LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/28 SUN
toe
何かひとつでも、好きなことがあれば。
あえて言う必要はないかもしれないが、フジロックという大自然のなかで、さらにはWHITE STAGEという素晴らしい音響設備が整った環境で見るtoeのライブは何事にも代えがたいものがあると思う。常連と言っても過言ではないが、何度見てもため息が出る。スタート前、リハの段階からかなりたくさんのお客さんが待ち構えていて、きっと同じように考えているのだと思い知らされる。
SEは、ジレーナ・スペクターの“Us”。すでに最新アルバム『NOW I SEE THE LIGHT』の、「For You, Someone Like Me(この世界のどこかに居る、僕に似た君に送る)」というフレーズへの関連性を感じてしまう自分がいる。登場から、すでに温かな拍手や歓声は送られ、完全にホームというか。toeというバンドを続けきた歴史の長さやファンの多さを物語っている瞬間であるように思う。
真っ白なスクリーンを背景に、シルエットが映し出されているようにも見える。“LONELINESS WILL SHINE”の切ないアコースティックギターのメロディが聴こえれば、もうすでに気持ちが満たされている。心に居座って離れないフレーズがたまらなく気持ちいい。アルバムのリリースは6年ぶりだったが、相変わらず鳴らされる音のすべてがたまらなく好きだった。待望の新曲、目の前の演奏を瞬きする瞬間も惜しいほどに見入ってしまう。感情の溢れる雄叫びには観客からも歓声が上がる。いつまでも聴いていたくなる。
“long tomorrow”、そして“孤独の発明”の馴染み深いイントロが流れるたびに声があがる。柏倉 隆史(Dr)の高く鳴るスネアとハイハットの音と山根 敏史(Ba)の低音に支えられ、山嵜 廣和(Gt)と美濃 隆章(Gt)の2本のギターが織りなす柔らかで繊細なメロディは、ずっと聴いているとインストバンドの限界値を少しずつ更新している様を見ている気になる。
んoonのJCがゲストコーラスとして登場した“レイテストナンバー”では、質の異なる2人の声が混ざり合い、気持ちよく響く。終盤、ステージに立つメンバーの感情をすべてぶつけたような激しく力強い演奏を見られたシーンは、いつ見てもグッと心を掴まれる。
ひとつひとつのギターの音が寂しく鳴る“Because I Hear You”、そして美濃が転んでしまう場面に心配しつつも職人技のようなサウンドに会場全体が熱くなった“エソテリック”。
そのあとのMCも、実際に聞くことができてよかった。わざわざ苗場まで遥々やってきて、とても意味のある言葉だと思った。
「長く生きていると、自分の力や思いだけではどうにもならないようなことが結構あるなって気づいてくるんですが、どんなに上手くいってほしいと思ってももう片方がそう思わないとうまくいかないこともあって。そういうときにおすすめするのが、何かひとつだけでいいから『俺はこれがやりたいんだよ!』っていうのがあると、いいですよ。それが僕にとってのバンドなんですけど。」「20年以上バンドをやってて、こういうところに出してもらえて。皆さんも、そういうのあると思うですけど。ない人も早く見つかるように祈っています。」という山嵜。
次の“グッドバイ”は、そういうものに対するエールのような曲である気がしているという。2006年リリースで。もう何度も聴いてきた曲ではあった。でも、このMCのあとの演奏を聴いていると歌詞も音もすべてがまた違う角度で聴くことができる。優しさに満ち溢れたサウンドがダイレクトに響き、頭のなかでも歌詞に込められた意味が反芻する。
最後の“MOTHER”では、ILL-BOSSTNOと5lackの2人が登場するといううれしいサプライズもあった。恐らく初披露。これもフジロックだけの特別な演出であり、きっと二度とないんじゃないか。最後の最後まで泣かせにくる。イントロのギター、BOSSと5lackの熱のこもった祈りのようなリリックが眩いほどに美しく、今も余韻から抜け出せないでいる。音楽を好きできる意味、フジロックにわざわざ足を運んだ理由、toeの音に魅了され続けてしまう訳。この1時間に、すべての答えがあったように思う。どこを切り取っても贅沢な時間であった。
[写真:全10枚]