“平川啓子” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '23 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/23 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Fri, 18 Aug 2023 09:33:43 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.23 帰ってきた大将…… みんな、それを待っていた。 http://fujirockexpress.net/23/p_9601 Mon, 14 Aug 2023 03:03:36 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=9601  たまたま見た記事に使われていた「完全復活したフジロック」という見出しに目を疑った。どこが? これを書いたのは、フジロックの一部しか知らない人か? あるいは、これが「忖度」ってヤツか? 興行的な側面を見れば、確かに近いものはあるかもしれないし、コロナのことなんぞ気にかけることもなく、やっと普通に遊べるようにはなっていたけど、「完全」はないだろう。もちろん、4年越しに復活したパレス・オヴ・ワンダーが、「らしさ」を垣間見せてくれたのはある。あれは生粋のフジロッカーにはめちゃくちゃ嬉しかった。が、「完全復活」という言葉を使うには無理がある。奥地に姿を見せていたカフェ・ドゥ・パリもなければ、音楽好きにはたまらない魅力となっていたブルー・ギャラクシーもない。ワールド・レストランがあった場所は、ただの空き地だ。開幕前と言えば、フジロックを生み出した、我々が大将と呼ぶ日高氏の影はきわめて希薄で、メディアではなにやら「過去の人」のようにされてはいなかったか。

 が、フジロックは日本のロック界を揺り動かし、変革し続ける希代のプロデューサー、日高正博氏そのものであり、その業績が結晶となったものと思っている。その原型といってもいい、アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティヴァルをUKのグラストンバリー・フェスティヴァルの影響の下にぶち上げたのは、今から40年ほど前。あの頃から旧態依然とした音楽業界に風穴を開け、激震を与え続けているのが彼であり、その集大成がフジロックなのだ。

 彼が率いるスマッシュという会社が立ち上がったのは、そのしばらく前のこと。まず彼が着手したのは、国内でレコードも発売されていないようなアーティストの招聘だった。それまでの海外アーティストの来日といえば、圧倒的なレコード・セールスを記録し、誰でも知っているスターばかり。ところが、彼が着目したのはひと癖もふた癖もあるアーティストだった。名義こそスマッシュではなかったかもしれないが、最初に招聘したのはジョージ・サラグッドとデストロイヤーズではなかったか。当時、このアーティストの存在を知っている人は多くはなかったはずだが、一連のライヴが大好評を博している。しかも、会場となったのは、海外からのアーティストが使うことはほとんどなかった小さなライヴハウス。それも画期的だった。その後も、インディ系ロックからアンダーグランドのパンク、レゲエやワールド・ミュージックにいたるまで、ジャンルにとらわれることなく、なによりも彼が信じる才能やシーンを日本に紹介することを最優先して動いていた。

 同時に、座席付きの会場がコンサートの定番となっていたことに疑問を抱いた彼は、ボクシングやプロレスで知られる後楽園ホールに着目。なんとホールの中にステージを設営して、スタンディング・スタイルのライヴを企画していくのだ。ちょっと座席を立っただけで警備員に止められたり、会場から追い出されるのが常識だった時代に、「好きに踊りなよ」というライヴの場を提供したのは画期的だった。といっても、インフラが整っているコンサート・ホールとは違って、ステージから音響に照明まで全てを用意しなければいけない。当然、金がかかる。金儲けが目的の興業屋だったら、こんなことをするわけがない。それはフジロックでも同じこと。なにもない場所に全てを作り出すことで、どれほどの経費がかかるか? 杭を一本打つにも資材やその輸送費に人件費が必要となるのだ。

 それでも、オーディエンスにとって自由に音楽を楽しむことができるライヴがどれほど嬉しかったか? この時、UKレゲエのアスワドやUSで衝撃を与えていたヒップホップ、ビースティ・ボーイズをここで体験した人達にはわかったはず。これこそが音楽の魅力を、そしてその背景をも伝えてくれるライヴの場なんだと。しかも、当時、ライヴが始まる前のコンサート・ホールといえばシ~ンと静まりかえっているのが普通だったのに、ここでは出演するアーティストに絡んだ音楽が大音響で鳴らされている。それまで当然のように幅をきかせていた「音楽鑑賞会」と呼ばれていたコンサートとは全く違った空気が流れていた。思い起こせば、スタンディングが当然の場として、先駆けとなる渋谷クアトロが生まれたのは1988年。後楽園ホールで幾度もライヴが開催された後なのだ。

 実は、DJやクラブの動きに関しても、大きな役割を果たしていたのが大将だった。黎明期のクラブ・シーンを語るときに欠かせない桑原茂一氏率いるクラブ・キングと一緒に海外からDJを招聘したのは1986年。フジロックでもおなじみのギャズ・メイオールと、当時、ロンドンのダンス・ジャズ・シーンで脚光を浴びていたポール・マーフィーを来日させている。さらには、ユニークなダンス・スタイルでマンチェスターから躍り出たダンス・トゥループ、ジャズ・デフェクターズも招聘。会場となった原宿ラフォーレでは深夜になっても行列ができるほどの反響を生み出していた。

 さらに91年にはアシッド・ジャズからUKジャズを牽引したメディア、Stright No Chaserと共同でクラブ・イヴェントを企画。Kyoto Jazz Massiveとモンド・グロッソが初めて東京に進出し、U.F.O.とDJ Krushが一堂に会して、UKジャズをリードしていたスティーヴ・ウイリアムソンのバンドThat Fuss Was Usと、しばらく後に世界的ヒットを生み出すDJユニット、US3を迎えてた大規模なパーティも実現させている。4000人超を集めてオールナイトで繰り広げられたこれが、日本のクラブ・シーンを一気に活性化させるのだ。

 そういった大将の業績を集約するように始まったのがフジロックだった。誰もが「無謀だ」、あるいは、「これでスマッシュも倒産だろ」と口にしたのが1997年の第一回を前にした頃。ものの見事に台風にやられて、2日目をキャンセルせざるを得なくなったのを「ざま見ろ」と口にした業界人も多かった。加えて、会場に来ることもなく「観客を管理する柵も作っていない」と批判をぶつけてきたのが大手メディア。「ロック・フェスティヴァルに来る人間は無知で粗野な人種だ」とでも決めつけているんだろう、そんな「常識」との闘いがこの時から始まっていったのだ。

 その最前線にいたのが大将であり、奇抜とも思えるアイデアを次々と現実にしてフジロックを成長させてきたのも彼だった。いうまでもなく、周辺にいたスタッフはたいへんな思いをしたに違いない。なにせ彼に「常識」は通用しない。が、それがフジロックを他のなにものにも比較することができないユニークなフェスティヴァルとしてきたのだ。会場外にステージを作って、奇妙奇天烈なサーカス・オヴ・ホーラーズを招聘したのは2000年。翌年には、同じ場所に、出演者でもないジョー・ストラマーとハッピー・マンデーのベズを中心としたマンチェスター軍団から、後にスターになる娘、リリーを伴った俳優のキース・アレンらを呼び寄せて、フリーキーな遊び場を作っていた。さらに、翌年になると、UKのアート&パフォーマンス軍団、Mutoid Waste Companyをリードするジョー・ラッシュがここにパレス・オヴ・ワンダーと呼ばれる空間を生み出している。その延長線にあったのが、オレンジコートの奥地に生まれたカフェ・ドゥ・パリやストーン・サークル。フジロックを単なる野外コンサートではなく、どこかで奇想天外で別世界のような祭りに仕上げていったのは間違いなく大将だった。

「俺たちにはそんな大将が必要なんだ」という想いを形にしたのが、3年前に初めて彼の写真を使って我々が発表した「Wanted」のTシャツだった。元ネタは1981年に発表されたピーター・トッシュのアルバム・カバー。下敷きとなっているのはマカロニ・ウェスタンや西部劇と呼ばれるアメリカ映画でよく見かける指名手配書だ。賞金額と「Dead or Alive」(生け捕りでも死体でも)という言葉がセットになっていて、人相書きを元に、賞金稼ぎがその首を狙うというもの。今もこんなのが生きているのかどうか知らないが、ピーター・トッシュはこのジャケットで「俺は危険なアーティスト」というイメージを打ち出したかったんだと察する。

 一方で、日高大将をネタに僕らが作ったヴァージョンには全く違った意味が込められていた。賞金の代わりに並べたのは「9041」という数字。囚人番号にも見えたこれは彼が大好きな言葉、クレイジーをもじった番号で、「Not Dead But Alive」としたのは、「生きていてもらわないと困る」からに他ならない。コロナ禍できわめて厳しい状態に直面しているフジロックが生き残るのみならず、本来の姿に戻ってさらに深化(進化)させるのに、必要不可欠なのは元気に走り回る日高大将。と、そんな想いを込めていた。

 最低限の取材経費を主催者から受け取っても、独立性を保つためにも、日常活動に関しては一銭のギャラも受け取らないボランティアで構成されるのがfujirockers.org。というので、その始まりから、活動資金作りのために様々なアイデアを絞り出している。そのひとつが、Tシャツなどの物販で生まれる収益。その歴史でかつてないほど好評だったのがこの作品で、以前とは比較にならないほどの売り上げを生み出していた。おそらく、この結果が生まれたのは、会場にやって来るフジロッカーズも同じような「想い」を共有していたからだろう。

感染防止のためにがんじがらめのルールに縛られながら、「なんとかフジロックを支えたい」という思いが際立った2021年にこれを作っていた。規模を縮小しなければいけないという流れの中で、集まった人達の数は史上最低。恒例となっている前夜祭での集合写真も撮影できなかったし、なにやらもの悲しかったのが花火大会。さらには、「声を上げるな」というので、ライヴでの歓声もないという、きわめて異様な光景が広がっていた年だ。それでも、出演者関係者のみならず、集まってきた参加者から「なんとかフジロックを守りたい」という思いがひしひしと伝わってきたのをよく覚えている。それは、現場に来ることを選ばなかった人達からも同じように感じていた。

 そして、「いつものフジロック」を謳って開催された去年も、現場ではぴりぴりした空気が漂っていた。なんとか恒例の前夜祭での集合写真は撮影できたものの、あの時、「みなさん、マスクを付けてください」と、この奇妙な時代を象徴する記録を残そうとしたことを覚えている方もいると思う。オレンジカフェのテントで食事をしようとしても、テーブルを仕切る透明の板の上には大きく「黙食」と書かれていて、久々に会った仲間との会話さえはばかられる。確かにライヴは行われたけれど、なにか釈然としないものを感じていた。グリーン・ステージの最後のバンドが演奏を終えて、いつもなら、祭りの終わりをみんなで共有する時間があったはずなのに、それもなかった。当然のように、オーディエンスの集合写真を撮ることもなく、静かに幕を閉じていった。

 それよりもなにより、フジロックでしか体験できない時間や空間を感じることがほとんどなかったのが昨年。それを象徴していたのがパレス・オヴ・ワンダーの不在だった。なにやら、フジロックからフェスティヴァルの要素がすっぽり抜け落ちて、ただの野外コンサートになっていたような感覚を持った人も多かったのではないだろうか。この時、フジロッカーズ・ラウンジでは「Where Is “Wonder”?」という写真展を開催している。「どこに『驚き』があるの?」とここで問いかけていたのは、パレスに絡んだことだけではなかった。かつてジョー・ストラマーが口にしたように、「年にたったの3日間でもいい。生きているってどういうことかを感じさせるのがフェスティヴァル」だとしたら、それがどこにあるのか? そんな疑問を感じざるを得なかったのだ。

 もちろん、パレス・オヴ・ワンダーの主力部隊がUKからやって来るスタッフだというのは、多くの人が知っている。コロナの影響で彼らの来日が難しいというのは百も承知で、同じく、大幅な縮小での開催を余儀なくされたという、経済的な打撃が後を引いているのは理解できる。が、その上で「いつものフジロック」を謳うのは「違うだろ!」という声が多数派をしめていた。

 さらに、以前なら、ジープに乗って会場を動き回っていた大将の姿を見かけることはほとんどなかった。そうやって会場に集まっていた人達と会話を交わしたりと、いつもフジロッカーに最も近いところにいたのが大将。1997年の第1回が始まる以前から、Let’s Get Togetherと名付けた公式サイトの掲示板経由で、オフ会にまで顔を出して、彼は日本で初めて継続的に開催することを目論んでいたフジロックのお客さんたちと繋がろうとしていた。その掲示板が独立するような形でfujirockers.orgが生まれた後も、「なにかをやりたい」と集まってきたスタッフと幾度となくミーティングをしたり、インタヴューの場を設けてくれたり……。それが終わると、みんなを引き連れて居酒屋に出かけて四方山話となるのだ。フジロックが成長するにつれて、そういった機会は少なくなっていくのだが、それでもフジロックを愛する普通の人達の声に彼はいつも耳を傾けていた。

 我々フジロッカーの想いは、「Wanted」のTシャツに集約されていた。大将が最前線に戻ってきて欲しい。だからこそ、昨年も「Mad Masa」のTシャツを制作。そして、今年は、彼が復活させた「苗場音頭」と忌野清志郎と作り出した「田舎へ行こう」のシングル盤を作り出すことでその重要性を訴えようとしていた。常識ではあり得ないだろう。レコード会社でもない、フジロックを愛する人達のコミュニティ・サイトを運営するfujirockers.orgがレコードを発売するという、前代未聞のプロジェクトだ。そのアイデアを彼に伝えると、二つ返事で「じゃ、事務所につないでやるよ」と動いてくれたのだ。

 そのプロモーションで動き回るなか、フジロックが生み出した「故郷」を認識することになる。「ずっと都会生まれで都会育ちの人にとって、苗場が毎年帰ってくる田舎のようなものになっていったんです」と語ってくれたのは、7月頭の苗場ボードウォークで語り合ったフジロッカーだった。なにやら故郷に帰る人達のアンセムのような響きを持つのが「田舎へ行こう」であり、彼らを暖かく受け入れて迎えてくれるのが「苗場音頭」。フジロックは野外コンサートを遙かに超えて、年に一度「生きている」ことを祝福する故郷の祭りとなっていることを思い知らせてくれるのだ。

 そのフジロックに危機が訪れていた。コロナの影響で思い通りに開催できなかったことから負債が累積。と、そんな噂が駆け巡っていた。予算も縮小しなければいけないし、今年がうまく行かなかったら、来年はない……。毎年のように「来年はないかもしれない」という危機感は持っていたんだが、それがいよいよ現実になるのかもしれない。噂の域を出てはいないというものの、想像してみればいい。もしもフジロックが開催されなかったら……。まるで故郷をなくしたような気分に陥るのだ。

 しかも、当初は予算の関係で不可能だと思われていたのがパレス・オヴ・ワンダーの復活。突き詰めていけば、コロナの影響によるダメージで、なによりも実現しなければいけないのはコンサートであって、それ以外のものは「無駄」だという発想が支配的になっていたからだ。それでも必死に食い下がったのが、UKチームのボスから東京のスタッフ。彼らがなんとか復活させたいと必死に動いていた。実を言えば、ほとんどの関係者が、守ろうとしたのはフジロックという「フェスティヴァル」であり、その象徴がここにあった。

ひょっとすると、それこそがフジロッカーズをつなぎ止めたのかもしれない。メインのステージでの演奏が終わると、行き場所がなかったのが昨年。が、今年は違った。様々なオブジェが姿を見せ、サーカスまでもが繰り広げられる。まるで映画のセットのようなその空間に浮かび上がる木造テント、クリスタル・パレスは健在だった。4年間も放置されたことで、かなりの修復が必要だったらしいが、今年もユニークなバンドの数々とDJたちが至福の時間を生み出していた。特に嬉しかったのは、その箱バンのような存在だったビッグ・ウイリーが戻ってきたこと。いつも通り、ちょいとセクシーなダンサーたちと極上のエンタテイメントを提供してくれた。

 残念ながら、ダブルAサイドで復刻した7インチのアナログ・シングルを生むきっかけとなったブルー・ギャラクシーの復活を願う声は主催者には届かなかった。まずはJim’s Vinyl Nasiumとして生まれ、それが成長して新たな名前を付けられたここで蒔かれた「音楽を楽しむ」という種を各地に持ち帰った人達が育てたのがフジロッカーズ・バー。もちろん、DJバーの土壌はすでに存在したし、ジャズ喫茶やクラブの文化も背景にはある。その全てが複雑に絡みながら、発展してきたことは言うに及ばない。が、ここから生まれたフジロッカーズ・バーというイヴェントが日本全国の様々な町で企画され、音楽を楽しむ場として定着しつつあることも見逃せないのだ。

 そんな仲間に手をさしのべてくれたのが会場外でジョー・ストラマーの遺産を守り続けるJoe’s Garageだった。「いいですよ、ここを使ってくれたら」とフジロッカーズ・バーでDJを続ける仲間たちがここに集まっていた。彼らはチケットを買ってフジロックにやって来たお客さんでもある。その彼らに「めちゃくちゃ楽しい」と言わしめたここは、UKチームのたまり場でもあり、ここでも祭りの文化が花開いていた。

 そして、なによりも嬉しかったのはフジロッカーズが「帰ってきてくれ!」と願い続けてきた大将の姿が、今年はあちこちで目に入ったことだろう。しかも、どん吉パークではいきなりステージを作って、苗場音楽突撃隊のライヴを実現させている。と思ったら、最後の朝、月曜日の早朝のクリスタル・パレスでは、ビッグ・ウイリーのバーレスクが演奏を終えたっていうのに、ステージに姿を見せた彼が言うのだ。

「もっともっと聞きたいだろ!」

 と、オーディエンスに呼びかけてアンコールをせがんでいた。へとへとになっているバンドも大将に言われたら、断れない。というので、予定外の演奏が始まっていた。なにが起こるのか、予想もできないハプニングが待ち受けているのもフジロック。それを動かしているひとりが、言うまでもなく大将なのだ。

 いつもなら、全てが終わった後、入場ゲートに「See You」と来年の告知がされるのだが、今年は昨年同様日付が記されてはいなかった。さて、本当に来年のフジロックはあるんだろうか? きっと、あるんだろうと信じたいのはやまやまだが、どこかで「まさか..……」という疑念も振り払うことができない。

 いずれにせよ、ここ数年、ずっと頭に浮かぶのは、パレス・オヴ・ワンダー、生みの親のひとり、Mutoid Waste Companyのヘッド、ジョー・ラッシュがインタヴューで残してくれた言葉。

「フェスティヴァルってのはね、ただ口をぽかんと開けて、(チケットの金を払ったんだからと、それに見合う)なにかを受け取るだけの場じゃないんだよ。自らその一部となるってことだと思うんだ」

 おそらく、fujirockers.orgのスタッフもそんな人達の集まりだろうし、会場の外でJoe’s Garageを生み出した仲間も同じだろう。苗場音頭のために浴衣を持ってきたり、コスプレで遊んだり、あるいは、お客さんなのにレコードを持ってきてDJをしたり、どこかで誰かが演奏を始めたりってのも、自らフェスティヴァルを作り出すってことなんだろう。そんな人達がいる限り、フジロックは「終わらない」と思えるんだが、どんなものだろう。もし、開催が危ういというなら、大騒ぎをして主催者を動かしてやろうじゃないかとも思う。

 さて、好天続き……というよりは、炎天下に襲われたのが今年のフジロック。まだまだ完全復活には時間が必要かもしれないが、それでもフジロックでしかない貴重な時間や体験を生み出す、フジロック本来の魅力を伝え続けてくれたのは、以下のスタッフ。ありがとう。こよなくフジロックを、そして、フジロック的なものを愛するあなたたちは、間違いなく「フジロック」を作り、支える仲間です。

 また、赤字で当然のレコード再発プロジェクトを支えて協力してくれたスタッフ、フジロッカーズ・バーの仲間のみなさん、ありがとう。まだまだ売らないと元が取れないというのでここで、もう一度大宣伝です。契約の関係上、レコード屋さんでは買うことができないことになっているこのシングル、忌野清志郎の「田舎へ行こう! Going Up The Country」と円山京子の「苗場音頭」をカップリングして、両A面としているこのレコードはこちらで購入可能です。これを買って、fujirockers.orgを支えていただければ幸いです。
https://fujirockers-store.com/collections/cd-lp

FUJIROCK EXPRESS’23 スタッフクレジット

■日本語版
あたそ、阿部光平、阿部仁知、イケダノブユキ、ミッチイケダ、石角友香、井上勝也、岡部智子、おみそ、梶原綾乃、紙吉音吉、粂井健太、小亀秀子、古川喜隆、小林弘輔、Eriko Kondo、佐藤哲郎、白井絢香、suguta、髙津 大地、近澤幸司、名塚麻貴、ノグチアキヒロ、馬場雄介(Beyond the Lenz)、HARA MASAMI(HAMA)、平川啓子、前田俊太郎、三浦孝文、森リョータ、安江正実、吉川邦子、リン(YLC Photograpghy)

■E-Team
カール美伽、Jonathan Cooper、Park Baker、Sean Scanlan

■フジロッカーズ・ラウンジ
mimi、obacchi、SEKI、yamato

■TikTok
磯部颯希

■ウェブサイト制作&更新
平沼寛生(プログラム開発)、迫勇一、坂上大介

■スペシャルサンクス
三ツ石哲也、若林修平、東いずみ、Nina Cataldo、卜部里枝、takuro watanabe、Chie、竹下高志、西野太生輝

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fujirockers.orgは1997年のフジロック公式サイトから派生した、フジロックを愛する人々によるコミュニティ・サイトです。主催者からのサポートは得ていますが、完全に独立した存在として、国内外のフェスティヴァル文化を紹介。開催期間中も独自の視点で会場内外のできことを速報でレポートするフジロック・エキスプレスを運営していますが、これは公式サイトではありません。写真、文章などの著作権は撮影者、執筆者にあり、無断使用は固くお断りいたします。また、文責は執筆者にあり、その見解は独自のものであることを明言しておきます。

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UA http://fujirockexpress.net/23/p_1683 Thu, 03 Aug 2023 23:53:33 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1683 【フジロック3日目周遊記 後半】 http://fujirockexpress.net/23/p_7398 Wed, 02 Aug 2023 12:08:42 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=7398 フィールド・オブ・ヘブンのNeal Francisは驚くほどストレートで正統派で迫力あるロックであり、ファンクだった。ヘブンで聴いているからかもしれないけど、ジャム系のバンドのようにも聴ける。フジロックのヘブンで求められているバンドである。100 gecsの後だったので、生演奏の魅力を余計に感じてしまった。

生演奏の迫力といえば、ホワイトステージのBLACK MIDIなんかは究極である。卓越したテクニックの応酬がスリリングで、プログレッシブロックの現代版だといえる。ステージ前のお客さんたちはモッシュしたり、クラウドサーフしたりと完全にハードコアパンク的な受け入れ方をしているのも面白い。すごい超絶技巧な演奏をしているだけなのにステージ映えするし、ボクシングの井上尚弥にチャンピオンおめでとうといったり、「イイカンジ!」と何度かいったり、プログレの人にないフレンドリーな感じなのでお客さんとの近さがこのバンドの魅力となっている(まあ、最近のプログレバンドの人たちはけっこうフレンドリーだけど……孤高の存在かと思われたロバート・フリップ大先生もあんな感じだし)。

BLACK MIDIが終わってグリーンステージに差し掛かったとき、BAD HOPが演奏をしていた。今回は特別編成として、生演奏のバンドとの共演となった。バンドのメンバーもken kenや金子ノブアキなど豪華だった。何よりもBAD HOPがフジロックをリスペクトして臨んでいることが素晴らしいし、まるでレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのようにヘヴィに響いていた。

そして、自分のフジロックの最後を締めくくったのはWeezerだった。フジロックに来るようなお客さんたちの世代ど真ん中みたいな感じだったので、ホワイトステージは超満員。リヴァース・クオモが日本語で「今夜はWeezerの歴史を振り返る旅に出ます。シートベルトを締めてレッツゴー」と語ったようにWeezerのデビューから最近の作品まで総ざらえしたようなライヴだった。スクリーンには「Weezerの歴史を振り返る旅」に沿った内容(もちろん演奏している曲に反映されている)で面白いものだった。ステージで腕立て伏せ、ポラロイドカメラで撮影など日本語を駆使してリヴァースはお客さんたちを喜ばせる。それと最近の作品でヘヴィメタルを取り入れたものがあるようにリヴァースはフライングVを弾きまくって本編が終わる。生演奏の楽しさを改めて感じているようだ。アンコールの最後はSurf Wax America、Buddy Hollyと連打してお客さんも大合唱。最高のフジロックの締めくくりだった。

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カネコアヤノ http://fujirockexpress.net/23/p_1639 Mon, 31 Jul 2023 21:41:57 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1639 2週連続の東京と大阪の野音ワンマンショーを終えた勢いのまま、2年振りのフジロック出演となったカネコアヤノ(Vo /Gt)。前回の出演以降長年のメンバーが立て続けに変わり、新体制となったバンドセットへの期待もあり、少しそわそわしながら20時前のホワイト・ステージに到着するとすでに多くの人が詰めかけていて、彼女の登場を待ち侘びているようだ。イントロのノイジーなギターが空に抜けていき、始まったのは最新作の表題曲“タオルケットは穏やかな”。オルタナ調の荒々しいギターサウンドを感じながらも、彼女の凜とした歌声がホワイトにこだまする。

小気味のいいインディー感のある“愛のままを”でも、飯塚拓野(Ba)のベースとHikari Sakashita(Dr、 San hb)のドラムは一音一音をずっしりと響かせ、そこにカネコと林宏敏(Gt)がかき鳴らすギターが織りなすバンドサウンド。例えば一時期のサニーデイ・サービスやくるりなんかも彷彿とさせるシンプリシティが光る。最新作のジャケット同様ライティングや衣装もモノトーンで統一されたステージもしかり、彼女が彼女であることを示すのにはもう何の装飾もいらないのだろう。そんなことさえ感じる演奏の説得力が凄まじい。

林のギターが唸る“爛漫”や、古き良き日本語ロックの情感を持つ“さよーならあなた”でも、バンドのエネルギーを内へと凝縮させていくようなステージを狭く使うスタイルも相まって、よりアグレッシブなバンドサウンドに打ちのめされてしまう。こんなに広いホワイト・ステージなのに、まるでライブハウスのようにさえ感じさせる生々しい臨場感がある。

怪訝そうだったり不敵な顔をしていたりと、たびたびかなりアップでステージ上部のモニターに映るカネコの表情にはとても緊迫感があり、この点も音源のリラックスしたムードと全く違う緊張感をライブに持ち込んでいるように感じられる。ギターソロで林が見せる恍惚の表情ともまた違う、彼女独特の存在感にもただただ圧倒されてしまうばかりだ。

ざっくりとしたカネコのバッキングギターと林のアルペジオが絡み合う“グレープフルーツ”。曲間で「かわいいー!」という歓声にはにかむ様子など、ふと素の表情を感じさせるところもあったが、“月明かり”や“気分”、勢いのままざっくりとしたサウンドで奏でる“アーケード”でも、一分の隙もなく自らの存在を示し続ける彼女の姿は、シンガーソングライターの自負をまざまざと感じさせる。ああ、なんでカネコアヤノはこんなにもカネコアヤノなんだろう。

スライドギターにまどろむ“こんな日に限って”では、前半の楽曲からたびたび出てきた長尺のセッションはさらに混迷を増し、最後は“わたしたちへ”。何度も言うが、ただただ圧倒されるばかりだった。僕がいたホワイト後方あたりでもぽかーんと見入ってる人もちらほらいた。しかしながら今改めて振り返ってみると、バンドがせめぎ合った迫真の60分は、彼女がたびたび歌う「私が私であること」を、迷い苦しみながらもつかみとろうとするプロセスのようにも思えた。原稿を書き終えた今になって、最後に“わたしたちへ”を演奏した余韻が沁みてきた。

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スターダスト・レビュー http://fujirockexpress.net/23/p_1635 Sun, 30 Jul 2023 16:08:23 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1635 フジロック3日目の朝方10時頃の話。今日のタイムテーブルで一際存在感を放つ、スターダスト・レビューの名前がずっと気になっていた。

名前は昔から知ってたけど、曲もどんなライブをするのかもほとんどよく知らない。でも2018年のMISIA昨年の鈴木雅之などもしかり、そういうアーティストのステージに足を運ぶと、想像もしてなかったくらい素晴らしいライブだったなんてことは、フジロックではよくあることだ。幸いなことに、時間的にも体力的にも足を運ぶ余裕がある。これはもう観に行くっきゃないんじゃないか?

そんな感じで観ることを決めて、急遽訪れたホワイト・ステージ。一昨日Tohjiはこの場所で歌ってたのか…なんて思いながら12時半過ぎにPAブース前に到着すると、前方には多くの人が詰めかけている。僕のような好奇心で観にきた人もきっといることだろう。サポートメンバーを加えた5人のバンドが登場すると、待ってましたとばかりに拍手に包まれるホワイト・ステージ。当然のことながら、長年出演を待ち侘びていたファンもたくさんいるのだろう。歓迎ムードがとてもあたたかい。

根本要(Vo / Gt)が「風が気持ちよくて今日のライブは楽しみだー!以上、発声練習でしたー」とアドリブ気味に柔らかく歌い、始まったのは誰もが知るあの名曲のカバー“AMAZING GRACE”。声が気持ちよく空に伸びていく5人のアカペラ合唱に、無事最終日を迎えられたことを感謝するような厳かな気持ちになる。続いて演奏した“夢伝説”では、ライブ前に会場SEで流れていたTOTOの“Africa”も彷彿とさせる煌びやかな80sシンセサウンドに彩られ、少ししゃがれた根本の歌声が優しくホワイト・ステージを包み込む。

目を細め、とてもいい笑顔で歌う根本の姿を見ているだけで、なんだか自然と僕も笑顔になってしまう。甘いコーラスワークが冴えわたる“今夜だけきっと”でも、あたたかいバンドサウンドが苗場の空気に染み渡るようで、近くで嬉しそうに手拍子をしている60代くらいのご夫婦の姿が印象的だった。

「嬉しいなあ、何度も見に来てるけど、満員の会場見たら泣きそうになった」とフジロック初出演の感慨を語り、「MCは控えてくれって言われてるから、これはMCだと思わないでくれよ頼むから」と歌うように続ける根本。「知ってる曲ねえだろきっと」と自虐的な様子は笑いを誘ったりもしたが、「とりあえず一番有名だと思われる曲」と次の曲を紹介し、「天国のお父さんお母さん、フジロックで歌えるようになりました」と語ると大歓声が巻き起こった。この曲はさすがに知っていた。“木蘭の涙”だ。

ピアノの伴奏とともに感じ入るように歌う根本の、情感豊かな声が空に消えていく余韻を噛み締める寂寥感。僕も亡くなった大切な人がふと重なり感極まってしまう。しっとりと歌い上げた根本に贈られる惜しみない拍手。ここに居合わせられた幸福にうっとりとしてしまう、とても素敵な時間だった。

「申し訳ないな、こんな暑い中お茶も出さずに」とまた笑いを誘い、後半は3人のホーン隊が登場。総勢8人となった“AVERAGE YELLOW BAND”では、間奏で軽快なステップを踏んだりウィンドミル奏法みたいに下手の5人が腕をぶん回したりと、先ほどまでと打って変わって一気に華やかになったバンドサウンドに僕らも大興奮。

身体をくねらせるファンキーな演奏が光る“HELP ME”でも、間奏でブルージィな哀愁を奏でたかと思えば、ホーン隊はチューチュートレインみたいなことをしたり、根本もボイス・パーカッションをはじめたりと、だいぶはちゃめちゃになってくる。後方のバンドロゴの〜SINCE 1981〜がなんとも説得力を持って見える、様々な引き出しを惜しみなく開放してくるのだからこれはたまらない!

「祭りだ祭りだー!」と“オラが鎮守の村祭り”が始まる時に「埼玉県」と書いたタオルを持ったお客さんがカメラに抜かれていたのが面白くて思わず笑ってしまったが、後で調べるとメンバーの出身地なんですね。そしてサンバのリズムに乗って広がるように5人がステージ前方へステップを踏み、決めポーズ!なんて楽しい時間なんだ!

“Get Up My Soul”では、Wow Wowのシンガロングとともにホワイト・ステージに集ったみんなが波のように手を振り、最後は「フジロックのためにこの曲を作ってまいりました」と“苗場ネオン・パラダイス”。本来はネオンの光る銀座の曲のようだが、「なえーばー」と歌った瞬間に太陽に照らされ草木が輝く苗場の曲になるのだから、懐の深さがものすごい。

でかでかと表示される「ウッ!」に合わせて何度も「ウッ!」と拳をあげるのをみんなで楽しんで、最後は「フジーローック」と歌い変え大団円。初めて観た人も往年のファンも巻き込んで、誰もが思わず笑顔になるとっても愉快な時間は、あっという間に過ぎていった。いやー、楽しかった!ほとんど予備知識もなかったけど、フジロックはこういう出会いが嬉しいんだよな。ここに来て本当によかった!ありがとうスタレビ!

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ドミコ http://fujirockexpress.net/23/p_1636 Sun, 30 Jul 2023 14:31:59 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1636 フジロック最終日も14時を回った。今年のフジロックは本当に雨が降らない。今日も朝から晴れっぱなしだ。皆さん、熱中症にはほんと気をつけましょう。

これからここホワイトステージに登場するのはさかしたひかる (Vo/Gt)と長谷川啓太(Dr)からなるツーピースロックバンドのドミコだ。2017年は苗場食堂、2019年はレッドマーキー、今回はホワイトステージに出演と、フジロックという場においてもバンドが確実にステップアップしていっている。メンバー自ら開演時刻ぎりぎりまで歌い、音出しをして、入念にサウンドチェック。さかしたの声に気合がみなぎってる。本ステージにかける本気度がうかがえた。

開演時刻にお馴染みのSE、キング・クリムゾンの“Easy Money”が流れ「DOMICO」の文字がバックに映し出されると、二人がステージに姿を見せた。さかしたがリヴァーブのかかったギターをかき鳴らし、長谷川啓太がドラムをドカドカと打ち込んでウォーミングアップ。ひかるが「よろしくー!」と絶叫し、ステージ開演を高らかに宣言し、“問題発生です”からキックオフだ。本曲のハイライトは終盤に二人がジャムセッションのごとく繰り広げたロックンロールパートだろう。ロックファン共のケツを問答無用に蹴り上げるようなド直球のリフを繰り出しまくるのだ。のっけからこの圧倒的な展開に圧倒され呆然と立ち尽くすオーディエンスが散見された。

ドミコは緩急のつけ方が本当に上手い。さかしたが小気味よくカッティングしながらはじまった“united pancake”。中盤ではテンポダウンしてその後徐々にアップして疾走パートに移行し爽快にしめくくる。続く、十八番のルーパーを駆使して音を重ね合わせて音に厚みを生み出していく“なんて日々だっけ?”。この曲も基調のミドルテンポの中でロック好きには唸るしかないギターソロで見せ場を作った上で、締めの速度上げという構成が絶妙だ。“まどらまない”ではさかしたのアームを駆使して巧みに音に変化を加えていく。「小鳥は未来には飛んでいることはないって」のところで長谷川のドラムが転調するところが最高だ。何度聴いても卒倒してしまいそうなほど格好いい。

エフェクトをかけ不穏で浮遊感を伴う音を重ね合わせて出力する“ばける”から“化けよ”への流れ。さかしたのギター表現から、ロックの未来、そしてギターを通しての表現に可能性がまだまだあると思い知らされた。

またしても耳がかっこいいといっているブルージーなフレーズとAC/DCの“Back in Black”ライクなロッケンローリフが刻まれる“深海旅行にて”、かつてのブランキー・ジェット・シティの危なさを感じさせるギターフレーズと声がたまらない“びりびりしびれる”、本セットのラストとなった“ペーパーロールスター”、流れるように披露されたラスト3曲。さかしたと長谷川が向かい合い、互いに挑発するように繰り出される、たまに曲規定の枠を飛び出してしまうほどの熱いセッションは、ロック本来の初期衝動や荒々しさ、ライヴの本質、それら全てを体験させてくれた。

完全にノックアウトされてしまった。多くの海外からのオーディエンスも観ていたが、間違いなくぶっ飛ばされたことだろう。最後まで観た人たちが多かったようだ。ドミコ印のロックンロールで世界を制する日も近い?

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WEEZER http://fujirockexpress.net/23/p_1640 Sun, 30 Jul 2023 14:20:51 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1640 フジロック’23の終わりが近づいている。毎年この時間帯になると寂しくなってくるのは私だけではないだろう。苗場にいる時間がより愛おしく、残りの時間を大切にしようとも思えて来る時間帯だ。

フジロック最終日のホワイトステージの大トリを飾るのは、WEEZER(ウィーザー)だ。結成の1992来、今年て31年目となる大ベテランバンド。コンスタントに作品リリースし続けており、昨年はヴィヴァルディの「四季」に影響を受けた『SZNZ / シーズンズ』というプロジェクトを立ち上げ、春、夏、秋、冬と季節毎にEPをリリースするという創作意欲衰え知らずのハードワーキングなバンドでもある。そんなウィーザーが初出演の2009年来14年ぶりに苗場へ帰還だ。

開演2分前になると「WEEZER」の文字ステージに映し出され、TOTOの名曲“Africa”が夜風に心地よく流れる。TOTOは今月来日ツアーをしていたのでナイス選曲!と思ったが、この曲は開演のSEとして定番のようだ。暗闇のステージに稲妻のようにライトが随所で差し込まれ、ラジオのチャンネルを次々に切り替えていくようなイントロがしばらく続く。パッとステージに黄色の鮮やかな照明が付き、トップバッターの曲“My Name Is Jones”がはじまった。瞬間に笑顔が弾けるオーディエンス。完璧なスタートだ。続いて重たいリフが刻まれ“Beverly Hills”がスタート。私の目の前にお父さんと思われる人に肩車をして嬉しそうに手拍子をしている小さい女の子がいたのが忘れられない。ウィーザーはやっぱり曲がいい。このシンプルでキャッチーなメロディライン。子供から大人まで楽しめる佳曲をたくさん持っていることがウィーザーの真骨頂だ。

疾走するインストチューン“Return To Ithaka”をバンドのリーダーにしてフロントマンのリヴァース・クオモがエディ・ヴァンヘイレンのごとくライトバンド奏法で締めくくると、耳馴染みのあるリフが奏でられる。“The Good Life”だ。今夜はみんなが聴きたい曲をすべてやってくれるんじゃないだろうか。

ここでリヴァースお得意の流暢な日本語MCタイム「よー!日本!元気?ウィーザーの歴史を振り返る旅に出ます。じゃあシートベルトをしめて!」と重ためリフを刻んでから泣きのフレーズを奏で“Pork And Beans”へ。続く“Pink Triangle”の流れはウィーザーの名刺だった「泣き虫ロック」を存分に堪能できる展開だ。お次は“El Scorcho”とコミカルな方向にも振ってくる。疾走パートにフロアは大盛り上がりだ。

リヴァースのソロ曲“Blast Off!”の中で、リヴァースがおもむろに腕立て伏せをするパフォーマンスをして聴衆の笑いを誘う。バックの映像が1stアルバムを想起させる水色になるとあのフレーズが飛び出した。大歓声に包まれる中“Undone – The Sweater Song”をパワフルに披露。

リヴァースによる日本語MCタイム再び。「美味しい水。日本の水、一番!」とオーディエンスを笑顔にし「(ギターテックに)ギターを上げてください。全然分かりませんね…」と英語でその指示し「少しレアな曲を歌います。グリーンアルバムに入っている曲」。LAのハリウッドサインの山の近くに住んでいた時に近くに住み付き合っていた彼女との別れの寂しい気持ち歌にした“O Girlfriend”だ。歌とアコギ1本でしめやかに披露し涙を誘う。ありがとー!次もアコギ1本で歌うところから入る“Only In Dreams”。導入部からギターが荒々しく吹き荒れる転調するパートへの曲展開は、ウィーザーの楽曲が一筋縄ではいかぬと主張しているような曲だ。“The Greatest Man That Ever Lived(Variation On A Shaker Hymn)”をこの曲が入っているレッドアルバムと同様のハットを被って披露するリヴァース。組曲のような展開を持つ曲。難解だが大好きだ。会場のみんなと楽しく「Hip hip」と合唱し“Island In The Sun”を完了。

「苗場、いいところですね、日がさす、大雨来る、みんな楽しんでる?」と日本語でリヴァース。今の瞬間にぴったりのキーワードと“Perfect Situation”を「ohoh ohoh ohhhh hoooo」と大合唱し、バンドと聴衆は完全に一体となる。リヴァースがピアノで弾き語る“All My Favorite Songs”は場に感動を生み出し、“Say it Ain’t So”ではサビを大合唱し、フロアがここまでのセットで一番の反応を見せた。

“Run, Raven, Run”のソロパートのみを披露した後、重量級のリフが刻まれ“Hush Pipe”が投下された。バンドから繰り出されるビートに呼応するようにフロアは聴衆によるジャンプで大きく波打った。
「ジャパーン!We love you! また会いましょう」とまんまなタイトルの“Thank You And Good Night”
がザ・ヘヴィメタルなリフがザクザク刻まれはじまった。かなり難解な展開を見せる曲だが、ノリやすいサビパートにダンスしステージに向かって手を振り、ハンドクラップをするオーディエンス。ヘヴィメタ調の激しく締めくくってステージを後にした。

すぐに戻ってきてアンコールタイムに突入。“The Waste Land”の入りからポップなフレーズが流れ、“Surf Wax America”へ流れ、そのまま“Buddy Holly”へ。このウィーザー印のパワーポップ2連弾にあがらない人はここには一人としていない。笑顔で大合唱し、踊り、ジャンプし手を叩く。これにて至福の1時間半の旅も終着点を迎えた。

楽しくって、ほっこりし、泣けて、時に不安になったりもする。ひとつのセットでここまで色んな気持ちさせられ、感情が揺さぶられることがあるだろうか。最終日の大トリにドンピシャな完璧なステージを提供してくれた。

ウィーザーはこの後も日本に滞在し単独公演を行うことになっている。8/1(火)に大阪で、8/2(水)は東京だ。今日のライヴを目撃した人もしていない人も、みんなで会いに行こう!

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BLACK MIDI http://fujirockexpress.net/23/p_1638 Sun, 30 Jul 2023 13:26:31 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1638 昨年のジャパン・ツアーも好評だったBLACK MIDI。音楽やプロフィールから漂う只者じゃない感じに惹かれて、興味津々でホワイトステージへ向かう。彼らを待つ数分間、周囲の空いていたスペースはものすごい勢いで埋まっていき、あっという間にぎゅうぎゅうになってしまった。

ステージは下手からキャメロン・ピクトン(Ba、Vo)、ジョーディ・グリープ(Vo、Gt)、モーガン・シンプソン(Ds)が並ぶ。ジョーディは浴衣や民族衣装、バスローブを思わせる形状の衣装をまとい、独特なオーラを放っている(それを脱ぐと、水兵のような衣装だったのだが、それも非常にかっこよかった)。“Welcome to Hell”が始まると、ソリッドなギターカッティングが炸裂し、鈍くて黒くてギラついた空間が会場を包み込む。ハードなギターとキャメロンの咆哮が重なり合う“speedway”、骨太ベースとタイトなドラミングがたくましい“sugar/tzu”など、いとも簡単に、シームレスに、次から次へとプレイされていく。

展開のめまぐるしさと、その予測不能感はライヴでよりいっそう高まる。彼らの曲は、印象的なメイン・フレーズを起点に楽曲がスタートし、いったんトーンダウンのうえ、セッションが研ぎ澄まさていく。そして最後はダンサブルなドラミングで収束……そんな筋書きもあるように感じるが、それが実際、想定通りのものなのか、インプロゼーションなのかもよくわからない。とにかく、展開、構成、リズムの鬼だと思った。

キャメロンの咆哮とジョーディの早口な歌いまわし、その対比やキャラクター性も、このバンドに緩急をつけていて、ライヴで見るとよりその差が引き立つようにも感じた。モーガンのドラムは力強く好奇心旺盛で、各パートの首に噛み付いては話さない猛獣のようだ。それでいながら、このプログレッシブな展開をスムーズに運んでいく、指揮官のようでもある。キラー・チューン“John L”は汗だくなドラミングに、うねるようなベース、ギターのメイン・フレーズは悲鳴のように鋭く甲高く、想像以上に変態的なサウンドだった。ステージ前方はもうずっと前からモッシュピットで、オーディエンスは感情のままに体をぶつけ合っていた。

はっきり言ってしまうと、すごすぎてまったく理解が追いつかない!数ある引き出しの中から一瞬でベストを引き抜き、それを世に放つスピードの速さ、あんなに重厚で個性的な世界をたった3人で作れるテクニック……思わず頭を抱えてしまった。BLACK MIDIは、耳や頭で理解するというより、魂で感じるような音楽なのだろう。

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100 gecs http://fujirockexpress.net/23/p_1637 Sun, 30 Jul 2023 11:20:16 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1637 いまだかつて、WHITE STAGEがこんなにがらんとしていることはあっただろうか?シングルベッドが横たわっているかと思うほどバカでかいスピーカー2つに逆さにしたシルバーのゴミ箱のうえにシンセサイザーがポツンと置かれている。正直に言ってしまえば、もうこの光景だけで面白い。絶対、最高のライブになる予感しかさせなかった。

お決まりのパープルとイエローの魔女のような衣装を身にまとったDylan BradyとLaura Lesの2人がステージに登場すると、熱い歓声と拍手が巻き起こる。それはそのはずで、今回が彼らの初来日となるわけで、そりゃあ会場で待っている観客は興奮せずにはいられないでしょう!1曲目は、“Dumbest Girl Alive”。もうすでに、低音が重い。全体的にベースの音は控えめに抑えているが、キックの音がエグいくらいに重い。喉が揺れ、自分の胃の形がわかるほど、低音で空気が揺らされる。まあ、もっと直接的な言い方をすれば、「まじでうるせえ!!!」ということになるのだが。
“757”に“Stupid horse”と、キャッチーに躍らせるナンバーが続く。徐々に加速していくテンポ、ケミカルな電子音、鼓膜が破れそうなほどの爆音に身体が反応しないわけないじゃないか!!!WHITE STAGEはこうでなくちゃ。そう思わずにはいられない。うるさければうるさいほどいいし、バカでかい音を出すアーティストはやっぱり最高にかっこいいのだ。身体が自然にリズムの乗せられる。こんなの踊らないわけにはいかない。

カエルの鳴き声がアクセントとなりコミカルな曲調が印象に残る“Frog on the floor”、ゆっくりと爆音が脳を揺らす“Ringtone”のあとは、“fallen 4 Ü”。身に着けている服すら細やかに揺れているのがわかる。もうこれって常に震度1くらいはあるんじゃないだろうか?とにかく、うるさい。それがたまらなく楽しい。“Hollywood baby”、“what’s that smell”と、更に会場をカオスティックな会場へと変容させていく。キックの音を聴き続けるのが苦しいほどの爆音が直に突き刺さる。身体が無意識に反応をしてしまう。ときにはメロウな音に合わせて左右に手を振り、Lauraのデスボイスにおったまげる。はちゃめちゃな転調、なんでもありな展開には思わずにやつく。

チープな電子音が耳から離れなくなる“The Most Wanted Person In The United States”に、シャウトにデスボイスとなんでもありな“hand crushed by a mallet”が続く。本人たちだけではなく、観客も汗だくになりながら、手を振り、身体を上下に揺らす。続く“money machine”は、初披露だという。さまざまな音源がリリースされているが、ゆっくりとした曲調であった。ステージで鳴らされる重低音がゆっくりと身体に突き刺さっていくのがわかる。

ゲームサウンドが印象的な“mememe”では踊り狂い、“800db cloud”ではスローテンポなサウンドが体内を揺れ動かす。とにかく音がでかい。耳も身体もまったく慣れない。それでも、後ろまで超満員のWHITE STAGEは超ノリノリ!更にぶっ壊れた空間を生み出している。

観客から投げ込まれたペットボトルの水をLauraが見事にキャッチすれば、“Bloodstains”に“gec 2 Ü”で50分間はあっという間に終わっていく。いや、楽しすぎた時間だったのではないでしょうか!頭も精神も狂わせるハイパーポップに魅了され続け、体力が許すまで汗だくになって踊り尽くしてしまった!

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Homecomings http://fujirockexpress.net/23/p_1634 Sun, 30 Jul 2023 06:55:43 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1634 疲労と眠気を感じずにはいられない最終日一発目のWHITE STAGE。今年はほとんど雨が降ることもなく、紫外線が直に肌をさす。立っているだけでもじっとりとした汗をかくような暑さ。そんななかでもこの広いステージで演奏をする4人の姿を見ようと、多くの観客が待っているようだった。
「ここ最近のHomecomingsはすごい」というのが、前評判だった。とにかく、ライブがいいらしい。「今、日本のバンドで一番いいライブをするんじゃないんですかね?」と言っている声も聴いたことがある。ワクワクした気持ちが静かに募っていくのがわかる。

アンプにぬいぐるみのたくさん乗せられた機材。背後のスクリーンにはライトブルーと白のバンドロゴが映し出される。ゆっくりとはじめられたのは、“Songbirds”だ。どこか懐かしく透明感のある畳野彩加が苗場の空気を震わせると、思わず鳥肌が立つ。風に乗る福富優樹の爽やかなギターのメロディに、福田穂那美と石田成美の絶妙なコーラスが優しく響く。穏やかなテンポに合わせて、観客たちは手を左右に振り、呼応しようとする。

「Homecomingsです!よろしく!」という挨拶とともに“PERFECT SOUNDS FOREVER”と今年4月にリリースされた『New Neighbors』の表題曲“ラプス”。この2曲、WHITE STAGEで絶対に聴きたかったんだよ!リヴァーヴのかかった優しいギターの音が優しく包み込むよう。ささやくような歌声によりそうコーラスも聴いていて心地がよく、ダイレクトに胸に飛び込んでくるような印象を抱く。Homecomingsの音源を聴くと、いつも心の奥底に眠っていた記憶をふと思い出すような感覚になるのだが、目の前の演奏は力強く、温かい。また違った一面を見ることができたようで、うれしくなる。

今年は、結成10周年となる彼女たち。祝福の意味の込められた拍手が送られたあとは、“Here”と“Shadow Boxer”だった。大きな空間を揺らすドラムにコーラスの声量も増していく。一音一音がまるで心に染み込んでいくよう。会場全体が、惚れ惚れしながら耳を傾けているのがよくわかる。
“Blue Hour”、“HURTS”と、アップテンポな曲が続けば観客たちはクラップ&ハンズをし、飛び跳ねてそれぞれの喜びや楽しさを表現する。ときに福富と福田が向き合ながら演奏をし、各々のメンバーがエネルギーを発露させていくようだった。

最後は“US / アス”で締められる。2回やり直す場面も見られたが、ご愛敬ということで……!すぐ横を通り抜けていくようなメロディに、優しい歌声。「US」という単語を直訳すると「私たち」であるが、これはバンドとかチームとか、小さな単位での話ではなくで、今このステージを見ている私たち、Homecomingsを好きな私たち、音楽を好きな私たちの歌なのだと、この場で実際に聴いて今更気がつく。キラキラとした音に未来に向けられた小さな希望を歌っているような歌。そっと背中を押してくれるようで、なんだか泣きそうになってしまう。
噂には聞いていた。『New Neighbors』の曲を聴いていると本当にいいライブをするんだろうなと思っていた。そのとおりであった。この心地よく、優しく包み込まれるような音楽は10年間の活動の成果なのだと思う。

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