LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/25 FRI
FRED AGAIN..
そして僕らはここにいる
Vaundyのライブが終わった後、次のライブの開演が遅れるアナウンスが流れたグリーン・ステージ。開始時間も未定で、どうやら10分や20分の遅れでは済まないような雰囲気。アナウンスから1時間ほどたったあたりで、さらに1時間ほど後の22時45分からの開演が決定するものの、その時間になってもあまりはじまるような雰囲気には思えない。どうなってしまうんだろう?と思ったその時、ついにSEが鳴り止んでライティングが照らされた。定刻から97分ほど、遅延のアナウンスから2時間以上たってのことだ。
でも僕らが彼を待っていたのは2時間どころではないのだ。2月に渋谷MODIの街頭ビジョンで真っ先に彼の名前が発表された時から、いや、もっとずっと前から待っている。満を持して登場したのは、今年の初日ヘッドライナーにして、記念すべき初来日公演のフレッド・アゲインだ。
リアルタイムで動画を自撮りしながら舞台袖から歩いてきて「遅れてごめんなさい!」みたいなジェスチャーをする彼に、長らく待っていた渇望感もあいまって、即座に大歓声で応えるグリーン・ステージ。もうすでにハイライトのような光景だ。僕は様子を見ながら何度か戻ったりして最終的にPA横の柵あたりに落ち着いたが、Vaundyのライブから待っていたような人には感慨もひとしおだろう。
さっそくピアノと歌声の絡み合いがみずみずしい“Kyle (i found you)”や重低音が身体に響く“Bleu (better with time)”など、“人名(〜)”というタイトルで、ボイスメモで身近な人の声をサンプリングする独特のスタイルが特徴の『Actual Life』シリーズから立て続けに披露。スクリーンに投影されるその相手とビデオ通話でコラボレートしているようでもあり、画面の向こうの彼や彼女もここにいるような親密な空気感がグリーンを包み込む。
よくファンと交流しているインスタストーリーのような形式の画像をサイドモニターに表示し、来日やフジロック出演の感慨を僕らに伝えるフレッド。折に触れてたびたび表示されたこの日英バイリンガルのメッセージは、これほど大きな規模感でも一人一人とコミュニケーションをとりながら素晴らしいフロアをつくり上げようとする、彼の姿勢を象徴するものだろう。
「こんなに美しい光景は見たことないよ!」と語るフレッド。おそらくほとんど経験のないであろうであろう山奥の広大なフィールドでのプレイを、彼も心底楽しんでいるようだ。“glow”からシームレスにつなぐ“ten”では「Ten days, ten days, ten days」のブレイクをシンガロングするたびに盛り上がりが大きくなり、“adore u”や“places to be”でも想いが弾けるように一緒に歌うグリーンのオーディエンス。ああ、こんな日を待ってたんだよ。
どうやら「機材トラブル」というのは予期せぬ停電で東京から大型発電機を輸送することになったとのことで、異例の緊急事態に迅速に対応したスタッフにグリーン全員で労いの拍手を送り、“Victory Lap”では、ドラムを叩くフレッド。どの曲も自ら歌ったりピアノを弾いたりしながら、サポートのトニー・フレンドとともに様々な機材を駆使して音源を大胆にアレンジしていることも刺激的で、リアルタイムでつくりあげる音楽体験は、従来の「大物DJアクト」のイメージとはまったく違うフレッシュなものだ。
そして曲中で下に降りてみんなの手をタッチしながら、なんとPAエリアに設置されたブースでMPCをプレイしはじめた。これにはもう大興奮で、たまたまPA横のベストな位置にいた僕も手を振り上げて飛び跳ねるばかり。今までフジロックのこんな場所でプレイした人はいたんだろうか?目視できたのはこのエリアにいた人だけだろうが、ふとサイドモニターに目をやるとモノクロのフレッドの映像がものすごい臨場感でフラッシュしていて、後ろの方で見ていた人にもこの興奮は伝わったことだろう。そのまま“Jungle”、“Rumble”と必殺チューンを立て続けに披露したこの時間は、間違いなくフジロック史に残る屈指の名シーンだろう。
ステージに戻った後半では、一番の親友というジョイ・アノニマスをゲストシンガーに迎え“peace u need”を披露。モニターに表示された歌詞をみんなで歌う体験は、心を通じ合わせてみんなで今この瞬間を慈しむような情感に溢れていた。痛切な表情で語る映像が印象的だった“leavemealone”ではいつの間にかドラムのフィロ・ツォウンギが合流し、白熱のセッションが展開される。さらには“Turn On the Lights again..”では寝かせたギター(のような楽器)を鍵盤のようにタッピングするフレッド。どんどん奇想天外なアレンジが飛び込んでくるパフォーマンスが楽しくてたまらない。
終盤は再び『Actual Life』シリーズのパートになり、“Danielle (smile on my face)”、“Clara (the night is dark)”、“Angie (i’ve been lost)”を披露。僕らも歌ったり隣の知らない兄ちゃんとふざけ合ったり、なんとも美しいダンスフロアの光景だ。そして、“Marea (we’ve lost dancing)”で隣のあなたが涙する気持ちを僕は知っているし、僕もつられて涙する。開催延期となった20年の幻のフジロック、身近なライブハウスやクラブからもダンスが失われたあの日々。そんなかつての日常を思い出すと涙せずにはいられない。でも、時間をかけて徐々に取り戻して、今日ここで会えた。もう、それだけでいい。
“Billie (loving arms)”できらめくみんなの笑顔。“Delilah (pull me out of this)”のシンガロングがピッタリとシンクロした時に晴れ渡る心。そして最後はたくさんのライトが光る中“peace u need”のリプライズで歌声を交わしながら、数多の困難を乗り越えてたどり着いたフロアは終幕を迎えた。終わった時には日も越えて深夜ステージが盛り上がっている頃だったが、みんな満足げな表情でまわりの人と称え合ったり“peace u need”のフレーズを歌ったり姿がまばゆくて、僕はしばらくそこに佇んでいた。前代未聞のトラブルでも短縮せずフルセットを披露してくれたことにも感謝の気持ちでいっぱいだ。
「あなたに私の一部をあげる」
「あなたが必要とする平和が来ることを願っている」
今はそんな気持ちを共有したみんなと乾杯でもして語り合いたい気持ちだ。みんなどの辺にいた?まわりはどんな様子だった?最高に幸せだったよね。語り草になることだろうなあ。やたらにおわせてた来日公演もついに発表されたし、よかったらまたどこかで話しましょう。
[写真:全10枚]