LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/28 SUN
クリープハイプ
Posted on 2024.7.28 20:56
邦ロック系・ロキノン系バンドの誇りと意地
※まず一言述べておきたいのだが、MCの内容が個人的にとてもよかったため、しっかり書き起こすことにしようと思います。
SEもないまま登場する4人のメンバー。スポットライトが尾崎世界観(Vo./G.)に集められ、疾走感を覚えるドラムが特徴的な“君の部屋”で本編がスタートする。そのままの勢いを取り残しながら、“一生に一度愛しているよ”は、軽快なリズムに反して皮肉な曲だよなあ、なんて思う。小川幸慈(G.)がステージ上を動き回る様子を眺めながら、ヒリヒリした空気を肌で感じる。
BGMを速めたままの“月の逆襲”では、長谷川カオナシ(B./Vo.)が尾崎そっくりの上に抜けていくような声で歌い、ツインボーカルが心地よく響く。「ありがとう、クリープハイプというバンドです。今年でこのメンバーになって15年になるけど、フジロックとかもうないだろうなって思ってて。もうないものとして覚悟を決めてやっていこうと思ったんだよね。15周年で。そしたら、オファーが来て今ここに立ってる。すごくうれしかった。クリープハイプが、邦ロックとかロキノン系とかちょっと音楽好きの人からしたら、舐められることもあるんでしょうけど、そういうバンドだと思ってます。邦ロック系バンド、ロキノン系バンドとして、誇りをもってこのステージに来ました。今日はよろしくお願いします。」と話す、尾崎。なんか、この時点でかっこいいなと思ってしまったんですよね。15年もやっていたら色んなことがあったのだと容易に想像はできるが、自分の音楽や思想に自信を感じられる。
長谷川カオナシ(B./Vo.)がキーボードを弾き、尾崎のアカペラもしっとり聴かせた“ナイトオンザプラネット”ではポエトリーリーディングのような歌詞がタイトルのごとく夜に月を浮かべたような音に乗せられる。耳に残るギターの音が印象に残る“キケンナアソビ”のあとは、「今度会ったらセックスしよう!」の合唱が起きた“HE IS MINE”。クリープハイプって、「ここまで言っちゃうんですか?」という恋愛や恋心に紐づいた関係から生み出された感情を生活感を残した状態そのままで歌詞に落とし込んでいると思うのだが、性別に関係なく、心の底の方に埋まった悲しみみたいなものが見え隠れするように思う。
毛色の異なるアグレッシブなサウンドの“身も蓋もない水槽”、“社会の窓”のあとのMCでは、「ありがとう」のあと、「今日はなんか、すごい楽しいな。楽しくて曲順間違えちゃった」という尾崎。正直に言えば、この演奏が始まったとき、「この人、音楽がすきじゃないのかな?」「バンド辞めたいのかな?」と思っていたのだが、中盤以降に差し掛かる頃には、時折笑顔を見せながら楽しそうに演奏する姿が印象に残っている。
「いつも楽しくないわけじゃないんだけど、やっぱりやらなきゃいけないことっていうのはあって。今日ももちろんそうなんだけど。もっとなんか、やることが決まっているっていうか。いつの間にか楽しめてなかったのかもしれないなって。久しぶりになんか、懐かしい気持ちで。別に来てもらっているのは全然うれしいしめちゃくちゃ幸せなんだけど、なんかこうこんな感じでやるのがいいっていうかね。聴きたきゃ聴けばいいっていう気持ちで久しぶりにライブができて、大事なものを思い出させれもらってうれしく思っています。ありがとうございます。」
「楽しいよ!本当に。楽しいよ!あとあの、やっぱりフジロックになると、普段連絡来ないうような人からも連絡が来て、今日見るからとか今更何年かぶりに連絡してきてなんなんだよとか思うだけど、それはそれで、みんなそれぞれ時間が経つと家庭を持ったりして。ああ、大人のなっているなっていうのを感じて。で、自分は今年40になるんだけどまだ独身で、ずっと同じことを繰り返していていいのかな?って思うんだけど、不安になるんだけど。こうやってステージに立ってるけど、満たされなさとか悔しさとか寂しさとかそういうものはずっと消えないんだなと。一緒にいた人が家庭を持って幸せそうにしていると余計思い。でも、そういう人に理解してもらえない気持ちだって、こんなフジロックのグリーンステージに立ってて何を満たされないとか言ってんだよって思うかもしれないけど、何か足りなくて。でもこの足りなさって、なかなかみんなが持っているものではないと思うし、これからも大事にしていこうと思いました。こうやってライブを通して、いろんな人の生活と一瞬でもつながることができてうれしく思います。残り時間短いけど、一生懸命やります。よろしくお願いします。」というMCにはやられてしまう。距離は遠いかもしれない。それでも同じ人間で、変わらないのだと思ってしまったのだ。
ああ、この人は自分のバンドで武道館にも立って書いた本が芥川賞候補作品に2回も選ばれるような人なのに。かっこつけることもなく、恥ずかしがることもなく、自分の満たされなさを平気で口にするのだ。歌詞が全て私生活や思想に反映されているとは思わないけれど、だから自分のすべてをさらけ出すような作品を作る。あの言葉で、随分と邦ロック・ロキノン系バンドとしてのクリープハイプに対する見え方みたいなものが一気に変化したように思う。
ギターのメロディが耳に残る“イト”のあと、「一生の思い出にするつもりで来たけど、思い出にするにはもったいないから、ぜひまた呼んでください。お願いします。」という言葉のあとは、ラスト“栞”で本編が終わる。本当なんだろうな。尾崎の心から楽しんでいることが伝わる笑顔が記憶に残る。
[写真:全10枚]