LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/28 SUN
THE ALLMAN BETTS BAND
過去、現在、未来を繋ぐ魂の演奏
今年のフジロックも終わりを告げようとしている。フィールド・オブ・ヘブンの最後を飾るのは、オールマン・ベッツ・バンド。ザザン・ロックの伝説としてロック史に燦然と輝くオールマン・ブラザーズ・バンド(以下オールマンズ)の子供たち、デヴォン・オールマン(父はグレッグ・オールマン)とデュアン・ベッツ(父はディッキー・ベッツ)が中心となり、その遺産と伝統を引き継ぐとともに、独自のアメリカンルーツミュージックを創り上げてきた。これからここヘブン、彼らが持ち込んだ米国南部産の温暖で土っぽい風に包まれることになる。
今年4月18日にオールマンズのオリジナルメンバーで偉大なギタリストのディッキー・ベッツが亡くなった。オールマン・ベッツ・ファミリー・リバイバルとしてデヴォンとデュアンがディッキー80歳の誕生日を祝うコンサートをフロリダ州サラソータで開いたことや、療養中であることを耳にしていたものの、オールマン・ベッツ・バンドのフジロック出演が決定した後の訃報ということもあって、多くのオールマンズファンが動揺し悲しみに暮れたことだろう。期せずして彼らにとって記念すべき初の来日公演となる本ステージは、日本のファンと一緒にディッキーを追悼するまたとない機会になったのだ。
開演時刻数分前、ほぼ同じ時間帯に演奏するノエル・ギャラガーを観に行っているからか、まだステージ前方もかなり空いている。MCのジョージ・ウィリアムズが再び登場し「行きますか!3日目の大トリ!」とバンドを呼び込んだ。デヴォンは、長髪で恰幅のいい体型にデニムシャツにハットといういかにもな出で立ち。そのたくわえた髭、醸し出す雰囲気が父ディッキーの生き写しのようなデュアン。バックに2人のドラムスに、パーカッション、ベース、スライドギター。そして、置かれたハモンドB3オルガンに見覚えがあるなと思っていたら、何とダンプスタファンクのアイヴァン・ネヴィルが登場。直前のミーターズ祭り(CELEBRATION OF THE METERS)から続けてあのグルーヴを堪能できるなんて何て贅沢なんだろう。
“Magnolia Road”から開演し、ジョニー・スタチェラが奏でるいなたいスライドギターが入ると一気に米国南部へと我々を誘う。デヴォンとデュアンが交互に歌い上げ、2ドラムとパーカッションによる厚みあるビートを伴いバンドのアンサンブルも熱を帯びて来た。お次はハートランドロックど真ん中を撃ち抜く“King Crowler”へ。この高鳴るサックスの鳴りはどうよ。たまらん!続くグッドオールドデイズなロックンロールナンバー“Airboats & Cocaine”ではアイヴァンのオルガンが跳ねまくり、ジョニーのスライドギターが唸りを上げまくる。完璧としか言いようがない出だしだ。
「皆さんと一緒にここにいられて光栄です。古い曲を!」とデヴォンが挨拶しお待ちかねのオールマンズタイムに突中。“Blue Sky”の米国南部産の暖かい音色が鳴り、この場、この時間を祝福するかのように心地よい風が吹く。デヴォンとデュアンが向かい合って微笑み合いながら楽しそうに演奏している。3人のギターの名手が次々と往年のオールマンズ顔負けの演奏を繰り出すのだ。デヴォンがアコギを手にフレーズを奏ではじまった“Midnight Rider”。出だしのデヴォンとデュアンの美しいハモリに感無量だ。単なるカバーと受け取ってはいけない。オールマンズのレガシーとルーツに敬意を払い、ブルーズ、アメリカーナ、サザンソウルなど米国の芳醇な音楽を彼ら自身の血肉を通して時代を超越したロックンロールを奏でているのだ。“Pale Horse Rider”ではデヴォンの息子が登場し、オルガンをアイヴァンとともに演奏。絆は先の未来にまで確かに引き継がれている。
最後は“Dreams”でジャムセッションタイムへ。各メンバーがアメリカンロックのいいとこどりのような極上の演奏を自由に繰り広げていく。音をあらん限りに出し尽くした後は、全員がステージ前に集結。みんな爽やかないい笑顔を浮かべている。「Peace & Love Fuji Rock!!」と感謝の叫びを届け、ステージを後にした。
過去の遺産を称えるとともに、今できる表現を懸命にする。そして、大切に未来へと繋いでいく。まさに人の個の人生そのものを感じさせてくれる想像を遥かに超えたライヴだった。
[写真:全10枚]