LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/27 SUN
LITTLE SIMZ
ありがとう、私たちもシムズの音楽で人生変わったよ!
SEはなし、背後が見えなくなるほどのスモークが焚かれ、ブラックの衣装をまとったバックバンドのメンバー3人が事前の告知通り登場する。ドラムは元Black midiのMorgan Simpson(先に言ってよ!)。爆音の演奏が始まると、Little Simzが登場する。バックには「simz」と書かれたサッカー日本代表のユニフォーム、レッドのキャップ、オーバーサイズめのハーフパンツにコンバースのスニーカーと、ボーイッシュなスタイリングがすっごくかわいくておしゃれ!!!!!これは絶対に真似したい!(笑)
まずは6月にリリースされたばかりの『Lotus』から“Thief”、“Flood”が披露される。いろいろなライブを見ていると、演奏が始まった瞬間に「あ、もうこれは絶対にいいライブになるな」と確信できるときがある。この日のGREEN STAGEは、まさにそうだった。場の空気がぎゅっと締まり、雰囲気がガラッと変わる。バンドサウンドだからこそ、音は厚みを増し、立体感を伴いながら、ダイレクトに身体に響く。シムズは殺傷力すら覚えるビートにラップを矢継ぎ早に重ね、観客たちだって手を挙げ「Thief!」と一緒になって歌う。曲中に聴こえる狼の雄たけびだって一緒になって叫ぶ。この曲の肝であると言ってもいい“Flood”のタムも、音のいいステージだとこんなに躍動感溢れ、聴いている者をこんなにも高揚させるのか……アフロービート全開の、ゴリッゴリなベースも身体に染み渡る。
“Two Worlds Apart”、“I Love You, I Hate You”と2021年リリースの『Sometimes I Might Be Introvert』の曲が続く。バックバンド3人と音数も少ないのに、繰り返されるビートのなかに時折織り交ぜられるフィルインがあまりにも心地よい。この人、HIP HOPも叩けるのか、なんでもできんじゃん……と思いながら、ドラムが加わるだけで音の印象ってこんなにガラッと変わるのか、と改めて実感する。ピンクのスポットライトが美しく輝く“Young”では、ステージを歩き回り、手でハートマークを作りながらフロウを刻む。3年前のODD BRICKでは、たったひとりマイク一本で圧巻のライブを披露し、そのときだって呆気に取られた。けれど、この日はお客さんの反応を見ながら、さまざまな方法で返事をしているのがわかる。彼女のなかで変化があったのかなと思った瞬間でもあった。
サポートメンバーがいなくなり、荘厳なイントロにシムズの高速ラップは“Venom”だ。モッシュを煽ったかと思えば、まさかのウォール・オブ・デスのリクエスト!そこに応える観客たちもステージ中央に空間を作り出し、思いっきりモッシュをする。こんなにビートの重いHIP HOPでこんなこと起こるんだ!あまりの出来事に、おかしくって笑ってしまう。その様子を眺めるシムズもうれしそう。夕方に差し掛かり、ほんの少し涼しさを取り戻した苗場が、どんどんヒートアップしていく。
シムズがダイナミックなリズムの合わせて踊りまくる“Mood Swings”と“SOS”は、『Drop7』から。最新作に偏らず、新旧さまざまな曲をセットリストに組んでくれるのもうれしい。“SOS”で踊りながらサポートメンバーが戻ってくれば、レガシーなピアノとCleo Solの浮遊感のある歌声が気持ちのいい“Selfish”。語りかけるようなシムズの歌に「I‘m so selfish」のシンガロングも起こり、“Only”では歌詞の一部を「Japan」に変えてくれるというサービスのよさ!でも彼女のほころんだ笑顔を見ていると、きっと今この場で一番楽しんでいるのはシムズ本人なのだと感じる。こんな風に、誰がどう見ても楽しそうな姿でフジロックのステージに立ってくれることが誇らしい。それは、次の“Lion”の自身を喪失したからこそ出来上がった自ら鼓舞し、自信を取り戻すようなリリックからも、彼女自身の心境の変化がうかがえる。いろんなものを乗り越えたからこそ、こんな風な穏やかな表情を見せてくれたのかもしれない。
繰り返されるアフリカンなグルーヴにサポートメンバーそれぞれの腕が光りまくる“Point and Kill”、場をグッと落ち着かせた“Free”は、やっぱり息をするのも許さぬほどのライムなのにどこか余裕すら感じる。爽やかなサウンドに手を左右に揺らし、「Japan!love you!」という一言が聞けた“Woman”に、最後は“Gorilla”!イントロから神々しく、縦に揺れるしかないグルーヴたっぷりの重いサウンドは、まさに今日にライブにぴったり。圧巻でありながら、キュートに笑う姿だけじゃなくて自分に向かってくる虫に「Shit!」と言いながら驚く様子とか、もう本当に非の打ちどころのない完璧なステージングを見せつけられた。
MCで、「私の音楽を聴いてくれてありがとう!人生、変わったよ!」という言葉が強く記憶に残っている。「Louder!」と言い、観客が更に大きな声を上げれば、噛み締めるように見渡して頷く姿も。私だって、人生変わったよ!こうしてライブをするために遠い日本で今日みたいな凄まじいライブをしてくれて、あの場にいる人の人生を変えてしまったと確信できる時間だった。