LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/27 SAT
THE LAST DINNER PARTY
時代と逆行するマキシマリズムがTLDPを世界へと導く
ロンドン出身の5人組フィメール・ロックバンド。ザ・ラスト・ディナー・パーティー(以下TLDP)は、まるで熟成されたワインのようなバンドだ。神秘性や退廃性、ダイナミズムに荘厳さなど、音楽というものが持ちうる全ての要素を持ち合わせている。英BBCが選ぶ、その年で最も注目すべき新人アーティストをピックアップする『BBC Sound Of 2024』やブリット・アワードの『ライジング・スター』など、イギリスの権威あるアワードでも軒並みトップを獲得し、今世界で最も注目されていると言っても過言ではないTLDP。
デビューアルバム『Prelude to Ecstasy』のオープニングを飾る、壮大なシネマティック・インストゥルメンタル “Prelude to Ecstasy” が流れ始めると、メンバーたちが入場、それぞれが定位置に立つと、さらにTLDPの世界観がまずます深まっていった。メンバーはステージ下手から、オーロラ・二シェヴシ(Key/Org/Pi/Syn/Cho)、エミリー・ロバーツ(Gt/Mand/Fl/Cho)、アビゲイル・モリス(Vo)、リジ・メイランド(Gt/Fl)、ジョージア・デイビーズ(B/Cho)のメインメンバーが横並びに並んでいて、後方にはサポートドラマーのキャスパー・マイルズ(Dr/Per)がしっかり支える編成。
グリーンのステージ上はあっという間にTLDPの世界観に染まっていく。オープニングトラックの荘厳なイントロから始まる “Burn Alive” は、彼女たちにとっての最初の声明のような曲である。《あなたの炎の中に付んだままの私を/焼いて生きたまま焼いて》と歌われる一節には、《私の痛みや苦しみを聖火で燃やし尽くして、芸術に昇華する》というバンドの所信表明が込められている。そんなこの曲を堂々とパフォーマンスするメンバーたち。その中でも際立っていたのは、フロントウーマンのアビゲイル・モリスだ。シリアスなオペラとリズミカルなポップ交互に歌われた “Ceasar on a TV Screen”における、彼女の王もしくは女王然とした佇まいと立ち振る舞いは、シンガーとしてはもちろん表現者としても圧倒的な存在感を放っていた。
曲が終わり、シリアスな空気が充満する中、そんな雰囲気を一変させたのが、ベースのジョージアの日本語MCだった。「みなさん、こんにちは!大丈夫ですか?私たちはラスト・ディナー・パーティーです!」と、カタカナ表記にする必要がないぐらい流暢で、その流れのままメンバーを1人ずつ日本語で紹介していった。その後のMCでも、彼女たちが思っていることをちゃんとした日本語で語っていて、ここから感じた驚きは、TLDPのパブリック・イメージをいい意味で更新してくれた気がする。
TLDPのライブはまだまだ始まったばかりだ。ここ10年間のトレンドから逆行するかの如く、とても過剰に装飾的で、且つ歪な美しさを持つ彼女たちのアート・ロック『Prelude to Ecstasy』は、これら要素がリバイバルするキッカケと大いになりうる名盤だ。ここからさらに、本アルバムの世界が次々と披露されていく。母親のことを思い浮かべながら女性性の抑圧を切ないメロディに乗せて歌う “The Feminine Urge” に、ゴスペルチックなコーラスのイントロから始まったローファイなロック “Second Best”。そして、美しくも切ないメロディで歌われる「どうしようもないラヴソング」の “On Your Side”と続き、どっぷりと彼女たちの世界観に浸かり込んでいくオーディエンス。曲中曲外問わず湧き上がるのは簡単な叫びと称賛の声ばかり。
“Sinner” では原曲はニューウェイブ調ながらもライブバージョンはかなりヘヴィーなハード・ロックなアレンジになっていて、ファンの高揚感をさらに煽り上げていった。終盤に入ると、ブロンディの名曲 “Call Me” のカヴァーや、ダークでヘヴィな雰囲気とコーラスパートが壮大が双璧をなす “My Lady of Mercy” と続き、ラストはTLDPのファーストシングルにして最初のアンセム “Nothing Matters”だ。バロック・ポップ、グラム・ロック、ゴス、ポスト・パンクなど──彼女たちの音楽を構成するアート・ロックの要素が全て詰まったこの楽曲のオーディエンスは一斉に《And I will fuck you like nothing matters(何も問題ないみたいに、あなたをファックする)》と大合唱し、歪な多幸感をもたらし、約1時間のステージをやり切った。
このあとメンバーは、息つく暇もなく次のフェスに出演するために苗場を後にしたそうだ。デビュー直後にして最高に注目を浴びている今だからこそ、世界中のステージをさらに経験し、より世界へと羽ばたいてほしいと心からそう思う。
<セットリスト>
01. Burn Alive
02. Caesar on a TV Screen
03. The Feminine Urge
04. Second Best
05. On Your Side
06. Gjuha
07. Sinner
08. Portrait of a Dead Girl
09. Mirror
10. Call Me (cover)
11. Big Dog
12. My Lady of Mercy
13. Nothing Matters
[写真:全10枚]