MOREFUN - INTERVIEW
オレンジ・エコーのプロデューサー、microAction代表・根木龍一インタビュー
Posted on 2025.8.1 23:29
自分たちの色はもちろんだけれど、かつてのオレンジコートの雰囲気も受け継いでいきたい
愛知県の豊田市に自治を極めた「祭り」があり、その名を「橋の下世界音楽祭」と云う。タートル・アイランドとともに「橋の下」を立ち上げたのが、今回のフジロックで新たに追加、もとい、復活したステージ、「オレンジ・エコー」のプロデュースを務める「microAction」代表、根木龍一氏だ。 地方から世界へ独自の磁場を放つ祭りとフジロックにかつて存在した「オレンジ・コート」には、深いつながりがあった。
org:初めてフジロック内のエリアをプロデュースするわけですが、やってみてどうですか?
根木龍一(microAction代表):まさかね、自分がオレンジ・コートがあった場所を任されることになるとはね。フジロックはずっと続いているフェスティバルだし、ここは、フジロックのステージの中でもかなり独特で、ユニークな場所だったじゃない?
org:誰が言い出したかわかりませんが、「奥地」という表現が定着していましたね。
根:そう、オレンジ・コートはそれだけしっかりとした存在感を持った場所だったから、俺らも、「橋の下(世界音楽祭)」をそのまま持ってくる、ということにはならなかったのよ。オレンジ・コートのプロデュースを担当していたスマッシュウエストの南部さんとスタッフ、お客さんも含めて、みんなで作り上げていたような場所。「オレンジ・エコー」については、そんな当時の雰囲気を尊重していて、昔の「オレンジ・コート」と、今の「橋の下」がコラボした状態を目指しているんだよね。
確かに、「橋の下」で使っている資材を運んできてはいるんだけれども、ほんの少しだけデザインを変えたりもして。ただ、頼んでくれたからには俺たちなりに新しい風も入れたいなと思って。オレンジ・コートって、ひとくくりに「ワールドミュージック」と捉えられがちだったけれども、他のどのステージよりも「オルタナティヴ」な空気というか、意識みたいなものが強く存在していた気がする。そもそも、フジロック自体が充分「オルタナティヴ」なフェスなんだけれど、その中でも特に濃度が高い、というかさ。
org: 確かにそうですね。「ワールドミュージック」の要素もあったけれど、「春一番」の流れも汲んでいるというか。例えば、豊田勇造さんのブッキングとか、なぎら健壱さんが登場したのもオレンジコートでしたね。
根:そうそう。ステージ前のいい位置で豊田さんのご家族がご覧になっていたりしたよね。自分は「橋の下」だったりマイクロアクションの活動を通じて、アジア圏のアーティストとの信頼関係を作ってきた自負があるから、俺たちにしかできないブッキングができたらいいなとも思ってる。笑ったのがさ、ステージの詳細を発表した時に、X(旧ツイッター)で、「なんだ? この『橋の下』を丸パクリしたようなメンツは?」とか書いてあって、「それ、両方とも俺たちだから!」って(笑)
org:それだけ、「橋の下」がしっかりと認知されているということですね。
根:そうなのよ! あとさ、実は、俺らがアジアのミュージシャンに関わりだしたきっかけって、南部さんが呼んだモンゴルのHanggai(ハンガイ)が最初なのよ。「ハンガイ呼ぶならタートルしかおらんやろ!」っていう感じで声をかけてもらってさ。その時に、「アジアにもすげぇカッコいいバンドがいるんだな!」っていう衝撃があった。で、ハンガイといろいろやりとりしていたら、彼らが中心となって中央アジアのアーティストを呼んだり、中国のアーティストを呼んだりするようなフェスティバルをやっている、ということを知ったのよ。「それは面白そう!」ってことで、すぐにタートル・アイランドのヨシキと一緒に会いに行ったのね。
org:そんな裏話があったとは!
根木:実はそうなのよ。で、その年にいよいよ「橋の下」を始めて、速攻でハンガイに声をかけた。今回オレンジ・エコーという形で、南部さんが仕切っていた場所を、時を経て自分が関わっている。人としての繋がりがこうしてまた還ってくるということそのものに、喜びはもちろんだけれど、勝手にストーリー性を感じていたりするね。
org:今年、今回の世界ツアーをもってライブ活動からの引退を発表したフェルミン・ムグルサがフジに出演しているというのも、偶然とはいえ、なにか縁を感じます。私が根木さんと初めて会った時も、タートル・アイランドのバスクツアーでした。トロサのボンベレネア(※1)には、フェルミンも見に来ていましたね。
そうだよね。タートル・アイランドはいろいろ海外に行っているけれど、初めての海外ツアーはバスクだった。今でこそアジア圏のミュージシャンをメインにいろいろと展開しているけれど、ベースには確実にバスクでの経験があるし、フェルミンとか、彼をサポートしているラディカル・ミュージック・ネットワーク(※2)との繋がりがある。やっぱり、俺らは縁があってこそ様々なことに関われたり、創れたりしている気がします。
org:オレンジについて、今後はどのようにしていきたいと考えていますか?
南部さんのDNAを受け継ぎつつも、ずっと「橋の下」をやってきて、そこで培ってきたことを活かすこともできるだろうし。ブッキングを好きにやらせてもらえるというのもありがたいよね。橋の下にはまだ呼べていないけれど、ここ(フジロック)だからこそ呼べるアーティストもいるだろうし。オレンジ・エコーにせよ、橋の下にせよ、互いにまた次へ繋がっていくと思うよ。まずは、楽しみながら創っていこうと思っていますね。
(※1)ボンベレネア:バスク自治州の町・トロサにある、元消防署を占拠して改造を施した「スクウォット」。集会所・ライブハウス・バー・映画館・Tシャツ工場・スケートパーク・ボルダリング・宿泊設備などがある。名前はバスク語で「消防署」の意。
(※2)ラディカル・ミュージック・ネットワーク:ラテン圏のミュージシャンをブッキングする「ジャポニクス」が行うイベント名でありコミュニティ。クリスタル・パレス・テントやブルー・ギャラクシーにはクルーがDJとして出演している。
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