LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/26 SAT
NEWDAD
ロックバンドの最適解
フジロック2日目ももうすぐ16時。ここ数日間、そして今朝からお昼過ぎまでうだるような暑さが続いていたので、今年はずっと晴れるんじゃないか、熱中症に気を付けねば!と思っていたのだが、そうはいかないのがフジロックだ。今回一番の強烈な雨がふりしきっている。ますます強まる雨足に連れて人がどんどん集まってくるレッドマーキー。雨が降ればとにかく屋根のある会場へ。フジロックではよくある光景だ。
期せずして満員になったレッドマーキー。これからここに登場するのはアイルランドはゴールウェイ出身のロックバンド、ニューダッド(NEWDAD)だ。ジャンルとしてドリーム・ポップやシューゲイザーと括られるようだが、それらを飲み込んだオルタナティブ・ロックと呼ぶ方が個人的にはしっくりくる。デビュー・アルバム『Madra』は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』やスマッシング・パンプキンズの『Mellon Collie and the Infinite Sadness』といった伝説的な作品をプロデュースしたアラン・モウルダーがミキシングを手掛けた。昨年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)では他のアイルランドからやってきたバンドやアーティストたちとともに、米軍や軍事関係企業がスポンサーに関わっていることに抗議し公式出演をボイコットするなど音楽のみならず一挙手一投足に注目が集まるバンドだ。昨年10月に初来日を果たしており、9ヶ月ぶりの帰還にして初苗場となる。
大歓声が巻き起こる中、バンド5人が一斉に登場し、‟Sickly Sweet”から開演。ヴォーカル・ギター、ギター、ベース、ドラムにキーボード・ギターというバンド構成だ。バックに「NEWDAD」と映し出され、青白い照明が光る中、様々な写真思いきりぼかした映像がサイケデリアを醸成する。出だしの極太のベース音を聴いただけで、あまりの音の良さに悶絶してしまった。続く“Nightmares”では3ギターから出力される音圧は凄まじいものがあるが、すべての音がクリアに聞こえ、ノイズも耳に負担がかからないところで絶妙に抑えられている。バンドが生み出すグルーヴもさることならが、音響チームの腕も相当なものだ。
厚みのある音の上をジュリー・ドーソンがはかなげに歌い上げる‟Puzzle”から残響音を残しつつそのまま哀愁漂う音色がたまらない“Blue”へ突入。照明が落ちた暗闇の中、ジュリーが両手を上げジェスチャーのみで盛り上がれと煽ってくる。
フジロック初参加の感動とお礼を伝え、新曲“Sinking Kind Of Feeling”を披露。リヴァーブたっぷりに唸るギターが何ともかっこいい佳曲だ。後半部の爆音で迫り来る怒涛のセッションタイムはもはやバンド同士、互いへの撃ち合いだ。ずっしりと響くベース音とともにどこまでもドープで怪しくはじまりつつも、サビ部になるとポップに華やかさを添える“Something’s Broken”。バンドの息がぴったり合ったアンサンブルが創り出す美しい音像が目と耳を直撃する。特に目立ったパフォーマンスをすることもなく淡々と披露しているが、この演奏力の高さと音の良さ。安心感が半端ないのだ。
朧な映像の中に、仲が良さそうなバンドの姿が時折り差し込まれる。ワゴンが見えたところから察するにツアー中に撮影されたものだろうか。バンドの良好な状態が、そのまま目の前でステージに表れているということだろう。
本セットのハイライトは次に披露された“Madra”だろう。ザ・キュア直系オルタナティブロックのいいところをすべて凝縮したようなサウンドだ。陰鬱さの帯びるキャッチーなメロディ、はかない声、そして重たいギター、すべてがある。ショーン・オダウドが流麗にハイトーンのギターソロを繰り出し、最後はバンドが一斉に音を出力し爆音とともに完了。これほど完璧な締めはない。
ポストパンク感あるテンポで進む“Heavyweight”、ピクシーズのようなベースの主旋律が“Entertainer”、ジュリーの歌声がひと際華やかに弾むポップで軽快な“Pretty”と次々に披露。いずれも今年9月にリリース予定のセカンドアルバム『Altar』からの楽曲だ。結果、本セットのうち7曲が新譜から。自信のほどがうかがえる。
「古い曲をやるよ」とジュリー。ベースの重たい音がリードし、星のように降りかかるソフトなギターフレーズにはじまった“Let Go”。サビ部の音の爆発は凄まじいが、耳には一切負担が感じられない。よく統制が取れた音だ。大歓声の反応にメンバー全員が嬉しそうな笑顔を浮かべる。
リフが実にロックンロールしている新曲“Misery”へ。ビートとグルーヴに腰が自然と揺らせられるやつだ。サウンドはダークでディープ。フォンテインズD.C.など同郷のバンドと近い世界観を感じた。そして、本当に音がいい。続くは最新のシングル“Roobosh”。3本のギターはノイズを奏で、きまりすぎのドカドカビート、ジュリーの渾身の雄叫び「ヘイ!」が炸裂しまくる。ジャンプし、頭を振り乱し、本セット一番のロックアウト。巻き起こった特大の歓声と拍手に「アリガトウゴザイマス!フジロック!」とジュリーが何かを言おうとするが感極まって、言葉を忘れてしまう。思わず目頭が熱くなってしまった。
最後は、人気曲の“Angel”で締めくくり。徹頭徹尾、音で直球勝負なステージで魅せてくれた。とにかく音響が素晴らしいの一言。音源を聴いているだけでは想像ができないほどタイトなライヴバンドだった。ロックバンドかくあるべし。雨宿りで訪れたであろう初見の人たちは誰しもが完全に制圧されたことだろう。
[写真:全10枚]