LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/27 SUN
SILICA GEL
Posted on 2025.7.27 21:04
演奏に対するピュアな情熱と先鋭性
今年のフジロックにはHYUKOH(AAAでの出演だが)、Balming Tigerら韓国でも突出したアーティストが出演していることも話題だが、エッジの立ったロックバンドではこのSILICA GELが筆頭だろう。メンバーのKim Hanjoo (Key, Vo)は昨日のBalming Tigerでバンマスも努めた、いまの韓国シーンのキーマンのひとりだ。
MONO NO AWAREのあと、暑さと土埃対策でWHITE STAGEに放水されたのが功を奏して若干過ごしやすい。ワンマンライブにも足を運ぶようなコアファンは最前列で待機しているが、じょじょに他のエリアから人が流れてきた。サウンドチェックの段階から「そこまで本気出して大丈夫か?」と心配になる丹念さと熱量を見せた韓国のトップバンドは音源でのクールさや先鋭性と比較して、いい意味で大学の音楽サークルっぽいナードさに情が湧いてしまった。ピュアなのである。
メンバー登場とともにロゴが投影され、おのおの位置につくとHanjooのシンセにトンボがとまり、それをそっと逃がしてやっていた。スターターはKim Chunchu (Gt, Vo)のスリリングなリフが痛快な“NO PAIN”。ハンドマイクで予測不可能な動きで歌うHanjoo。インディギターバンドだが、ジャズ/フュージョンのテクニックや速さが彼らの存在を際立たせている。“sister”“Juxtapotion”と、走らせるシーケンスのマシンぽいセンスもクール。かつギターソロがしっかり意味を持つ、男子学生永遠の大好物メガ盛りみたいなバンドである。
シンプルなドラムセットにも関わらず手数の多いKim Geonjay (Dr)。その個性が際立つ“Ralize”でさらに加速する。SF的なシーケンスとグラムロックっぽいギターリフが並列する“Kyo181”ではChunchuがメインで歌い、強めな声質のHanjooと好対照な真っ直ぐな歌声を聴かせる。曲によっておのおのボーカルパートを持っていたり、ユニゾンで歌ったりする編成自体が珍しいが、ステージ上で2人が向き合い、いい緊張感を保っていることがこのバンドのダイナモなんだろう。歌いながらテクニカルなフレーズを弾くChunchuもだが、4人とも音楽的な運動神経がすこぶる良い。
Hanjooの短い謝辞に続いて、先日リリースされたばかりの新曲“NamgungFEFERE”のシンセのイントロに歓声が上がる。明らかにこれまでのナンバーとテンポもリズムも異なり、アトモスフェリックな音像だ。音源ではJapanese Breakfastをフィーチャーしているが、そこもHanjoo、Chunchuのツインボーカルでカバーする。
再びマシンミュージックっぽい体感を本領発揮する“APEX”でインストセッションが加熱。音像はクールだが人力のループを愚直なまでにGeonjayもChoi Woonghee (Ba)も刻み続ける。続く”Andre99“でのChunchuのギタープレイを見ているとTK from 凛として時雨や崎山蒼志のエクストリームさを思い出した。自分を最も投影できる武器としてのギター。素朴な風貌も相まって意外性がすごすぎる。すでにライブで何度も披露されてきたのか本国ファンを中心にクラップが決まる”NEO SOUL“、ここまでの楽曲と少し趣きが変わった大きなノリを持つ”Ryudejakeiru“まで、ほぼシームレスに突っ走ってきた4人。プログレッシヴな側面とメロディやリフのキャッチーさが絶妙にライブ映えするセットリストで、意外と肉体派であることが理解できた。
Hanjooは日本語で「こんにちは!」と「お元気ですか!」をおのおの3回繰り返す。フロントマンあるあるな変わり者気質なのかもしれない(失礼)。Woongheeはフジロックはロック好きな彼にとって夢の場所だったそうで、自分に何ができるわけじゃないけれど、このフェスティバルは終わらせたくないと改めて思う。そして目下新作を制作中で、今年か来年、そのアルバムを携えて帰ってきてくれるそうだ。今回のベスト選曲のライブはそれを考えるとこの日、ギリギリ間に合った近年最後のモードとも言える。
ラストは存分にギターソロを盛り込んだ“Tik Tak Tok”。ちょっと前、ギターソロ不要論が浮上したけれど、今年のフジロックではギターソロをはじめインストゥルメンタルの楽しさを体現するバンドが多い。冗長なソロではなくスリルを感じる楽器演奏が完全に還ってきた。もちろんSILICA GELもその一端を代表するライブを見せたのだった。