LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/25 FRI
HYUKOH & SUNSET ROLLERCOASTER|AAA
ひとつの曲を作り演奏することで超えるボーダー
ワールドツアーや各地のフェスを巡ってきたHYUKOH&Sunset Rollercoaster|AAAがいまフジロックのGREEN STAGEに立っている。韓国や台湾からのお客さんも多そうだ。もうそれだけで幸せな気分になる。
自分のAAAとの出会い方について書く。ちょっとお付き合いください。それはコロナ禍にHYUKOHのOHHYUKがSunset Rollercoasterの“Candlelight”でコラボしたことに端を発する。慈しみがリフになったようなイントロのギターサウンドはもちろん、曲そのものがコロナ禍のあの時期にずいぶん心の拠り所になった。さらに2024年、その曲は間違いなくSunset〜の演奏とOHHYUKの声が聴こえるRM(BTS)の曲”Comoback To Me」として実在した。初めてそれを耳にしたときの驚きと新しく何かが始まる予感ったらなかった。これはHYUKOHとSunset Rollercoaster、2バンドのコラボもあり得るのでは?とワクワクしていたら、先行配信曲“Young Man”という、いささか2バンドどちらの個性とも少し違う新鮮なアンセムが世に出た。この段階的で爆発的な歓びを体験した人はきっと少なくないはず。韓国、台湾の実力派バンド同士のコラボはなんと単曲で終わりじゃなく、アルバム、そしてワールドツアーにまで発展したのだ。巨大になったバンド、30代前後という世代感。もう一度音楽、合奏する楽しみを(めちゃくちゃ手間だろうに)プロデューサーのJNKYRDを含む10人で再び1から探求し始めた。もうこの事実に感動してしまった。アルバム『AAA』は2バンドの持ち味と化学反応から生まれた楽曲が体験的なものも含めて生々しい手応えで鳴っていた。
話が長くなってしまった。AAAとして世に出てすでに1年以上の時間が経ったいま、ギリギリ、フジロックに間に合ってくれて本当に良かった。本公演の半分の演奏時間ではさすがに演出は入れられなかったようだが、韓国、台湾双方から参加したスタッフも国籍を超えてステージを作る。
本ツアー同様、バンドの演奏によるドビュッシー“月の光”がスタートを告げる。基本的な楽器はすべて2人いる編成だが、決して音の大きさや圧ではなく音そのものの強さで聴かせるのがいい意味でラクな体感を生んでいる。ライブはツインドラムが雷鳴のような響きのイントロから“Kite War”で本格的にスタート。いい演奏とはお互いの音を聴く演奏だと思うが、音楽に再び向き合う旅路をこの10人はともにしてきたのだと思うと、胸が熱くなる。さらにこのバンドの名刺代わりの1曲“Young Man”のある種素朴なアンサンブルに多くの手が挙がる。表拍の手拍子はどの国でポピュラーなのか分からないが、新鮮なノリ方はすぐ伝播していく。
その後、おのおののオリジナルをAAAのバンドアレンジで届けるのだが、前半は明快にロックバンド!と形容したくなるHYUKOHの“Wanli万里”や“Tokyo Inn”、Sunset Rollercoasterの“Pinky Pinky”“Hoi Hogi LaLa Jo”をセットしたが、AAAの“Antena”で宝石のようなギターサウンドに導かれて、OHHYUKとKuoの深い声のレイヤーが、より彼岸に近いドリームポップの様相を描くと、後半は真夏にぴったりなサイケデリアが立ち上がる”Vanilla Vila“(Sunset Rollercoaster)や、ビートルズから脈々と続く端正なメロディとアンサンブルの”Tomboy”(HYUKOH)など、もう狭義のジャンルの違いは全然気にならない、ただいい演奏が心を満たしていく。それにしても曲の良さに加えてOHHYUKとKuoの声の良さと親和性の高さは世界でも稀だと思う。
Kuoがフジロックとオーディエンスに対して謝辞を述べた以外は演奏に集中していた彼ら。でもいい演奏以外に何もいらないのである。ラストはSunset Rollercoasterの“My Jinji”がやさしいタッチで始まる。エンディングがいつまでも螺旋状に繰り返されることでアンサンブルがどんどんダイナミックになり、この10人からなる生命体を象徴するようだった。
AAA=Access All Area。境界を超えていくという意味が込められたプロジェクト名。オーセンティックな曲も実験性も同じ情熱で向き合うミュージシャンシップ。ビッグプロジェクトであるのと同時に、このミュージシャンシップこそが私たちの心を温めるのだ。フジロックに出演してくれて本当にありがとう。