LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/26 SAT
君島大空 合奏形態
まだ鳴らされたことのない音楽がGREEN STAGEに広がる希望
100%ポジティヴな意味で言うのだが、これほどわかりやすい共感性が薄い音楽がGREEN STAGEで鳴らされることにフジロックの個性が窺える。君島大空のフジロック出演歴は今回の合奏形態とともにあり、もはやルーキーでもなんでもない実力派プレーヤーのバンド形態に多くのオーディエンスが集まった2019年、テント内の暑さを忘却させた2021年のRED MARQUEE、灼熱の2023年のFIELD OF HEAVENと、WHITE STAGE以外のメインステージをすべて経験してきた猛者たちである。しかも日本の音楽シーンの重要な場面をもはや司るメンバーだ。それでもGREEN STAGEに現れた4人は武者震いしつつ眼前のオーディエンスをロックオンするつもり満々の若き無敵艦隊の乗組員のような表情だった。
なのだが、バンドである以前に君島大空という個人を紹介するようにガットギターのソロでスタートしたステージ。すかさず西田修大(Gt/Cho)がSEを鳴らし、新井和輝(Ba)のシンセベースが広いフィールドを揺らす。プリズマイザーがかけられた君島の歌に夏が走馬灯のように駆けていく“除”でのスタートだ。石若駿(Dr)のシグネーチャー的なスネアで輪郭がはっきりした“火傷に雨”では珍しく叫ぶように歌う君島。そして4つの楽器ががっぷり四つに組んで会話するような、あるいはマスロックのような緻密なアンサンブルと、君島のギタリストとしての個性の一つである過度に破壊的なメタリックで凶暴なプレイに無邪気なぐらい重いファンクネスを叩き込んでいくリズム隊。もう笑っちゃうしかない重戦車級のアンサンブルの曲が“笑止”なのがまんまとこちらがはめられてる気分。思わず上がった男子の「かっけー」の一言が真実だ。一転、みずみずしい西田のストラトが響きわたる”19℃“、そして”鏡“まで季節も心情もぶん回される。
マンガみたいなボイスエフェクトを駆使する西田にいじられて真面目な挨拶も全部ふざけて聴こえるMCを挟んで、シンベの低音が這うように地面に放たれ、西田のエフェクトが次々にぶち込まれる“散瞳”、イントロで大きな歓声が上がった凶暴なダンスミュージックとみずみずしいポップスが高次元で融合する“˖嵐₊˚ˑ༄”。エフェクトで作る空間系の予定調和を超えて肉体的なそれはこの4人にしかなし得ない音像だ。エンディングはブラックホールに吸い込まれるような体感であっけにとられる。
さらに新井の叩きつけるようなプレイに石若のちょっと後ろ乗りのビート、そして西田も君島もほんの少しだけズレのあるタイム感にどう乗るか?自分ににやついてしまう“向こう髪”。土曜日のラインナップは世界の優れたインストゥルメンタリストの揃い踏みという側面もあるだけに、若いリスナーの演奏に対するモチベーションも大いに刺激されているんじゃないだろうか。アーティスト君島大空の初期からの作品を貫くストーリーはコアなファンに共有されつつ、このアンサンブルがGREEN STAGEで演奏されている豊かさに、苗場に来た実感を獲得するのだ。
君島のクラシックやブラジル音楽のギター奏者としての力量とアレンジ力を発揮したナンバーには素直に感激を表すリアクションが起こる。その後、無邪気に高度な遊びを展開する“WEYK”でZAZEN BOYSもかくやな重く爆走する演奏を聴かせた。終盤にはフジロックで経験してきたステージ、そしてメンバー紹介をすると個々に大きな歓声が挙がる。今日のオーディエンスにとっては間違いなくヒーローたちである。さらに今年の年末、集大成となる単独公演の開催も発表。京都のロームシアターと東京はガーデンシアターという史上最大級のキャパシティである。ここまでの足跡にはフジロックで衝撃的な出会いを果たしたリスナーもきっと含まれるだろう。まだ聴いたことのない鳴らされたことのない音楽を標榜するミュージシャンにとって、フジロックは希望の塊なんだと思う。
終盤、君島のライブのラインナップとして長く愛されている“遠視のコントラルト”が印象的な歌詞の一節「僕の所為で笑ってよ!」がこれまでの何倍もの強度で響く。この曲で終わるかと思いきや、素直にリフとメロディに乗っていける“都合”が、新しいチャプターに進む君島と仲間たちのこれからを象徴しているようだった。メンバー全員の「やったった!」笑顔がいい。それが初めてのGREEN STAGEの手応えのすべてだ。
[写真:全10枚]