LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/28 SUN
KENYA GRACE
フロアに渦巻く様々な心象を照らす、楽しくも切ない夜のはじまり
ノエルとグリーンのみんなでドンルクも歌ったし、今年のフジロックもいよいよ最後。もちろんこれから夜に繰り出したいわけではあるけど、最終日のヘッドライナーが終わるとどうしてもしんみりとした気持ちになっちゃうよね。
レッド・マーキー3日目夜の部サンデー・セッションの最初のアクトは、そんな最後の夜のはじまりをつかさどる重要なスロットだと個人的には思っている。昨年のきゃりーぱみゅぱみゅにも元気をもらったわけだが、今年はどんな感じになるだろうか。登場したのは南アフリカ生まれでUKベースのシンガーソングライター兼プロデューサーの、ケニヤ・グレースだ。
そこそこ入っているが、踊るにはちょうどいいゆとりがあるレッドのフロアで、“The After Taste (intro)”からライブがスタート。演奏しているケニヤの映像に続いて、動画でよく見たケニヤの音楽制作/表現の心臓である、Native InstrumentsのMASCHINEの手元が背後のスクリーンに大写しになり、フィンガードラムを披露!これは興奮する演出じゃないか。
そのままシームレスに“Afterparty Lover”で歌声を披露したかと思ったら、またサンプリングトラック+フィンガードラムでつなぎ、次の曲へ。まったくスタイルは違うが昨年ここで観たTSHAなんかも思い出させる、とてもエキサイティングなパフォーマンスにフロアも高揚していることがわかる。
でもただエキサイティングなだけじゃないのが彼女の真価だろう。「インスタに載せるために恋愛してるように見せかけよう」という歌詞が強烈な“Paris”では、MessengerやインスタDMのようなフォーマットで歌詞が矢継ぎ早に表示され、マッチングアプリのようにNope、Nope、Nope…。
SNS社会のインスタントな出会いと別れ、あるいは承認欲求を強烈に皮肉ったパフォーマンスにまあやられてしまうわけだが、フジロックでもう二度と会わないであろう人たちと意気投合して踊った数々の瞬間が重なってきて、なんともしんみりした気持ちが胸を満たしてくる。
ひとときの楽しみを享受している自分もいれば、どうでもいい見栄に振り回されてる自分や、どこか孤独で疎外感を抱えている自分もいる。ついSNS的な振る舞いをしてしまう自分にどこか白けたりもするし、いわゆる陽キャみたいに見える隣の兄さんもきっとそうなんじゃないか。踊っている最中にそんなややこしいことを考えていたわけではないが、ケニヤは誰しもが心のどこかに抱えるそんなもやもやを照らしてくれるから、ここは不思議と居心地がいいのだろう。
ドラムンベースや四つ打ちのビートとメランコリックな音像にみずみずしい歌声が溶け合って、パーティーに渦巻く様々な心象を描き出すケニヤのパフォーマンス。後半では“Meteor”や“Someone Else”を披露し、前に出てきて歌うタイミングでは大歓声。いっそう大きな盛り上がりを見せた大ヒット曲“Stranger”でも、この一瞬の刹那を切なく感じながらもガンガンに踊り倒して、フロアの人々は夜に散っていった。
はちゃめちゃに楽しいけどとても切ない。気持ちがぐちゃぐちゃしてきて、でもなんだかそれさえも心地いい。様々な気持ちが渦巻くフジロック最終日の深夜のはじまりに、ケニヤのパフォーマンスがとてもよく似合っていた。泣いても笑ってもあと数時間。さあ、夜に繰り出そうか。
[写真:全10枚]