LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/25 FRI
青葉市子
Posted on 2025.7.25 19:37
大自然のなかで、静かに優しく響く、歌声が
ステージの中央に置かれた、クラシックギターとキーボード。囲うように設置された、オレンジ色のライトがいくつかとガラス製の風船5つ。演奏が始まる前から、何かの物語に引き込まれそうになる。
白や淡いピンク色をしたふわっとしたドレスを身にまとった青葉市子がステージに登場すると、1曲目は“Space Orphans”だった。きらめくようなキーボードの音、ミラーボールも光り輝き出し、さまざまな音が重なっていく。歌う、というよりも語りかけるようにも感じられる。キーボードを弾いているときは、観客と目線が合わない構図になっている。だからこそ、青葉市子が生み出す世界をこっそりのぞき見しているような気持ちにもなってくる。
クラシックギターに持ち換えて次に演奏されたのは、“Sagu Palm’s Song”、そして曲紹介で「おお!」という声が上がった“いきのこり●ぼくら”。2つのスポットライトに照らされながら丁寧な高音を響かせる青葉の歌声に聞き入っていると、静けさに身体ごと包まれているような、空気ですら止まっているようにも感じられる。曲の終わりにはもちろん拍手も起こるのだけれど、その音の大きさに驚いてしまうほどでもあった。後ろのスクリーンに映される万華鏡の映像も美しく、今この空間をより幻想的に演出しているみたい。静寂に包まれながらの“FLAG”と“惑星の泪”は、ギターの温かな音と青葉の一音ずつ落としていくような歌声を聴きながら、時折聞こえる風の音すらこの空間を作り出す楽器のひとつでもあるみたいで、ああ、そういえばここは苗場で、自然に囲まれていて、そんなところで青葉市子のステージを見れていて、それって贅沢すぎる経験なのではないか、なんて思ってしまう。蒸し暑くて、汗だくではあったんだけれども。
「魔物の歌」だという“mazamun”、歌声を重ねていった“pirsominia”では、自然やそこに根付く生命たちと交信をするような幻想的な世界を更に広げていくようでもあった。ステージ上の歌声に呼応する温かなスポットライトが美しく輝く。静けさのなかに一音ずつゆっくりと落としていくような“SONAR”では、穏やかな雰囲気を感じつつも、息をするのも心臓の音を感じるのももったいないと思えるほど。それでいて、MCではマイペース全開で「あ、水分取らないと!」と言い出したり、囁くように「イエイ!」と言ったりするのだからほほえましい。美術と衣装も、波照間島から取ってきたもの、海からいただいたものだという。
仲のいい友達同士が絶交したときに作ったという“うたのけはい”では、ギターを弾きながら時折見せる笑顔がまぶしい。ああ、この人は本当に演奏が好きなんだなと思い知らされる。音源で聴いているとボーカルが重ねられているが、演奏では青葉の透明感のある声をながら、祈るような気持ちでステージを見てしまう。
あっという間に短い時間は過ぎていき、最後は“Bouquet”。駆けるようなギターは温度を保ち、高音も高く伸びていく。ああ、なんて贅沢な時間だったんだろう、そこだけ時を止めてしまったような、歌声にギター/キーボードの音のみという構成だからこそ、青葉市子の作り出す世界に魅了された時間だった。