくライトバンド奏法で締めくくると、耳馴染みのあるリフが奏でられる。“The Good Life”だ。今夜はみんなが聴きたい曲をすべてやってくれるんじゃないだろうか。

ここでリヴァースお得意の流暢な日本語MCタイム「よー!日本!元気?ウィーザーの歴史を振り返る旅に出ます。じゃあシートベルトをしめて!」と重ためリフを刻んでから泣きのフレーズを奏で“Pork And Beans”へ。続く“Pink Triangle”の流れはウィーザーの名刺だった「泣き虫ロック」を存分に堪能できる展開だ。お次は“El Scorcho”とコミカルな方向にも振ってくる。疾走パートにフロアは大盛り上がりだ。

リヴァースのソロ曲“Blast Off!”の中で、リヴァースがおもむろに腕立て伏せをするパフォーマンスをして聴衆の笑いを誘う。バックの映像が1stアルバムを想起させる水色になるとあのフレーズが飛び出した。大歓声に包まれる中“Undone – The Sweater Song”をパワフルに披露。

リヴァースによる日本語MCタイム再び。「美味しい水。日本の水、一番!」とオーディエンスを笑顔にし「(ギターテックに)ギターを上げてください。全然分かりませんね…」と英語でその指示し「少しレアな曲を歌います。グリーンアルバムに入っている曲」。LAのハリウッドサインの山の近くに住んでいた時に近くに住み付き合っていた彼女との別れの寂しい気持ち歌にした“O Girlfriend”だ。歌とアコギ1本でしめやかに披露し涙を誘う。ありがとー!次もアコギ1本で歌うところから入る“Only In Dreams”。導入部からギターが荒々しく吹き荒れる転調するパートへの曲展開は、ウィーザーの楽曲が一筋縄ではいかぬと主張しているような曲だ。“The Greatest Man That Ever Lived(Variation On A Shaker Hymn)”をこの曲が入っているレッドアルバムと同様のハットを被って披露するリヴァース。組曲のような展開を持つ曲。難解だが大好きだ。会場のみんなと楽しく「Hip hip」と合唱し“Island In The Sun”を完了。

「苗場、いいところですね、日がさす、大雨来る、みんな楽しんでる?」と日本語でリヴァース。今の瞬間にぴったりのキーワードと“Perfect Situation”を「ohoh ohoh ohhhh hoooo」と大合唱し、バンドと聴衆は完全に一体となる。リヴァースがピアノで弾き語る“All My Favorite Songs”は場に感動を生み出し、“Say it Ain’t So”ではサビを大合唱し、フロアがここまでのセットで一番の反応を見せた。

“Run, Raven, Run”のソロパートのみを披露した後、重量級のリフが刻まれ“Hush Pipe”が投下された。バンドから繰り出されるビートに呼応するようにフロアは聴衆によるジャンプで大きく波打った。
「ジャパーン!We love you! また会いましょう」とまんまなタイトルの“Thank You And Good Night”
がザ・ヘヴィメタルなリフがザクザク刻まれはじまった。かなり難解な展開を見せる曲だが、ノリやすいサビパートにダンスしステージに向かって手を振り、ハンドクラップをするオーディエンス。ヘヴィメタ調の激しく締めくくってステージを後にした。

すぐに戻ってきてアンコールタイムに突入。“The Waste Land”の入りからポップなフレーズが流れ、“Surf Wax America”へ流れ、そのまま“Buddy Holly”へ。このウィーザー印のパワーポップ2連弾にあがらない人はここには一人としていない。笑顔で大合唱し、踊り、ジャンプし手を叩く。これにて至福の1時間半の旅も終着点を迎えた。

楽しくって、ほっこりし、泣けて、時に不安になったりもする。ひとつのセットでここまで色んな気持ちさせられ、感情が揺さぶられることがあるだろうか。最終日の大トリにドンピシャな完璧なステージを提供してくれた。

ウィーザーはこの後も日本に滞在し単独公演を行うことになっている。8/1(火)に大阪で、8/2(水)は東京だ。今日のライヴを目撃した人もしていない人も、みんなで会いに行こう!

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YARD ACT http://fujirockexpress.net/23/p_1663 Sun, 30 Jul 2023 08:31:44 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1663 フジロック’23も気がつけば3日目!最終日だ!早くも寂しさがこみ上げてくるのを禁じ得ない。今日も朝から快晴でうだるような暑さが続いている。

正午を差し掛かろうかとしているここはレッドマーキー。イギリスはリーズの話題の男たちを目撃するべく大勢が集結している。開演7分前の最後のサウンドチェックでバンドが一斉に出力しグルーヴの仕込みをする。これを聴くだけで、これからはじまるステージに対する期待値が一気に上がった。サウンドチェック完了後の大歓声から察するにみんな同じ思いに違いない。

開演時刻に、The Specialsの“Enjoy Yourself(It’s Later Than You Think)が鳴り響き、クルクルと回転する可愛らしいYARD ACTのロゴが写し出されると、バンド総勢5名が登場した。ライアン・ニーダムのベースがリードし“Rich”がはじまった。フロントマンのジェームス・スミスが「リッチ!」とオーディエンスとコール&レスポンスをしコミュニケートする。ドラムが入り、キーボードのピコピコ音が入り、リヴァーブがきいたギターが入りYARD ACT印のグルーヴが形作られていく。ジェームスとライアンがおもむろに握手し上下にブンブンしたりする愛嬌あるパフォーマンスも好ましい。随所で入ってくる不協和音でブロウするサックスが良いニュアンスになっている。ジェームスが叫び残響音を維持しつつそのまま“Fixer Upper”へ。ライアンのベースラインがタイトで本当にかっこいい。ジェームスのスポークンワードもキレキレだ。

イギリスから遥々やってきて、今ここに居合わせる聴衆に感謝を伝えると、“Land of the Blind”へ。「Ba ba ba, ba-ba-baow」とコミカルにおとぼけな合の手を入れてくるノリが最高だ。サム・シジプストンがギターを引き倒して唸りを上げると、ジェームスは両手を掲げて彼を称えるようオーディエンスを促す。

ジェームスからの「両手を上げてスピリットを見せてくれ!」とはじまった“Pour Another”。サビパートで天井のミラーボールが煌めき素晴らしい演出をする。フロアの拍手喝采の大盛り上がりにジェームスはとても気分が良さそうだ。

お次は最新シングルの“The Trench Coat Museum”だ。サム・シジプストンが出力するギターノイズがめちゃめちゃかっこよくハマっている。ベースとドラムが作り出す土台の上でジェームスがシーケンサーを操りノイズとグルーヴに輪をかけていく。

音源から強靭で凶暴なサウンドに変貌した“Payday”、疾走する生粋のパンクチューンの”Witness (Can I Get A?)”、かけ声がダサかっこいい“Dead Horse”、ジェームスの本セット一番の雄叫びが轟いた“Dark Days”、どの曲も飛び跳ね踊るしかチョイスはないグルーヴの中に英国産のユーモアなくしては出せない味が隠されている。

ここでまさかのMOTORHEADの必殺の名曲“Ace of Spades”のカバーが投下された。ジェームスのダミ声も、バンドの疾走感もなかなかに様になっている。レミー、永遠なれ!

「We love you! 初来日にして初演となるこれは俺たちにとってスペシャルで忘れられないショウになると感謝を伝える。そして、この12月に東京と大阪にツアーで戻ってくるよとアナウンスし、それまでは最大限我慢してねと“100% Endurance”を披露した。

「また会おう!」とアンセム“The Overload”で、フロアをとぐろが巻くような灼熱のグルーヴに叩き込み日本での初演を大成功の中、完了した。鳴り止まない拍手と大歓声がその何よりの証拠。12月にはまた会える。みんなで踊りにいくしかない!

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FOO FIGHTERS http://fujirockexpress.net/23/p_1613 Sat, 29 Jul 2023 15:22:43 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1613 フジロック’23、2日目。ここグリーンステージもいよいよトリのアーティストを残すのみとなった。開演時刻の約15分前、ステージ前方の中央エリアは人が押し寄せ、あっという間にクローズしてしまった。当然の結果だろう。これから「世界で最も熱い男」、デイヴ・グロール率いるフーファイことフー・ファイターズが2015年来8年ぶりに苗場に帰還するのだから。しかも、デイヴは愛する盟友テイラー・ホーキンスと最愛の母親、バージニアを失うという大きな喪失を乗り越えての帰還。どんな悲劇が起ころうとも、自分のことは二の次で、むしろ自分の持ちうるものすべてをネタにしてファンを、世界を楽しませようとする男だ。日本への、この度の苗場への帰還を心から祝福したい。

さぁ、開演まで1分前となった。トム・ペティの“Free Fallin’”がステージから流れる。トム・ペティからザ・ハートブレイカーズのドラマーにならないかと誘われた経緯があるデイヴだ。サビを合唱するクラウドもいて、スタート前の曲としてうってつけだと思っていたが、曲が終わってしまったものの開演の気配がない。次のザ・ローリング・ストーンズの“Gimme Shelter”の途中でステージが暗転し、デイヴがギターをギャンギャンかき鳴らしながらバンドとともに登場。ステージが深紅に染まったと思いきや、あのリフを刻みはじめる。のっけから“All My Life”投下とくれば、もう予想できるだろう?大歓声とモッシュの嵐がフロアに吹き荒れるに決まっている。演奏と途中で止めて、ギターを刻みはじめるデイヴが得意とする緩急をつけた構成で、スタートからフロアを灼熱の渦の中に叩き込んだ。

続く“The Pretender”で、「今夜、お前らと一緒に歌っていいか?」と叫ぶデイヴ。少し出だしだからか、声が出づらそう。ベースのネイト・メンデルが声のサポートをしているように見えた。

頭に水をぶっかけ、髪を振り乱してメタルなリフを刻み“No Son of Mine”がはじまった。バンドが一体となって放出するヤバすぎるグルーヴ。しかも途中でメタリカの“Enter Sandman”のリフをザックザックと刻み、お次はパラノイドのリフをかましてくる。こんなの頭を振るしかないだろ!新ドラマージョシュ・フリーズが超絶ドカドカでオーディエンスを圧倒。めちゃめちゃかっこいい!日本のファンにとっては最高の初お披露目の場になったのではないだろうか。「今夜は長い夜になるぜ!」とデイヴがかっこよく締めくくった。

次に披露されたのが今年出た新譜『But Here We Are』からのリードトラックの“Rescued”だ。「今夜、俺を救い出してくれ!(Rescue me tonight!)」と髪を振り乱し一心不乱に叫ぶデイヴ。もの凄いエネルギーだ。デイヴの叫びも段々とエンジンがかかってきたぜ!

暖かみのあるフレーズが流れ、“Walk”がはじまった。愛してやまない二人を失った失意から救い出されるのを待っていたところからまた歩きはじようというデイヴの心意気が感じられるこの2曲の流れに早くも目頭が熱くなる。

伝説の第1回目の1997年フジロックが初めてだったと、その後も含めフジロック出演を振り返るデイヴ。「久しぶりに戻って来られて嬉しいから今夜をスペシャルなものにしたいんだ。これまでにやったことがないことをやる。古い友人をステージに呼んで一緒に歌うんだ。特別な理由のためにね」と何とアラニス・モリセットをステージに呼び込んだのだ。「美しく、とても賢くて、慈悲深くかったもう今は一緒にいない彼女に捧げます」とつい先日亡くなったシネイド・オコナーの“Mandinka”をアラニスが歌い、フーファイが演奏した。最後にシネイドの写真がバックに映し出され哀悼の意を表し、そのまま“Learn to Fly”へなだれ込む。テイラーとデイヴがこの曲で向かい合って楽しそうに演奏していたのを思い出して泣いてしまった。

ラミがキーボードで荘厳なゴスペル調のメロディを奏で、デイヴと一緒に歌う“Times Like These”は場にとんでもない感動を生み出す。「It’s times like these you learn to live again. It’s times like these you give and give again. It’s times like these you learn to love again. It’s times like these you give and give again…」このくだりでもう号泣だ。渾身のバンドサウンドで激しくロックし感動に包まれ、そのまま軽快でキャッチーな“Under You”へ。バックにフーファイのフライヤー・ポスターと思しきデザインが幾つも映し出されては消えていく。そこに演奏中のバンドの映像が入り込んでくる。続いていくロックバンドの旅を描いているかのようだ。

「古い曲をやるぜ!」と“Breakout”のギターフレーズが!冒頭で初めて出演した1997年のフジロックに触れ、サビパートで音を消して、「フーファイファン!」と合唱を促す。さぁ、そろそろ来るぜあの爆発パートが!「Breakout!」フロアは携帯電話のライトできらめき、 ジョシュがドラムソロをぶちかまして再び場に熱狂の渦を創り出した。

「次も一緒に歌うのが楽しい曲だ」とお次は“My Hero”ときた。ギターを中心に静かに演奏し、みんなで合唱し感動を生み出す。最後は「オーライ!一緒に歌うぜ!」とデイヴが腕を突き上げ共に歌う。「ありがとう!ビューティフルだ!」とデイヴも嬉しそうだ。

ここで恒例のバンドメンバー紹介タイム。クリス・シフレットがキレッキレのギターソロをかまし、ネイト・メンデルがビースティ・ボーイズの“Sabotage”のベースラインを奏でるのだから大変だ!と思いきやデイヴが一部を叫んだだけで終わってしまった。お次のラミ・ジャフィーには1度目では「まだ足りない!フジのためにやれ!(Give it for FUJI)」と厳しいデイヴ。2回目の浮遊感あるスペイシーなプレイで「それがフジのためにやるってことだ!」と晴れて合格。ここで「For FUJI!」と何度も連呼するデイヴ。オーディエンスからのレスポンスが素晴らしく、これで盛り上がるなら簡単だとお気に召されたようだ(この後何度も我々はこれに付き合うことになる)。パット・スメアはラモーンズと言えばな曲“Blitzkrieg Bop”のリフをかき鳴らす、するとドラムのジョシュ・フリーズがドカドカやったので、フロアが思わず「Hey! Ho! Let’s Go!」コールをやってしまう。これに応えバンド全員で一部を披露してくれた。「パットは悪いやつなんだ」と冗談を言ってじゃれ合い、また「For FUJI!」コールを何度も繰り返すデイヴ。最後に大歓声の中紹介された新ドラマーのジョシュ・フリーズのソロの前にラミがディーヴォの“Whip It”のフレーズを弾いたのでバンド全員で演奏する羽目に。そして、「もう一人フーファイのメンバーが来ているんだ。7人目の新メンバーだ!」と28年の付き合いになるというウィーザーのパット・ウィルソンを呼び込み(デイヴの冗談だとは思うが…もし本当ならびっくりニュースだ!)、1stレコードから“Big Me”を一緒にプレイした。

続くはグッと重たくなった“Monkey Wrench”を投下!フロアから今夜一番のバンドクラップが送られた。「フジ!叫べるか?」とグリーンステージ一帯全員で叫び、ジョシュの叩き込みとともに爽快に締めくくった。

「テイラーと俺は日本でたくさん楽しんだんだぜ!」とテイラーの一番好きなフーファイの曲だったからと“Aurora”を優しく奏でる。夜風が心地よい今にぴったりだ。きっとテイラーが天国から苗場を見下ろしている。いや、きっと彼の魂は今一緒にここにいてあの笑顔で楽しんでいることだろう。終盤でバンドがハードに音を出力して熱く締め括った。

「後1曲やるぜ!いや2曲やるぜ、フジのためにな!」と“Best of You”。ラストでバンドが熱くジャムセッションを繰り出す中、オーディエンスが携帯電話のライトを付け「オー!オー!オー!」と大合唱。「オーケー!これまでで一番好きなフジだぜ!ありがとう!」と嬉しそうなデイヴにこちらもほっこりとさせられた。

「多分次の新しい俺のタトゥーになるぜ。For FUJI!」と冗談を挟みつつ「最初に日本に来てから随分経つけど、今度はもっと早く戻ってきたいね。日本中をツアーで回れたら最高だな!その日が来るまで、この曲で一緒にダンスしようぜ」と本セット最後の曲“Everlong”がはじまった。前回2015年のフジロックではリードトラックだった曲だ。バンドもオーディエンスもあらん限りに叫び、ダンスし、楽しみ尽くした約1時間半のステージを完走した。

コロナ禍中にデイヴが『The Atalantic』紙に寄稿した記事の中で「なぜ我々にはライブが必要なのか?」についてこう書いている。「俺はこれまで、俺の音楽を、言葉を、人生を、俺のショーに来てくれた人達と分かち合ってきた。そして来てくれた人達は、それぞれの声を俺と分かち合ってくれた。叫び声を上げ、汗をかく観客なしでは、俺の曲は単なる音でしかない。だけど、みんなと一緒なら、音楽の大聖堂の楽器になれる。毎晩毎晩俺たちは、みんなで一緒に音楽の大聖堂を作れる。だからそれを、また絶対にみんなで一緒に作るんだ」(参照元)まさしく今夜、苗場でこの宣言を実現してくれた。ありがとう。次の来日はいつになるか分からないけど、俺たちはいつだってデイヴの帰還を祝福するよ。

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CAROLINE POLACHEK http://fujirockexpress.net/23/p_1631 Sat, 29 Jul 2023 11:46:40 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1631 フジロック’23、2日目も17時を過ぎた。アラニス・モリセットの懐かしい音を聴きながらグリーンステージを超えてホワイトステージへと向かう。

朝からうだるような暑さが続いたが、夕方になってもまだまだ暑い。ホワイトステージに集結した人たちが発する熱気を伴って発汗が一向にとどまる気配がない。

ステージに流れていたヴァン・ヘイレンの“Jump”が終わり、1分前になると画面にラフスケッチのような時計の映像が映し出されカウントダウンしていく。ベースとギター、ドラムの3名が登場し、画面が電子ビートとともに「0」が表示されるとステージに高らかな美声が響き渡った。満を持してCAROLINE POLACHEK(以下キャロライン)が姿を見せ、「ヘイ!ヘイ!ヘイ!」と腕を突き上げ“Welcome to My Island”からステージの幕が開いた。キャロラインは白い布を重ね合わせたようなアーティスティックな装い。赤いロングブーツもアクセントになっている

「フジローック!私の日本初のコンサートへようこそ!」と挨拶し、ここに来られて光栄だと言葉を詰まらせる。キャロラインの人柄、想いが伝わり、オーディエンスから割れんばかりの拍手喝采が送られ、場が温かい感動に包まれた。

全身が震わせられるような重たいベースが入りはじまった“Bunny Is a Rider”では、曲間でマイクスタンドにマイクをセットしオーディエンスに手拍子を促す。美しい口笛の鳴りとともに荘厳に締めくくるのだ。「ありがとうございまーす!」とびっくりするほど流暢な日本語で感謝の意を伝えた。

アコースティックギターで奏でられるラテン調のフレーズを持つ“Sunset”、バックに稲妻が光る映像に切り替わりダークな様相の中はじまった“Ocean of Tears”、2021年に亡くなったSOPHIEに捧げた“I Believe”とステージは進行していく。キャロラインの美声、声域の広さは圧倒的だ。高音のビブラートを手をウェーブしながら発声する。その所作、一挙手一投足が本当に美しい。コリオグラフィーも作り込まれているようでいて、たった今創作されたような生々しさがあり、彼女の世界にどんどん引き込まれていくのだ。

Grimesに捧げるとはじまった“Fly to You”。キャロラインが本曲で細かくビートを刻み、スキルフルなドラミングで魅せてくれるラッセルに拍手を求める。世界観を共に創作している仲間たちへの経緯ある気遣いある行動にまたしても感動してしまう。

深いグリーンに木の葉が舞う映像にぴったりの幻想的な“Blood and Butter”。この曲はつい先日訃報が届いたシネイド・オコナーに捧げられた。インドのヒンズースケールを伴う浮遊感ある流麗なギターソロがたまらない。そして、キャロラインがバンドメンバーをひとりひとり紹介した(マットがギターで、マーヤがベースだ)。

ここでフジロックならではとしか言いようがないマジカルなサプライズが起きた。何と、レッドマーキーでステージを終えたばかりのWEYES BLOODが登場!美しいドレスに身を包んだWEYES BLOODとキャロラインが共に歌い上げる“Butterfly Net”の神々しさといったら…本当にもの凄いものを見せてもらった。

入りの電子音に合わせて何かを捕まえては取り込み放出するパフォーマンスから形作っていった“Billions”、本セット一番の高らかなロングトーンボイスが圧巻だった“Smoke”、コーラス耳目に優しく響き渡る“So Hot You’re Hurting My Feeling”と、日が落ちた苗場の自然と一体となってファンタジーの世界にいるような感覚へと誘われた。

「とてもとても美しい夜ありがとう!」と締めくくりの曲は“Door”。キャロラインがオーディエンスに扉を次々と開いていく振り付けを示し、サビパートで一体となった。スモークが焚かれ、山に黄色と赤の明かりがぼんやりと灯る映像とともに圧倒的な演出に彩られたステージの幕引きを行った。

終演後の余韻がもの凄く、しばらくその場を動けなかった。キャロラインの世界観に引き込まれてしまいどこにいるのか、現実が分からなくなったような感覚。音楽が芸術なのだという本質をあらためて思い知らされたようなライヴだった。

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Chilli Beans. http://fujirockexpress.net/23/p_1627 Sat, 29 Jul 2023 06:43:20 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1627 フジロック’23も2日目を迎えた。ここはホワイトステージ。昨日に引き続き汗が滴り落ちる、だるようなやばい暑さだ。本日本ステージの1発目を飾るのは3ピースロックバンド、チリビことChilli Beans.。彼女たちにとって記念すべき初のフジロックでのステージとなる。

楕円の中にバンド名が描かれたロゴがドーンと映し出され、バンドメンバーとサポートドラマーが登場。ドラムビートが軽快に入り“School”から開演。MaikaとMotoのツインリードボーカルをとるタイトル通りの青春ど真ん中の音。熱気を帯びた空間に届けられる爽やかな音色と歌声。サビのハモリパートなんて最高だ。フレッシュな演奏に呼応するかのように山から気持ちいい風が吹いてくる。

「皆さんこんにちは!Chilli Beans.です!今日は楽しんでいってください!」Maikaのベースがリードする“rose”へ突入。音楽塾ヴォイス時代からの盟友、Vaundyとのコラボ曲なので、この後同じホワイトステージに出演予定ということもあって、彼の飛び入り参加を期待したが残念ながら叶わなかった。Lilyがリズミカルにギターを刻み締めくくる。

ファンキーでグルーヴィーなLilyのギターが疾走する“duri-dade”へ。「I Don’t Need Your LOVE!」と連呼しみんなで合唱。ライヴでひとつになるのは本当に楽しいしかけがのない瞬間だ。3人がバチを手にし、全員でドラムを叩き込み、腹にズシズシくるビートでオーディエンスのバンドクラップを促す。曲をよく理解し、フロアをアゲるツボを押さえたステージングだ。

Maikaによる粋なタッピングからはじまる“See C Love”、立て続けに披露した“neck”はどちらもLilyのギターが主役だ。曲特有の印象をギターフレーズで創り上げている。

ここで「暑すぎない?」とMaikaが聞くと「暑い!」と返すMoto。「水飲んでますか?」と観客を気遣うMaika。本当に暑い。汗が全然止まらない。ホワイトステージの周りには日陰になる場所がないので直射日光を浴びることになる。水でMoto「カンパーイ!」と可愛らしく音頭をとり、甘酸っぱいポップソング“lemonade”へ。清涼感あるフレーズとタイトなビートに合わせてステージ上でクルクルとダンスし、オーディエンスをダンスフロアへと誘っていく。つまらない日常の歌詞から「WAKE UP!」と目覚めさせてくれる歌詞へのキャッチーなメロディの転調がたまらない曲“L.I.B”がここで披露された。今の熱気むんむんのだるい天候のたった今にドンピシャだ。みんながサビで緩やかにハンドクラップして一体となる。

一瞬蜂に見えたというトンボにびっくりしたという小さなトラブルを挟み“アンドロン”で清涼効果のあるMotoとLilyのハモりを堪能し、キラキラ感満載に疾走する“Vacance”、続く“Tremolo”でキレッキレのラップを披露したMaikaがフジロックに出演できたことの喜びと感謝を伝える。お客さんとしてもめちゃめちゃエンジョイする予定とのことだ。「最後まで突っ走ってください!」と“Digital Persona”からホップ感満載に進んでいく“シェキララ”へなだれ込んでいく。向かい合って楽しそうに、そして激しくかき鳴らすLilyとMaikaが凄まじい音塊を創り出していたのもハイライトのひとつだ。本ステージのラストは、キュートで小気味よい“you n me”で爽快に締めくくった。「また会いましょー!」と手を振り、にこやかにステージを後にした。

終演後に登場したホワイトステージのMCをはじめ、この場に居合わせた多くのオーディエンスから「最高!」との歓声が飛び交っている。フジロックの初ステージは大成功という何よりの証拠だ。

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BENEE http://fujirockexpress.net/23/p_1609 Sat, 29 Jul 2023 05:27:52 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1609 フジロック’23の2日目も気がつけば昼下がり。朝から晴れ渡り、ひたすらに暑い時間が続いている。Gezanに続き本日グリーンステージの2番手を務めるのは、今世間の耳目を集めるニュージーランドはオークランド出身のシンガーソングライター、BENEE(以下ベニー)だ。

彼女の最新アルバム『Lychee』のラストトラック“Make You Sick”の荘厳な響きが会場にこだまする中、ギタリストとベーシスト、ドラマーの3名が登場し一斉に音を出力すると、ベニーが最高の笑顔で登場。遊戯王の赤いTシャツを着て、この天気の中で見るからに暑そうなどデカい白のブーツ、水色のスカートをヒラヒラさせながらにこやかに登場し、オーディエンスに手を振りまくる。特徴的な重たいビート4連発が気分を上げてくれる“Kool”からスタートだ。歌い、踊りながらステージ上を左右に行き来し、笑顔で手を振りオーディエンスとの出会いを祝福するかのようなベニー。好感度が瞬時に上がっていく。「ゲンキデスカー!」と絶叫し、オーディエンスと一緒にヘヴィメタルマナーなメロイックサインを両腕で掲げ、のっけから場に一体感を生み出していく。

続くはミドルテンポで進む“Find an Island”へ。自分以外誰も知らない島を見つけたというテーマの曲だが、バックの映像に魚の骨や海の中で魚たちが泳いでいるアニメーションが映し出され、曲調とともにコミカルな雰囲気を醸成してベニー流の世界観を描いていく。

ここへ来られたことへの感謝と感激をシャウトで表現し、バンドメンバーを紹介。ドラムのフィリップの誕生日が近いということで、みんなでバースデイソングを歌いお祝いする。聴衆との一体感を創るコミュニケーションが天才的だ。次のダウンビート基調のアンニュイな雰囲気を持つ“Soaked”を聞き入っているオーディエンス。本曲のラストで3名のバンドが自由にセッションしている間に、ベニーがステージから出ていった。ベニーがサッカー日本代表の青いユニフォームを着て登場し、サッカーボールを持っているかのような仕草をし満面の笑顔を我々届けるのだから盛り上がらないわけがない。ここで新曲“Love Rollercoaster”を披露。軽快で清涼感あるメロディがとても心地よい。「アリガトゴザイマス!ここは暑いね!地球温暖化よ!怖い…」とおどけ、流れるようなギターフレーズを中心とした清涼感あるサウンドが満載の“Beach Boy”が続く。ラストで踊りながら身体をくねらせてふざける仕草をして、オーディエンスへのアピールを忘れない。

次も新曲“Morning Routine”をお披露目。キレのあるベースがかっこよく、横ノリで問答無用に踊れる曲だ。ベニー自身が縦横無人に踊りまくり、曲の持つグルーヴに身を任せている。フロアにジャンプを促しはじまった、“Green Honda”。ベニーのおばあちゃんから譲り受けた愛車「スティーヴ」のことを歌った曲だ(『STELLA & STEVE』EPのジャケットにもなっている)。ヒップホップ調の重たいビートで突き進む展開にフロアは本セット一番の盛り上がりを見せる。あまりの暑さ故か、ベニーがブーツを脱ぎ捨てソックスの状態で踊り狂うのだ。

「暑いー!」と苦しそうに声上げつつも、バンドが一旦はけ、軽やかな電子ビートの上に爽やかで艶のあるベニーの歌声がのる“Snail”、バンドがステージに戻りプレイされた突き進むビートが繰り出される本ステージ3度目の新曲“Sports Mode”にはこちらも踊り応えるしかない流れだ。

再び清涼感のある落ち着いたギターフレーズが心地よい“Glitter”の後、「あと3曲!フジローック!!」とスクリームし、またしてもメロイックサインを掲げるのだ。ステージ後方までみんなが掲げているのを見て「Wow! Beautiful!!」とご機嫌だ。落ち着いたキャッチーなメロディラインからギターがかき鳴らされ重量級の音へと転調するところが圧巻な“Never Ending”。ステージ上に倒れ込みこれでもかと頭を振り暴れている。ドラムと電子音だけで軽快に発進するGrimesをフィーチャーした“Sheesh”でステージ下に降りて来て左右隅々までくまなくオーディエンスとハイタッチして回った。表情から察するに、めちゃくちゃ暑くて倒れてしまいそうな状態と思われるが、この場を共有した人たちへのサービスと感謝あふれる行動に感動してしまった。

ラストはやっぱりこの曲!“Supalonely”だ。TikTokを通じて世界的に知れ渡ることになったベニーの実体験失恋ソング。居合わせたみんなで歌い、パワフルに1時間のステージを完走。愛と感謝を伝え、「またすぐに帰ってくるよ!」と手を振りにこやかにステージを後にした。

居合わせたオーディエンスへの、フジロックへの、そして日本への愛を、言葉と音楽、全身で表現をしてくれたベニーには感謝しかない。

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