“森リョータ” の検索結果 – FUJIROCK EXPRESS '23 | フジロック会場から最新レポートをお届け http://fujirockexpress.net/23 FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)を開催地苗場からリアルタイムでライブレポート・会場レポートをお届け! Fri, 18 Aug 2023 09:33:43 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.23 帰ってきた大将…… みんな、それを待っていた。 http://fujirockexpress.net/23/p_9601 Mon, 14 Aug 2023 03:03:36 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=9601  たまたま見た記事に使われていた「完全復活したフジロック」という見出しに目を疑った。どこが? これを書いたのは、フジロックの一部しか知らない人か? あるいは、これが「忖度」ってヤツか? 興行的な側面を見れば、確かに近いものはあるかもしれないし、コロナのことなんぞ気にかけることもなく、やっと普通に遊べるようにはなっていたけど、「完全」はないだろう。もちろん、4年越しに復活したパレス・オヴ・ワンダーが、「らしさ」を垣間見せてくれたのはある。あれは生粋のフジロッカーにはめちゃくちゃ嬉しかった。が、「完全復活」という言葉を使うには無理がある。奥地に姿を見せていたカフェ・ドゥ・パリもなければ、音楽好きにはたまらない魅力となっていたブルー・ギャラクシーもない。ワールド・レストランがあった場所は、ただの空き地だ。開幕前と言えば、フジロックを生み出した、我々が大将と呼ぶ日高氏の影はきわめて希薄で、メディアではなにやら「過去の人」のようにされてはいなかったか。

 が、フジロックは日本のロック界を揺り動かし、変革し続ける希代のプロデューサー、日高正博氏そのものであり、その業績が結晶となったものと思っている。その原型といってもいい、アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティヴァルをUKのグラストンバリー・フェスティヴァルの影響の下にぶち上げたのは、今から40年ほど前。あの頃から旧態依然とした音楽業界に風穴を開け、激震を与え続けているのが彼であり、その集大成がフジロックなのだ。

 彼が率いるスマッシュという会社が立ち上がったのは、そのしばらく前のこと。まず彼が着手したのは、国内でレコードも発売されていないようなアーティストの招聘だった。それまでの海外アーティストの来日といえば、圧倒的なレコード・セールスを記録し、誰でも知っているスターばかり。ところが、彼が着目したのはひと癖もふた癖もあるアーティストだった。名義こそスマッシュではなかったかもしれないが、最初に招聘したのはジョージ・サラグッドとデストロイヤーズではなかったか。当時、このアーティストの存在を知っている人は多くはなかったはずだが、一連のライヴが大好評を博している。しかも、会場となったのは、海外からのアーティストが使うことはほとんどなかった小さなライヴハウス。それも画期的だった。その後も、インディ系ロックからアンダーグランドのパンク、レゲエやワールド・ミュージックにいたるまで、ジャンルにとらわれることなく、なによりも彼が信じる才能やシーンを日本に紹介することを最優先して動いていた。

 同時に、座席付きの会場がコンサートの定番となっていたことに疑問を抱いた彼は、ボクシングやプロレスで知られる後楽園ホールに着目。なんとホールの中にステージを設営して、スタンディング・スタイルのライヴを企画していくのだ。ちょっと座席を立っただけで警備員に止められたり、会場から追い出されるのが常識だった時代に、「好きに踊りなよ」というライヴの場を提供したのは画期的だった。といっても、インフラが整っているコンサート・ホールとは違って、ステージから音響に照明まで全てを用意しなければいけない。当然、金がかかる。金儲けが目的の興業屋だったら、こんなことをするわけがない。それはフジロックでも同じこと。なにもない場所に全てを作り出すことで、どれほどの経費がかかるか? 杭を一本打つにも資材やその輸送費に人件費が必要となるのだ。

 それでも、オーディエンスにとって自由に音楽を楽しむことができるライヴがどれほど嬉しかったか? この時、UKレゲエのアスワドやUSで衝撃を与えていたヒップホップ、ビースティ・ボーイズをここで体験した人達にはわかったはず。これこそが音楽の魅力を、そしてその背景をも伝えてくれるライヴの場なんだと。しかも、当時、ライヴが始まる前のコンサート・ホールといえばシ~ンと静まりかえっているのが普通だったのに、ここでは出演するアーティストに絡んだ音楽が大音響で鳴らされている。それまで当然のように幅をきかせていた「音楽鑑賞会」と呼ばれていたコンサートとは全く違った空気が流れていた。思い起こせば、スタンディングが当然の場として、先駆けとなる渋谷クアトロが生まれたのは1988年。後楽園ホールで幾度もライヴが開催された後なのだ。

 実は、DJやクラブの動きに関しても、大きな役割を果たしていたのが大将だった。黎明期のクラブ・シーンを語るときに欠かせない桑原茂一氏率いるクラブ・キングと一緒に海外からDJを招聘したのは1986年。フジロックでもおなじみのギャズ・メイオールと、当時、ロンドンのダンス・ジャズ・シーンで脚光を浴びていたポール・マーフィーを来日させている。さらには、ユニークなダンス・スタイルでマンチェスターから躍り出たダンス・トゥループ、ジャズ・デフェクターズも招聘。会場となった原宿ラフォーレでは深夜になっても行列ができるほどの反響を生み出していた。

 さらに91年にはアシッド・ジャズからUKジャズを牽引したメディア、Stright No Chaserと共同でクラブ・イヴェントを企画。Kyoto Jazz Massiveとモンド・グロッソが初めて東京に進出し、U.F.O.とDJ Krushが一堂に会して、UKジャズをリードしていたスティーヴ・ウイリアムソンのバンドThat Fuss Was Usと、しばらく後に世界的ヒットを生み出すDJユニット、US3を迎えてた大規模なパーティも実現させている。4000人超を集めてオールナイトで繰り広げられたこれが、日本のクラブ・シーンを一気に活性化させるのだ。

 そういった大将の業績を集約するように始まったのがフジロックだった。誰もが「無謀だ」、あるいは、「これでスマッシュも倒産だろ」と口にしたのが1997年の第一回を前にした頃。ものの見事に台風にやられて、2日目をキャンセルせざるを得なくなったのを「ざま見ろ」と口にした業界人も多かった。加えて、会場に来ることもなく「観客を管理する柵も作っていない」と批判をぶつけてきたのが大手メディア。「ロック・フェスティヴァルに来る人間は無知で粗野な人種だ」とでも決めつけているんだろう、そんな「常識」との闘いがこの時から始まっていったのだ。

 その最前線にいたのが大将であり、奇抜とも思えるアイデアを次々と現実にしてフジロックを成長させてきたのも彼だった。いうまでもなく、周辺にいたスタッフはたいへんな思いをしたに違いない。なにせ彼に「常識」は通用しない。が、それがフジロックを他のなにものにも比較することができないユニークなフェスティヴァルとしてきたのだ。会場外にステージを作って、奇妙奇天烈なサーカス・オヴ・ホーラーズを招聘したのは2000年。翌年には、同じ場所に、出演者でもないジョー・ストラマーとハッピー・マンデーのベズを中心としたマンチェスター軍団から、後にスターになる娘、リリーを伴った俳優のキース・アレンらを呼び寄せて、フリーキーな遊び場を作っていた。さらに、翌年になると、UKのアート&パフォーマンス軍団、Mutoid Waste Companyをリードするジョー・ラッシュがここにパレス・オヴ・ワンダーと呼ばれる空間を生み出している。その延長線にあったのが、オレンジコートの奥地に生まれたカフェ・ドゥ・パリやストーン・サークル。フジロックを単なる野外コンサートではなく、どこかで奇想天外で別世界のような祭りに仕上げていったのは間違いなく大将だった。

「俺たちにはそんな大将が必要なんだ」という想いを形にしたのが、3年前に初めて彼の写真を使って我々が発表した「Wanted」のTシャツだった。元ネタは1981年に発表されたピーター・トッシュのアルバム・カバー。下敷きとなっているのはマカロニ・ウェスタンや西部劇と呼ばれるアメリカ映画でよく見かける指名手配書だ。賞金額と「Dead or Alive」(生け捕りでも死体でも)という言葉がセットになっていて、人相書きを元に、賞金稼ぎがその首を狙うというもの。今もこんなのが生きているのかどうか知らないが、ピーター・トッシュはこのジャケットで「俺は危険なアーティスト」というイメージを打ち出したかったんだと察する。

 一方で、日高大将をネタに僕らが作ったヴァージョンには全く違った意味が込められていた。賞金の代わりに並べたのは「9041」という数字。囚人番号にも見えたこれは彼が大好きな言葉、クレイジーをもじった番号で、「Not Dead But Alive」としたのは、「生きていてもらわないと困る」からに他ならない。コロナ禍できわめて厳しい状態に直面しているフジロックが生き残るのみならず、本来の姿に戻ってさらに深化(進化)させるのに、必要不可欠なのは元気に走り回る日高大将。と、そんな想いを込めていた。

 最低限の取材経費を主催者から受け取っても、独立性を保つためにも、日常活動に関しては一銭のギャラも受け取らないボランティアで構成されるのがfujirockers.org。というので、その始まりから、活動資金作りのために様々なアイデアを絞り出している。そのひとつが、Tシャツなどの物販で生まれる収益。その歴史でかつてないほど好評だったのがこの作品で、以前とは比較にならないほどの売り上げを生み出していた。おそらく、この結果が生まれたのは、会場にやって来るフジロッカーズも同じような「想い」を共有していたからだろう。

感染防止のためにがんじがらめのルールに縛られながら、「なんとかフジロックを支えたい」という思いが際立った2021年にこれを作っていた。規模を縮小しなければいけないという流れの中で、集まった人達の数は史上最低。恒例となっている前夜祭での集合写真も撮影できなかったし、なにやらもの悲しかったのが花火大会。さらには、「声を上げるな」というので、ライヴでの歓声もないという、きわめて異様な光景が広がっていた年だ。それでも、出演者関係者のみならず、集まってきた参加者から「なんとかフジロックを守りたい」という思いがひしひしと伝わってきたのをよく覚えている。それは、現場に来ることを選ばなかった人達からも同じように感じていた。

 そして、「いつものフジロック」を謳って開催された去年も、現場ではぴりぴりした空気が漂っていた。なんとか恒例の前夜祭での集合写真は撮影できたものの、あの時、「みなさん、マスクを付けてください」と、この奇妙な時代を象徴する記録を残そうとしたことを覚えている方もいると思う。オレンジカフェのテントで食事をしようとしても、テーブルを仕切る透明の板の上には大きく「黙食」と書かれていて、久々に会った仲間との会話さえはばかられる。確かにライヴは行われたけれど、なにか釈然としないものを感じていた。グリーン・ステージの最後のバンドが演奏を終えて、いつもなら、祭りの終わりをみんなで共有する時間があったはずなのに、それもなかった。当然のように、オーディエンスの集合写真を撮ることもなく、静かに幕を閉じていった。

 それよりもなにより、フジロックでしか体験できない時間や空間を感じることがほとんどなかったのが昨年。それを象徴していたのがパレス・オヴ・ワンダーの不在だった。なにやら、フジロックからフェスティヴァルの要素がすっぽり抜け落ちて、ただの野外コンサートになっていたような感覚を持った人も多かったのではないだろうか。この時、フジロッカーズ・ラウンジでは「Where Is “Wonder”?」という写真展を開催している。「どこに『驚き』があるの?」とここで問いかけていたのは、パレスに絡んだことだけではなかった。かつてジョー・ストラマーが口にしたように、「年にたったの3日間でもいい。生きているってどういうことかを感じさせるのがフェスティヴァル」だとしたら、それがどこにあるのか? そんな疑問を感じざるを得なかったのだ。

 もちろん、パレス・オヴ・ワンダーの主力部隊がUKからやって来るスタッフだというのは、多くの人が知っている。コロナの影響で彼らの来日が難しいというのは百も承知で、同じく、大幅な縮小での開催を余儀なくされたという、経済的な打撃が後を引いているのは理解できる。が、その上で「いつものフジロック」を謳うのは「違うだろ!」という声が多数派をしめていた。

 さらに、以前なら、ジープに乗って会場を動き回っていた大将の姿を見かけることはほとんどなかった。そうやって会場に集まっていた人達と会話を交わしたりと、いつもフジロッカーに最も近いところにいたのが大将。1997年の第1回が始まる以前から、Let’s Get Togetherと名付けた公式サイトの掲示板経由で、オフ会にまで顔を出して、彼は日本で初めて継続的に開催することを目論んでいたフジロックのお客さんたちと繋がろうとしていた。その掲示板が独立するような形でfujirockers.orgが生まれた後も、「なにかをやりたい」と集まってきたスタッフと幾度となくミーティングをしたり、インタヴューの場を設けてくれたり……。それが終わると、みんなを引き連れて居酒屋に出かけて四方山話となるのだ。フジロックが成長するにつれて、そういった機会は少なくなっていくのだが、それでもフジロックを愛する普通の人達の声に彼はいつも耳を傾けていた。

 我々フジロッカーの想いは、「Wanted」のTシャツに集約されていた。大将が最前線に戻ってきて欲しい。だからこそ、昨年も「Mad Masa」のTシャツを制作。そして、今年は、彼が復活させた「苗場音頭」と忌野清志郎と作り出した「田舎へ行こう」のシングル盤を作り出すことでその重要性を訴えようとしていた。常識ではあり得ないだろう。レコード会社でもない、フジロックを愛する人達のコミュニティ・サイトを運営するfujirockers.orgがレコードを発売するという、前代未聞のプロジェクトだ。そのアイデアを彼に伝えると、二つ返事で「じゃ、事務所につないでやるよ」と動いてくれたのだ。

 そのプロモーションで動き回るなか、フジロックが生み出した「故郷」を認識することになる。「ずっと都会生まれで都会育ちの人にとって、苗場が毎年帰ってくる田舎のようなものになっていったんです」と語ってくれたのは、7月頭の苗場ボードウォークで語り合ったフジロッカーだった。なにやら故郷に帰る人達のアンセムのような響きを持つのが「田舎へ行こう」であり、彼らを暖かく受け入れて迎えてくれるのが「苗場音頭」。フジロックは野外コンサートを遙かに超えて、年に一度「生きている」ことを祝福する故郷の祭りとなっていることを思い知らせてくれるのだ。

 そのフジロックに危機が訪れていた。コロナの影響で思い通りに開催できなかったことから負債が累積。と、そんな噂が駆け巡っていた。予算も縮小しなければいけないし、今年がうまく行かなかったら、来年はない……。毎年のように「来年はないかもしれない」という危機感は持っていたんだが、それがいよいよ現実になるのかもしれない。噂の域を出てはいないというものの、想像してみればいい。もしもフジロックが開催されなかったら……。まるで故郷をなくしたような気分に陥るのだ。

 しかも、当初は予算の関係で不可能だと思われていたのがパレス・オヴ・ワンダーの復活。突き詰めていけば、コロナの影響によるダメージで、なによりも実現しなければいけないのはコンサートであって、それ以外のものは「無駄」だという発想が支配的になっていたからだ。それでも必死に食い下がったのが、UKチームのボスから東京のスタッフ。彼らがなんとか復活させたいと必死に動いていた。実を言えば、ほとんどの関係者が、守ろうとしたのはフジロックという「フェスティヴァル」であり、その象徴がここにあった。

ひょっとすると、それこそがフジロッカーズをつなぎ止めたのかもしれない。メインのステージでの演奏が終わると、行き場所がなかったのが昨年。が、今年は違った。様々なオブジェが姿を見せ、サーカスまでもが繰り広げられる。まるで映画のセットのようなその空間に浮かび上がる木造テント、クリスタル・パレスは健在だった。4年間も放置されたことで、かなりの修復が必要だったらしいが、今年もユニークなバンドの数々とDJたちが至福の時間を生み出していた。特に嬉しかったのは、その箱バンのような存在だったビッグ・ウイリーが戻ってきたこと。いつも通り、ちょいとセクシーなダンサーたちと極上のエンタテイメントを提供してくれた。

 残念ながら、ダブルAサイドで復刻した7インチのアナログ・シングルを生むきっかけとなったブルー・ギャラクシーの復活を願う声は主催者には届かなかった。まずはJim’s Vinyl Nasiumとして生まれ、それが成長して新たな名前を付けられたここで蒔かれた「音楽を楽しむ」という種を各地に持ち帰った人達が育てたのがフジロッカーズ・バー。もちろん、DJバーの土壌はすでに存在したし、ジャズ喫茶やクラブの文化も背景にはある。その全てが複雑に絡みながら、発展してきたことは言うに及ばない。が、ここから生まれたフジロッカーズ・バーというイヴェントが日本全国の様々な町で企画され、音楽を楽しむ場として定着しつつあることも見逃せないのだ。

 そんな仲間に手をさしのべてくれたのが会場外でジョー・ストラマーの遺産を守り続けるJoe’s Garageだった。「いいですよ、ここを使ってくれたら」とフジロッカーズ・バーでDJを続ける仲間たちがここに集まっていた。彼らはチケットを買ってフジロックにやって来たお客さんでもある。その彼らに「めちゃくちゃ楽しい」と言わしめたここは、UKチームのたまり場でもあり、ここでも祭りの文化が花開いていた。

 そして、なによりも嬉しかったのはフジロッカーズが「帰ってきてくれ!」と願い続けてきた大将の姿が、今年はあちこちで目に入ったことだろう。しかも、どん吉パークではいきなりステージを作って、苗場音楽突撃隊のライヴを実現させている。と思ったら、最後の朝、月曜日の早朝のクリスタル・パレスでは、ビッグ・ウイリーのバーレスクが演奏を終えたっていうのに、ステージに姿を見せた彼が言うのだ。

「もっともっと聞きたいだろ!」

 と、オーディエンスに呼びかけてアンコールをせがんでいた。へとへとになっているバンドも大将に言われたら、断れない。というので、予定外の演奏が始まっていた。なにが起こるのか、予想もできないハプニングが待ち受けているのもフジロック。それを動かしているひとりが、言うまでもなく大将なのだ。

 いつもなら、全てが終わった後、入場ゲートに「See You」と来年の告知がされるのだが、今年は昨年同様日付が記されてはいなかった。さて、本当に来年のフジロックはあるんだろうか? きっと、あるんだろうと信じたいのはやまやまだが、どこかで「まさか..……」という疑念も振り払うことができない。

 いずれにせよ、ここ数年、ずっと頭に浮かぶのは、パレス・オヴ・ワンダー、生みの親のひとり、Mutoid Waste Companyのヘッド、ジョー・ラッシュがインタヴューで残してくれた言葉。

「フェスティヴァルってのはね、ただ口をぽかんと開けて、(チケットの金を払ったんだからと、それに見合う)なにかを受け取るだけの場じゃないんだよ。自らその一部となるってことだと思うんだ」

 おそらく、fujirockers.orgのスタッフもそんな人達の集まりだろうし、会場の外でJoe’s Garageを生み出した仲間も同じだろう。苗場音頭のために浴衣を持ってきたり、コスプレで遊んだり、あるいは、お客さんなのにレコードを持ってきてDJをしたり、どこかで誰かが演奏を始めたりってのも、自らフェスティヴァルを作り出すってことなんだろう。そんな人達がいる限り、フジロックは「終わらない」と思えるんだが、どんなものだろう。もし、開催が危ういというなら、大騒ぎをして主催者を動かしてやろうじゃないかとも思う。

 さて、好天続き……というよりは、炎天下に襲われたのが今年のフジロック。まだまだ完全復活には時間が必要かもしれないが、それでもフジロックでしかない貴重な時間や体験を生み出す、フジロック本来の魅力を伝え続けてくれたのは、以下のスタッフ。ありがとう。こよなくフジロックを、そして、フジロック的なものを愛するあなたたちは、間違いなく「フジロック」を作り、支える仲間です。

 また、赤字で当然のレコード再発プロジェクトを支えて協力してくれたスタッフ、フジロッカーズ・バーの仲間のみなさん、ありがとう。まだまだ売らないと元が取れないというのでここで、もう一度大宣伝です。契約の関係上、レコード屋さんでは買うことができないことになっているこのシングル、忌野清志郎の「田舎へ行こう! Going Up The Country」と円山京子の「苗場音頭」をカップリングして、両A面としているこのレコードはこちらで購入可能です。これを買って、fujirockers.orgを支えていただければ幸いです。
https://fujirockers-store.com/collections/cd-lp

FUJIROCK EXPRESS’23 スタッフクレジット

■日本語版
あたそ、阿部光平、阿部仁知、イケダノブユキ、ミッチイケダ、石角友香、井上勝也、岡部智子、おみそ、梶原綾乃、紙吉音吉、粂井健太、小亀秀子、古川喜隆、小林弘輔、Eriko Kondo、佐藤哲郎、白井絢香、suguta、髙津 大地、近澤幸司、名塚麻貴、ノグチアキヒロ、馬場雄介(Beyond the Lenz)、HARA MASAMI(HAMA)、平川啓子、前田俊太郎、三浦孝文、森リョータ、安江正実、吉川邦子、リン(YLC Photograpghy)

■E-Team
カール美伽、Jonathan Cooper、Park Baker、Sean Scanlan

■フジロッカーズ・ラウンジ
mimi、obacchi、SEKI、yamato

■TikTok
磯部颯希

■ウェブサイト制作&更新
平沼寛生(プログラム開発)、迫勇一、坂上大介

■スペシャルサンクス
三ツ石哲也、若林修平、東いずみ、Nina Cataldo、卜部里枝、takuro watanabe、Chie、竹下高志、西野太生輝

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fujirockers.orgは1997年のフジロック公式サイトから派生した、フジロックを愛する人々によるコミュニティ・サイトです。主催者からのサポートは得ていますが、完全に独立した存在として、国内外のフェスティヴァル文化を紹介。開催期間中も独自の視点で会場内外のできことを速報でレポートするフジロック・エキスプレスを運営していますが、これは公式サイトではありません。写真、文章などの著作権は撮影者、執筆者にあり、無断使用は固くお断りいたします。また、文責は執筆者にあり、その見解は独自のものであることを明言しておきます。

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BALMING TIGER http://fujirockexpress.net/23/p_1664 Wed, 02 Aug 2023 12:49:55 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1664 「バーミングタイガーの新しくなった公演」「今から始まります」と明らかにGoogle翻訳っぽい日本語がレッド・マーキーのステージ上に映し出された。

念仏が聴こえ、木魚を叩くようなSEの流れるステージには、キャラ絵顔の箱を被った5人のメンバーがDJブースの前に静かに並んでいる。もう1人はDJブースに立っているようだ。割れんばかりの大歓声に迎えられて。

この日のレッド・マーキーの注目度は並大抵ではなかった。観客席前方に多くのフジロッカーが詰めかけていたが、日本人が多かったのか、日本以外のアジア人が多かったのかも判別がつかなかった。アジア系の海外勢フジロッカーがこんなに多いフジロックは個人的に初めてだ。年齢層も20〜30代といったところか。彼らが注目されていたのは知っていたけど、比較的若い世代にここまで人気とは。

バーミング・タイガーはアジアの有名な軟膏「タイガーバーム」からその名を取り、多様な才能が集まった音楽集団で、自分たちのことを「多国籍オルタナティブK-POPバンド」と表現している。メンバー総勢11人それぞれが個々でも活動を行う若手気鋭のクリエイティブ集団だ。

今回、フジロックのステージに登場したのは、メンバー11人のうち、パフォーマー4人とプロデューサー2人の計6人。リーダーでプロデューサー兼クリエイティブ・ディレクターのサン・ヤン、緑の髪がトレードマークで有名なラッパーのオメガ・サピエン、シンガーソングライターでラッパーのマッド・ザ・スチューデント、紅一点のR&Bシンガーであるソグム、低音ボーカルのBjウォンジン、ヴィジュアル・アーティストでプロデューサー兼クリエイティブ・ディレクターのホン・チャニだ。ステージに登場しなかったメンバーは割愛するが、他にもDJ・音楽プロデューサー、映像監督、マーケター、A&Rなど裏方仕事も含め、それぞれがパフォーマンスだけではなく、職種的にも違った個性を持ち合わせているハイブリッドさだ。

“JUST FUN!”を聴いたときからバーミング・タイガーのファンだったというBTSのRMをフィーチャリングし、話題を呼んだヒットシングル“SEXY NUKIM”(日本でもBTSファンに知られる存在となった)が、いまのところ日本では一番有名な曲であろう。

彼らの音楽性やPVに触れると伝わってくるが、彼らは現代の若者を代表して、新たな価値観を提示しようとしている。ヒップホップと韓国のK-POPをベースにしつつも、国境を越えたアジア文化をクールなものとして世界に発信していこうとする気概があるのだ。

1曲目は、力強いビート・トラックにオメガの男臭いフロウが乗る“Kolo Kolo”。“Kolo Kolo”は韓国語で咳を表すオノマトペだ。繰り返される「ハクナマタタ」のフレーズがキャッチーだが、ヤンチャ感が強い。ヒップホップやパンクなどがベースにあるが、最近こういった暴れ感のあるグループはあまりいないなと一発で思わせてくれる。“Jiāyóu”でソグムのラップが入り、会場から「わぁ!」と歓声が漏れる。リズム・トラックからヒップホップとプリミティブな民族音楽的要素との融合を感じられるし、振り付けも洗練された、というよりヒップホップに生物的な肉体表現や記号性を過剰に足している感じで面白い。というか、バーミング・タイガーってめちゃくちゃ踊るんだね。

「Fuji Rock! What’s Up!?」「Open your eyes! Right now!」と会場に呼びかければ、大歓声が上がり、もう場内はオーバーヒート状態。フジロッカーの反応だけで、彼らの注目度の高さが分かる。ライブ冒頭の日本語スライドは、“Armadillo”のPVで差し込まれた「バーミングタイガーの新しいミュージックビデオ」文字画像のセルフ・パロディだ。このPVはオメガが過ごした日本で撮影されている点も面白い。彼は母国・韓国を離れ、日本やアメリカ、中国で育った、いわゆるサード・カルチャー・キッズで、そのアイデンティティの複雑さがバーミング・タイガーの自由さの一因でもありそうだ。

とあるバースが近づくと、DJブースから松葉杖をついた(!?)マッド・ザ・スチューデントが飛び出してきて会場全員がビックリしたが、気にせずソグムに次ぐ高音ラップを繰り出した。どうやら怪我をしたようだが、それに負けじとマッドの元気なフロウが気持ちいい。ステージ中心で2人が踊っているときは、他の4人は端に避けていたり、振り付けがしっかり決まっていたり、彼らはプロダクションとしてかなり見せ方にこだわっている印象。曲が終わると、マッドはDJブースへと戻った。

ソグムをフィーチャーした“Moving Forward”から“BuriBuri”で観客は大盛り。ソグムは髪をかき上げてセクシーにダンス。「Shake it Shake it」「BuriBuri」のキラー・フレーズに、ダンスも含め、日本でもTikTokなどで流行りそうな気がする。もしや、もう流行っているのかな?

“Kamehameha”でも感じるこの民族音楽っぽさは、韓国の音楽から来ているのだろうか。韓国のその辺りの音楽を知らないので断言できないが、世界的な流行方向へ洗練されていくK-POPに、土着的な成分を色濃く注入しているようなミクスチャー感覚がある。曲名は、あのカメハメ波由来だし。

「F◯ckin’ Crazy Fuji Rock!」とサンが興奮気味にMC。資料ではパフォーマーの区分には入っていなかったリーダーでプロデューサーの彼もライブで歌うし、踊りまくっている。ホンも長髪を振り乱し、アグレッシブに踊っていた。一体これは。

ここで、マッドが「僕ノ足ハ怪我シマシタ」と原因不明だが怪我の報告。フジロッカーから心配の声が出そうになると、自身がラップをするアッパーソング“Field Trip”へ! 続く“Riot”では、オメガとともにラップし、杖を振り上げ、怪我をもろともしないパフォーマンスを見せた。大丈夫なのか。ソグムが「It over Frog」と曲紹介すると、幻想的な“Frog”へ。ソグムの高音ボーカルに対し、オメガがかなり低音のラップを乗せていく。アメリカや日本のヒップホップ、オルタナティブ・ロックなどの枠に収まっていないサウンドは刺激的だ。

「You sure are only sexy?」と、Bjウォンジンが官能的な低音ボイスで呼びかければ、“SEXY NUKIM”が始まる合図と歓声が上がる。重力場強めの重低音が鳴り響き、上半身裸のオメガとホン、真ん中にBjウォンジンが立ち、PVで魅せた「アジアン・セクシー」を体現する振り付けを踊りながら歌う。たぶん、普段はMCで参加しているマッドがホンの代わりに踊っているんだろうけど、松葉杖をついた足ではしょうがない。首をセクシーに回す振り付けや、セクシーすぎるBjウォンジンの超低音ボイスにみんなクギ付けだった(本当にセクシー)。マッドも自分のバースではやっぱり出てきて、片足ジャンプで歌うのだった。レッド・マーキーはアイドルを迎えたような熱気だ。

オメガが日本語で「アツイ、アツイ」「フジロック、カッコイイ?」と話したあと、バーミング・タイガーでフジロックに出ることは夢だったと語ると、観客から惜しみない拍手が贈られた。続いて行われたのは、メンバー全員で“Bodycoke”のサビでの振り付けを観客へレクチャー。一緒に歌い、一緒に踊り、観客との一体感を上げていく。ストリートなPOPさ全開の代表曲“JUST FUN!”、マッドがMCを務める超キャッチーなPOPソング“UP”(マッド何度も出てきて大変)、ハードコアめな“Sudden Attack”ではマッドは松葉杖を捨てて膝をついた状態でヘッド・バンキングするなど終始大暴れで、個人的に観た今回のライブの中で一番の熱狂がそこにあった。

メンバーは騒げフジロック!と煽りに煽り、「Are you ready? Sure!?」と壁をぶち破らんとするようなアグレシッブなビートの“POP THE TAG”へ。曲の途中で、観客に左と右に分かれるようにジェスチャーするメンバー。……ん、ウォール・オブ・デスをやろうとしている? 1回目は曲と観客のタイミングが合わず中途半端な感じになってしまったが、すかさず次の間奏部分で「Fuji Rock! Are you ready?」と2回目へ。フライングで動いてしまった観客たちに戻れ戻れとメンバーが指示を出すなど、この一連のやり取りにはメンバーも観客も大盛り上がり。気を取り直して“1、2、POP THE TAG!”で観客全力のウォール・オブ・デス!!! 久しぶりに見たレッド・マーキーでのモッシュ状態に鳥肌が立った。

「Amazing」「I love you!」と、次々にフジロッカーたちへ敬意を表すメンバーたち。君たちはあなた自身を信じているかい?と語りかけるオメガ。大歓声が会場に響きわたり、最後の曲“Trust Yourself”へ突入。オメガの高速ラップで沸き、「Trust Yourself!」と彼は観客に向け、時折胸を叩きながら何度も強く叫んだ。そして、またもウォール・オブ・デス。どんなけ好きなんだ、みんな!「Let’s go Fuji!!!」の合図でぶつかり合って大はしゃぎだ。オメガは「I love you Fuji Rock!」と叫び、メンバーも「Unbelievable!」と、フジロックの場で生まれたエネルギーに心を打たれているようだった。ダメ押し4回目のウォール・オブ・デスではメンバーも観客も残った力を出し切り、爆発的な盛り上がりを見せて、ライブは幕を閉じた。「Just a history day!」とオメガの手は高く上げられた。

観客から惜しみない拍手を送られる中、「Trust F◯ckin’ Yourself!」とオメガは叫び、舞台袖に消えたのだった。「ありのままの姿でいい」という彼らのアツいメッセージは、フジロッカーたちに確実に届いただろう。しかし、まさか今年ウォール・オブ・デスが観られるとは。その光景はコロナ禍前の日常と同じものだが、とても懐かしく、尊く、そして輝いて見えた。

バーミング・タイガーは、フジロッカーの胸に大きな傷痕と筋肉痛を残した。盛り上がり方、一体感を考えると、フジロック2023の中でもかなり上位に食い込むアクトではなかっただろうか。帰ったら筋肉痛に効くというタイガーバーム、塗ってみようかな。

<Set list>
1. Kolo Kolo Intro
2. Kolo Kolo
3. “Unreleased song no.1
4. Armadillo
5. “Unreleased song no.2
6. “Unreleased song no.3
7. “Unreleased song no.4
8. “Unreleased song no.5
9. Field Trip
10. “Unreleased song no.6
11. Frog
12. SEXY NUKIM
13. “Unreleased song no.7
14. JUST FUN!
15. “Unreleased song no.8
16. “Unreleased song no.9
17. POP THE TAG
18. Trust Yourself

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YARD ACT http://fujirockexpress.net/23/p_1663 Sun, 30 Jul 2023 08:31:44 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1663 フジロック’23も気がつけば3日目!最終日だ!早くも寂しさがこみ上げてくるのを禁じ得ない。今日も朝から快晴でうだるような暑さが続いている。

正午を差し掛かろうかとしているここはレッドマーキー。イギリスはリーズの話題の男たちを目撃するべく大勢が集結している。開演7分前の最後のサウンドチェックでバンドが一斉に出力しグルーヴの仕込みをする。これを聴くだけで、これからはじまるステージに対する期待値が一気に上がった。サウンドチェック完了後の大歓声から察するにみんな同じ思いに違いない。

開演時刻に、The Specialsの“Enjoy Yourself(It’s Later Than You Think)が鳴り響き、クルクルと回転する可愛らしいYARD ACTのロゴが写し出されると、バンド総勢5名が登場した。ライアン・ニーダムのベースがリードし“Rich”がはじまった。フロントマンのジェームス・スミスが「リッチ!」とオーディエンスとコール&レスポンスをしコミュニケートする。ドラムが入り、キーボードのピコピコ音が入り、リヴァーブがきいたギターが入りYARD ACT印のグルーヴが形作られていく。ジェームスとライアンがおもむろに握手し上下にブンブンしたりする愛嬌あるパフォーマンスも好ましい。随所で入ってくる不協和音でブロウするサックスが良いニュアンスになっている。ジェームスが叫び残響音を維持しつつそのまま“Fixer Upper”へ。ライアンのベースラインがタイトで本当にかっこいい。ジェームスのスポークンワードもキレキレだ。

イギリスから遥々やってきて、今ここに居合わせる聴衆に感謝を伝えると、“Land of the Blind”へ。「Ba ba ba, ba-ba-baow」とコミカルにおとぼけな合の手を入れてくるノリが最高だ。サム・シジプストンがギターを引き倒して唸りを上げると、ジェームスは両手を掲げて彼を称えるようオーディエンスを促す。

ジェームスからの「両手を上げてスピリットを見せてくれ!」とはじまった“Pour Another”。サビパートで天井のミラーボールが煌めき素晴らしい演出をする。フロアの拍手喝采の大盛り上がりにジェームスはとても気分が良さそうだ。

お次は最新シングルの“The Trench Coat Museum”だ。サム・シジプストンが出力するギターノイズがめちゃめちゃかっこよくハマっている。ベースとドラムが作り出す土台の上でジェームスがシーケンサーを操りノイズとグルーヴに輪をかけていく。

音源から強靭で凶暴なサウンドに変貌した“Payday”、疾走する生粋のパンクチューンの”Witness (Can I Get A?)”、かけ声がダサかっこいい“Dead Horse”、ジェームスの本セット一番の雄叫びが轟いた“Dark Days”、どの曲も飛び跳ね踊るしかチョイスはないグルーヴの中に英国産のユーモアなくしては出せない味が隠されている。

ここでまさかのMOTORHEADの必殺の名曲“Ace of Spades”のカバーが投下された。ジェームスのダミ声も、バンドの疾走感もなかなかに様になっている。レミー、永遠なれ!

「We love you! 初来日にして初演となるこれは俺たちにとってスペシャルで忘れられないショウになると感謝を伝える。そして、この12月に東京と大阪にツアーで戻ってくるよとアナウンスし、それまでは最大限我慢してねと“100% Endurance”を披露した。

「また会おう!」とアンセム“The Overload”で、フロアをとぐろが巻くような灼熱のグルーヴに叩き込み日本での初演を大成功の中、完了した。鳴り止まない拍手と大歓声がその何よりの証拠。12月にはまた会える。みんなで踊りにいくしかない!

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FOO FIGHTERS http://fujirockexpress.net/23/p_1613 Sat, 29 Jul 2023 15:22:43 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1613 フジロック’23、2日目。ここグリーンステージもいよいよトリのアーティストを残すのみとなった。開演時刻の約15分前、ステージ前方の中央エリアは人が押し寄せ、あっという間にクローズしてしまった。当然の結果だろう。これから「世界で最も熱い男」、デイヴ・グロール率いるフーファイことフー・ファイターズが2015年来8年ぶりに苗場に帰還するのだから。しかも、デイヴは愛する盟友テイラー・ホーキンスと最愛の母親、バージニアを失うという大きな喪失を乗り越えての帰還。どんな悲劇が起ころうとも、自分のことは二の次で、むしろ自分の持ちうるものすべてをネタにしてファンを、世界を楽しませようとする男だ。日本への、この度の苗場への帰還を心から祝福したい。

さぁ、開演まで1分前となった。トム・ペティの“Free Fallin’”がステージから流れる。トム・ペティからザ・ハートブレイカーズのドラマーにならないかと誘われた経緯があるデイヴだ。サビを合唱するクラウドもいて、スタート前の曲としてうってつけだと思っていたが、曲が終わってしまったものの開演の気配がない。次のザ・ローリング・ストーンズの“Gimme Shelter”の途中でステージが暗転し、デイヴがギターをギャンギャンかき鳴らしながらバンドとともに登場。ステージが深紅に染まったと思いきや、あのリフを刻みはじめる。のっけから“All My Life”投下とくれば、もう予想できるだろう?大歓声とモッシュの嵐がフロアに吹き荒れるに決まっている。演奏と途中で止めて、ギターを刻みはじめるデイヴが得意とする緩急をつけた構成で、スタートからフロアを灼熱の渦の中に叩き込んだ。

続く“The Pretender”で、「今夜、お前らと一緒に歌っていいか?」と叫ぶデイヴ。少し出だしだからか、声が出づらそう。ベースのネイト・メンデルが声のサポートをしているように見えた。

頭に水をぶっかけ、髪を振り乱してメタルなリフを刻み“No Son of Mine”がはじまった。バンドが一体となって放出するヤバすぎるグルーヴ。しかも途中でメタリカの“Enter Sandman”のリフをザックザックと刻み、お次はパラノイドのリフをかましてくる。こんなの頭を振るしかないだろ!新ドラマージョシュ・フリーズが超絶ドカドカでオーディエンスを圧倒。めちゃめちゃかっこいい!日本のファンにとっては最高の初お披露目の場になったのではないだろうか。「今夜は長い夜になるぜ!」とデイヴがかっこよく締めくくった。

次に披露されたのが今年出た新譜『But Here We Are』からのリードトラックの“Rescued”だ。「今夜、俺を救い出してくれ!(Rescue me tonight!)」と髪を振り乱し一心不乱に叫ぶデイヴ。もの凄いエネルギーだ。デイヴの叫びも段々とエンジンがかかってきたぜ!

暖かみのあるフレーズが流れ、“Walk”がはじまった。愛してやまない二人を失った失意から救い出されるのを待っていたところからまた歩きはじようというデイヴの心意気が感じられるこの2曲の流れに早くも目頭が熱くなる。

伝説の第1回目の1997年フジロックが初めてだったと、その後も含めフジロック出演を振り返るデイヴ。「久しぶりに戻って来られて嬉しいから今夜をスペシャルなものにしたいんだ。これまでにやったことがないことをやる。古い友人をステージに呼んで一緒に歌うんだ。特別な理由のためにね」と何とアラニス・モリセットをステージに呼び込んだのだ。「美しく、とても賢くて、慈悲深くかったもう今は一緒にいない彼女に捧げます」とつい先日亡くなったシネイド・オコナーの“Mandinka”をアラニスが歌い、フーファイが演奏した。最後にシネイドの写真がバックに映し出され哀悼の意を表し、そのまま“Learn to Fly”へなだれ込む。テイラーとデイヴがこの曲で向かい合って楽しそうに演奏していたのを思い出して泣いてしまった。

ラミがキーボードで荘厳なゴスペル調のメロディを奏で、デイヴと一緒に歌う“Times Like These”は場にとんでもない感動を生み出す。「It’s times like these you learn to live again. It’s times like these you give and give again. It’s times like these you learn to love again. It’s times like these you give and give again…」このくだりでもう号泣だ。渾身のバンドサウンドで激しくロックし感動に包まれ、そのまま軽快でキャッチーな“Under You”へ。バックにフーファイのフライヤー・ポスターと思しきデザインが幾つも映し出されては消えていく。そこに演奏中のバンドの映像が入り込んでくる。続いていくロックバンドの旅を描いているかのようだ。

「古い曲をやるぜ!」と“Breakout”のギターフレーズが!冒頭で初めて出演した1997年のフジロックに触れ、サビパートで音を消して、「フーファイファン!」と合唱を促す。さぁ、そろそろ来るぜあの爆発パートが!「Breakout!」フロアは携帯電話のライトできらめき、 ジョシュがドラムソロをぶちかまして再び場に熱狂の渦を創り出した。

「次も一緒に歌うのが楽しい曲だ」とお次は“My Hero”ときた。ギターを中心に静かに演奏し、みんなで合唱し感動を生み出す。最後は「オーライ!一緒に歌うぜ!」とデイヴが腕を突き上げ共に歌う。「ありがとう!ビューティフルだ!」とデイヴも嬉しそうだ。

ここで恒例のバンドメンバー紹介タイム。クリス・シフレットがキレッキレのギターソロをかまし、ネイト・メンデルがビースティ・ボーイズの“Sabotage”のベースラインを奏でるのだから大変だ!と思いきやデイヴが一部を叫んだだけで終わってしまった。お次のラミ・ジャフィーには1度目では「まだ足りない!フジのためにやれ!(Give it for FUJI)」と厳しいデイヴ。2回目の浮遊感あるスペイシーなプレイで「それがフジのためにやるってことだ!」と晴れて合格。ここで「For FUJI!」と何度も連呼するデイヴ。オーディエンスからのレスポンスが素晴らしく、これで盛り上がるなら簡単だとお気に召されたようだ(この後何度も我々はこれに付き合うことになる)。パット・スメアはラモーンズと言えばな曲“Blitzkrieg Bop”のリフをかき鳴らす、するとドラムのジョシュ・フリーズがドカドカやったので、フロアが思わず「Hey! Ho! Let’s Go!」コールをやってしまう。これに応えバンド全員で一部を披露してくれた。「パットは悪いやつなんだ」と冗談を言ってじゃれ合い、また「For FUJI!」コールを何度も繰り返すデイヴ。最後に大歓声の中紹介された新ドラマーのジョシュ・フリーズのソロの前にラミがディーヴォの“Whip It”のフレーズを弾いたのでバンド全員で演奏する羽目に。そして、「もう一人フーファイのメンバーが来ているんだ。7人目の新メンバーだ!」と28年の付き合いになるというウィーザーのパット・ウィルソンを呼び込み(デイヴの冗談だとは思うが…もし本当ならびっくりニュースだ!)、1stレコードから“Big Me”を一緒にプレイした。

続くはグッと重たくなった“Monkey Wrench”を投下!フロアから今夜一番のバンドクラップが送られた。「フジ!叫べるか?」とグリーンステージ一帯全員で叫び、ジョシュの叩き込みとともに爽快に締めくくった。

「テイラーと俺は日本でたくさん楽しんだんだぜ!」とテイラーの一番好きなフーファイの曲だったからと“Aurora”を優しく奏でる。夜風が心地よい今にぴったりだ。きっとテイラーが天国から苗場を見下ろしている。いや、きっと彼の魂は今一緒にここにいてあの笑顔で楽しんでいることだろう。終盤でバンドがハードに音を出力して熱く締め括った。

「後1曲やるぜ!いや2曲やるぜ、フジのためにな!」と“Best of You”。ラストでバンドが熱くジャムセッションを繰り出す中、オーディエンスが携帯電話のライトを付け「オー!オー!オー!」と大合唱。「オーケー!これまでで一番好きなフジだぜ!ありがとう!」と嬉しそうなデイヴにこちらもほっこりとさせられた。

「多分次の新しい俺のタトゥーになるぜ。For FUJI!」と冗談を挟みつつ「最初に日本に来てから随分経つけど、今度はもっと早く戻ってきたいね。日本中をツアーで回れたら最高だな!その日が来るまで、この曲で一緒にダンスしようぜ」と本セット最後の曲“Everlong”がはじまった。前回2015年のフジロックではリードトラックだった曲だ。バンドもオーディエンスもあらん限りに叫び、ダンスし、楽しみ尽くした約1時間半のステージを完走した。

コロナ禍中にデイヴが『The Atalantic』紙に寄稿した記事の中で「なぜ我々にはライブが必要なのか?」についてこう書いている。「俺はこれまで、俺の音楽を、言葉を、人生を、俺のショーに来てくれた人達と分かち合ってきた。そして来てくれた人達は、それぞれの声を俺と分かち合ってくれた。叫び声を上げ、汗をかく観客なしでは、俺の曲は単なる音でしかない。だけど、みんなと一緒なら、音楽の大聖堂の楽器になれる。毎晩毎晩俺たちは、みんなで一緒に音楽の大聖堂を作れる。だからそれを、また絶対にみんなで一緒に作るんだ」(参照元)まさしく今夜、苗場でこの宣言を実現してくれた。ありがとう。次の来日はいつになるか分からないけど、俺たちはいつだってデイヴの帰還を祝福するよ。

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ENDON x rokapenis http://fujirockexpress.net/23/p_1814 Sat, 29 Jul 2023 07:00:13 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1814 GEZAN with Million Wish Collective http://fujirockexpress.net/23/p_1608 Sat, 29 Jul 2023 06:13:57 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1608 とんでもないライブだった。

「感動した、立てないくらい」
「本気なんだよ。本気だから伝わる」

グリーン・ステージから立ち去ろうと会場内を歩いたとき、フジロッカーたちのそんな声を耳にした。ライブを観終わって放心状態の自分も同じ気持ちしかなかった。きっと物語の旅路の終わりとともに、大きなメッセージを受け取ってしまったからだ。

GEZANの最新作『あのち』は、2021年にレッド・マーキーの大トリで共演した総勢15名のコーラス隊Million Wish Collective(以下、MWC)とともに製作した渾身の一枚だ。GEZANという核が巨大な力を得たようなこの大所帯バンドは、とんでもないエネルギー集合体として演奏を繰り広げ、リスナーの度肝を抜いてきた。

ところが、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo&G)は、この巨大な生命体を終わらせることにした。X(旧Twitter)でも「ライブでも話したけど、MWCはフジロック、6人体制はライジングサンで融解します」「寝ても覚めてもフジロックのこと考えてるよ。あの場所に7月の全てを置いてくるために、散らばった夏の破片を集めてる」と投稿している。

オルタナティブという形容詞は彼らのためにあるような言葉だ。遊び心とカッコよさを両立した中毒性の高い音楽と、現実と真っ向から向き合うマヒトゥの強い覚悟を持った言葉たちは、ロックバンドとして多くの人々の心を撃ち抜いてきた。今回がその証としてのフジロック、グリーン・ステージでのライブとも言えるだろう。

ステージにはイーグル・タカ(G)がバグパイプを高らかに吹きながら登場し、戦いの狼煙を上げると、赤い衣装をまとった集団が続々と入場してきた。そのカッコよさときたら、映画のオープニングを観ているかのよう。GEZANメンバーを中心にドラムは2台、キーボード、男女混成の大所帯コーラス隊。初めて生で見るその威風堂々とした大人数編成の迫力は圧倒的で、開始前からノックダウンされそうになる。

ブンラカシュカラカシュカラカブンブン

地面を揺らすようなコーラス隊の歌声とビートの“誅犬”で、ライブはついに幕開けした。コーラス隊の誰もが全身を使ってグリーン・ステージにエネルギーを放射していく。マヒトゥは「2023!!!」と叫び、その表情からも気力がみなぎっていることが明らかだ。中指を立て、身体を躍動させながら強い眼光で観客たちを見据えて、強力なビートの推進力にすべてをなぎ倒すように進んでいく。

この熱量を受けて、“DNA”のイントロが流れれば観客は自然とハンズ・アップ。すでにもうみんな笑顔をクシャクシャにして踊っている。2021年に加入したヤクモア(B)のパンキッシュでエネルギーに溢れたベース・ラインが走る。コーラス隊の「ほっほっほっ」という合いの手でダンス・ミュージックとしての熱量をさらに加速。「誰かを傷つけないと自分でいられない君」の歌詞を「私」と言い換えたマヒトゥは、観客の心に火を灯すように「僕らは幸せになってもいいんだよ」と力強く歌った。

「F◯CKIN’ GEZAN!」のボイス・サンプリングが観客の興奮を煽る“Shangri-Ra”へ。曲のビートをさらにハネさせるようなマヒトゥの歌詞は実に秀逸で、曲中にはあのアニメを思わせる「タッタタラリラ〜」や、先ほどの“誅犬”では「HEY HEY HEY 時には起こせよムーブメント」など、GEZANを知らない日本のリスナーが聴いてもハッとさせる仕掛けが随所に見られる。そんな言葉遊びに混じって「最低な時代言い訳にしないのさ」と芯を射抜く言葉を僕らに投げかけるのだ。

タカが「暑い中、早くから集まってくれてありがとう」と観客を気にかけ、ヤクモアは「めっちゃ気持ちいいですね、ありがとう!」とグリーン・ステージでのライブに高揚感を隠さない。「ほんとイカれた時代なんで倍の倍イカれて踊りましょう。もう後先考えずにいくところまで行こうぜ」とマヒトゥが言えば、タカが「裸の付き合いしようぜ!」と“EXTACY”へ。突き上げるようなコーラス隊のリズム、地鳴りのような電子音が鳴り響いた。“⾚曜⽇”ではステージのバックに「NO WAR」の文字が出現。ヤクモアはアンペグのベース・アンプの上に立ったかと思うと、ディジュリドゥを吹き鳴らした。エコーのかかったマヒトゥの言霊は、グリーン・ステージの観客に呼びかける。「革命なんだよ、これは!」と。

ここからは怒涛のメドレーに突入。“もう俺らは我慢できない”をベースに、音は過激さを増していった。バンドは人々の怒りを代弁するかのように絡み合い、マヒトゥは野獣のような表情で歌い上げていく。生命力にあふれた強靭なビートや爆音、ギミックの入り組んだ曲に耳を奪われてしまうかもしれないが、マヒトゥはライブを観ている一人ひとりの観客の、一つひとつの感情を手繰り寄せるかのように歌を丁寧に届けていた。

「いつまで清志郎に頼ってるんだ」

この曲をグリーン・ステージで歌うことが、強烈なカウンター・パンチとしていかなる意味を持つか彼は分かっているはずだ。GEZANは聴く者を自ずと現実と向き合わせる。マヒトゥはライブを通して客席を直視しながら、何度も何度もステージの床を叩いていた。まるで「ここから立ち上がるんだ」「ここが戦場だ」とでも観客一人ひとりに伝えるかのように。

“東京”のフレーズが鳴ると、ひときわ大きな歓声が上がった。マヒトゥは、ここでも「安倍やトランプ」の歌詞を「安倍やプーチン」と入れ替え、ステージを這いずり回るように歌い届けようとした。魂を込めてバンドは全力疾走し、曲のアウトロでは「教えて、聞かせて、ここに集ったことの意味を」「この歌が古くならないこの意味を、教えて、聞かせてよ、想像してよ、東京」と付け加え、ハンド・サインの銃を自分のこめかみに、そして客席へ向けた。

GEZANは、ルーキー・ア・ゴー・ゴー、レッド・マーキー、ホワイト・ステージでのライブ・アクトを経て、いまグリーン・ステージに立っていること、自分たちの力だけでは進めないかもしれないと思うこともあったと話したが、「ここ(グリーン・ステージ)ででたらめに遊んでいること自体がその一つのカウンターで証明なんで。とにかく音楽を信じてやりましょう。一番の武器になるんで必ず。これはもう異論は認めません」と“萃点”に突入し、観客はその想いにハンズ・クラップで応えた。

「いい仲間を作っていくとサバイブできると思うんで、MWCという形態もそういうことの塊だと思う」と話すと、「友達の歌」との紹介から”BODY ODD”になだれ込む。重く荒々しいギター・リフとマヒトゥのラップが畳み掛けてくるところで、なんとK-BOMBが登場! 迫力のフローで畳み掛けると、続いて踊ってばかりの国の下津光史、スケボーに乗る男(もしやマヒトゥが作詞・作曲・監督したUAの“微熱”のPVに出演していたスケートボーダー吉岡賢人?)やサポート・ドラマーも出てきて歌うわ、MWCのメンバー、いつもの間にか上半身裸になっていたサポート・キーボードも次々出てきて歌うわでステージはカオス状態。マヒトゥへマイクが戻り、その場で高く掲げると、最後は上半身裸で赤ハーフパンツを履いたTOSHI-LOWが登場!! マイクを受け取り、終始笑顔で飛び跳ね歌ったTOSHI-LOWはマヒトゥとハグしてステージを去った。

石原ロスカル(Dr)は「最後にフジロックで、苗場で僕らは夏にかえります!」とMCし、ラストは特大のアンセム“JUST LOVE”。イントロが鳴ると、タカはバクパイプを持って大きくステップして踊り、ギターを持ったマヒトゥは「今日以上にこの歌を上手く歌うことはできないかもな」と歌う。これで本当に最後。ヤクモアも石原も笑顔だ。MWCのメンバーたちが涙ぐんでいるのが見えた。ああ、本当に彼らの旅路は終わろうとしている。願いを込めた「everything’s gonna be alright」が力強く会場に響きわたり、グリーン・ステージは大きな拍手に包まれた。

「もらった希望の一つひとついまこの場所で返して旅を続けようと歌う」
「さよならをしよう」

マヒトゥは最後の曲中にステージの頭上を一瞬見上げた。彼の言葉を聞けば、現実を突破せんとする力の源は愛以外何物でもなかったと思う。異端とも言える大所帯バンドの旅はフジロックでこうして終わった。きっと多くの人々の心に忘れられない音楽を突き刺して。

<Set list>
1. 誅犬(Million Wish Collective)
2. DNA(Million Wish Collective)
3. Shangri-Ra(Million Wish Collective)
4. EXTACY(Million Wish Collective)
5. ⾚曜⽇(Million Wish Collective)
6. メドレー(Million Wish Collective)
7. 東京(Million Wish Collective)
8. 萃点(Million Wish Collective)
9. BODY ODD
10. JUST LOVE(Million Wish Collective)

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THE STROKES http://fujirockexpress.net/23/p_1607 Fri, 28 Jul 2023 16:04:18 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1607 昼過ぎにROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAも演奏していたアニマルズの“朝日のあたる家”が流れる、21時過ぎのグリーン・ステージ。ステージにちょっとした動きがある度に待ちきれないとばかりに歓声があがる、ヘッドライナー前のソワソワした感じもなんだか懐かしい。ましてやあれだけ待望されていながら惜しくも中止となったフジロック’20のヘッドライナーの予定だったザ・ストロークスが、3年越しについに苗場にやってくるのだ。グリーン・ステージには、2019年以来と言ってもいいようなたくさんの人が詰めかけていた。

定刻を少し過ぎた頃、いよいよザ・ストロークスの5人が登場。もうロゴがスクリーンに表示されているだけで感極まってしまうのに、初っ端から“The Modern Age”なんてぶちこんでくるものだから、これはもうたまらない。2011年以来の来日、そして2006年以来のフジロック。本当にずっと待ってたんだよみんな。最新作からの“Bad Decisions”や続くAutomatic Stopでも、ニック・ヴァレンシ(Gt)、 アルバート・ハモンドJr.(Gt)が絡み合うザラっとしながらもカラフルなギターアンサンブルは健在で、ジュリアン・カサブランカス(Vo)のモタっとしたヴォーカルも、まさにこの感じだ。

簡素なガレージロックサウンドで何年経っても変わらないあの情感を鳴らしているザ・ストロークスが、眼前にいるこの事実。だが円熟味を増した演奏は“The Adults Are Talking”でも抜群に光っていて、ファブリツィオ・モレッティ(Dr)の跳ねるようなドラムもニコライ・フレイチュア(Ba)の無骨なピック弾きのベースも、掛け合う2人のギターもジュリアンの伸びやかなヴォーカルも、すべてが絶妙なバランスで調和しているこのバンドサウンド。変わらない良さをさらに高いレベルで突き詰めたパフォーマンスに、グリーン・ステージが酔いしれている。

“Meet Me in the Bathroom”、“You Only Live Once”と往年の名曲を立て続けに披露するザ・ストロークス。サビ前の「チチチ」はもうとろけてしまいそうなくらいで、実はかなりレア曲の“Fear of Sleep”や“Barely Legal”でもジュリアンのヴォーカルが冴え渡る。かなりモッタリとした演奏の“Under Control”のフィーリングも今の彼らだからこそ出せるものに感じたものだし、一転してノイジーな“Juicebox”で叫ぶ中でも情感というよりむしろクレバーさが際立っているようで、ジュリアンの独特のヴォーカル・スタイルはここにきてさらに深みを増している。最後の「No, no, yo’re so cold」で前のめりにマイクに寄りかかる姿がかっこいいのなんのって。

中盤“Welcome to Japan”、“Soma”、“Red Light”のあたりではいきなり叫んだり冗談っぽく他の4人と掛け合ったりと、ちょっと変なテンションになってきたジュリアン。ヴォーカルもヘロヘロしてこれまで以上にもったりとしてきたが、それがまた抜群に絵になるからニクいんだよなこの人は。例えば2012年のザ・ストーン・ローゼズのように、ここまで含めて完成系だと思えてしまうような懐かしくも心地いいグリーンの空気感がなんだか愛おしい。終盤では“Is This It”、“Someday”とこれでもかと代表曲を連発し、本編最後は“Reptilia”。ブレイクのギターでちょっとシンガロングする感じが最高じゃないですかフジロッカーズ。ガンガン踊る人もまったり聴き入る人も、グリーンに集った人々が思い思いの感情を投影する素晴らしい時間だった。

アンコール前のタイミングでモニターはグリーン最前列を映している。ロゴをプリントした大きなフラッグを柵にかけている人、アルバートの顔パネルを作ってきた人、そして『Is This It』のレコードを掲げる人…。みんなの想いが結集したこの時間も、しみじみと感慨深くなったものだ。そして再度現れた5人が繰り出したのは“Hard To Explain”!心のまま揺られる中でも、ブレイクの静寂で歓声が夜空に染み渡ったのは一つのハイライトだろう。しめやかにしっとり歌い上げた“Ode to the Mets”に続いて最後は“Last Nite”。最後の最後になんてニクい選曲だよもう…!新旧織り交ぜた集大成ともいえる充実のパフォーマンスはこうして終幕を迎えた。

本当に懐かしい思い出がたくさん去来してきたステージだったが、これはノスタルジーなんかじゃないんだ。僕らがグリーンで分かち合った、円熟味と貫禄を増したバンドサウンドに思い出が鮮やかに塗り替えられるような鮮烈な体験。それは完全復活のフジロック初日の締めにこれ以上なくふさわしいものだったといえるだろう。

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IDLES http://fujirockexpress.net/23/p_1604 Fri, 28 Jul 2023 09:44:37 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1604 フジロック’23の初日も15時前。晴れ渡り、うだるような暑さだったところから少し雲が空を覆い涼しくなってきた。これからここグリーンステージで繰り広げられるであろうはちゃめちゃなステージを目撃するべく、駆け込んでくるかのようにステージ前方に人が集結してきた。

開演時刻きっかりにメンバーが続々とステージに登場。特にハチマキをしてカラフルなドレスに身を包み、ヒッピー風の出で立ちに拍車をかけるギターのMark Bowen(以下マーク)が最高だ。

ドラムのJon Beavis(以下ジョン)がカチカチとカウントを取ると、Adam Devonshire(以下アダム)のベースがずっしりと入り、マークがノイズをかき鳴らすと“Colossus”から不気味さを漂わせながらにスタート。Joe Talbot(以下ジョー)はステージを左右にうろうろ歩きながらつぶやき加減に黙々と言葉を紡ぎ出していく。リズムが転調すると徐々にバンドのヴォルテージが上がっていき、渾身のグルーヴで熱狂の渦に叩き込む。生でしか味わうことができないバンド一人一人が紡ぎ出す音が織りなす血が通った熱きグルーヴ。これだからライヴはやめられない!一呼吸おいて、ジョーの「コンニチハ!」の一言からパンクパートへなだれ込むと、ギターのLee Kiernan(以下、リー)がいきなりフロアの中へ飛び込み、クラウドサーフしながらギターをかき鳴らすのだから一気にオーディエンスのボルテージを上げる。

熱が落ち着く間もなく、キーボードで不穏な音をマークが鳴らすと、ジョーがガンガン足を踏み込みリズムを取り“Car Crash”に続く。ヒップホップ調のアブストラクトな重たいビートがたまらない。苦虫を嚙み潰したような表情をしたジョーのシャウトがどんぴしゃのタイミングでこだまするきまりっぷりに鳥肌が立ってしまった。

ジョンのカウントに合わせてジョーがジョギングし“Mr. Motivator”を発進。ここはジョンが主役だ。ドカドカビートがバンドのグルーヴをどんどん引っ張っていく。「アリガトー!コンニチハー!」とにこやかに挨拶するジョー。お次はベースが唸る“Mother”。間奏部の暗く悲しげなギターフレーズに呼応するかのように雨がポツポツきた。苗場の天候はいつでも素晴らしい演出をしてくれる。

バンドが放出する熱いエネルギーはとどまるところを知らない。マークとアダム、リーが“I’m Scum”の間奏部でステージ上に倒れると、ジョーから「しゃがめ」の合図が。でも押し付けがましいところが一切なく、とってもジェントルなジョーとバンドたち。飛び上がってみんなが盛り上がったら最高に嬉しそうだ。そして、ジョーが感謝にあふれた表情を送り締めくくる。音の激しさの裏に宿る優しい愛にあふれたバンドだということがよく見て取れる瞬間だった。

この後もステージ中を縦横無尽にスキップしながら言霊を発するジョーが胸を打つ“Crawl!”、本セットで一番の凄まじい咆哮が鳴り響いた“Divide and Conquer”、マークによるキーボードの調べで場を“The Beachland Ballroom”でクールダウンさせと思いきや“The Wheel”で再び着火とくれば、我々はダンスを止めるわけにはいかない。ジョンによるビートの叩き込みからはじまる30秒の爆裂ハードコアチューンの“Wizz”の後続けざまに“Never Fight A Man With A Perm”へと矢継ぎ早に繰り出していく。「今日、ここに来てくれた一人一人にありがとう!」と真摯に感謝を伝え、移民問題に起因する多様性を訴えるアンセム“Danny Nedelko”を投下した。ジョーの感謝のメッセージに目頭が熱くなってしまったのは私だけではないだろう。マークがステージ下に降りてきてオーディエンスの中へ飛び込むものだから、フロア前方がモッシュとクラウドサーフでぐちゃぐちゃな状態に。ここでも、ジョーはセキュリティに対する感謝を忘れないのだ。

“Rottweiler”で、ジョーとジョンが共に叩く軽快なビートが刻まれる中、マークがメンバーを紹介していく。バンドがあらん限りにすべてを出し切り、圧巻のノイズが残響する中、オーディエンスと触れ合い別れを惜しみつつステージを後にした。

遅咲きで、人生でも多くの苦難を体験してきたジョー率いるIDLESのライヴを初体験して触れたのは、繋がっている人たちに対する気遣いと愛・感謝の想いだ。ひたすらに熱く、激しく、そして感動的なライヴだった。

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FEVER 333 http://fujirockexpress.net/23/p_1602 Fri, 28 Jul 2023 06:43:56 +0000 http://fujirockexpress.net/23/?p=1602 フジロックは毎年何かしらの事件が起こる。「フジロックで思い出に残っていることは?」という話を常連に聞くと、まずは大災害かと思うほどの土砂降りの雨のなかで見たSIAが挙げられるが2018年のWHITE STAGEでのFEVER 333のライブも、まさに革命のようなひと時であった。身内だけの話かもしれないが、未だにあの光景は語り継がれているし、今思い出すだけでも凄まじい瞬間を目撃したと言いきれる。

あの伝説的なライブに魅了された方も多いのではないだろうか。期待値が高まらないわけがない。何も制限のかからないGREEN STAGEも4年ぶりということもあり、いつもの挨拶の時点でステージ前方には多くの観客が押し寄せている。そうそう、これこれ。ライブ前のこのふわふわとした緊張感を思い出す。

爆音のイントロが流れ、白装束を身にまとった4人のメンバーがステージへとゆっくり登場すると、「待ってました!」と言わんばかりの拍手と歓声が送られる。更に押し寄せてくる観客の多さが、あの5年前のライブの衝撃を物語っているようでもあった。

1曲目は、“Bite Back”。マスクをつけたJasonが突き刺さるようなシャウトをしながらステージを暴れ回る。ベースのApril KaeもギターのBrandon Davisも負けじとJasonに呼応していく。Thomas Pridgenの爆発音のようなドラミングに野太いベースとギター音が心地よく、思わず「これだよ!これ!」と言いたくなってしまう。このときの気温は30℃を超えていたけれど、もうすでに熱気が溢れかえり、暑苦しい。

“Only One”では、スピーカーの上に陣取り、空に祈るようなシャウトをあげるJason。ステージではスライディングをし、水をまき散らし、観客たちを煽っていく。アクションだけではなく、パワフルなサウンドが苗場のこの空間そのものをぶっ壊し、めちゃくちゃにしていくようでもあった。もちろん、前方では汗だくでモッシュをし、腕も上がる。身体も自然にゆれてしまう。純粋な音楽な楽しさが詰まっているようでもあった。

FEVER 333といえば、今年ボーカル以外のメンバーを総入れ替えしたばかりである。あのパフォーマンスをまた見られるのか?まったく異なったバンドになってしまうのでは?という心配は、杞憂に終わる。新メンバーにベースを入れたことによって、サウンドには力強さが増したし、April Kaeの観客を挑発するようなエロティシズム全開のパフォーミングが抜群に上手い。バンドとしてのバランス感覚がグッと安定したようにも感じる。今、この瞬間に私たちがFEVER 333に求めているものがすべて揃っているのだと思った。

続く“Made an America”、“One of Us”では、天にマイクを投げ、キャッチからの即シャウトというJasonお決まりのパフォーマンスにも思わずにやけそうになる。観客たちからも声があがり、うねるベースにソリッドなギターがアクセントとなって、ここでもサウンドとしての力が増していることを思い知らされる。「落ち着いたよね」とか「前のほうがよかったよね」とか、絶対に言わせないのだ。

5月末にリリースされたばかりの“$wing”は、身体の芯に響くドラムとベースに身を任せていると、自分のなかでの熱量がどんどん増していくのがわかる。知っているイントロが流れたと思えばBLURの“Song 2”のカバー!こんなの盛り上がらないはずがない。サビパートでの「Woo-hoo」では観客からも声が上がり、それぞれが飛び跳ね、前方のサークルモッシュもその輪をどんどん広げていく。久しぶりのフジロック。彼らなりの私たちに向けたささやかなプレゼントのようでもあった。

4人の屈強なセキュリティに支えながらJasonのシャウトが響いた“We’re Coming In”のあとには、未来の子どもたちのために捧げられた“Prey For Me”。サビに向けてテンポが上がっていき、更に会場をヒートアップさせていく。「アクティビズムとしてのアート」というミッションのもとに集結した彼らの楽曲やMCからもわかるように、すべての人に向けられた平等・平和に対する祈りなのである。
突き刺すようなドラムのサウンドが印象に残る“Out of Control”のあと、お決まりの耳馴染みのあるイントロが流れれば、“BURN IT”だ。サークルモッシュもこの日最大に広がっていき、大いに盛り上がりを見せる。フロントの3人は縦横無人にステージ上を動き回っていく姿は、すべてが予想の斜め上、規格外であるように思う。クラップ&ハンズに歓声と、観客たちも負けじと応えていく。

ぶっ飛んだステージとはいえ、ここまでなんとなく物足りなさを感じた方もいるはずだが、ここで終わるのはFEVER 333らしくない。ラストの“Hunting Season”では、汗だくになりながらの観客たちのサークルモッシュに、JasonがPA卓すぐ上の照明にまで駆け上り、身体を半分以上出しながらのシャウト!ちょっと間違えてそこから落ちたら普通に死にますけど……?でも、やっぱりそうだよな。そうなんだよな。FEVER 333はこうでなくちゃ!!!5年前のWHITE STAGEでも思ったが、よくこのはちゃめちゃなパフォーマンスで出禁にならないな。笑いをこらえることができなかった。

やはり、FEVER 333は予想と期待を遥かに超えるライブをいつでもやってくれるのだ。今回のライブも今年のフジロックのひとつの大きな事件になったのではないだろうか。その証拠に、階段を降り、ステージまで戻るJasonには惜しみない拍手が鳴りやまなかった。

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