LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/27 SAT
SAMPHA
Posted on 2024.7.28 02:15
神への祈りの音楽を見た
祭壇のように並べられた機材たちのバックに、スクリーンがオレンジに光る。手前にはスモークが焚かれ、これだけですでに様になっている。サポートメンバー4人を携えてSAMPHAが登場すれば、心音のようなバスドラに駆けていくようなスネア、そこにサポートメンバーのコーラスが重ねられていく。
1曲目は“Plastic 100℃”だったのだが、ステージ上にさまざまな機材が置かれているけれど、この曲を人の力でやろうとするのか……という感想を抱く。それから、自身の楽曲を再構築しているため、まるで同じ曲だとは思えないほどアグレッシブな印象を持つのだった。そこから“Hold On”へと見事につながっていくのだが、こちらもBPMを変え、コーラスも加わりながら攻め込むような流れを作り込んでいる。SAMPHAの力強く、時に美しく響く裏声も美しい。こんなに感情を表に出しながら歌う人だったんですね、実際のライブを観ているからこそ気づけた一面であるように思う。
軽い挨拶のようなMCのあとには、“Suspended”。こちらはピアノのメロディにボーカル、そしていくつかのコーラスが目立つ1曲ではあったけれど、実際に会場で聴いていると、SAMPHAの柔らかなボーカルを前面に出しながら、コーラス、流水のようなピアノのメロディが追いかけ、更にはベースとドラムの音がゆったりと注がれていく。ここでは、人の声も楽器と同等の役割を持っている。“Can‘t Go Back”からは、シームレスなバンドアレンジがさらに光る。サポートメンバーもさまざま楽器に持ち替えながらそれぞれの持ち場を生み出していて、まるで音楽という大きな生き物を操っているようでもある。小さく飛び跳ねるようなピアノの高音が聴こえた“Stereo Color Cloud (Shaman’s Dream)”では、複雑なドラムラインを正確に成し遂げていく姿はまるでリズムマシーンのようであった。観客たちからも声が上がる。
背景がブルーに変わる。トライアングルの存在感を示す音に徐々にスピードアップしていくシンセは主線を取りながらも、SAMPHAのボーカルと混ざり合い、さまざまな表情を伺うことができる。耳に重く響くベースの音から、“Spirit 2.0”が聴けるとは思っていなかった。コーラスとの掛け合い、力強い歌声、バカテク満載のドラムは身体を揺らしながらも目を見張る。いい意味で、まったくついていけない。人類の表現力の限界や人間の新記録に挑戦する様子は、あらゆる観客を置いてけぼりにしていくみたいだ。
“(No One Knows Me) Like the Piano”では、しっとりと歌声を堪能しつつ、BPMの異なる2つのシンセサウンドにコーラス、キーボード、ベースとドラムが徐々に注ぎ込まれ、なんとKendrick Lamar“Father Time”のバーズを聴かせてくれるシーンもあった。
サポートメンバー含めた全員がステージ右手に用意された1つのフロアタム・3つのタムに集合し、打楽器での演奏が始まる。こんな演出初めて見た。歌声が聴こえるまでしばらく気づけなかったけれど、これ“Without”だ。確かに、いくつかの打楽器と背後のコーラスが印象に残る曲ではあるけれど、こんな風にメンバー皆で円を作り、打楽器を叩くという変化球を打ってくるだなんて思わなかった。改めて、音楽が芸術のひとつであることを思い知る。皆が元の位置に戻ってからのアレンジも前半/後半では同じ曲でもこれだけ感じ方が変わるのか、と思えるほどであった。
終盤は、コーラスの起用の仕方が絶妙だった“Satellite Business”。そしてステージが真っ赤に染まったラストの“Blood On Me”では、もはやドラムがどのようにリズムを捉えているのかが、わからなくなってくる。彼のドラムに胸を鷲掴みにされてしまった方も多いのではないだろうか。身振り手振りをしながら感情豊かに歌うSAMPHA。
昨年発表された“Lahai”は評判がよく、だからこそここまで足を運んだ方も多かったと思うが、まさかこの楽曲たちを打ち込みではなく人力で行い、バンドサウンドの限界にまでこだわるだなんてね。メンバーの能力を最大に引き出しながらの多彩なアレンジがたまらない1時間であった。人の音楽の表現って、ここまでできるのか。こんな聴こえ方がするのか。ステージセットもさることながら、まるで大自然のなかで行われる神聖な儀式を見ているようでもあった。
[写真:全10枚]