LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/26 SAT
FERMIN MUGURUZA
バスクの闘士、最後の日本公演
今回の世界ツアーをもってして、ライブ活動から引退するバスクの闘士、フェルミン・ムグルサ。フジロックには、コントラバンダ(Kontrabanda、2004年)、ジャマイカ色を強めたアフロ・バスク・ファイア・ブリゲイド(Afro Basque Fire Brigade、2007年)、バスクというルーツを前面に押し出したコントラカンチャ(Kontrakantxa、2013年)など、コンセプトに合わせ、様々なバンド形態で参加してきたフェルミン。ベテランフジロッカーにとっては、それなりに馴染みのある存在となっている。
いよいよ定刻となり、フェルミン以外のメンバーが先行して登場。奏でられたのは”In-komunikazioa”だ。ライヴの始まりを告げるにふさわしいホーン隊のユニゾンに、緊張感を高める空襲警報が絡んでいくと、ホワイトステージは瞬時に熱狂の渦へ突入。満を持して登場したフェルミンは、「民衆に全ての権利を(ALL POWER TO THE PEOPLE)」の文字と、突き上げられた拳という「抵抗の象徴」を背負い、全身からエネルギーをみなぎらせている。
今回招集したバンドのメンバーは、マヌ・チャオが率いたラディオ・ベンバ(Radio Bemba)にてパーカッションを担当していた「chalart58」ことジェラルド、そして、昨年の解散ツアーにおいてクリスタル・パレス・テントとホワイト・ステージに出演したエスネ・ベルサ(Esne Beltza)のトリキティシャ(バスク式アコーディオン)奏者シャビ・ソラーノ、ラ・キンキービートの紅一点マタハリ…などなど、見た目にも激しく動くメンバーが揃っている。
クリスタル・パレス・テントでのレポートにも記したが、Kortatu(コルタトゥ)、Negu Gorriak(ネグ・ゴリアック)、そしてソロ名義と、フェルミンのキャリアすべてを惜しみなくつぎ込んだセットリストには、パンク、スカ、レゲエにルンバ、ラップを用いたミクスチャーや人力ドラムンベース、果てはトリキティシャを中心としたバスクのフォルクローレなど、様々な要素が織り込まれている。そして、ほとんどの曲の終盤では、打楽器隊がダブル(2倍)のリズムを刻んで加速。図らずも、朝っぱらから聴く者のHPを削り取ってしまうような超攻撃的なものとなっていた。
フェルミンの歌詞や行動のすべてには、極めて強い「政治的な」意味がある。ご機嫌なオケとは裏腹に、歌い出した途端に険しい怒りの表情に変化する。メッセージをより強く主張するには生半可な覚悟では釣り合わず、にこやかな表情のままでは到底成り立つものではない。音楽活動にせよ、映画監督への挑戦にせよ、彼の行動の全ては、人生を賭けた闘いに他ならない。
背後のスクリーンに映される動画素材は、曲のテーマに沿った映像やスローガンが主。例を挙げれば、”Nicaragua Sandinista”では、サンディニスタ解放戦線(FSLN)による抵抗運動の記録映像を映し、”Yalah, Yalah, Ramallah!”では、パレスチナのガザ地区の映像を映す。乱暴に言ってしまえば、「刺激の強い」ものばかり。「パレスチナに自由を!(FREE PALESTINE)」、「ガザに対する虐殺を止めろ!(STOP GENOCIDE in GAZA)」、「停戦(CHEASEFIRE)」などの言葉も繰り返し示される。70年代後期のイギリスで沸き起こった、「ロック・アゲインスト・レイシズム(ROCK AGAINST RACISM : 「音楽を用いた人種差別撤廃運動」)」との連帯を示し、世界の歪みと不公平、理不尽などに対して、極めて強く、鋭い言葉で糾弾していく。
残念ながら、相変わらず投票にも行かずに自身を強く自立させることを放棄し、近隣諸国に経済力で抜かれたコンプレックスからか、他を排除することでしか自らのアイデンティティを認められなくなった「日本人」が増えた。あろうことか、それなりに影響力を持ったミュージシャンまでもがカルトじみたナショナリズムにあてられてしまったのが今年。フェルミンが発するスローガンが特に伝わりにくい国ではあるだろうが、それでも、彼が日本でライヴを行っているという事実はとてつもなく大きい。個人の政治に対する考え方を抜きにして、齢62歳にして、ゆうに1時間を超える持ち時間のほぼ全てでステップを刻み、体全体を使ってアジテートしていくフェルミンを目の前にして嗤うことができる者など、果たして居るだろうか?
フェルミンの強さは、これまで生み出してきた音楽に単純に楽しいリズムや展開の妙を持たせているということ。そこに、確固としたメッセージやスローガンを乗せていくことで、オーディエンスからのレスポンスが、そのままシュプレヒ・コールとなっていく。彼の親友でもあるマヌ・チャオの詞を借りるなら、「次の駅は希望(Proxima estacion, Esperanza)」。フェルミンの地道な草の根活動は、今後もしっかりと種を蒔き、芽吹いていくことだろう。
ライブを締めくくるのは、フェルミンのキャリアの始まりとなったバンド、Kortatuの代表曲、”Sarri Sarri”。シンプルかつ軽快なスカナンバーは夏にぴったり。単純な単語の繰り返しであるサビを、オーディエンスは諸手を挙げて歌い上げていた。名残惜しさそのままに、アウトロのSEとして Toots & the Maytalsの”Pressure Drop”が鳴り響くと、メンバー全員が楽器を下ろし、自由気ままに踊り、抱き合い、手を繋いでのカーテンコールで大団円。歌を用いて強いメッセージを発する際に見せた表情の険しさは消え、これまでのライヴと同じく、満面の笑みで締めくくられたのだった。
[写真:全10枚]