FUJIROCK EXPRESS '24

LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/27 SAT

KRAFTWERK

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Posted on 2024.7.27 23:01

今日はいつか歴史になる

クラフトワークは、多くのミュージシャンにとってのDNAだ。自分の好きな音楽のルーツを辿ったとき、染色体の1本はかならずリンクしているはず。レジェンドミュージシャンは数あれど、ここまで多くの影響を与えてきた現在進行系のバンドはなかなかいない。その姿を直接目撃できるんだから、なんて素晴らしい機会なんだろう。

彼らを観るのはSONICMANIA以来で、3Dメガネは置いてきてしまったがまだ持っている。サマソニの印象が強かったぶん、ラインナップが発表されたときは驚いた。苗場でクラフトワーク?でも、石野卓球がフジロックのインタビューで「あの環境でクラフトワークって、一番違うもの同士じゃん。でも、それがいいよね」と語っていた記事を読んでから、とても楽しみになってしまった。

ステージには大きなテーブル4台。フチが緑に光り始め、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア……と、8カウントで“Numbers”が始まると、ステージ上手袖から、ラルフ・ヒュッター、ヘニング・シュミッツ、ファルク・グリーフェンハーゲン、ゲオルク・ボンガルツの4名が歩いてくる。網目状に光る全身タイツもまた緑色に光っていて、“Computer World“でテーブルが黄色になると、スーツもまたリンクして色が変わっていくから面白い。彼らは直立で立ち、ほぼ体を動かさない。手の動きから、その場でプレイしていることは確実だが、そのふるまいはさらがらロボットのようだ。古き良きスペーシーなサウンドに、観客の体は思わず動き出す。続く“Home Computer”でタイツが色とりどりに輝くと、カラーバーやノイズような記号的モチーフがつぎつぎと液晶に映し出される。キックの地響きが気持ちよく、カラフルにあふれるメロディたちがどこかトライバルで、新鮮な印象を与えてくれる。

“Spacelab”では、宇宙船が苗場めがけて着陸する様子をVJで描き、観客を夢中にする。場内マップが映し出されたり、グリーンステージにそのまま宇宙船が到着するシーンまであって、なんと粋なサプライズだろうか。メイン・フレーズはリリース音にスタッカートが効いていて、モダンに感じさせるアレンジなのもよい。カチカチと強いクリックが鳴り響く“Man Machine”では、全身タイツもテーブル照明も赤くなる。「Machine」の文字が斜めに積み上がっていく映像に会場は大いに歓喜した。

“Autobahn”のジャケットヴィジュアルが表示されると、照明はそのまま青へ。VJでは車が発進し、高速道路を走り出す。すると、周囲の景色がどことなく苗場までの道に見えてしまう(勘違い)。しっかりボーカルを感じられる曲だが、ラルフ・ヒュッターが軽く足を揺らしながら歌っていて、無機質な中に生まれた体温にドキッとしてしまう。エンジンの音、車が通過する音、電子的に組み立てられたリアルなその音に、耳を澄ませる。続いてアインス、ツヴァイ、ドライの掛け声から、“The Model”で歓声がさらに湧く。あの奥ゆかしいメロディにのって女性モデルが動くVJになり、タイツと照明は白く変化する。

驚いたのは、セットリストに“sakamoto”と書かれたこのひと幕。ラルフよりmy friends,sakamotoと紹介があり、「Tokyo 1981年」とテロップの乗った坂本龍一とラルフの写真が表示される。彼との出会い、幕張メッセで開催された「NO NUKES2012」のこと、そして“Radioactivity”の日本語詞を監修してもらったということ。彼への思いを込めてなんと“Merry Christmas Mr. Lawrence”が演奏される!荘厳なピアノの調べに、彼らならではのシンセサイザーが乗った特別な演奏に、思わず涙を流す観客も。そしてそのまま、心臓の音が脈をうち、音圧が畳み掛けてくる“Radioactivity”が始まる。大画面に表示される「日本でも」「放射能」「今日も」「いつまでも」の詩は、坂本監修のものだ。核が分裂していく映像を眺めながら、私はつい動けなくなって、目を見開いて、じっとこの時と対峙した。絶対に忘れられない追悼と宣言がそこにはあった。

ここからは、“Tour De France”、“Trans-Europ Express”と、コンセプチュアルな名曲揃い。自転車を漕ぐ息遣いもリアルタイムだし、ゴトンコトンという列車の音もまた見事に再現される。“Autobahn”もそうだったが、クラフトワークは人間が作り出した文化や文明の環境音を鳴らしてきた。その人工的な環境音が、苗場の自然で鳴らされていると思うとなんだか発見がある。それも遥かにモダンで厚みがある音で。しっかり現代に音がアップデートされているのだ。最後に、ダンサブルな仕上がりの“The Robots”や“電卓”の合唱で会場はもうひと賑わいを見せる。最後は“Musique Non Stop”に合わせてそれぞれがソロを披露、ひとりずつ順番に音をオフにし、ステージ脇で礼をして、去っていってしまった。

ああ、どうやらすごいものを目撃してしまったようだ。歴史的な瞬間を拝ませていただいて、ありがとうございますという感謝しかない。SONICMANIAで見た頃とはまた質の違う感動がそこにはあった。私たちの血液に流れる音楽のDNAに接近できただけではなく、有機/無機、生/死の壁さえ取っ払ってしまうような、神々しい90分を体験した。

[写真:全10枚]

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7/27 SATGREEN STAGE