LIVE REPORT - PYRAMID GARDEN 7/27 SAT
el tempo
(その感じいいね!最高!)
友人がしきりに勧めているのを見て気になったので、寝ぼけまなこでピラミッド・ガーデンに向かう朝のひと時。夜中に雨が降ったのか少しじめっとした気候だが、今日を始めようとする人々のささやかな活気が心地いい雰囲気にまどろんでいると、目の覚める打音が飛び込んできた。
2021年にはパラリンピックの閉会式にも登場し話題になった、シシド・カフカが主宰するアルゼンチンのブエノスアイレス発の音楽プロジェクトel tempo。ステージにはコンダクターのシシドとフレットレスベースのケイタイモ、その他に7人の打楽器奏者がいて、コンガやボンゴ、シェイカーにジェンベと、知っているものを挙げていけば大体ありそうなくらい、多種多様な打楽器が所狭しと並んでいる。
ゆったりとはじまったライブだが、繊細かつ大胆に繰り出されるシシドのハンドサインによって、徐々にグルーヴが生み出される。ヒップホップのフリースタイルのようなラフさを感じさせつつ、パフォーミングアートのような洗練された雰囲気も感じるシシドの佇まい。ハンドサインは全体の流れを大まかに指揮するものや、即興で微調整するものがある、ように見える。
興が乗ってくると、度々凛とした表情でこちらを向き始めるシシド。身振りや仕草で僕らにも何か伝えようとしているようで、それが正確にわかるわけではないが、応えようとする僕らとel tempoのコミュニケーションが生まれるわけだ。
その意図を読み取って合わせようとするのはそれほど簡単ではなく、苦戦していると(いまいち合わないなあ)みたいな表情。でもバッチリ合うと(その感じいいね!)みたいな表情を見せるシシドの姿に、僕らの気持ちもさらにたかぶっていく。
最初はゆったり座りながら「なにか見事なもの」を観ているようなピラミッドの人々だったが、徐々に立ち上がって踊り出す人も増えてきた。(このフレーズを真似て手拍子してみて)みたいな仕草に応えて手拍子がバシッと合った一瞬の静寂に、「おーすごい!」と感嘆の声をあげるシシド。演者と鑑賞者の垣根が溶け合ってくるこの感じ。こりゃあ楽しいぞ!
こうなってきたらもっともっと踊りたい。「ゆっくりな感じがいいか、あげあげな感じがいいか」と言うシシドに「あげあげー!」と応える僕ら。もうあたりのみんなが奔放に踊っている。「なんかリズムください」とお客さんをつかまえると、即興の手拍子のリズムがシシドの打音も加わったel tempoの演奏によってどんどん発展して、ピラミッド中に伝播していった一幕は、なんとも象徴的で胸にくる体験だった。
歌もなければほとんど言葉も交わさないけど、ハンドサインや仕草をなんとか読み取りながら目と耳と身体だけで感覚を共有して共鳴し合う。それがこんなに楽しいなんて。最後にはみんなほとんど総立ちになって大歓声をあげたけれど、朝イチのピラミッドでこんな光景はなかなか見られないんじゃないだろうか。ここに来て本当によかった。
最後に知らないうちにマイクにとまっていたトンボにも向けて「el tempoでした。ありがとうございました」と語りかけたシシド。君にその言葉は伝わらないかもしれないけど、踊りつくした僕らの興奮と熱気はもしかしたら伝わったかもしれないな。
[写真:全10枚]